プロローグ2
今日はこのプロローグと、第31話の2話更新になります。
「おじさん誰なの? 私の大切なもの返して……」
見た目は9歳くらいの少女が、暗い土間で怯えた声を漏らした。
異世界イシュメイル大陸にある、どこか山奥の村。
そこの地下室に、少女は監禁されていた。
ホワイトブラウンの髪に、青い瞳を持つ華憐な少女だった。
荒縄がそのか細い手首に食い込むほど、強く縛られている。
柔肌が擦れて、血が滲んでいるのが痛々しい。
さらに身体のあちこちに、獣にやられたかのような引っ掻き傷があった。
硬い物を使って、頭部を殴られたのであろうか。
少女の右の額の皮が破け、血が一筋の朱い線となって垂れている。
傷だらけの少女が震えながら、何か奇妙なものを感じて考えた。
お父さんとお母さんは、今朝からお薬を売りに西の町に出かけている。
明日まで帰ってこない。
だから、用心のために家の鍵は全部閉めていた。そのはずなのに、いつの間にか自分の家の中に記憶にない男がいて、何か盗みを働いている。
どうやって、この人は私の家の中に入りこめたの?
少女がそれを問い詰めると、男は狂ったような声を上げ、少女を乱暴に縛り上げると、この秘密の地下室に少女を運んだのだ。
30歳前後の大柄な男は、意味不明なことをずっと言い続けている。
少女が理解出来てないと感じると、さらに男は獣のように叫び続けた。
自分は、この狂った男に殺されるのかも知れない。
そう少女は思った。
父親が、落石で頭が潰れて死んだ時。
75歳の時に、母親が老衰で眠るように死んだ時。
死の恐怖で、その2つの記憶が少女の脳裏に浮かんだ。
死にたくない。
お父さんもお母さんも、今日は東の山の中にある畑の様子を見ている。
お昼には帰ってくるはずだから、それまで時間を引き延ばせば助けてもらえるかもしれない。でも、台所で山鴫のシチューを作っているお母さんは、何故自分が知らない男に地下室に連れ去られたのに、気付いてくれないんだろうか?
お父さんは、今日は銃の手入れを地下室でしていて、朝には私に撃ち方を教えてくれると言っていたのに、何故かこの地下室にいない。私が15歳の時には、もうお父さんより銃が上手くなったので、教える必要がなくなったからなの?
来月の10歳の誕生日に、銃をもらったのが嬉しかったから、いっぱい練習して上手くなったのに。初めて銃に触れるのが、楽しみだ。私は銃を撃つのがとっても得意なの。山鴫だって、撃ち落とせるわ。本当よ。5羽仕留めた日だってある。
日付もちゃんと覚えてる。
今日は私の10歳の誕生日で、リード王国歴10年の10月23日だ。
2か月後の、リード王国歴500年の記念祭も同じ日だ。
魔王国との戦勝記念と重なるから、凄いお祭りね。いっぱい人が死んだけど。
死ぬのが、怖い。
お父さんのような、ひどい死に方は嫌だ。
私が75歳の時に、老衰で眠るように死んだ、お母さんのように、死にたい。
娘の私と、孫2人に、看取られて、安らかに、死んだ、お母さんの、ように。
………………死にたい?
死ぬ?
死ぬことって、出来たっけ?
死…………ってなんだっけ?
わからない。
なんで、この世界は私以外みんな狂ってるの?
私以外、どうしてみんな死ぬの?
少女がそんなことを考えていた時、男が近づいてきた。
その表情は、いかなる感情の発露かわからないが歪んでいる。
そして、男は静かな声で少女にこう告げた。
「母親になってくれ……」




