第23話 理解った
「よくも私の第一嚮導近衛師団を使い潰しやがったな」
苛烈な瞳で、アヤ・メデューサ二等兵がキララを睨む。
(えっ? 誰このイケメン?)
中性的な美形だったので、ラピスウィルが一瞬男性と勘違いする。
今までのツインテールではなく、かなり短いウルフカットになっていたので、なお勘違いしやすかった。
「アヤ様……お久しぶりです」
様付けはしているが、敵意を隠さぬ声をキララが出す。
「へぇ、アヤ先輩と同じ名前なのかぁ……ってアヤ先輩じゃん!? えっ、ステンノとエウリュアレはどこ? あっ、エウリュアレはいるじゃん」
自分の右腕に巻き付く蛇を見て、ラピスウィルがそう言った。
先輩のことはすぐ認識出来なくても、蛇は簡単に見分けがつくらしい。
(ってか、この子たちって取り外し可能だし、外すと髪短くなるんだ)
完全にアヤから分離したエウリュアレを見て、ラピスウィルがそう考えた。
先ほど感じた背後を蛇が這いあがる感じも、キララに斬られる直前に感じた何かに噛まれる痛みも、身体の一部を石化させたのもこの蛇の仕業らしい。
そのことに思いを馳せるより、「アヤ先輩ずっとこの髪型でいてくれないかな」という呑気な考えの方が強かった。
「後輩のピンチに颯爽と現れるとはカッコいいですね、アヤ様」
キララがじっとアヤから目をそらず、瞬きもせずに言った。
「しかし、タイミングが良すぎますね。ああ、そうか。普通にこの本部に入ろうとしたら、私に拒否されるから、私がこの子に尋問しているタイミングを狙ったのかな? ボディーガードとして、石化の蛇一匹忍ばせておいて」
「まぁな。しかし、キララ。最下級の二等兵を、易々と最上位の中将の部屋まで通すなんてなぁ。監軍本部なのに警備がなってなくて、けしからんぜ」
ふふっとアヤが微笑む。最下級と最上位という単語を、僅かに強調していた。
「元『元帥』の、公爵令嬢を止められる者なんて、この本部にはいませんよ」
静かな敵意と憎悪を含んだ声で、キララがアヤを睨む。
奴隷から軍人として最上級に上り詰めたキララと、公爵令嬢にして最下級の二等兵に落とされたアヤが見つめ合った。
「それだけじゃない。お前と違って私には人徳があるからな、キララ」
「石化銀行を有するメデューサ家は、魔王国の金融界隈に強い影響力がありますからね、アヤ様」
「ま、そういう金の繋がりは否定しないけどさ……お前は狼姫以外にも人と人の間に想いが存在すること認めるべきだぜ」
「認めません。姫様以外に対する、いかなる忠誠もあってはならないのです」
「相変わらずだな。まっ、お前のそういう一途なトコは嫌いじゃないんだが」
「私はあなたが大嫌いです。公爵令嬢にして下品な口調。姫様のお傍にいるに相応しくない」
「私に合わせない品の方が間違ってるのさ」
「…………」
アヤの軽口に、キララが黙る。
(なんか私、蚊帳の外だなぁ……)
とラピスウィルが思った時、キララが振り返ってジロリとこっちを見た。
(やっぱ、蚊帳の外でいいっす! この空気に私を入れないでぇ……)
そう思うラピスウィルにとって、怖いキララの言葉が聞こえる。
「この女を適当な理由をつけて殺し、裏にいるであろうアヤ様を引っ張り出したかったんですが、手間が省けました。この重大な軍律違反、以前は姫様の助命嘆願により二等兵に落とされるだけですみましたが、今回ばかりはそうは行きません。姫様に止められる前に、私自らその首を刎ねて差し上げます」
「右」
キララの長尺のセリフに、アヤはその単語だけ言った。
それだけで、キララは「やられた」という顔をして歯を食いしばる。
(いや、わからんて。頭の良い人同士の駆け引きは高度すぎてわからんて……)
ぽかんと、バカ口開けたままラピスウィルがそう思った。
「兵站を……人質にとったつもりですか!」
「なんのことかな? 私は方向を言っただけだぞ」
そのやり取りを見て、ラピスウィルが「ん~?」と思考する。
そして、数秒してようやく気付いた。
右って、いつも右にいるアヤ先輩の蛇ステンノのことか。
分離して自立行動したステンノに、私たちがイシュカの名のもとに集めまくっていた兵站を『石化させた』って暗に示したんだ。
アヤ先輩を殺せば、たぶんその石化は永遠に解けない。
魔王領中の集積場から集めた、この国の生命線が失われる。
そうじゃなければ、このメスガキがここまで苦悶に満ちた顔をしない。
「卑劣! 卑怯! 人をハメることしか考えてない下種の極み!」
「お前がそれ言うかぁ、キララ」
悔しさで目に涙を滲ませるキララに、アヤが呆れたように言った。
「ところでキララ参謀長殿、旅団一個お買い上げになりませんか?」
「なにっ?」
「代金は、そこの女の命で構わないぜ」
そう言ってアヤが、ラピスウィルを指さす。
「お前の考えを飛び越え、狼姫は魔王の叔父貴を守るためにリード王国の大軍を引き受けるつもりだろ。このままじゃあ、普通に負けて殺されるかも知れないな」
アヤの言う狼姫とは、魔王の娘のことである。
「旅団級戦力と、大量の物資は魅力的だろ? 元元帥もオマケにつけよう」
「うううううう……」
キララが泣きそうな顔になり、ずっと歯を食いしばっている。
ラピスウィル一味と集めた兵站が、喉から手が出るほど欲しいらしい。
いや、正確には魔王の娘、狼姫の生存率をとにかく上げたいのだ。
だがそのために、上手く排除に成功した大嫌いなアヤが戻ってくるのが、相当に嫌らしい。アヤを斬って旅団だけ手に入れたくても、いきなりトップが変わった部隊は、戦力が大幅に低下するので、それも出来ない。
「理解れよ、キララ。狼姫が一番のお前にとっちゃ、簡単な話だ」
「うー!! うーッ!! ううううーッッッ!!」
聞くのを拒否するよう、キララが唸りながら首をぶんぶん横に振った。
「あれれ、どうしたのかなぁ? キララちゃんの判断のせいで、大切なお姫様が死んじゃうかもしれないなぁ。お腹すいたよぅ、敵の方が多いよぅってなって」
と、アヤに煽られた直後、
「うわあああああああああああああああああああああああああんッッ!」
キララが大声で泣き始めた。
ボロボロと大粒の涙をこぼし、人目もはばからず慟哭する。
「うわぁ、泣いちゃった……」
ラピスウィルがちょっと気まずそうに、偉い中将が泣く姿を眺めた。
「わかりましたぁ……その旅団級戦力をアヤ様の『アヤ支隊』として、姫様の軍に加わることを許可しますぅ。でも、嫌……本当に嫌ぁ……」
(メスガキ兎が理解らされた……)
嗚咽をもらすキララを見て、ラピスウィルがそう思った。
とにかく、これで私はようやく解放されるみたいで良かった。
アヤ支隊って言うんだから、トップはアヤ先輩だよね。
それにしても、このメスガキめ泣いてやんの! ざまぁみろ!
でも……見た目が幼女だから、ここまで泣かれるとちょっと心苦しいな。
先ほどまで自分を殺そうとした相手を、ラピスウィルが少し憐れむ。
「ひっく……ひっく……でも、その女の命は助けるけど、解放まではしません」
「ええええっ? ちょ、なにそれ? 可哀想と思って、損した!」
キララの言葉にラピスウィルが叫び、左手で机を叩いた。
「ひぃっ」
わからされた直後で心が弱っていたのか、ラピスウィルの台パンごときにキララが怯えた声を出した。
「い、命を助けるとしか約束してないもん! お前はぁ、魔王城の護衛隊長に任命してやる! し、しっかり働けよバァカ!」
口調まで本物の幼女化しながら、キララがラピスウィルを指さした。
「なんだぁそれは? おうおうおうキララちゃんよぉ、ちゃんと説明しろ!」
強い相手には媚びへつらうが、弱った相手には滅法強いラピスウィルが、キララに大股で踏み込む。
それにビビったキララが、「ひぃ」と弱々しい声をあげて、嫌いなはずのアヤの後ろに隠れる。そして、その袖をぎゅっと握った。
「こんなのでも幼馴染だから、あまりイジメないでやってくれ、ラピ。それより、マジで一体どういうことだキララ?」
少し優しい口調で、アヤがキララに尋ね直した。
「え、ええっとアヤ様……元の魔王城の護衛部隊は、姫様の決戦部隊に編入したから空白状態なんです。なので、新規に特別編成した護衛部隊を創立したので、その隊長をそこの嫌な女にしようと……」
「なるほどな」
少しだけ渋い顔で、アヤが頷く。
これ以上は自分にもどうしようもないと、わかって納得した。
だが、ラピスウィルは納得してない顔をして、キララに叫ぶ。
「嫌な女だぁ? ちゃんと名前で言えガキぃ!」
「嫌な女は嫌な女だもん! お前なんか嫌いだバァカ!」
「うるせーメスガキ! お前こそバーカ! バーカ!」
二匹のガキが、醜く言い争い合う。アヤが呆れたように、溜息をついた。
この時のラピスウィルの罵倒を、上官不敬罪で罰するには十分なのだが、キララは頭に血が上りすぎてそのことに気付いてない。
「うう、頭と服がコーラでベタベタしてやだぁ……おうち帰ってお風呂入る」
罵倒合戦に疲れ果てたキララが、そう呟いてベソをかきながら部屋を出ていく。
「はい論破! はいクソ雑魚決定! ガキが大人に勝てると思うなよ!」
馬鹿連呼しかしてないラピスウィルが、キララの背にそんな言葉を浴びせる。
「ちゃんと護衛つけろよ。誘拐されちゃうからな。気を付けて帰れよー」
あまりに幼稚な光景を見せられたアヤが、母親のような言葉を伝えた。
その後しばらく、なんとも言えない沈黙が続く。
「ええっと、そうだ。ラピの石化を治さないとな」
そう言って、少し気まずそうにアヤがラピスウィルに近づいた。
「アヤ先輩、助けてくれてありがとうございます。それと、その……」
「ああ、聞いての通りなんだ。実は私はもともと元帥の公爵令嬢でな。あのキララに上手くハメられ、兵卒まで身を落としていた」
ラピスウィルの石化した部分を撫でる。すると、すぐさま石化が解除された。
「黙ってすまない。いつか、言おうと思ってたんだが……」
「いや、そんな先輩の過去とかどうでもいいんですって!」
「……え?」
思わぬ反応に、アヤが困惑する。
「せっかく集めたお宝、このままじゃ全部奪われちゃうじゃないっすか! あれは私が真面目にコツコツ働いて貯め込んだものなのにぃ。理不尽ですよぅ」
「お前なぁ……」
困ったような、嬉しそうな顔をアヤがする。
こちらを公爵令嬢や、元帥だったと知っても態度が変わってないからだ。
「……えっ、先輩?」
いきなりアヤに抱きしめられ、さしものラピスウィルも驚く。
そして、アヤがその耳元に優しく囁いた。
「お前の取り分は、お前が落ちた場所に隠しておいた」
「あっ……」
おそらく、冒険者から襲撃されて落ちた崖下のことを言っているのだろう。
ラピスウィルと密着することで、他人に聞かれぬよう配慮した上で、さらに本人にしかわからぬよう伝える用心深さがアヤらしい。
「生き延びて、ちゃんと手に入れろよ」
それだけ伝えて、アヤもこの部屋を去っていった。
「アヤ先輩……」
その背を見て、ラピスウィルが誓う。
ありがとう先輩。
今まで軍人らしくなかったけど、これを機会に生まれ変わります!
私、このあとの魔王城の護衛をやり遂げ、生き延びて先輩が残してくれたものを手に入れて見せます! 見守ってください!
〇
こうして、ラピスウィルは魔王城に赴任した。
近衛大尉のままなのは、アヤかキララどちらかによる政治的影響力によるものだろうか。
だが、そこで目にしたものは、覇気のない魔王と、特別編成の防衛隊とは名ばかりの、子供たちばかりの軍隊もどきだった。砲も回収されている。
「…………」
うん、無理だ!
そうラピスウィルが思った。
よく考えたら、先輩は軍人としてがんばれなんて言ってなかったよね。
生き延びろって言ってたし、それ優先します。
とりあえず、脱出口探して、何かあったらそこから逃げよう。
あと、ついでに金目のものがあったら、もらっちゃおう!
先輩、後半部分は見守るのやめて、いい感じにスルーしていてください!
そうラピスウィルは、心に強く誓うのであった。
〇〇
そして現在の魔王城。
「ってことがありましてぇ」
「ありましてぇ……じゃないのよ」
プルムが呆れ顔で、ラピスウィルの顔を見る。
この期に及んで、どこか危機感の欠如している緩んだ顔だった。
「えっ、マジであんたが怪盗イシュカだったってこと?」
「まぁ、そうなるんですかねぇ、たぶん」
「なんで微妙に他人事なのよ……」
こいつと話していると、こっちの価値観がおかしくなる……
意外と常識的で良識的なプルムが、そう考える。王侯貴族の中にも鬼畜外道の類はいるし、通っているメイジュンにも性格クソ悪い女はいる。だがしかし、この手のしょうもないクズとの遭遇は、初めての体験であった。
いや、それよりも……
怪盗イシュカだけじゃない。
正体不明の『幽霊旅団』の正体も、こいつだったのか。
測量局から、軍の理屈に合わない動きをしている、神出鬼没の謎の勢力がいると伝わってはいた。魔王軍の秘密部隊だとか、ただの集団幻覚だとか、様々な憶測が生まれ、議論されてたけど、実際はこのラピスウィルがご飯求めてウロウロしてただけだったとは……
おかげで、冒険者たちが幽霊旅団との遭遇を恐れて、思ったより敗残兵狩りとか出来なかったのよね。勇者ちゃんですら警戒してたし。
リード王国軍の追撃や進軍速度も、けっこう鈍った。
期せずして、こいつは友軍を救ってたのか。
いや、味方の食料やら物資を荒らしまくってたけど……
マジで敵にも味方にも、混乱しかもたらしてないわね。
まぁ、でも話の中に出てきたラピスウィルの固有能力は使えそうだわ。
当初予定していたプランより、いい感じになる。
「まぁいいわ。命は助けてあげるから、協力しなさいラピスウィル……二等兵って呼べばいいのかしら? 大尉の方? 役目的には大尉だから、大尉にするわ」
「はい! マリーナ姫様! なんでもします!」
返事だけは妙にいい。
「あんた、液体のコントロールが出来るのよね。だったら、それ使って魔王のおじ様の脈拍を感じさせないように、血流をいじるって出来る?」
「まぁ、魔王様が気絶してるなら大丈夫っすけど」
「いいわ、流石ケルピーね。じゃあおじ様が覚醒しないよう、脳への血流を死んだり後遺症が出ない程度に抑制しつつ、脈拍のドクンって感じを上手く消して血を流してね。そうやって、おじ様の死を偽装するの」
ふふっとプルムが、横たわる魔王の身体を見てそう言った。
「それって、結構ヤバいことなんじゃ」
「ヤバいわよ」
「バレたら大変なことになるんじゃ?」
「大変なことになるわよ」
「ええ~、じゃあ嫌っすよぅ」
「じゃあここで死ぬ?」
プルムがそういうと、太郎が銃口をラピスウィルに向けた。
「ひいい、わかりましたぁ! でも、脅すなんて酷いですよぅ」
「メスガキを悔しがらせられるよ」
プルムの言葉に、ラピスウィルが「え?」と反応する。
「魔王のおじ様を殺そうとしてた、キララの企みを台無しに出来るよ」
「やります!」
やる気のないことに定評のあるラピスウィルが、やる気に満ちていた。
「か、勘違いしないでよね! これは私が『あのメスガキを、滅茶苦茶に泣かしてぇ。大人の力を理解らせてぇ』って思ってるわけじゃないんだからね!」
「はいはい……」
ゲロカスみたいに汚いツンデレムーブだなぁ、とプルムが思った。
ラピスウィルが魔王の傍らまで行って、その場で気を付けの姿勢になる。
プルムが確認すると、確かに魔王から脈は感じられなかった。
チアノーゼが起きてないので、この状態でも確かに血は流れている。
「もしもの時のために、メイクセット持ってきて良かったわ」
プルムが魔王の顔に、ささっと土気色の死人顔メイクを施す。
逆死に化粧だ。
「それじゃ、私たちはもう帰るから。もう少ししたら勇者ちゃんが来るから、あとは怪盗イシュカをでっち上げたご自慢のトークでなんとかしてね」
「してね……って、そんな投げっぱなしっすかぁ? 15歳が背負える重さじゃないですってぇ」
「じゃあバイバーイ」
ラピスウィルの話を聞かず、プルムと太郎が玉座の下にあった宝物庫への階段を下っていく。魔王城玉座の間には、ラピスウィルだけが残された。
「いや、なんて言えばいいのマジで?」
急に心細くなったラピスウィルが呟いた時だった。
「…………ッ!」
いきなり爆音にも似た音が響き、大理石の壁が吹っ飛ぶ。
「壁の向こうから失礼します! 勇者です! おはようございます!」
「ひえええええええええええッッッッ!!」
ラピスウィルが壁をぶち抜いてきた勇者を見て、当然ながら化け物を見たかのような悲鳴をあげたのだった。
〇
数分後。
「なるほど、殯の儀があるのですね!」
殯とは、死者をすぐに葬らず、その魂を安らげ、また残された者がその死を受け入れるため、一定期間安置しておく葬送儀礼である。
「そ、そうですそうです! 歴代の魔王様はそうやって葬られるのです」
ラピスウィルが、そう適当な嘘をついた。
いけるか?
真っすぐにこちらを見つめる勇者の曇りなき眼を、ちょくちょく目をそらしながら見て、ラピスウィルが思った。
勇者は、そんな儀式があるって信じてくれる?
信じたとしても「そんなこと知らねー、首を獲る!」ってならない?
ってかこの勇者、目ぇキラキラすぎてむしろ怖いぃ。
「理解りました! 他国の文化風習は尊重しなくては!」
「ありがとうございます、勇者殿」
よっしゃ、こいつチョロい!
内心ガッツポーズをしつつ、ラピスウィルが先ほどロロに持ってこさせた国旗に包まる仮死状態の魔王に近づく。
「そんな風習、初めて聞いたであります……」
その時、ユニコーンのロロ少尉候補生がそう言った。
「…………」
馬鹿ああああああああ!
ちょ、お、おまっ! 空気読んでって子供ぉ!
王様は裸だなんていう子供が良いとされるのは、絵本の中だけだってぇ。
もっと素直じゃないクソガキになってよぅ! いやクソガキ嫌いだけどさぁ。
ってか、好奇心なの? 子供特有の好奇心で今そんなこと聞いたの!?
魔王の身体の傍らで、俯いたままラピスウィルが冷や汗をたっぷりかく。
「むむむ、どういうことですか大尉!」
「…………ふふふ」
液体コントロールの固有能力で、冷や汗を消しつつラピスウィルが笑う。
「ロロ少尉候補生、これは秘儀ゆえ魔王陛下に近しい数名しか知らないのです」
「そうだったでありますか。理解ったであります!」
しゃあッ、こいつもチョレぇ!
所詮は子供よ。私みたいな大人(※15歳)に敵うわけがない!
あーはっはっはっはっは!
「それでは魔王様を玉座の下にある殯の間にお連れします。なお、これ自体が秘儀ゆえ、お二方は決して口外せぬようお願いします」
「理解りました!」
「理解ったであります」
勇者とロロの素直な反応に、ラピスウィルが満足そうな顔をする。
口封じにも成功して、完璧すぎる私! 凄いぞ私!
さあて、あとは魔王を玉座まで運んで、その下に連れて行けば良し。
そこから先は、さっきのリード王国の姫と子供がなんとかするはず。
なぁんだ、思ったより簡単だったっすわ。
それじゃ魔王の身体を持ち上げてっと……
「持ち上げ……て?」
国旗の下の魔王の身体を思い出す。
老人とは言え、筋骨隆々で100キロを超えてそうな巨体。
対して小柄で華奢なラピスウィルは、その半分にも満たない体格だ。
「ぬおおおおお!! ぐあああああああ!! うおおおおお!!」
仮死状態の魔王の身体相手に、ラピスウィルが大声を上げる。
なんとか持ち上げようと、その身体の下に潜り込もうとしているのだ。
「大丈夫ですか! 手伝いますよ!」
「お、お心遣い感謝します勇者殿……で、でもこれは儀式なので一人で」
ってか触られたら、バレちゃう!
魔王に体温あるのとか、心臓は動いてるのバレちゃう!
そう思いながら、ラピスウィルがなんとか魔王の身体を背負う。
こ、ここまででもキツかったのに、これから階段の上り下りがあるの?
そう玉座までの階段を見て、ラピスウィルが絶望の顔をする。
その背後からは勇者とロロの「がんばれー」という応援が聞こえた。
フィ、フィジカル……最後の最後でフィジカル……
そう思いながら、見ようによっては十字架を背負う聖者のように、魔王の身体を背負ってラピスウィルは階段を上り始める。
こうしてラピスウィルは、たっぷり時間をかけて適当な嘘の代償を支払うことになったのだ。そして彼女の翌日の全身筋肉痛と、ベッドから起き上がれないほどの疲労と引き換えに、二年弱に及ぶリード王国と魔王国の戦争は終結した。




