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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第一章 魔王の死編

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第15話 亡霊たち

「まさか、娘に(はん)()があるとは……いや、そんな馬鹿な……」


 二年前、魔王城の書斎で魔王がそう呟いた。


 信頼出来る複数の情報筋から、実の娘が()(ほん)を計画している可能性高しとの情報が上がってきている。魔王への反発高まる今の情勢では、十分ありえる話だ。


 自分は……悪い父であったかもしれない。


 魔王としての仕事が忙しく、また人を平等に扱わねばならぬという信念と責任感のもと、娘に対して次代の魔王として厳しく指導することはあっても、父として甘やかしたり可愛がることが、ほとんどなかった。


 それでも娘に対する愛情は、間違いなくある。ゆえに叛意の噂を聞いた時は「自分のせいかもしれない」と、己を強く責め立て、申し訳なさでいっぱいだった。


「…………」


 魔王が書斎で、シューガイカ教の聖典を開く。

 シューガイカ教は、人魔問わずそこそこ信者数がいる穏健的な宗教だ。


 精神の平衡を保つため、最近はよく聖典を読む。

 元から人と関わることがあまり好きではない性分ゆえ、こうやって一人で聖典を読んでいる時間が多かった。


 魔王は熱心な信者ではあるが、信仰を政治の意思決定には持ち込まない。いや、人はシューガイカ神の元に何人(なんぴと)たりとも平等であるという教えが、奴隷解放につながったことは、否定出来ない部分ではある。だが、それ以上の影響はなかった。


 その時、書斎のドアにノックの音が響いた。


「ああ、どうぞ」


「失礼します、魔王様」


 書斎に入ってきたのは、10歳に満たない見た目の小さな少女であった。


 メイド服をアレンジしたような黒い軍服を着ており、チョーカーと呼ぶには重々しく首輪にしか見えないアクセサリーに、少将の階級章が輝いている。

 薄い灰色のふわふわしたミディアムヘアの髪から、白い(うさぎ)の耳が生えている。

 まんまるの尻尾も、雪のように白かった。


「キララシェイド・カルヴァノグ参謀長。ど、どうかしたのか?」


 (はん)()が噂されている娘の側近なので、魔王の声が(こわ)()る。

 うさ耳の生えた幼女のような見た目をしているが、警戒は(おこた)らなかった。


「キララです。今の私の名前はキララ。奴隷解放した際、魔王様が気を利かせて私を、同族の没落貴族の養子にしたんじゃないですか。忘れたんですか?」


「あ、ああそうだった。済まない、キララ・カルヴァノグ男爵参謀長」


 元奴隷の言葉に魔王が押されながら、立ち上がって謝罪した。

 魔族は身分が高いほど、短い名を好んで使う。魔王に至っては名すらない。


 カルヴァノグの兎は、奴隷として高値で取引されていた魔族である。


 魔族は人化しているゆえ、成長速度も寿命も人と変わらない。だがカルヴァノグの兎だけは何故か9歳ほどから、見た目が変わらず、それ以上成長しないのだ。

 今、目の前にいる幼女にしか見えぬ参謀長も、魔王の娘と同い年だから23歳のはずであった。もう1人、同世代の公爵令嬢を加えた3人で昔から一緒にいた。


 何故、この子供のような兎たちが『高値』で取引されていたか。


 その理由を考えるたびに、魔王はおぞましさに吐き気を感じ、奴隷解放はけっして間違いではなかったと確信する。


「…………魔王が謝っちゃ駄目でしょ」


「ん?」


「いえ、なんでもないです陛下」


 キララ参謀長が何か小さく呟いたが、魔王にはよく聞き取れなかった。 


「それはさておき陛下」


 不満の仏頂面から一転、突然キララが満面の笑みを浮かべる。


()()()()()()()()()


「準備? なんのことだ?」


 魔王の言葉を無視して、キララが歩みを寄せてくる。

 そして、先ほどまで魔王が腰かけていた椅子を奪って、窓に向かった。

 椅子を足場にし、土足で踏みつけながらカーテンと窓を開く。


「さぁ、陛下! 閲兵(えっぺい)をしてください!」


「え、閲兵? いったい……」


 魔王が常若(とこわか)の兎に(うなが)され、書斎の窓の外を見る。

 そこから見える魔王城の中庭に、ところせましと軍人が整列しているのだ。

 青いシャツに、白のジャケット──魔王軍の精鋭第三師団の制服である。


 先頭には、純白の第一種軍装で完全武装した、ドヤ顔の娘の姿が見えた。

 白いセーラー服のようだが、始祖の魔王から伝わる正規の(いくさ)(しょう)(ぞく)だ。


 父である魔王の姿を見ると、ドヤ顔の姫は嬉しそうな顔をする。

 よく見れば魔王城の外にも兵が並んでいる。娘が指揮する第三師団全軍だとするなら、この魔王城は完全に包囲されていた。


「満足してくれましたか、陛下?」


 魔王城を()(しょ)(まき)にした張本人のキララが、忠臣かのような笑みを見せる。


「ま、満足も何も、これは一体なんなのだ!? 参謀長!!」


 あまり声を荒げることがない魔王が、大きな声を出す。

 魔王城の外にあるのは、ほとんど城攻めのような様相である。


 狼狽(ろうばい)をする魔王に、「はぁ」と失望の溜息をついてからキララが言った。


「ええ~、なんで怒ってるんですかぁ? 魔王サマが『リード王国め、許せぬ』って言ったからじゃあないですかぁ?」


 キララの『(さま)』の言い方が、今までと明らかに変わる。

 わざと強調しつつ、そこだけ棒読みのような嫌な言い方だ。


「た、たしかに公正ではない貿易に、そうぼやいたことはあったが……」


「でも、確かに言いましたよねぇ? 言っちゃいましたよねぇ?」


 こちらを小馬鹿にするような、生意気な笑みのままキララが続けた。


「だから魔王サマの意を()んで、こうして戦争の準備をしたんですよぉ? あとはもう下知(げち)するだけだから、ササっとヤっちゃってくださいよ」


「や、やるって何を?」


「あれれ~? そんなこともわからないんですかぁ? ボケちゃったのかなぁ? じゃあ脳みそクソ雑魚な魔王サマに、私が優しく教えてあげますね」


 そう言って、椅子を足場にしたまま、キララが魔王の耳元で囁いた。



 ────リード王国へ宣戦(せんせん)(みことのり)を下すんですよ



「……ッ!」


「簡単ですよね。出来ますよね。やれますよね。するだけですよね」


「…………」


 窓の外に並ぶ軍隊と娘を見て、魔王が考える。


 ここで拒否すれば……

 儂はこの兵士たちに……娘に殺されるだろう……


 娘に叛意ありとの情報を得た今だと、魔王がそう思うのも無理はない。


「我が国はリード王国に対して…………(いくさ)(せん)す」


 一切の感情を込めぬ声で、その言葉を発した。


「…………ちっ」


 魔王から思い通りの言葉を引き出したのに、キララが舌打ちする。


「さすが魔王サマ。賢明な判断です」


 だがすぐにキララ参謀長はにっこりと、見た目通りの少女らしい(ほが)らかな笑みを浮かべ、外にいる魔王の娘に何か手で合図をする。

 魔王が宣戦の詔を発した、と伝える合図だったようだ。


 兵士たちから地響きのような歓声が上がる。


 その歓声を浴びながら、魔王が引きつった表情で言葉を絞り出した。


「参謀長、リード王国大使館に宣戦布告の文書を送れ。大使館職員は、一週間以内に国外退去するように。船がなくば、こちらが専用船を用意しろ。魔王家専用船を使っても構わん。いや、使え。リード王国の外交官には、義と礼を尽くすべし」


 戦争が避けられぬものとなっても、やるべきことをやらねば。

 そう魔王が思っていた。


 そして普段より、高圧的に命令を出す。


 自分は魔王なのだから、この自分をハメた性悪ウサギ相手に多少乱暴な暴君っぷりを発揮しても構わないだろう。本来の人の良さで少し罪悪感を感じつつも、魔王はそう思っていた。


「お任せください魔王様!」


 魔王に強めに命令され、キララ参謀長が演技ではない嬉しそうな声を出す。

 少し興奮しているようにも見えた。


「我ら魔族は、全てが魔王様の(しもべ)であり所有物。魔王こそが造物主であり、唯一の神。その天意に反することなど、決してありえないのです!」


 満面の笑みでそう伝え、キララが書斎のドアへ向かった。

 一瞬、シューガイカ教の聖典を、汚物を見るような目で睨む。が、すぐさま笑顔を張り付け、この常若(とこわか)の兎は魔王に丁寧に礼と別れの挨拶をして去っていった。


「…………」


 なんとか警告程度にリード王国への攻撃を済まし、早期講和出来ないか。

 魔王が必死で願い、本気で考えるが、それが無駄だったことはこのあとの歴史が証明している。


       〇〇


 そして場面は、現在の魔王城に戻る。


「あの時すでに、儂は首切り兎に、首を()ねられていたんだよ」


 そう魔王が呟いた。


「負けても、おじ様にすべての責任を負わせ、その首を刎ねて終わらせられますからね……いや、魔王軍が勝ったとしても、軍権を事実上掌握した以上は、最後にはおじ様の首はなかったでしょう。キララ少将……今は中将でしたっけ……とにかくキララ参謀長は、おじ様を邪魔者と思っているようです」


「あのメスガキにとって大切なのは姫様だけっすからねぇ。(チョク)で会った時に、そんな感じがしましたよ。奴隷根性が極まっちゃったというか、なんつーか。都合がいい奴隷の、その先にイっちゃってむしろ面倒というか……」


 プルムとラピスウィルが、それぞれキララに対する感想を述べる。


「キララは、アンシャン・レジーム(旧体制)の亡霊だな……」


 そう魔王が、自分をハメた兎の魔族をそう呼んだ。


「初代魔王がモンスターから魔族を生み出した時のような、魔王との絶対的な古き主従関係を望んでおる。キララにとって、我が娘の奴隷であったことはむしろ『特別な繋がり』に感じていたのだろう。奴隷解放した儂は、キララにとって娘との関係を破壊した、憎むべき相手でしかなかったようだ……」


 独立した人として扱われるより、大切な人の物として扱われることに喜びを覚えるタイプだ。人と人なら他人同士だが、モノであれば相手の一部である。


 人間にもいないわけではないが、誕生の由来から魔族はその傾向が強かった。


「うわっ、キッショ。ドMっすか、あのメスガキ兎。しょーもな!」


 中将にも魔王にも、なんの敬意も依存もないラピスウィルがそう呟く。

 500年も経てば魔族の中にも、こういう価値観の者が増えてきた。


「そのキララの価値観を見抜けぬ、儂の目が節穴だったのだ……奴隷からの解放を恨み、我が娘と組んで、この身を追い落とすと見抜けなかった儂が悪い」


「ああ、そうだおじ様。そのメスガ……キララ参謀長に関してですが」


 プルムが何かを思い出し、口を開いた。


「我が国の測量局によると、魔王の娘に叛意ありとの情報……そのキララ参謀長が発信源のようです。もちろん、確たる証拠を残す真似はしてませんが」


「なっ!?」


 魔王が驚愕の表情を浮かべる。


「え……ってことは?」


 ラピスウィルが、それが何を意味しているか気付く。


「うちの姫様に、叛意なんてなかったってことですよね。だって、本当に()(ほん)するんだったら、側近がそんな情報流すわけないっすから」


 そう言ったあと、ラピスウィルが笑顔を魔王に向ける。


「いやー、良かったですねー魔王様。姫様は父親を殺す気なんて、なかったんですってぇ。あっはっは、こりゃめでたいめでたい。家族は仲はいい方がいいに決まってるっすからね!」


 ラピスウィルが、バシバシと魔王の背中を叩いた。魔王家に対する敬意はなくとも、目の前の人間に対する情と優しさくらいはある。そこそこ程度に。

 だが、魔王の(ほほ)を指先で「うぇ~い」と、つついてる最中、何かに気付いた。


「あれ? じゃあ……なんでメスガキララ参謀長は、そんな嘘を?」


「おじ様に娘への不信感を持たせるためです。キララ参謀長はその疑心暗鬼につけこんで、おじ様を利用した」


 プルムが不快感よりも、キララの()(れん)()(くだ)の見事さに感心する。

 策略とは言え、自分の主の命に関わる悪評を流すとはなかなかの度胸だ。

 だが不快感がないわけではないので、その表情は厳しい。


「は……はは……」


 魔王から乾いた笑い声が漏れた。ふらふらと、数歩下がる。

 そして力が抜けてゆき、ぺたんと尻もちをついた。


「あの時、儂が娘を信じて、キララの言うことを拒否していれば、こんなことにはならなかったのか。我が子を信じるという、親ならば当たり前のことが出来なかったばかりに……多くの民が戦で死に……こんな……こん…な…………」


 しばらくの間、誰も何も言わなかった。

 数秒の沈黙であったが、永遠にも感じる時間。


「殺してくれ、マリーナ姫……」


 その痛々しい沈黙を破ったのは、魔王の一言だった。


「それが儂が魔王として出来る、最後の職務だ。儂が死ねば、この戦争も終わる」

「いやいやいや、ちょっと待ってくださいって」


 ラピスウィルが慌てて魔王に駆け寄る。


「だって、悪いのはあのメスガキ兎ってわかってるじゃないっすか。なんで、魔王様が責任取んなきゃならないんですか。ってかもう真の黒幕はわかってるんだし、ここのみんなで、あのガキを大人の力でわからせましょうよぅ!」


「それは無理です、ラピスウィル大尉」


 プルムが、あえて冷たい声で言った。


「キララ参謀長がいかに策を巡らせ、おじ様を誘導したとしても、それを言葉にしたのはおじ様です。王族の言葉とは、それほど重い責任があるのです」


「あ……」


 ここでようやく、先ほど魔王とマリーナ姫としてのプルムが、なぜ()(えん)な言葉でやり取りしていたかをラピスウィルが理解する。


「それに、そもそもの原因は、(ちょく)のもと失政を繰り返した儂にある……」


 力なく立ち上がりながら、魔王が言った。

 少なくとも彼が、理想を優先した無茶な命令を出したことは間違いない。


「儂はもっと、人と関わり、交わるべきだったのだ。魔王として俗世を(あなど)り、自らを尊び、この(はく)()の殿堂に引きこもらずに。娘とも、貴族とも、民とも、奴隷だったものとも、もっと言葉を交わすべきだったのだ。今でも奴隷解放は間違ってたとは思わないが、ただ大上段から命ずるのではなく、もっと見聞きし、人の心を理解し、社会の痛みを考えて慎重に命じねばならなかった……」


「魔王様……」


 ラピスウィルから、初めて敬意のようなものが含まれた言葉が出る。

 魔王に対してではない。目の前の寂しき老人に対する敬意だ。


「ああ、そうか」と魔王が呟く。


「魔王が命じれば、魔族は奴隷がごとく何も考えず、不満も言わず、逆らわず、全てにことごとく従う。無自覚に儂は、そう思っていたのだな……イシュメイル戦記に記された初代魔王ツチサトの時のように」


 そして自分の両手を見ながら、言った。


「他の誰でもない。儂こそが……アンシャン・レジームの亡霊だったのだ」


 絶望感すら感じる声。


 魔王は己では新進気鋭、革新的で人道的なことをしてきたつもりだった。


 そんな自分が、誰よりも古い体制、価値観を引き継いでいた男だったことに気付いたからだ。魔族を人としながらも、複雑怪奇で、美と醜、正と邪、欲望と理性、それら全てを含有(がんゆう)しつつ様々な価値観を持つ『人』と思っていなかった。


「不出来な部下への授業はここまでだな……あとは、我が祖に敗れた勇者王の末裔マリーナ姫よ、儂を殺して500年の雪辱を晴らす時ぞ」


「おじ様、そうしたいのは山々なのですが、あいにく先約がいるのです」


「先約?」


 魔王が首を傾げると同時に、プルムが玉座から立ち上がる。

 そして、右の方へ移動すると、いつの間にか少年が玉座に腰かけていた。


 黒い髪の少年だ。


 愚鈍なのであろうか? 美しい顔をしているのに、その顔からは感情といったものが感じられない。虚無の目で、魔王を見つめていた。


「初代魔王に、光と聖剣を奪われ追放された聖剣王……その末裔です」


 プルムが魔王に太郎を────聖剣王の亡霊を紹介した。

魔王様はね

私に謝らないし

私の言う通りにしないし

やること全部がめちゃくちゃでなきゃいけないの


面白かったらモチベと励みになりますので

ブクマや★評価してくださるとうれしいです。

キララの好感度による呼び方

(高)魔王様>陛下>魔王サマ(低)

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