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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第一章 魔王の死編

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第18話 懲罰徴兵

場面切り替えは、

〇は同じ時間帯かちょっと先の未来のシーン

〇〇は数日~数か月

〇〇〇はもっと遠い未来

●は過去で、数が増えるほど昔のシーンに場面切り替えしています。


それと、明日は2話更新予定です。

「ラピスウィル・ケルピーを(ちょう)(ばつ)(ちょう)(へい)に処す」


 軍の法務官が、ラピスウィルにそう告げた。

 眼鏡をかけ、黒の法服を着た生真面目そうなミノタウロスの魔族である。


 その言葉を聞いた少女の顔色は、自身の青髪よりも(あお)()めていく。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ~。私なんもしてないですってぇ……」


 情けない声が、ラピスウィルの口から漏れた。


 数か月前。

 ラピスウィルが、『学校』の制服を着ていたころの出来事である。

 白い清潔感のあるフリル袖のシャツの上には、赤いジャケットを着ており、同じ色のショートマントを羽織っている。首元のリボンとミディスカートは黒い。


 黒いキャスケットの学帽が意外とサマになっており、良家の子女にも見えた。


 実際、彼女の実家は配管工ギルドのギルド長なので、そこそこ裕福だ。日本で言うなら、大手サブコンの雇われ社長の令嬢に近いポジションである。


 平民にしては恵まれているし、高等学校にも通っていたラピスウィルが、何故このような状況になったのか。


「お願いしますお願いしますぅ、何かの間違いなんですよぉ……」


「う……」


 ラピスウィルの必死の懇願(こんがん)に、法務官に仏心(ほとけごころ)が芽生える。


 真面目な優等生が多いことで有名な、魔導工業高等専門学校の生徒が、こんなことをするわけない。もしかしたら、書類の方が間違っているのかも。


 そう思って手元の書類に何度も視線を落とし、念入りに確認した。


「え、ええっと、書類によると君は『学生の身分でありながら、兵士が命がけで戦っているこの戦時中、学業を放棄し遊び(ほう)け、さらには反社会的組織の運営する店で、ご禁制の舶来品(はくらいひん)の薬液に手を出した』とあるが、違うのかい?」


「そ、それはハメられたというかぁ、悪意ある解釈といいますかぁ」


「恐れず真実を語ってくれて構わない。私は君を信じよう」


「ほ、法務官さん……」


「あっ、でもここでの虚偽の証言は、犯罪になるので気をつけてくれ」


「はい、全部私がやりました!」


「…………」


 少しでも目の前のラピスウィルに同情したことを、法務官が後悔する。

 真面目に生きてきた法務官を、少し人間不信にしたラピスウィルは、えへへと反省しているか微妙な誤魔化すような笑みを浮かべていた。


 時間は少し(さかのぼ)る。


        ●


「次の授業は、魔法材料力学かぁ……ダルいなぁ」


 通称『魔高専』──魔導工業高等専門学校の教室でラピスウィルがぼやく。


 識字率すら低いこの魔王国で、学校に通えるのは平民の中でもかなりの(うわ)()みである。しかし、ラピスウィルは親の希望で入学したはいいものの、どうもやる気が起きてなかった。魔導にも工業にも、なんの興味ないからだ。


 入学時はそこそこだった成績は、今は見る影もなく低迷している。

 実際は決して頭は悪くないのだが、興味のないことに対しては極度に面倒臭がり屋になる性格が、せっかくの生まれ持った知性を使いこなせないでいた。考えることすら、面倒くさがる。


 今日やらなくていいことは、明日やればいい。

 明日やるべきことは、いつか締め切りギリギリでやればいい。

 その精神で生きていたし、今までなんとかなってきた。


「ねぇねぇ、ラピ……耳寄り情報! 聞いて聞いて!」

「え、なになに?」


 情報通の女生徒が耳元で囁いてきた。

 退屈そうにしていたラピスウィルが、次の言葉を期待しながら待つ。


「魔都の三番地区の裏通りに『山犬飯店(やまいぬはんてん)』あるじゃん。そこにさ、なんと……」

「なんと?」


「コーラが入荷したらしいのよ! しかも今朝がた」


「えっ、マジで? マジでコーラ? あの貴族しか飲めないやつ?」


 ラピスウィルが興奮気味に尋ねる。リード王国が日本から持ち込み、転売しているコーラはこの世界でかなりの貴重品である。

 しかも魔王国は、現在リード王国と戦争中なので、貴族すら今は飲めない。

 戦争中の国と、取引などもっての他であるからだ。


「私、次の授業サボって買ってくる」


 そう言って、ラピスウィルが周囲の生徒に「今からコーラ買いに行くけど、ほしい人はお金だして~」とカンパを(つの)る。すると、そこそこ裕福な家の子が多いからか、あっという間に結構な額の金が集まった。


「いいの、ラピ?」と情報通が心配そうな顔をする。


「どうせ次のイシュカ先生には、嫌われてるしね。なんか私にだけ厳しいし」

「いや、イシュカ先生はあんたを気にして……」

「とにかく行ってくる! 放課後には売り切れちゃうかもしんないから」


 そう言って、ラピスウィルが学校を抜け出し、山犬飯店へ向かった。


        〇


「おおう、思ったより暗い……」


 店内の暗さに来たことを少し後悔しながら、受付けのオークにお金を渡すと奥の部屋に通された。入口から遠いことに不安を感じながらも、そこに向かう。

 四畳半ほどの土間の中央のテーブルに、ペットボトルのコーラがあった。


「ちゃんと本物のコーラだ! やったぁ!」


 ラピスウィルが、初めて触れるポリエチレンテレフタレート、略称PET(ペット)で出来たボトルの感触に嬉しそうにする。15歳なのに、ちょっと裏社会っぽい場所で、見事にクラスのみんなが待ち望んでいるモノを手に入れた達成感もあった。


 その時──


憲兵(けんぺい)だ!」「やべぇ、逃げろ!」


 という声が、先ほど自分が入ってきた入口の方から聞こえてくる。


「えっ? えっ? えっ?」


 ラピスウィルが困惑し、ペットボトルを胸の前で握りしめたまま、あわわ状態になっていると、乱暴に扉が開いた。

 黒い制服の憲兵たちが入ってくる。


 そして、そのままラピスウィルはお縄頂戴になった。


        〇


 本来であれば、厳重注意程度の犯罪だったのだが時期が悪かった。

 すでに魔王国本土にリード王国は逆侵攻してきており、国内の緊張感は高まり、国民が一致団結しようという気風の時期。

 兵士はもちろん、後方の者も命がけで国を守ろうとしているのに、学生が本分の学業を放棄して、あまつさえ敵国リード王国の密輸品に手を出した。


 一部は「ぶっ殺せ!」とまで、強い怒りをラピスウィルに向けた。

 とはいえ、流石に15の小娘に対してそこまでするほど当時の魔王国は追いつめられていたわけでもなければ、非常識でもない。


 半年の兵役(へいえき)を務める、懲罰徴兵という形に落ち着いた。


 ラピスウィルの両親は当然反発したが、軍法務官からの

「安全な後方任務である」

「学校には復学出来る」

 という話を聞いて、「じゃあむしろ、やる気ない娘の根性を叩き直す良い機会かもしれない」と思って賛成派に回ってしまった。

 まるで昭和の中頃まであった、問題児を寺に預けて(きょう)(せい)するかのようである。


「うわー軍隊は嫌だー! 戦う以前に働きたくない! がんばりたくないー」


 そう叫びながら、ラピスウィルが兵士輸送用の馬車へ詰め込まれる。


 かくして、適当に生きてきたお嬢さんであるラピスウィルは、理不尽を詰め込んだ軍隊に二等工兵として所属することとなった。


 果たして、彼女はどうなってしまうのか?


        〇〇


 一か月後、そこには変わり果てたラピスウィルの姿があった。


「焼き立てパン美味しい~」


 もちゃもちゃと、香ばしい匂いが漂うパンをラピスウィルが(ほお)()った。

 その姿はこの一か月で、ずいぶんと日焼けして健康的な褐色になっている。

 体重も3キロ増えてしまった。10代女子にとっては変わり果てた姿である。


 紺のズボンと赤いジャケット、そして工兵に支給される白いギャルソンエプロンをつけていた。土()け用のエプロンらしいが、あまり意味がない。


「こんなに楽でいいのかなぁ?」


 と優雅に貴重品であるコーヒーまで飲みながら、ラピスウィルが呟いた。


 工兵としての任務は、後方にある兵站(へいたん)集積場の管理と維持であった。


 多少は野外の肉体労働もあったが、文字が読み書き出来るので事務官のような書類仕事ばかりである。それも、受験勉強に比べれば、ぬるい。加えて、実家の稼業である配管工事が得意だったので、意外と現場では重宝されてた。


 魔王国では高級な砂糖までたっぷりコーヒーに入れ、ラピスウィルが考える。


 戦争ものの本だと、「実際の戦争は本とかで出てくるようなカッコいいものじゃないんだぜー。キツイぜー」的な感じだったんだけどなぁ。

 って、そんなこと言ってるのも結局は本じゃん!

 騙されたんか、私?


 そんなことを考える彼女の背後から、二匹の蛇がそっと近づいてきている。

 ゆっくりと、音も立てず彼女の首筋へ向かった。


「おっ、ステンノにエウリュアレじゃん。パン食べる?」


 ラピスウィルが、そう言った。

 その視線は、自分の首に巻き付いて(ほほ)にじゃれつくピンクの蛇に向いている。

 パンを千切って与えると、蛇はパクっと食らいついて飲みこんだ。


「このパンはうまいからな。よく噛みついた」


「ちょっとラピ。人の蛇を勝手に餌付けするんじゃないよ」


 蛇と(たわむ)れるラピスウィルの背後から、誰かが声をかけてくる。


「アヤ先輩」


 ラピスウィルがその人物の名を読んだ。


 同じ二等兵の階級章をつけている女だ。20代半ばで、身長は160強。ド派手なショッキングピンクの髪の毛を、ツインテールにしている。

 よく見れば、二匹の蛇はそれぞれツインテールに繋がっていた。


 アヤ・メデューサ二等工兵──その名の通りメデューサの魔族である。


 髪の毛は蛇になっており、その瞳は人を石化させると言われる魔物だ。


 本来、メデューサとはゴルゴーン姉妹の末妹(まつまい)の名である。モンスターの種族名としてはおかしいのだが、名付けたのはこのモンスターを人化した初代魔王ツチサトなので、彼のセンスか知識不足によるものなのだろう。


 また蛇になっているのは、ツインテールの先の二匹だけであった。

 アヤはラピスウィルを睨んでいるが、ラピスウィルは石化する様子もない。


「ってかもー、また規定以上に食べて、コーヒーまで飲んじゃって」

「別にいいじゃないっすか、先輩」


 軍隊生活一か月では修正されなかった、元来の世の中を舐めた感じでラピスウィルが言った。


「めちゃくちゃ兵站(へいたん)豊富っすから。なんかドンドン送られてくるせいで、古い(りょう)(しょく)とか腐っちゃったりしますし。もったいないっすよ」


「お前なぁ……まぁ、いいけどさ。見なかったことにする」


 仕方ないなぁ、

 という感じで姉御肌っぽいアヤが、ラピスウィルの軍律違反を見逃す。


 古今東西、古参兵による新兵へのイジメなど当たり前だが、流石に25歳のアヤが10歳も下のラピスウィルをイジメることはなかった。

 なんなら、面倒見が良く、軍隊でのいろはを教えてくれたくらいである。

 そのおかげか、ラピスウィルもアヤのことを微妙に舐めながらも、(なつ)いていた。


「ってか、兵站足りなくて国内戦なのに餓死する部隊もいるって聞いてたのに……毎日お腹いっぱい食べられるし、新しい兵站システムの賜物(たまもの)っすかねぇ?」

「兵站集積場の話? ラピ、お前は本当おめでたいなぁ」

「でも実際にご飯あるんだからいいじゃないですかぁ~。最初、軍隊とかどうなるかと思ったけど、ラクで良かったぁ。でも軍隊経験あるって、なんかカッコいいから学校に戻ったらクラスのみんなに自慢しよっ」


「後方だからって気を抜きすぎ。今だって、勇者が…………ん?」


 あきれ顔のアヤが振り返る。

 軍曹がアヤの元へ走ってきていた。


「アヤ()()、大隊長がお呼びです」

「またですか。わかりました、今すぐ向かいます」


 二等兵なのに、下士官から「さん」付けで呼ばれ、アヤが本部に向かった。


「……(もぐもぐ)」


 その様子を、まだパンを食べながらラピスウィルが見ていた。


 なんか変なんだよなぁ、アヤ先輩。


 ラピスウィルが、よく自分の面倒を見てくれる先輩について考えた。


 25歳で最下級の二等兵なのも変だし、ツインテールなのも変だ。

 いやツインテールは本人のセンスか。25歳だけど。私より10も上だけど。


 あの年でツインテールを続ける先輩の勇気にビビったのか、下士(かし)(かん)や、特に貴族将校の人が気を使っている感じがする。

 それに大隊長の少佐に、よく相談に呼ばれてた。

 最初は少佐と、大人なアレでアレな関係なのかなぁ、と思ったけど……


「………………………………」


 自分で考えて、ラピスウィルが顔を赤くする。

 こんな性格だが、下ネタや下の話は苦手だった。


 とにかく、二人の雰囲気を見る限り、少佐の方が委縮しててそんな感じでもないっぽいんだよね。少佐は男爵でもあるのに、先輩の方が偉い感がすごい。


「うーん、先輩の秘密が気になる……」

「私がなんだって、ラピ?」

「わわっ?」


 いきなりアヤから、頭に何か被されてラピスウィルが声を上げた。


「ビックリさせないでくださいよ、せんぱーい。ってか、これなんすか?」


(てつ)(かぶと)


 そう短くアヤが答えた。

 その言葉に、ラピスウィルがきょとんとしながら、自分が被ってたものを外して見てみる。装飾のないシンプルなデザインの、文字通り鉄製の兜であった。


「えっと、これって……」

「最近、前線の魔王軍兵士に支給されてる防具だな」

「あ、あのぉ……それってぇ……つまり……」


「喜べ、ラピ」


 自分も鉄兜を被りながら、アヤが引きつった笑顔を見せた。


「これから、本物の戦争を体験出来るぞ」

面白かったらモチベと励みになりますので

ブクマや★評価してくださるとうれしいです。

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