表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第二章 裏社会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/59

第39話 犯罪者たち 後編

37話 犯罪者たち 前編の続きです。

「へへへ、ちょろいぜ」


 プルムから金を盗んだ少女が、人気のない路地裏でしたり顔をした。


 セミロングの赤毛を、ポニーテールにしている少女だ。


 ボロボロでホットパンツのように短くなっている黒のレザーパンツ。

 白い綿のシャツの(たけ)は短く、胸元だけ隠しておへそは丸出しになっている。


 上着の色は暗い深紅。軍から払い下げられた(ひょう)()(へい)肋骨服(ドルマン)だ。

 腕に(そで)だけ通して肩に掛けず、前も留めずにだらしなく着ていた。


 足元は革製のサンダルだが、足の甲や足首をきっちり結んで固定出来るようになっていた。飛脚の草鞋(わらじ)やヘルメスの有翼サンダル(タラリア)のように、かなり走りやすい。


「って、なんだよ銀貨かよ。金持ってそうな見た目なのに、金貨じゃないとかシケてやがるぜ、さっきの女」


 そう少女が、盗んでおいて文句を言った時だった。


「うえっ?」


 何者かが、後ろから少女の両ひざの裏を軽く蹴った。

 痛みはないが、膝カックンのようになり少女がバランスを崩す。


 そのまま誰かが少女の(おく)(えり)を掴みながら、少女を地面に引き倒した。


「うぐっ!?」


 喉元に軽い圧迫感と、金属の冷たさを感じて、思わず少女が声を漏らす。

 路地裏で仰向けになりながら倒れる少女を、誰かが見下ろしていた。


「…………」


 太郎だ。無言でじっと少女の瞳を覗き込んでいた。


 仰向けになった少女の喉笛に、何か金属製のものを添えている。

 それだけで、少女は身動きも取れないし、大声も出せなくなっていた。


(ナ、ナイフか……?)


 ひんやりとする金属の冷たさに、少女も冷たい汗を流した時だった。


「はぁ……はぁ……そこまででいいわよ、太郎」


 息を切らして追いついたプルムが、太郎にそう言った。

 そんなプルムの姿を見て、太郎がいつの間にか少女から取り返した巾着袋をポイっとプルムに投げる。


「ちょっ? うわわっ!」


 それをプルムがキャッチしそこねた。

「あわわ」ともたつきながら、一度地面に落ちた巾着袋を拾う。

 息が切れてたせいか、元からプルムが運動音痴なだけか。プルムの名誉のために明言は避けておく。


「たかが5万円程度のために、必死こいて走ることになるとは思わなかったわ」


 袋の中の銀貨を確認しながら、プルムが少女に近づき、その身体をまさぐる。


「な、なにを……?」


 突然のことに、少女が顔を赤らめた時だった。


「ああ、あったあった。これあなたの財布よね。なによ結構持ってるじゃない」


 金貨も何枚か入っている少女の財布を取り出し、プルムが中を確認した。

 浮浪児のような見た目にしては、かなりの額を持っている。


「迷惑料として、これだけもらっていくわ。むしろ、私にちょっとお金奪われた方が警察に通報される心配なくなるから、助かるでしょ?」


 銀貨一枚、少女に見せながらプルムが尋ねた。そして「もう離していいわよ、太郎」と言ったあと、少女に向かって彼女の財布を投げた。


 リード王国王都の文明レベルは近代に近いため、警察機構が存在する。

 交番という、日本独自のシステムすら治安維持のため取り入れられていた。


「あ、ああ……ってか銅貨だったのか」


 自分の財布をキャッチし、太郎が手に持っているものを見て少女がうなずく。

 先ほどまで、自分の喉に押し付けられていたのは刃物ではなく銅貨だった。


 太郎による拘束がなくなっても、少女に逃げる様子はない。


 捕まる心配は、もうないからだ。


 少なくともプルムがこちらを再び捕らえて警察に突き出したり、通報したりする心配がないからである。プルムもこちらから銀貨を盗んだからだ。

 警察に行けば、プルムもまずいことになる(実際は姫君だから大丈夫なのだが、少女目線ではそう考える)。


「まったくもう、品行方正清廉潔白に生きてきたこの私が、たかが銀貨一枚のために犯罪者になるなんてね」


 と、プルムが苦笑する。

 前回の聖剣とえらい落差ね、とも呟いた。


「立場が同じ犯罪者同士ってことで、多少の信頼関係が出来たところで聞きたいけど、この近くの冒険者ギルドってどこ?」


 プルムがしゃがみ込み、上半身を起こした少女と目線を合わせる。


「現代っ子なんでナビないと、よくわかんなくてさ。だから、教えてよ」


「え、ええっと……冒険者ギルドの場所は……」


 ナビの意味はよくわらからなかったが、カチッサー効果か少女が素直に冒険者ギルドの場所をプルムに教えた。嘘をつく理由もなかったからだ。


「ありがとー、それじゃ行こっか太郎……ん?」


 冒険者ギルドへの最短ルートである、この先の路地裏を進もうとするプルムの足が止まる。プルムのブラウスの(すそ)を、太郎が摘まんでいたからだ。


「この先……何か嫌な感じが……する……」


 薄暗い路地裏を見つめながら、太郎が呟いた。すでに夕刻に近い時間であり、日陰になる路地裏は一足先に夜の(とばり)が降りたようであった。


「ふーん…………それじゃ、やめときますか」


 プルムが素直に太郎の忠告に従った。

 そして、ちょっと遠回りになるが、元いた目抜き通りの方へ二人で戻る。


        〇


「なんだったんだ、あいつらは……只者(ただもの)じゃなさそうだけど」


 得体の知れなさだけ残して、颯爽(さっそう)と去っていったプルムと太郎に対して、少女が恐怖とも違う不可思議な感覚を覚える。


「……まぁいい。ケチついたから今日はもうアガリだ」


 そう呟いて、少女が歩を進めた。

 その方向は太郎が「嫌な予感がする」と言った路地裏のさらに奥である。


 普段、滅多に通る場所ではないが、この路地を抜ければすぐにアジトだからだ。


「ん? 邪魔だな……」


 路地裏に、馬のいない馬車が止めてある。

 ただでさえ狭い道がより狭くなっているので、少女が不満を漏らしながら通り抜けようとした時だった。


「…………ッ!?」


 突然馬車の扉が開き、無数の手が少女を掴む。

 そして、少女が声を上げる暇すら与えず馬車の中に引き込んだ。


        〇


「人を(さら)う時のコツを知っているかい、ビネちゃん」


 馬車の中にいた、若い猫背の男が少女をそう呼んだ。

 ビネと呼ばれた少女は、3人の屈強な男たちに口も手足も抑えられているので、声も上げられなければ、逃げることも、身動きも取れない。


「とにかく、人目につかないようにすることなんだよ」


 そう言って男が、馬車の中にあったパンを(かじ)り、水筒の水を飲んだ。


 ウェーブがかかった深みのある赤褐色──マホガニーの髪で、身長もあり、痩身(そうしん)だが服の上からでも鍛えた筋肉を感じられる。だが、ずっと猫背で、声はよく言えば優し気、悪く言えば精気がないため、体温が低く感じられる。脈も(はかな)げだ。


 鉄のような冷たさではない。木のような、ゆるやかな温度の低さ。


 目鼻の形は整っているのだが、その目の焦点がこちらと合っておらず、常にどこか遠くを見ているようなのが不気味だった。


「ビネちゃんのアジトの近くの道だと、ここ以外の道は人目につきやすくてね。だから、ずっとこの場所で待ってたんだ。1週間でも、2週間でも、ビネちゃんがここを通るまで待つつもりだったよ。4日目で現れてくれて助かった」


「…………ッ」


 手際よく、他の男たちに身体を縛られ、(さる)(ぐつわ)をされながらビネが語り掛けてくるリーダー格の男を睨む。こんな状況なのに、少女は怯えを見せなかった。


「睨まないでよ、こわいから。だって原因を作ったのはビネちゃんだよ。どうやら君は『ヤバい人のヤバいものを盗んじゃった』みたいなんだ。それって、自業自得ってやつじゃね? 俺だって、何の罪もない堅気(カタギ)の女の子だったら(さら)わないよ」


 はぁ、と男が溜息をつくと、外から馬のいななきが聞こえてきた。

 どうやら、どこからか馬を連れてきて、この馬車と繋いでいるようだ。


 このままだと、どこか遠くまで連れ去られてしまう。

 そして、法の目が届かない場所に連れ去られたら……


 ビネが最悪の場合を考え、体温調節のためではない汗をかいた時だった。

 馬車のカーテン付きの窓が、何者かにノックされる。


「警察だ! 不審な馬車が、数日前から停まってると通報があった」


 外からそんな声が聞こえる。


(助かった……)


 ビネがそう思う。


 窃盗やらなにやらで、ちょっと問題になるかも知れないがとにかく命だけは助かりそうだ。


 しかし、そう(あん)()したビネに嫌な予感が走る。

 目の前にいるリーダー格の男が、異様に落ち着いていたからだ。


 まさか、こいつら警察と言えど、問答無用に殺すのか?


 そうビネが思った時、猫背の男が予想もしなかった行動を取った。


「はいはい、ちょっと待っててくださいね」


 そう言って、カーテンを少し開け、窓を開いたのだ。

 もちろん、覗き込まねば中のビネが見えない程度にだ。


 そして次にビネの鼓膜を揺さぶった警官の言葉は、信じられないものだった。


「あ、あなたは……ウッドフィッシュ騎兵少佐殿!」


 そう警官が驚いた声を出す。


「あれ、俺のこと知ってんの?」


 警官の言葉に、ウッドフィッシュと呼ばれた猫背の男も意外そうな顔をする。 


「ええ、もちろん」


 緊張感が抜け、むしろ陽の興奮が混じる声で警官が言った。


「姫騎士と(うた)われた、()()()()()()()()()()()ではないですか」


「おー……有名人じゃん、俺。サインいる?」


 ずっとテンション低めな声で、ウッドフィッシュが応対する。彼は今、ルナリアが大佐として直卒(ちょくそつ)していた騎兵聯隊(れんたい)の深紅の制服を身に着けていた。

 奇しくもビネが身に着けているものと、同じである。


 手帳にサインをもらった警官は馬車の中をあらためるどころか、「どうかお気をつけて」と丁寧に別れの挨拶までして、この場を去っていった。


「あらら、身バレしちゃったか」


 やれやれ、と溜息をついてウッドフィッシュがビネに視線を落とす。

 相変わらずの、体温の低い眠たそうな声だった。


「まぁいいか。どうせ、ビネちゃん多分このあと死ぬからね。ああ、自業自得とは言え可哀想だし、最期に何か食べたいものあったら買ってくるよ」


 薄いが感情はちゃんと感じさせる声。そんな眠たげな声で、ウッドフィッシュがビネに最後の晩餐(ばんさん)のメニューを尋ねた。

 それと同時に、馬車が拘束された少女ビネを乗せたまま動き出す。


 そして、王都の外に向けて走り出した。

面白かったらモチベと励みになりますので

ブクマや★評価してくださるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ