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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
序章 カーバンクル編

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第3話 姫と女騎士

「私の本当の名前は、マリーナ。リード王国第三王女マリーナ・リード」


 最初にプルムと名乗った女が、まったく違う名を伝えてきた。


「異世界にあるイシュメイル大陸から、参りました」

「……え?」


 予想もしていなかった答えと、聞きなれぬ単語の連続に、男が困惑する。

 と、同時にどこか納得している自分もいた。

 最初に一目見た時から、この世のものとは思えぬ気配を感じていたからだ。


「ど、どうやってこの世界にやってきた?」

「私のスキルです」


 こともなげに、アッサリとプルムが答えた。

「そんな大したことじゃないですけど?」という、声色を含んでいる。


 そのあとも男が色々と質問し、プルムが答えた。


        〇


 ええ、そうです。

 私には異世界イシュメイルと、日本を自由に行き来するスキルがあるんです。


 もちろん、私自身だけじゃなくて、モノや生物だって持ち込めますよ。


 はい、普段はこちらでチョコレートやコーラを買って、イシュメイルで転売しているんです。あちらの世界には、存在しないものですから。


 (きん)換算だと、コーラ1本でサラリーマンの月収、板チョコレートだと年収くらいになるんですよ。


 私は所詮、第三王女ですから、王室予算も自由にできません。

 スローライフ送るためにも、先立つものは色々と必要なんですよ。


 カーバンクルを、知っているかって?

 疑問文に疑問文で返すようですが、カーバンクルとはなんのことです?


 ふんふん、額に赤い宝石がある緑色の可愛い生き物……と。


 拾った場所は?

 歌舞伎町のトー横……っと。


 ええ、その通りです。


 あれは私の世界、イシュメイルに住む生き物。

 そこまで珍しい生き物じゃありません。

 田舎のタヌキくらいのレアさです。


 魔力を貯めこみ、額に宝石のような結晶を作るのです。


 そう、赤い宝石は魔力の(かたまり)


 この世界は、魔力濃度こそ薄いですが、他に魔力を消費する競合生物もいないので、魔力を集め放題だから、結晶を作るスパンも早いんでしょう。

 結晶の生産量を上げる方法は、もう数匹こちらに持ってくることですね。


 単体だと限界がありますし、大量に持ち込んだら魔力を食い合って餓死しちゃうかも。


 この世界にカーバンクルを持ち込んだのは、私か?


 Exactly(イグザクトリー)(そのとおりでございます)


 その貴方がカーバンクルと呼ぶ生き物は、私が持ち込んだものですよ。

 馬車を引いていた馬の前脚で、蹴り飛ばしちゃって、骨折したから、治療のために持ち込んだんです。


 魔法生物には、治癒魔法が通じにくいですから。


 口が堅い身内に、治療を頼んでたんです。


 歌舞伎町にいた、茶髪の背が高い人かって?

 ええ、その人が治療を終えたカーバンクルを、ペット用のバックに入れて、私に受け渡す予定でした。

 好みの女を見かけたから、声をかけている間に盗まれたそうですが。


 ってか、もうスカートめくってる手を、おろしていいですか?

 ずっとめくってて疲れましたし、ボクサーパンツなんて見ても、しょうがないでしょう。

 ああ、どうも。


 ほかに質問は?


 カーバンクルを飼う上で、どのくらいの広さの場所がいいかとか、ストレスかけない方法とか聞かなくていいんです?

 今、飼ってる場所で大丈夫か、不安じゃないです?


 ふむふむ……まぁ、それなら大丈夫だと思いますよ。


 一応、腎臓への負担を考えて、チュールは少し減らした方がいいかもですね。

 逆に与えないようにしてた玉ねぎは、ガンガンあげちゃってください。


 犬や猫と違って玉ねぎ平気などころか、カーバンクルの大好物ですから。

 だから、玉ねぎ農家にとっては、ガチで害獣なんですよね……

 可愛いけど。


        〇


「…………」


 プルムの答えを聞いて、男がしばし沈黙する。

 衝撃的な内容であったが、逆に男の心は落ち着いていた。


 まさか本当に、異世界のお姫様だったとは……

 そして、この世界と異世界を自由に移動したり、モノを持ち込めるとは……


 だが、そう考えると、今までの怪奇現象も説明がつく。

 小さなケースから無限にコンドームが出てきたのも、布団の中に突然フルコースが現れたのも、鍵のかかった部屋に音もなく現れることが出来たのも


 すべては異世界を移動し、モノを取り出せるスキルであれば、説明がつく。


 そして、こいつのスキルを利用すればもっと、カーバンクルをこの世界に持ち込める。もっと、レッド・キャンディを作れる。


 今はレッド・キャンディの生産量に限りがあるから、操る人間の数も、個体値で選別している。だが、大量のレッド・キャンディがあればもっともっと人間を操れる、支配出来る……


 そうなれば、俺がこの日本を……いや、世界だって自由に……


 野心に目覚めた瞳で、男がプルムの顔を再び凝視する。


 冷静になって観察すると、中身性格はさておき、文字通りこの世界のものではない美しさだった。


 目の前の女に対する恐怖が薄れてくると、抑えられていた性欲が、再び鎌首もたげ始めた。


 異世界のお姫様、それも物凄いスキルを持った才女。


 そんな女でも、今はレッド・キャンディの効果で、俺の思うがまま。


 その事実に、興奮が抑えきれない。


(ひざまず)いて、しゃぶれ……」


 そう男が命じた。


「嫌です」

「え?」


 プルムがこともなげにそう答えたので、男が困惑する。


「そもそも、別に最初からクスリ効いてないしねぇ」


 ふふ、っとプルムが微笑む。

 そして、別のレッド・キャンディを指でつまんで、見つめながら、


「魔力酔い」


 と(つぶ)いた。


「快感や神秘体験の幻覚は、単なる『魔力酔い』ねぇ。魔力慣れしてないこっちの世界の人間には、マジモンの麻薬くらい効いちゃっても、私らイシュメイルの人間にとっては、単なるウニ味のキャンディでしかないわ」


 多少の魔力補給は出来るけど、とプルムが続けた。


「その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。っと、そんなことより……やぁっぱりカーバンクルを盗んだのは、あなただったのね。薬が効いていると思い込んで、ゲロってくれて助かったわ」


「あっ……」


 ここで、男が先ほどのプルムのやり取りを、思い出す。



 疑問文に疑問文で返すようですが、カーバンクルとはなんのことです?

 ふんふん、額に赤い宝石がある緑色の可愛い生き物……と。

 拾った場所は?

 歌舞伎町のトー横…っと。


 拾った場所は? 歌舞伎町のトー横……っと。


 拾った場所は?



 ────────()()()()()()



「あっ……あ……ああああああああああああああああ」


 その質問に答えたら、終わりだったんだ。


 俺は、カーバンクルを持っているなんて、一言も言っていない。


 だが、カーバンクルについて説明をする流れで、拾った場所を聞かれて、答えてしまった。


 つまり、犯人であることを、自白してしまった。


 レッド・キャンディが、効いてると思い込んだ余裕と油断もあったろう。

 しかし、会話の誘導が自然すぎて、自分でもアウトな答えをしたことに、微塵も気付いてなかった。


 もう、とぼけきることは出来ない。


「それよりさぁ、私ちょっと不満で怒ってるんだけど」


 ぷんぷん、と自分の口でオノマトペを発してから、プルムがぷーっと頬を膨らまして不満をアピールする。


 構ってほしい時の彼女みたいな口調なのが、最高に可愛らしい。

 そして、それが最高に気持ち悪かった。


「レッド・キャンディでなんでも言うこと……ん? 今なんでも……いやいや、そっちのネタはどうでもいいわね。とにかく、私のこと好きに出来るんだから、初手で全裸にさせると思ったのよ」


 はぁ、とため息つきながらプルムが続けた。


「だからね、背中にカーバンクルの入れ墨いれてきたの。和彫りのえっぐいやつ。極道の妻たちみたいな。いや、ごくつまシリーズ、実は見たことないんだけど」


「えっ? い、入れ墨?」


 思わず男が聞き返した。


「入れ墨っつっても、ボディペイントのフェイクね。最初は、ガチで入れようかと思ったんだけど。俳優の池松壮亮(いけまつそうすけ)が、映画『宮本から君へ』の役作りでガチで前歯抜こうとした時みたいに、仲間に『やめとけやめとけ』って止められてさぁ。池松さんも結局前歯抜かなかったし、まぁ私も、妥協でボディペイントにしておくかって感じで」


「い、いや……そもそも、なんでそんなことを……」


「だって、見たらビックリするでしょ?」


 なんでそんな当たり前のこと聞くの?

 と、不思議そうな顔でプルムが言い放った。


「見たいじゃん。人の驚く顔って」

「そ、そんなことにために……」

「まぁまぁ、それが理由の9割だけどさ、1割くらいは他の理由があるのよ」


 そう言いながらプルムがスマホを取り出し、「見て見て」と男に画面を向けた。

 裸になったプルムの背中と、そこに描かれた入れ墨風のボディペイントが映っている。


 和彫り風で、カーバンクルの躍動感が出ている見事な絵だった。


「脱ぐの面倒だから、自撮りのやつね。ほら、凄いでしょ。めっちゃカッコかわいくない? 横浜の方にあるお店で、50万円かかったけど、大満足だわ」

「いやまぁ、確かに出来は凄いし、意外と似合ってるけど……」


「これ見たら、ヤるどころじゃないわよね。息子は激萎えだし、『この生き物はまさかーッ』って、なっちゃうし。あとは、そこから質問ルートで、さっきみたいにボロ出す感じじゃん」

「…………」


 確かに、いきなりこれを見てしまったら、そうなったかも知れない。


「でもさぁ、これ2週間くらい消えないみたいで、ちょっと困ってるのよ。なんでだと思う?」


「……温泉に、入れないとか?」


「それもあるけどね。ほら、こんな(スミ)入ってると学校の体育の時間、着替えられないじゃん。私ってただでさえ体育はサボりがちだから、体育の出席日数足りなくなりそうなのよねぇ。だからさぁ、試験じゃ学年一位なのに、留年の危機なのよ……いやほんとマジでどうしよ」


 と、プルムが、本気で困ったような顔をした。


「ってかさ、留年覚悟で入れた入れ墨……みたいなもんなのに見せられないとか悔しいでしょ? なんで、スカートめくれーなんて、童貞みたいなヌルい命令出してんのよ。男なら全裸になれ、くらい言いなさいよ!! このチキン!!」

「…………」


 頭良いけど馬鹿だ、こいつ……


 プルムに理不尽に叱られながら、男が思った。


 頭の良い馬鹿は、なにをしでかしてくるか、予想がつかない。

 いや、そもそも何でこいつと、普通に会話しているんだ?


 完全に、プルムのペースになってしまってる。

 落ち着け。冷静になれ。


 相手に主導権を握られているようだが、本当の主導権は俺が握っている。

 冷たく硬い、金属の凶器という主導権を。


 だからこそ、このプルムという女は、舌先三寸のマシンガントークで場をかき回し、主導権を奪おうとしているのだ。


「まぁ、というワケで、カーバンクル返してくんない? あまりこの世界で、魔力使ったもめ事や、事件起こしたくないのよ。別に、今まで儲けた金の取り分よこせー、なんてケチなこと言わないからさ。私のパンツだって、タダ見出来たんだし、人生10回分の幸せホルモン(セロトニン)味わったでしょ?」


 ふぅ、と溜息をついてプルムが男を真っすぐに見た。


「暗躍してる私が言うのもなんだけど、日本だろうがイシュメイルだろうが治安悪くなると、私の幸せなスローライフ計画が台無しになるわけなのよ。こう見えて私の夢は『世界平和』だしね。いや、マジでマジで。だからおねがーい」


 きゃるん、とプルムがぶりっ子ぶって男におねだりをする。


「嫌です」


 あえて先ほどのプルムの口調を真似て、男が答えた。

 そして、ゆっくりと手に握ってた拳銃を、プルムの頭部に向ける。


「お前は余裕ぶって、あれこれ言ってるが……最後にモノを言うのは、身分でも、知能でも、スキルでも、レッド・キャンディでもない。それは……」

「可愛さ? じゃあ、私の大・勝・利♪」

「違う!! 暴力だよ、暴力!!」

「ふーん……それ、可愛くな~い」


 プルムが無骨な銃を見て、つまらなそうな顔をする。


「死にたくなかったら、俺に協力しろ」

「人生かけたナンパなんだから、もっと気の利いたセリフ言うべきじゃない?」


「もう、お前の戯言(ざれごと)には付き合わない。このままだと殺すけど、どうする?」

「それじゃ、交渉は決裂ね……」


 次の瞬間、一閃の光が、部屋の中を切り裂いた。


「あ……あがが……?」


 銃を持ってた男の右腕が、手首の部分でだらりと真下に、不自然な形で垂れ下がっていた。

 力が入らなくなった指から、銃が離れて床に落ちる。

 幸い暴発はせず、鈍い音を響かせるだけだった。


 激痛の中、男の瞳は、自分の腕をこんな風にした存在を凝視していた。


 大きく、硬く、そして長い、原始的な暴力の化身。


 片刃の剣だ。


 日本刀とも、西洋の騎士剣とも似ているが違う。


 それが峰打ちで、銃を持つ男の右手を一瞬でへし折ったのであった。

 そして男は、その凶器に対する恐れより、凶器の根本の異変に対して恐れた。


 空間に裂け目が出来ている。


 そこからにょきりと、剣がこの世界に、若竹がごとく伸びていた。


 空間の裂け目が、どんどんと広がっていく。

 そこから、剣の持ち主がゆらりと現れ、この世界に足を下した。


 女騎士。


 その言葉自体に手足を生やして、具現化したとしか思えない存在だった。


 肩甲骨ほどまで伸びた金髪と碧眼(へきがん)で、凛々(りり)しくも美しい顔立ち。

 オレンジと白を基調とした甲冑で、黒いワンポイントが入っていた。

 下半身の佩楯(はいだて)は、金属と布を組み合わせて、ロングのバルーンスカート状になっている。そのデザインのおかげで、(いか)めしい甲冑でありながらもドレスのように見え、気品と荘厳(そうごん)さすら感じさせた。


 可愛らしいが軽薄で酷薄で嘘つきなプルムとは真逆の、玲瓏(れいろう)方正謹厳(ほうせいきんげん)(ふう)を漂わせている。

 身長もプルムより、頭半分ほど高い。


「カーバンクルがわかるくらい、ファンタジーに造詣(ぞうけい)が深いなら、姫を守る女騎士なんて『お約束』くらい想定してなきゃ」


 くすっとプルムが微笑みを見せたあと、ゆっくり視線を床に落ちた銃に移した。


「銃、拾わなくていいの?」


 そうだ、銃!!


 男が突如現れた女騎士に驚くより、落ちていた銃を無事な左手で拾おうとする。


「ごはっ──ッ!?」


 その瞬間、銃を拾おうと前のめりになっている状態の腹を、女騎士に思いっきり蹴り上げられる。

 プルムの視線と言葉に釣られて銃を見ていたので、かわすことも防ぐことも出来なかった。

 少なくとも女騎士から視線を切らず、銃に手を伸ばすべきであった。


 そのまま男は跳ね飛ばされ、2メートル離れたドアに叩きつけられた。

 成人男性を子犬のごとく軽々と蹴り飛ばす、女騎士の異常なる脚力。


 純粋な筋力による暴力ゆえ、男に対して剣よりも何よりも、強者と弱者の格付けをするに十分であった。


「最後にものを言うのは暴力って、本当だったわね」


 芋虫のごとくのたうち回る男から、視線を切ることはせず、プルムが床に落ちていた銃を拾う。

 そして、銃口を男に向けて、聖母のような微笑みを浴びせた。


「ごめん、そのままだと殺すけどどうする?」

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