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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第二章 裏社会編

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第38話 犯罪者たち 前編

今回は2話更新回です。

「私の命って5万円くらいなの? 安くない?」


 銀貨4枚を握りしめながら、プルムが不満そうに声を漏らした。


「まったく髪は女の命って言うのに……ねぇ、太郎?」


 そう同意を求めたプルムの銀の髪は、ばっさり切られていた。

 髪型が、ショートのクラゲヘアっぽくなっている


 先ほど、プルムは自分の長い髪の毛を(かもじ)()に売ったのだ。

 (かもじ)()とは、要はかつらを作り、売る店である。


 プルム的には変装にもなるし、当座の資金も得られる一石二鳥の方法。


 銀の髪は王族以外にはほぼ現れないので、リード王国では高貴な色として扱われている。ウィッグとしての人気も高い。


 だからプルムは自分の髪が高く売れると踏んだのだが、予想が外れた。


 一年ほど前に銀髪の大量供給があったそうで、現在だと買取価格が他の髪色より遥かに安くなってしまっていた。自慢の銀髪が安値だったことに関して、プルムはちょっと不満顔になっている。


 ただまぁ銀髪のプルムが王都のそこらへんを出歩いていても、王族ではなく人気のウィッグをつけている一般人に見られるのはありがたかった。


「似合ってるし……可愛い………と思う」


 そう太郎がプルムの髪の毛を見上げながら、言った。

 口下手ではあるが、太郎は素直に思ったことを口にする。

 いや、最近は意図と努力をして、そういう人間であろうとしていた。


 母の死の時に、伝いたいことを伝えられなかったことを、未だに後悔しているからだ。太郎は、愛の出し惜しみはしない。


「まぁねぇ、私は超絶美少女お姫様だもん。どんな髪型だって似合うわ」


 ふふん、とドヤ顔をプルムがする。


「ところで、長い髪と今の髪、太郎はどっちが好き?」


「…………長い方」


「あらら。まっ、そのうち伸びるから気長に待っててよ」


 そう言った後、プルムがいたずらっぽい笑みを見せる。


「そういえば元の長さになるまで4年くらいで、ちょうど太郎が成人して私と結婚する頃ね。ふふ、それじゃ髪が元の長さになったら、エッチしよっか」


「…………ッ」


 プルムのその言葉に、太郎が一瞬驚いた顔をしたのちプイっと顔をそらした。

 耳まで真っ赤になってるが、ちょっと不機嫌なのも伝わってくる。


「ごめんごめん。冗談じゃあなくて本気の話だけど、軽はずみに言うコトでもなかったわね。それとも、『今』が良かった? でも、それって犯罪だしねぇ」


 プルムがからかった太郎を後ろから抱きしめ、頭をなでなでする。

 元から太郎にボディタッチ多めなプルムであったが、婚約者となったことで最近はセクハラじみた接触が多くなってきた。


 プルムは兄である王子から、「婚約者とは言え、子供に手を出すなよ。犯罪だからな」と極めて常識的なことを念押しされている。

 それに対してプルムは「じゃあ、太郎から手を出してきたらセーフってこと?」と尋ね、兄にも太郎にも渋い顔をされた。


 とはいえ、太郎も太郎で


「成人するまでは、神速のスキルはあまり他人に知られてはいけない」

「仕事以外で、あまり城下で目立つことはしないように」


 と、ルアム王子から釘を刺されている。プルムと結婚する前に、聖剣王渡来(わたらい)の子孫であると広く知られたら、面倒なことになる可能性があるからだ。


 元から素直な性質の太郎だったし、何よりも自分の命を左手を焼いてまで助けてくれたプルムの想いを無駄にはしたくない。プルムのことは好きだが、4年後結婚するまでは、私的な感情による行為は徹底的に控えると心に決めていた。


 なのに、プルムがすぐにボディタッチ含むセクハラまがいのイジリをしてくるので、年頃の少年として悶々(もんもん)としていた。


幼気(いたいけ)な少年に手を出すのも犯罪だし、結婚前の王女に手を出すのも犯罪」


 ふぅ、とプルムがわざと太郎に耳に吐息がかかるよう呟く。



「だったらさ……ふたりで犯罪者になっちゃおうか?」



 裏社会に潜入するんだしね、と冗談とも本気ともつかないことをプルムが言う。


「そういう理由なら……嫌だ……」


 と、顔を赤くしながら太郎が、プルムの抱擁(ほうよう)の拘束から身をよじって逃げた。


「あら残念。それはさておき、髪の毛を売ってジョーになったことだし、(なみだ)(ばし)を逆に渡って栄光を掴みにいこっか。ボクシングじゃなくて冒険者としてね」


 無表情だが苦悩が伝わってくる太郎の顔を見て、プルムが満足そうに微笑む。

 そして髪の代金の銀貨4枚を、ベルベットで出来た(きん)(ちゃく)(ぶくろ)に入れた。

 元々は日本で、ボードゲーム用のトークン入れとして売ってた袋だ。


「でも、これじゃあまだ1枚足りないのよねぇ……」


 巾着袋をジャンスカのポケットにしまい、そう呟いた時であった。


        〇


「ごめん、そこのお姉さん! 追われてるんで、これちょっと持ってて!」


 突然、見ず知らずの少女が(おけ)をプルムに押し付けてきた。


 風呂桶くらいのサイズの、それほど大きくはなく底も浅い桶である。

 渡してきたのは、よく日焼けした12歳ほどに見える赤毛の少女だった。


「え、ええ……いいけど」


 プルムが反射的に、見知らぬ少女から桶を受け取ってしまう。


 水が張られており、中にはアブラハヤに似た10センチほどの小魚が3匹ほど泳いでいる。王都内に張り巡らされた用水路や運河でも、よく見かける小魚だ。

 子供でも、網や罠で簡単に獲ることが出来る。


(えっ、魚?)


 生き物が入っているので、こぼさないよう注意しながらプルムが桶を両手で持って、走り去っていく少女の後ろ姿を見つめる。


 そして、考えた。


 追われてるって言ってたけど、誰にかしら?

 お手伝いサボって怒ったお母さんに追われてるならいいけど、悪党に追われてるなら助けた方がいいかな。


 そう思いながら、少女を目で追う。

 少女は目抜き通りから曲がって路地に入り、見えなくなった。


「……ん?」


 プルムがふと振り返るが、少女を追いかけているものの姿は見えない。

 その時、はっとプルムが気付いた。


「やられた……」


 桶をぶん投げてすぐ確認したかったが、魚という生き物が入っていたので、命に対する(いつく)しみと優しさから、水をこぼさないようまず地面に桶をゆっくり置く。


 ようやく両手が自由になってから、自分のポケットを確認すると……


「やっぱり……ない……」


 銀貨4枚入った財布代わりの巾着袋がないことに、プルムが気付いた。

 ふぅ、とプルムが溜息をついて再び魚の入った桶を持ち上げる。


 そして、近くの用水路まで水をこぼさないように注意しながら桶を運び、中の魚を逃がしてプルムが微笑んだ。


 やるじゃない。


 そう思った。


 『カチッサー効果』ってやつね。


「追われているので、持ってください」って言い方が上手い。


「○○なので、××してください」って理由をつけて頼まれると、人間は自動的に承諾してしまう。理由がデタラメで適当で、ぶっ飛んだトンデモでもだ。


 ちょい昔の心理学の実験で、コピー機の順番を譲ってもらおうとした時に、ただ「順番を譲ってください」と言っても6割くらいしか譲らなかった。

 理由がないからだ。


 でも「飛行機の時間があるので、順番を譲ってください」という『理由』を付与すると、9割以上の確率で譲ってもらえるという結果になった。


 さらに「明日は雨なので、順番を譲ってください」や「お昼がカレーだったのでうんぬん」などの、まるで関係ない理由付けでも、9割譲ってもらえたそうね。


 特に人を助ける系の場合だと、効果的。


 同族を助けるのに、あれこれ考えてたら手遅れになるからだ。

 人間という生き物の性質上、論理的な思考力が不全になりやすい。


 そのカチッサー効果で、押し付けたモノのチョイスも上手いわ。


 水が張られて、魚まで入った桶だと、受け取った側は身動き取れなくなる。

 カチッサー効果とは言え、人助けするような人間は生き物に対して優しいし、命を奪わないよう、守るよう、無意識でも意識的でも努力するからだ。


 何か盗まれたことに気付いても、桶をぶん投げてすぐ追える人は少数派。

 魚を殺さないよう、ゆっくり地面に桶を下す分だけ時間がかかる。


 しかも桶が死角になって胸元から下が見えにくくなるから、相手はこっちの懐やポッケを好きに探れるし。


 そう思うと「追われてる」って言ったのも、上手ね。


「なんに追われてるんだろう?」って振り向いて確認したくなるから。

 そうして振り向いたら、犯人から視線を切っちゃう。その時に、どっちに逃げたか見失う可能性もあるしね。


「単純に見えて、よく考えられてる犯罪じゃない」


 盗人(ぬすっと)少女の()(れん)()(くだ)に感心しながら、プルムが呟いた。

 髪の毛を売ってまで手に入れたお金を盗まれたのに、余裕がある。


 理由は金額ではない。

 見事な犯罪に対して、報酬代わりにくれてやろうと考えたわけでもない。


 いつもプルムの(かたわ)らにいる少年がいないからだ。


「ま、太郎の追跡から逃げ切れるわけないけどね」


 もっとも信頼してる少年の名前を呟き、プルムが少しだけ口角を上げた。


「いや、太郎ならすぐ追いつくだろうけど、あの子を無事で済ますかしら?」


 自分でその言葉を口に出すと、急にプルムが不安になってくる。

 そして先ほどの余裕などかなぐり捨てて、全力で走って二人を追った。


(なんで被害者の私が、加害者の身体と命の心配しなきゃあならんのよ……)


 10メートルでもう息を切らしながら、根がお人よしなプルムがそう思った。

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