第41話 足手まとい
「守られてるだけお姫様じゃ嫌! 私も一緒に戦うわ!」
とプルムが目をキラキと輝かせる。
「足手まといにならないから、私も連れて行って!」
「…………」
プルムのおかしな言動に、太郎は無言である。本気ではないからだ。
「なぁんてこと、私は絶対言わないからね」
ふぅ、と溜息をつき、プルムがいつものテンションに戻った。
「…………うん」
太郎がプルムではなく、別の人間を注意深く観察しながら答えた。ふたりは今、日も落ちて暗くなり始めた王都の南門近くの建物の影に、身を潜めている。
二人の視線の先には、西部劇のガンマンのような出で立ちの冒険者がいた。
異世界イシュメイルで、懐に本来は存在しない拳銃を持っている冒険者だ。
剣のように背負っている袋には、銃身の長いライフルかショットガンが入っていると、プルムと太郎は想定している。
このガンマンが麻薬密輸犯やその一味とは限らないが、少なくとも本人か関係者が日本とこのイシュメイルの物資のやり取りをしている可能性が高い。
「見ての通り、私ってチビでヒョロガリのクソ雑魚ナメクジだしさぁ。戦闘訓練も受けたわけじゃないし。頭はいいけど、素人の浅知恵程度で、専門技能の戦闘出来るとは思わないわけよ。頭いいから、わかっちゃうの。頭いいんで」
自虐と自慢を入り乱れさせて、プルムが自分を指さしてニヤニヤ笑った。
「ってことで私は不本意ながら、最近だと不人気な守られヒロイン役に徹するんでヨロシク。戦闘や攻撃の荒事は、太郎に全部任せるわ。痛いの嫌いだし」
「なんの……確認……?」
「そういう時に私は、太郎に指示に命預けて従うってことよ」
飄々としているが、覚悟が決まった声でプルムが伝えた。
「泥水すすれって言うなら、がぶ飲みするし、指切り落とせって言われれば、エンコ詰めするわ。それがふたりで勝つために必要ならね」
「……わかった」
お姫様からの最大級の信頼に、太郎が多少の緊張と嬉しさを含む声で答える。
「ついでにもうひとつ、前もって言っておくけど……」
そうプルムが一度、ワンクッションおいてから続けた。
「客観的に考えて、私は戦闘においては100パー足手まといになる」
「そう……だね」
プルムの言葉を太郎は否定しなかった。まったくの事実であるからだ。
「と、同時に今は少しでも情報を収集しなきゃいけないフェイズだから、その点では私も現場に同行した方がいい。もしくは目標ないし協力者に『異界』のスキルあって日本に移動されたら、太郎だけじゃ追跡不可能になるしね」
だからこそ、お姫様のプルム自身が、調査に出張ってきたのだ。
そうでなくては、太郎だけに任せる以前にこの国の諜報機関も兼ねている測量局に任せれば済む話だった。
「足手まといになんてならないわ! 私も連れて行って! ……というと不正確だから、次世代の足手まといヒロインとして物事を正しく表現するわね」
そう言って、プルムが大げさに手を開いて、芝居がかかった言い方をした。
「絶対に足手まといになるわ! それを踏まえて、私を連れて行ける?」
「…………」
太郎が数秒考える。
「戦闘は困難……それでいいなら……」
そう太郎が伝えた。
「攻撃なら可能?」とプルムが質問する。
「一度の攻撃なら」と太郎が回答した。
「つまり、相手と攻守入り乱れる『戦闘』は、足手まといの私がいるから難しい。でも、不意打ち一撃で終わらせる一方的な『攻撃』なら可能ってことね。こちらが逆に『攻撃』受けないよう、隠密行動するのが大前提で」
「……(こくん)」
プルムの言葉に、太郎がうなずいた。
時間がかかり、相手にある程度の自由行動を許す『戦闘』になったら、神速の太郎と言えど相手の攻撃手段次第では、プルムを守り切れないからだ。
そのことは、数か月前のルアム王子との『戦闘』で身に沁みた。
王子が高潔な精神の持ち主であったから、太郎の母を狙い撃ちにすることがなかっただけで、同じ状況で手段を択ばない相手なら太郎にはどうしようもない。
戦闘能力を有しないプルムを遠距離攻撃で狙われたら──終わりだ。
だが、不意を突いた一度の『攻撃』で敵を無力化すれば、その心配は消える。
『戦闘』と『攻撃』は、似て非なるものなのだ。
もちろん最初の『攻撃』で決着せず、『戦闘』にもつれ込むことは多々ある。
だから太郎は「一度の『攻撃』(まで)」と、条件を限定した。
「OK。基本方針と優先順位を伝えるわ。緊急時や非常時に迷わないようにね」
頭の中で考えをまとめたプルムが、太郎に業務連絡のごとく伝える。
「目標冒険者を尾行し、密輸犯と関連する情報もしくは本拠地の所在を掴むべし。隠密を旨とし、戦闘を固く禁ず。なお人命救助もしくはそれに準ずる状況の場合のみ、一撃の強襲攻撃をもって目標を確保するものとする。人命には目標も含む」
簡単に言えば、出来るだけバレないように後を尾行ろ。
それで、相手の情報を可能な限りゲットしよう。
相手と戦うのはダメ。
あと、目標の冒険者が誰かを殺そうとした時、もしくは冒険者が誰かに殺されそうになった時は一度の攻撃で解決し、目標の冒険者をゲットしよう。
「見失いそうな……時は?」
「その時は、別に逃がしていいわ。相手にこっちの存在がバレてないならね」
太郎の質問に、プルムがそう答えた。どこの冒険者ギルドの冒険者かは把握済みなので、一度見失うくらいであればそれほど問題ではない。再び、あの冒険者ギルドで張り込みをして、再来を待てばいいのだ。
それより、無理に追いかけて尾行者がいることがバレる方が問題である。
二度と、あの冒険者ギルドに顔を出さなくなる可能性があるからだ。
「ああ、隠密行動するって言ったそばからなんだけど、王都にいるうちにターゲットの冒険者に一度は姿を見せる必要あるわ。装備情報を得るために……ね」
そう言ってプルムが両手の指をグニグニ動かして微笑んだ。
「手練手管は、さっき覚えたしね」
〇
リード王国王都の城壁は、高さは15メートルほどで厚さも同じくらいだ。
帝国の属国に甘んじているとはいえ、この世界上位の軍事力と経済力を持つ大国らしい威容である。
外側から見れば真っすぐに屹立する対爆レンガ造りで、大きさ以外であれば中世の城郭都市とさほど変わらない。
だが内側から見れば、75度の角度がついた打ちっぱなしのコンクリートで出来ており、原子力発電所の防波壁を連想させる現代的な作りになっている。
『厚』や『原』や『厨』の上部にある部首『厂』(がんだれ)の形だ。
戦争時に王都内からすぐに城壁に登れるようにするため、数十メートルの間隔で金属製のハシゴがコンクリートに直接打ち込まれていた。
城壁上部は道になっており、兵士たちが内に外に目を光らせている。
そのため、治安の悪いことで有名な王都南地区であっても、城壁近辺だけはかなり治安が良かった。交番や警察署の前で犯罪に及ぼうとする者が、ゼロではないにしても決して多くないように。
城壁から30メートル以内の土地は法律で民間の建築物は立てられず、鉄道馬車の線路が4本通っている。この線路は山手線のように円環状になってた。戦争時はこの線路で、重臼砲や人員や物資を、素早く行き来させることになっている。
日没の時間が過ぎ、市民薄明の時間になっていた。
薄明とは、日が沈んだあとも太陽光が大気中で拡散してある程度明るくなっている時間帯のことだ。市民薄明はその中でも、街灯なしで野外活動出来る時間のことで、日没後もしくは日の出前のおよそ30分ほどの時間帯のことである。
夜明け前が一番暗い──────
というイギリスの諺があるが、実際の夜明け前はまぁまぁ明るい。
〇
ガンマン風の冒険者が南地区の街を出て、南門がある城壁までの広く見通しが良い道に出ようとした時のことであった。
「ごめん、そこのおじさん! 追われてるんで、これちょっと持ってて!」
突然、プルムが桶をガンマンに押し付けてきた。
桶の中には水が張られ、魚まで入っている。
「あ、ああ……」
ガンマンは困惑しながらも、カチッサー効果で受け取ってしまう。
城壁の兵士の監視下の場所ゆえ、警戒心も下がっていた。
そのままプルムは、城壁までの広い道の町側を進み、途中で町の方へ曲がって去っていく。
「おじさん……お姉ちゃん来なかった……?」
プルムを目で追っていたガンマンの背後から、子供が声をかけてくる。
太郎だ。
「お姉ちゃんって、この桶持ってた人か?」
とガンマンが尋ねると、太郎は「うん……」と頷いた。
そしてガンマンから桶を受け取ると、水をこぼさないよう注意して桶を運びながらプルムが去っていった方に足早に向かう。
「転んで水こぼさないように気をつけろよ、坊主」
と、ガンマンが太郎に優しい声で注意した直後だった。
「……まさか」
ガンマンがふと何かに気付き、自分の身体をまさぐった。
しかし、特に何か盗まれたり、変なものを仕込まれてる様子はない。
「気のせいか」と考えた。
そもそも、兵士の目が光るこの場所で犯罪するわけがないな。
そう納得し、ガンマンの冒険者は当初の予定通り城壁側の南門へ進んだ。
〇
「あいつ『赤魔導士』だったのね……」
そうプルムが、建物の影からガンマンを観察しながら呟いた。
「想定していた冒険者のジョブの中でも、最悪だったわね」
「赤魔導士って……なに?」
桶の魚を足元の用水路に逃がしながら、太郎が尋ねた。
「軽魔法兵の俗称よ。先の魔王国との戦争で、後方の魔族たちから一番恐れられていた兵種。冒険者の中じゃ、エリート中のエリートね」
戦時中、ラピスウィルやアヤを襲撃した冒険者がこの軽魔法兵=赤魔導士だ。
単独ないし少数で、戦線の後方に潜り込み、行軍中の敵部隊や食料などの物資を運ぶ輜重隊、兵站集積場などを襲撃し、風のごとく去っていく連中である。
大規模な支援がない状態で、独立して戦うことが出来るほど個々の能力が高いのがこの軽魔法兵であり、現代の兵科で言うなら特殊部隊や空挺部隊などに近い。
もっとも、所詮は軽歩兵なので正規軍の戦闘兵科とはどの部隊相手でも、正面から『戦闘』では勝てない。可能なのは、敵地に潜み突然襲い掛かる『攻撃』だ。
この点も特殊部隊と性質が近いし、冒険者も特殊部隊も基本的に軽歩兵ゆえ、支援があり装備の整った正規軍とはまともに戦えない。例外は『勇者』くらいだ。
兵士VS冒険者────を想定してみよう。
1対1なら、冒険者が勝つだろう。
10対10でも同じだ。
だが、200対200になれば、凡夫で構成された歩兵中隊が冒険者に勝つ。そういうものだ。集団戦の経験がないなら、小隊規模の50対50でも怪しい。
個の強兵、小集団の精鋭、そして大軍での弱兵。それが冒険者だ。
そして今回の相手は、個の強兵である。
「『軽』ってつくと弱そう……ってことで冒険者は赤魔導士の名称使っているし、軍の軽魔法兵部隊からも『名前変えてくれー』って要請出てるのよねぇ」
「なんで……赤魔導士ってわかったの……?」
太郎がふと思った疑問を口にした。
「さっき、桶を渡した時に、手持ちの武器をチェックしたの」
プルムが指をワキワキ動かしながら、答える。そして「ああ、そこの情報も共有しておかないとね」と、独り言のように呟いた。
「コートの下に釘玉が4個、煙玉が2個。左の腰に60センチくらいの山刀。典型的な赤魔導士の兵装ね。ああ、太郎の予想通り右の腰にリボルバーあったわよ」
本来の赤魔導士なら銃じゃなくて、半弓だけどね──とプルムが補足する。
釘玉とは、古釘などを石膏で固めてボール状にしたものだ。
それに弱めの魔力探知しづらい爆破魔法を詰めて、不意打ちで敵に投げる。
手榴弾のように使われた釘玉から放たれた古釘は、相手を死に至らしめることは少ないが全身に突き刺さり、行動を不能にさせるのだ。
しかるのち、赤魔導士は全身に釘が刺さってロクに動けない相手を、半弓で狙い撃つか、山刀で斬るというより叩いて殺す。
敵が多い場合は、あえてとどめを刺さない。負傷した者は治療や運搬が必要なため、敵戦力を殺すより大きく低下させるからだ。
弱い魔法と弱い武器──そこから最大の効果を発揮するのが赤魔導士である。
行軍中や、休憩時、または就寝時に突然物陰や闇の中から赤魔導士の釘玉が投げ込まれることは、恐怖以外なにものでもない。精神が削られる。
ゆえに、魔王軍兵士からもっとも恐れられた冒険者のジョブが、この赤魔導士たちなのだった。
「なんで……武器を盗まなかったの……?」
太郎が疑問を口にした。
「武器盗んだら、警戒されちゃうからよ」
そうプルムが答えた。
「警戒したら、仲間との接触を中止してどこかに身をひそめるかも知れないしね。荒事担当の太郎には悪いけど、相手がフル装備の状態のままでいてもらうわ」
「わかった……」
と太郎が頷いた。
「ふふ、それにしてもキャバ嬢ごっこして、情報集めておいてよかったわ」
先ほど冒険者ギルドで、様々な冒険者に関する情報を聞き出したプルムがそう言った。そして南門に辿り着いた冒険者を、小型のデジタル望遠鏡で観察する。
「ああ、門番から許可されて潜り戸を通ったわね。日没後に外と行き来が許されるってことは、白の冒険者──準上級冒険者以上ね、ターゲットのガンマンは」
そうプルムが、警戒心を高めながら呟いた。
潜り戸とは、メインの城門の横に作られた小さな勝手口のようなものだ。
リード王国王都は城郭都市の例に漏れず、夜間は城門が閉じられて普通であれば外との行き来は出来なくなる。だが、最上位の黒の冒険者とそれに続く白の冒険者であれば、潜り戸から行き来可能であった。
「準上級以上の赤魔導士相手だと、ちょっと面倒かもね」
経験豊富な特殊部隊の兵士と、やりあうようなものだからだ。
「僕なら……勝てるよ……」
そう太郎がさらりと、当たり前のことのように言った。
銃を持っている準上級以上の冒険者、それもエリートの赤魔導士相手に余裕すら感じる声である。
「まぁ、そうでしょうね」
プルムは太郎の言葉を、まずは否定しなかった。『神速』のスキルとは、それほどのものであるし、この少年は以前魔王を単独撃破している。
決して子供ゆえの思い上がりではない。
「相手が『戦ってくれたら』……ね」
冒険者が城門内の通路に入ったので、プルムが太郎に視線を向けて言った。
「赤魔導士の一番ヤバいところは、逃げるのが上手いことよ。潜入した敵地で敵を襲って、なおそこから敵軍に追われても逃げ切れる連中なんだもん」
そう言ったあとプルムが太郎に「あなた、銃弾を避けること出来る?」と質問をする。太郎は自信満々に「うん」と即答した。
「忍法微塵隠れ」
プルムが、そんな言葉を出した。
「忍者が爆薬を爆破させて、それで自分が死んだことにしたり、爆煙に紛れて逃げる忍法ね。赤魔導士たちも、場合によってはそれに近いことするの」
そうプルムが解説をした。
「接近してくる太郎へ、ガンマンが銃を撃つ。それを太郎が『神速』でかわす。この時点で、判断力に富んだ赤魔導士なら子供相手でも迷わず『逃げる』わ。手持ちの釘玉と煙玉、全部その場に放ってね。自分が巻き込まれることも構わず」
「…………」
プルムのシミュレーションを、太郎は黙って聞いていた。
「一発なら、太郎の『神速』のスキルでかわせると思うけど、爆破に時間差があった場合はどう? 視界を煙で覆われた状態で、音速でランダムに飛んでくる釘を回避可能かしら? 見えない状態だと、『神速』は発揮しづらいの知ってるわよ」
太郎が目をつぶった瞬間、太郎の持ってた銃を掴むことが出来たプルムがそう尋ねた。
「絶対出来る……とは言えない」
そう太郎が答えた。
「対して赤魔導士の方は甲冑よりは軽装だけど、ある程度の防刃性能があり釘玉の破片を防げるものを身に着けているのが一般的ね。あの首のマフラーはオシャレじゃなくて、頸動脈とかの重要コードを自分の釘玉から守るのが目的っぽいわね」
赤魔導士が微塵隠れのために、釘玉を自爆に近い形で用いても、厚手のコート、丈夫な皮のベスト、マフラー、そして内側に鉄板を貼ってある帽子がある程度なら身体を守ってくれた。無傷では済まないだろうが、逃走可能な程度に収まる。
逆に釘玉を防ぎうる重装備の相手なら、微塵隠れをせずとも軽装と健脚を生かして普通に逃げ切れるだろう。赤魔導士が得意とする森林山岳地帯であれば特に。
さらに言えば規定の火薬や爆薬が入っている手榴弾と違い、釘玉はある程度威力の調節が出来る。自分の装備で防げる程度には、赤魔導士自身が調節するのだ。
「そこも……厄介……」
太郎がガンマンの赤魔導士のマフラーについて、そんな感想を呟いた。
「頸動脈への強打で、意識を一瞬で飛ばすことが出来なくなるからねぇ。ある程度の衝撃吸収機能はありそうだしね」
太郎に同調する形で、プルムがうんうんと頷いた。
〇
近年、「首を叩いても気絶しない」と話がチラホラ見られるが、当たり前だが大間違いである。そもそも気絶の起因にならない部位など、人間には存在しない。
少し前に医者が「後頭部を脳震盪を起こして気絶するほどの強さで叩いたら、後遺症が残ったり死亡する可能性がある」と言ったのが大元だった。
それがネットで伝言ゲームされていく中で、「首を叩いても気絶しない」という謎の解釈に変化してしまったのだ。
とにかく、後頭部への強打による脳震盪での気絶はそれこそ医者が言うように、命に関わる場合がある。少なくとも、今回はガンマンを生かして情報を得たいプルムたちからしても、あまり好ましい手段ではない。
それに対して首の前面(前頸部)、頸動脈を強打する方法だと、危険なことには変わりないが後頭部強打の脳震盪に比べたら、比較的『マシ』であった。
首の前面、特に頸動脈の周りには迷走神経と呼ばれるものがあり、そこへの打撃は迷走神経反射性失神を引き起こしやすい。
また甲状軟骨ほどの高さには頸動脈洞と呼ばれる箇所があり、そこへの強打や圧迫は、頸動脈洞反射失神という意識消失を簡単に引き起こす。
身体が「やばい大怪我しちゃった!」と勘違いして、血が大量に外に出ていかないように血圧を急低下させるのだ。結果、脳に血が届かなくなり気絶する。
血液不足による一時的な脳の低酸素という危険な虚血状態ではあるが、脳自体を衝撃で揺さぶる脳震盪よりはマシであった。
比較的肉体へのダメージが少ない状態で、一瞬で気絶させられる。
もっとも当てる位置がズレて、甲状軟骨を手刀などで強打した場合、甲状軟骨の骨折や浮腫で気道が塞がって、そのまま呼吸が出来ず死に至る可能性もある。
なので、決して安易に真似してはいけない。そもそも立っている状態で、突然気絶したら、それで頭部を地面や壁に強打して、最悪の場合は死ぬ可能性がある。
良い子も悪い子も、首への強打は決してしてはいけない。ガチで。マジで。
幸い太郎ならば、甲状軟骨を押し潰さす、正確に頸動脈洞を狙える。
気絶して倒れた相手が地面にぶつからぬよう、支えることも可能だ。
しかし、ガンマンの赤魔導士が衝撃吸収能力があるであろうマフラーを首に巻いているので、今回はその手段が取れない。
「一瞬で気絶させないと、赤魔導士は迷わず『自爆』に出るしね」
ふぅ、とプルムが溜息をつく。
前頸部への強打による、頸動脈洞反射失神以外で、なおかつ命を奪わないようにするのは意外と難易度が高かった。太郎のフィジカル自体はあまり高くないのも、より問題の難易度を高めている要因である。一瞬で落とす条件を満たしにくい。
首を締めても落ちるのに数秒かかるし、金的を食らわしても悶絶こそすれ動ける奴は動けるだろう。銃で頭を撃つわけにも、ナイフで刺すわけにもいかない。
時間を僅かにでも与えれば、巻き込み自爆するであろう赤魔導士。
それを生かして確保するのは、ただ強敵を打ち倒すより、はるかに困難だ。
「今回は……簡単……」
輝夜姫の難題がごとき事態に対し、太郎があっさり言い放った。
「今回は」と条件をつけたことで、プルムが何か察する。
「相手の銃を使うの、太郎?」
今回の目標と、通常の赤魔導士との差異は、その点だからだ。
「うん……」
「OK。そもそも戦い方の話だし、太郎に任せるわ」
太郎の考えを、みなまで聞かずプルムが了承する。もとより、自身は戦いに関して素人だという自覚から、太郎のやり方に口をはさむ気はなかった。
「それより攻撃前に……近づく方が……難しい……」
先ほどは兵士の監視があり、人の多い場所だったのでガンマンに近づけた。
人のいない王都の外に出れば、周囲を警戒するガンマンに接近するのは困難だ。
「ああ、そこに関しては任しておいてよ」
戦いそのものではないので、プルムが笑顔で意見を述べる。
「私が『足手まとい』になれば、その点は解決出来るから」
そう言って、プルムがにっこり微笑んだ。
面白かったらモチベと励みになりますので
ブクマや★評価してくださるとうれしいです。




