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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第一章 魔王の死編

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第19話 イシュカ誕生前編

※暴力描写、流血シーン、戦争の話が含まれます

今日はもう1話更新します。

()せる。()せちゃうっすよ……」


 重い背嚢(はいのう)を背負い、(てつ)(かぶと)を被りながらラピスウィルが言った。

 魔王領の森を黙々と進む魔王軍の、二列(じゅう)(たい)の中にいる。

 すでに一昼夜歩き通しであった。


 うーうー泣き言をいうラピスウィルを、隣にいた年上の女が笑う。


「いいダイエットになったじゃないか。お前最近デブってたもんなぁ」

「で、でぶ~? アヤ先輩、流石にそれは言い過ぎっすよぅ」

「はいはい、悪かったよ」


 同じく鉄兜を被っているメデューサの魔族、アヤが適当に謝る。

 流石に鉄兜の邪魔なのでツインテールではなく、下の方で結んでいた。

 髪の毛の先の蛇は、()(もち)無沙汰(ぶさた)にアヤやラピスウィルに巻き付いてくる。


「ってか、鉄兜外していいっすか、先輩?」


 ダルさを隠そうともせず、ラピスウィルが言った。


「前線までまだまだだし、これ被ってると頭()れるし、首痛くなるっす」

「駄目だ」

「お、おおう……」


 先輩のガチトーンに、ラピスウィルが何も言えなくなる。


「このあたりにはもう、リード王国の冒険者が侵入してきている。連中の軽魔法兵が使う『釘玉(くぎだま)』食らったら、洒落(しゃれ)にならないぞ」


「釘玉?」


 ラピスウィルが、聞きなじみのない単語を復唱した時であった。


 200メートル先から、乾いた破裂音が響いてくる。

 前方に並ぶ兵士たちの隙間から、白い煙が見えた気がした。

 何か前から怒号のようなものが聞こえるが、何を言っているかよくわからなかった。だが、近づくにつれて言葉の意味がわかってくる。


「やられた、釘玉だ!」

「冒険者め!」

「衛生兵! 衛生兵!」

「騎兵はいねぇのかよ?」

「無駄だ。森の中だぞ」

「竜騎兵じゃないと、追いつけない!」

「じゃあ竜騎は?」

「いねぇよ!」

「くそったれ!」


 とにかく、決してよい状況ではないらしい。

 だが、軍隊はそれでもなお前進し続ける。

 不安そうな顔で、ラピスウィルが背の高いアヤに視線を向ける。


「あ、あの先輩……」

「怖いよなラピ。でも安心しろ。しばらくは次の攻撃は来ないから」

「あ、はい。で、その釘玉ってのは……?」


「たくさんの古釘を、石膏(せっこう)で固めて(たま)にしたものだ。それに爆破魔法を詰めて、冒険者が私たちへブン投げてきたんだよ」


 爆破の衝撃波というものは、意外と短い距離で殺傷能力を失ってしまう。


 現代でも多用されるTNT爆薬は、至近距離なら(わず)か10グラムで人を殺す。

 だが10メートル離れれば、爆薬が千倍の量10キログラムあっても衝撃波だけでは人を殺すことは出来なくなる(※)。重傷は負わせられるが。


※爆破の衝撃だけで人を殺すには最低100psiが必要。psiは1平方インチあたりに何ポンドの圧力がかかるかという単位。メートル換算は各自で。


 だから、破片を飛ばすのだ。

 一度爆風で放たれた破片は、数百メートル先だろうが殺傷力を失わない。


 釘玉は、殺傷範囲50センチほどの弱い爆破魔法でも、古釘をバラ撒くことで効率的に人や魔族を殺すことを目的とした兵器だ。殺傷範囲は半径10メートル。


 リード王国が、現代の手榴弾を参考にしたことは、言うまでもない。


「うっ……」


 ラピスウィルが、吐き気を含んだ声を漏らす。


 進んでいったら、先ほど釘玉の犠牲になった兵士が道の脇に横たわっていた。


 生きているようだが、血まみれで重傷である。

 体中のあちこちに、長さ8センチはある太い釘が刺さっていた。


 特にひどい傷は、側頭部の頭皮がべろんとオレンジのように剥けて、白い()蓋骨(がいこつ)が露出しているものだった。

 爆破の衝撃により、高速で飛んだ古釘がぶつかり、こうなったようだ。

 兵士は、鉄兜をしていなかった。


「行軍中の兵士は、恰好の的だからな。冒険者はこうやって、一撃入れてすぐに離脱していく。森や山岳地帯だと軽装で健脚の冒険者には、(そう)(りゅう)に騎乗した竜騎兵じゃなければ追いつけない。どのみち、私らは一方的に攻撃を受ける」


 独り言のように、アヤが前を見ながら語った。


「鉄兜、外すかラピ?」

「いやいやいやいやいや……」


 蒸れて頭皮が(かゆ)くなっていたが、ラピスウィルがさらに深く兜をかぶった。


 その時であった。


「工兵部隊! 前へ!」

 行軍が停止し、前からおそらく下士(かし)(かん)のものであろう声が響く。


「やれやれ、仕事か。行くぞラピ」

「ま、待ってください、先輩!」


 一人置いて行かれるのを恐れて、ラピスウィルが慌ててアヤについていく。

 他の工兵と共に辿り着いた先には、幅10メートルほどの崖があった。


 崖の高さはかなりある。


 そこそこ立派な木製の橋がかけられていたようだが、今はそれぞれの崖の面に残る斜めの橋脚(きょうきゃく)と2メートルほどの橋桁(はしげた)の残骸以外は、吹っ飛ばされている。


「せ、先輩……こ、これって……」

「まぁ、冒険者どもの仕業だな。さてと、橋をかけ直すか。後ろの方に()(きょう)車両があったはずだから、積んであるものを見てくる」


 この場合の架橋車両とは、橋の材料を積んだ馬車である。

 現代の車両自体が橋になるようなハイテクなものではない。


「ラピスウィル二等工兵、残った(きょう)(きゃく)を見てこい!」


 アヤが去ると同時に、軍曹(ぐんそう)にそう命じられた。


「ほら、命綱!!」


 そう言って軍曹がロープを渡してくる。


「えっ? 私? なんでぇ?」

「お前が部隊で一番軽いからだ。命綱を引っ張る時、ラクだからな」


 ラピスウィルは最近3キロ太ったとはいえ、それでも華奢で小さい。

 むしろ以前が、甘党のくせに()せすぎだった。


「いや、まぁそうですけど……絶対に手ぇ離さないでくださいね!」


 意外と素直に、ラピスウィルが背嚢(はいのう)をおろして自分で腰にロープを巻く。

 軽い、と言われたことがうれしかったようである。単純な女だった。

 そして、ゆっくりと崖から降ろされていった。


「こ、こわいいいい! た、たかいいいいいぃ!」

「橋脚に取り付けるかぁラピスウィル?」


 崖際で命綱を持つ軍曹が、そう声をかけてきた。


「な、なんとかぁ……よっと!」


 橋の残骸の橋脚のひとつを、ラピスウィルが掴む。

 意外と丈夫そうなので、そのままそこに飛び移った。


「あ、これなら再利用出来そうっす! ちょっと補修するんで、そのあとすぐに引き上げてくださ……あれ?」


 ラピスウィルが、信じられないものを見た。

 自分の腰に結びついてた命綱、その崖上側がしゅるしゅると落ちていってる。


「ちょ、ちょっとぉ? なんで命綱を離したんですかぁ!? ……あっ」


 ラピスウィルの網膜(もうまく)がはっきりと、先ほどまで会話していた軍曹が崖下に落ちていくのを映す。

 その頭を、矢が貫いていた。


「ひいいいいい!?」


 何本もの矢がラピスウィルに向かって飛んでくる。そのうちの一本が、目の前に刺さった。慌ててラピスウィルが、橋脚の裏に隠れる。


「対岸に冒険者どもだぁ!」

「こっちも(きゅう)(へい)を前に出せ!」


 上からそんな怒号が響き渡る。


(は、早くなんとかしてぇ……)


 橋脚にしがみついて、ラピスウィルが震える。その下は高い高い崖だ。


 その時、地面が大きく揺れた。


「あっぶ……は、はひぃ」


 その衝撃でラピスウィルが橋脚から落ちかけるが、なんとか掴んで耐えた。

 こちらの崖上から爆音が何度も響く。

 見れば対岸の方にも、魔王軍からの砲撃による爆発が起こってた。

 双方、軽(きゅう)(ほう)による爆破魔法弾の応酬を繰り広げているらしい。


 その光景を見て、ラピスウィルが(あお)()める。


 あ、あんな爆発がこんなボロボロの橋を(チョク)ったら……

 間違いなく、崩壊する!


 は、早く上に逃げなきゃ!


 で、でもこんな爆発しまくってる中?

 ただでさえ、揺れで落ちそうなのに?


        〇


「くっそ、こっちで爆発あったのに、冒険者どもは対岸にいやがったか!」


 戻ってきた、アヤが怒りを(にじ)ませた声を出す。

 架橋車両の方が狙われる危険が高いと思って、ラピスウィルを置いていったら、まさかの事態である。


 後続が橋を渡れなくなるから、冒険者たちは仲間がみんな橋を渡ってから、橋を破壊したものと思っていた。これじゃあ、こっち側でさっき釘玉を投げてきた、()(へい)の冒険者が孤立するだろ。裏に回り込むなら、ある程度数揃えないと。


 いや待て……本当に、さっきのは冒険者が『投げた』釘玉か?


「さっきの釘玉は、時限式のトラップだったか!」


 冒険者たちは、こちら側にいると思い込ませるための。


 そう気づいたアヤが、崖まで戻ってきて仲間に尋ねた。


「おい、ラピスウィルは?」

「は、橋の下ですアヤさん」

「くそっ!!」


 今にも爆破で崩れそうな、橋の残骸を見てアヤが唸る。

 魔王軍も冒険者も、森に(ひそ)んだ相手の正確な位置がわかっていない。なので適当に撃ちまくっている。いつか橋に当たってもおかしくなかった。


「いけ、ステンノ!」


 アヤが右の髪の毛から伸びる蛇に命じ、爆撃の合間を縫って橋へ向かわせた。


        〇


「うう、もう駄目っすぅ……こうなったら一か八か……」


 涙目で橋脚にしがみつくラピスウィルが、このままではもう橋は持たず落ちるだけと思って、横から崖上へ這い上がるのを決意する。

 だが、何かが聞こえて、その行動を止めた。


「ラピスウィル! アヤだ! 私が橋を石に変えた! 上がるな! 今は、そこが安全だ! ラピスウィル! アヤだ! 私が橋を石に変えた! 上がるな!」


 自分らがいる側の木もメデューサの固有能力で石に変え、防壁にしているアヤが何度もそう叫んだ。途中で言葉が爆音にかき消されてもいいように、同じ短文を何度も叫ぶ。彼女の蛇が噛んだものは、石に変わるらしい。


「せ、先輩?」


 ラピスウィルが涙目で橋脚を改めて見ると、全体が石化している。

 これならば橋の真上に爆撃を食らっても、耐えられるだろう。


        〇


「あとは、こっちももう一仕事しないとな」


 引きつった表情でアヤ呟いた。


 その頭に、パラパラと細かい石の雨が降り注いでいる。


 軌道が高い放物線を描く軽臼砲弾が、石化した木の葉にぶつかって爆発しているのだ。樹上にある石の枝葉で防がれているから、ここまで魔法弾は届かない。


 アヤが道の反対側の木を見ると、そちらにも仲間が結構な数いる。

 そして、そちら側の木々は、まだ石化していない。


「うおおおおおおお!!」


 アヤが身を(さら)して、道を突っ切る。

 もしそのタイミングで、道に爆撃の魔法弾が落ちていたら、彼女は木っ端微塵に吹き飛んでいただろう。

 が、運良くアヤはミンチにならず、道の反対側の森に辿り着けた。


「アヤさん!」

 下士官だけではなく、小隊長の少尉もアヤの姿に嬉しそうな顔をする。


「待たせたな、お前ら! ステンノ、エウリュアレ、やれッ!」


 自身の蛇に命じると、瞬時に二匹の蛇が周囲の木々や茂みを噛む。

 そして、すぐさまそれらは石化し、即席の防壁が出来た。


 これで、爆撃魔法弾による打撃戦はこっちが有利だ。


 荒く呼吸をしながら、アヤが考えた。


 冒険者というものは、無理には戦わず、不利を悟ればすぐ離脱する。

 この『簡易特火点(トーチカ)』と化した石の森を見れば、もう戦わないだろう。

 戦闘が早期に終われば、死傷者も最小限で済むし、ラピも助かる。


 そう思った時、ひゅるる……という何かが落下してくる音が聞こえた。


 アヤ含むその場にいた者全員が伏せ、口を開け、耳を塞ぎ、爆撃に備える。


 が、その魔法弾は見当違いの方向に落ちて、炸裂した。

 それが、対岸からの最後の一発だった。こちらの魔王軍はまだ砲撃を続けているが、もう対岸の冒険者たちは遥か彼方に逃げ去っただろう。


「や、やりましたねアヤさん」

 新米の少尉がアヤに嬉しそうにそう言うが、アヤは答えなかった。

 青い顔で、何か考えてる。


「最後の一発……崖の法面(のりめん)に当たりましたよね、少尉殿?」

「ええ、たぶん。だからこっちに被害は……ってまだ出たら危ないですよ!」


 少尉の制止も聞かず、アヤが石化した茂みから飛び出す。

 そして崖の際に行き、橋の橋脚を見た。


「……ッ!」


 いなかった。

 崖に当たった砲弾の衝撃を受けたのだろうか。

 そこにラピスウィルはいなかった。

面白かったらモチベと励みになりますので

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