表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第一章 魔王の死編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/15

第13話 泣いた魔王

今回から1話ずつの投稿になります。毎朝7時すぎ(7時10分)の投稿です。

 その姫君は、魔王の玉座に我が物顔で腰かけていた。

 まるで彼女自身が、真の魔王であるかのように。


「リード王国第三王女マリーナ・リードです。ご機嫌(うるわ)しゅう、魔王陛下」


 青のドレスに身を包んだプルムが、この世界での身分、姓名を名乗る。

 足を組んでのけぞり、右の人差し指を立てて、サファイアの入ったプラチナのティアラを揺らしていた。プルムの、マリーナ姫としての正装である。


「これは、これはマリーナ姫。お久しゅうござる。十年ぶりですかな」


 魔王が、いつの間にか自分の玉座に腰かけていたプルムことマリーナ姫を見て、丁寧な言葉(づか)いで返す。内心、動揺していたが、王たる者として狼狽(うろた)えた姿は見せられなかった。それが魔王としての意地と、矜持(きょうじ)である。


(魔王と、なんか知らん姫系の女が話してる……)


 扉を少し開け、玉座の間を(のぞ)いていた青髪の少女がそう思った。

 先ほど勇者を恐れて敵前逃亡した、近衛(このえ)大尉の制服を着た女である。


 勇者とロロたち少年兵が東門で相対している頃、魔王と隣国のお姫さまが玉座の間で、(きゅう)(かつ)(じょ)す姿を目撃してしまった。


「ええ、貴方(あなた)が帝国より、正式にこのトライ島の王と公認されて以来ですね。それもまた陛下の人徳の賜物(たまもの)寿(ことほ)ぎのため、この島に(おも)いたのを覚えています」


 玉座より2メートルは低い謁見(えっけん)の間の、赤い絨毯(じゅうたん)の上にいる魔王を見下ろしながら、プルムが微笑んだ。二人の距離は、およそ10mは離れている。

 大きな声ではないのに、この距離で互いに声がよく通るのは王族たるゆえか。


(ことほぎ……ってなに? 流れ的に、おめでとハッピー的なこと? 普通に、お祝いの言葉でいいじゃん。面倒くさいなぁ王族の会話ってのは……)


 さらに離れた場所で覗き見ている青髪の少女にも、声は届いていた。

 難しい言葉を使われると、魔法材料力学の授業の時のように眠くなる。


「そうですな。祝いの詩を(ぎん)じてくれた可愛らしい御子(みこ)が、立派な淑女になられたようで。戦しか頭にない我が娘にも、見習わせたいものだ」


 魔王が久方ぶりに会った、年嵩(としかさ)の親戚のようなことを言った。


「ふふ、そういえばあの時、わたくしは陛下のことを『犬のおじ様』と呼んで、お父様に叱られて泣いちゃいましたっけ。ですが、陛下は『犬のおじ様で良いよ』とおっしゃってくださった。その御恩と心遣い、忘れたことはありません」


 プルムが、幼き頃の思い出を懐かしむ。父に無礼を叱られて泣いてた幼女プルムの頭を撫で、優しく微笑んでくれた魔王の顔が思い浮かぶ。


 魔王の(まぶた)の裏にもまた、あの日の美しき景色が浮かんだ。


(魔王を犬のおじ様って……う、うぷぷ……確かにそうだけど、そんな風に言われると笑いが……だ、ダメだ、(こら)えなきゃ……でも、犬おじって……)


 青髪の少女が、両手で口を押さえ、笑い声が漏れるのに(あらが)った。


「犬のおじ様の(わし)としては、これで平和が訪れると思ったのだが……」


 狼の耳を、ぺたんとイカ耳状にしながら、フェンリルの血を引く魔王が呟く。


「ええ、陛下。私もそう信じていました。残念なことです」


「過去を懐かしみ、ありえなかった未来を思い描くのはここまでにしよう、マリーナ姫。それで、本日はどのような用向きかな?」


 魔王の言葉に、プルムが少し逡巡(しゅんじゅん)する。

 そして、この玉座の間を形作る大理石のように、冷たく重い声で告げた。


「優しいおじ様の死を、見届けに参りました」


「我が娘の差し金かな?」


「…………」


 魔王のその言葉に、プルムが小さく首を横に振る。


「違ったか。最初に実の娘を疑うようであれば、儂は魔王としても、子を持つ親としても終わりのようだな……」


 魔王が、もの悲しそうな顔をする。

 この数秒で、ずいぶんと老け込んだように見えた。


「おじ様、この状況では仕方ないことです。あまり自分を責めないでください」


「しかし姫よ。そちらの剣は、まだ外のようだ。拙宅(せったく)()(いた)の立て付けが悪く、開けるのに難儀(なんぎ)させて大変申し訳ない」


 魔王が、勇者が城へ侵入するのを阻む少年兵たちを、(わい)(きょく)表現で賛辞する。


(立て付け悪いのかぁ。まぁボロいしね魔王城。メンテ不足なのかなぁ)


 青髪の少女は、魔王の言葉を直球の意味で受け取ってた。


(…………あっ、ロロくんたちのことか。あの子たちが城門守って侵入を阻止してることを、入りづらいって意味の『立て付け悪い』って言い換えてるのかぁ……って、わかりづらっ! 普通に言ってよ、もぉ~。っていうか、こいつらずっと遠回しだし、もやもやする~)


 少し間をおいてから、少女がようやく意味に気付く。そして持ち前のカスさで、自分の理解力の無さではなく魔王やプルムに他責した。


「お気になさらず。それより、勇者とは別におじ様に会わせたい者が……おや?」


 その時、入り口付近から物音がした。

 プルムは玉座に腰かけたまま視線を向け、魔王は振り返る。


 そこには、青い髪の少女が立っていた。



        〇


「ラピスウィル大尉……」


 魔王が少女の名を呼んだ。

 身長は小柄なプルムよりわずかに高いが、顔つきは高校生のプルムより幼く、魔王軍の近衛大尉の制服を着ている。


「これはこれは、ちょうどいい。可愛らしい立会人が現れてくれましたね」


 プルムが突然の(ちん)(にゅう)(しゃ)に、楽しそうな顔をした。


「ええっとぉ、下っ端の私なんかが言うのもアレなんすけど……」


 おずおずと、ラピスウィルと呼ばれた少女の大尉が近づいてくる。

 ビビってはいるが、あまり王族に敬意を感じない歩の進め方だった。


「なんかもう、いいんじゃないっすかね、お姫様」


「?」


 プルムの時はさておき、マリーナ姫をしている時はあまり取られたことのない態度と言葉に、きょとんとする。だが、不快感はあまり感じなかった。


「今の時点で、リード王国の勝ち確じゃないですか。もうやめましょうよぅ。なんか見ている限り、魔王様もお姫様も、お互いそんな憎み合ってるわけじゃなさそうですし、殺し合いなんてしてもいいことないですってぇ。ふたりとも遠回しな表現してるから、余計面倒なことになってんすよ」


 ラピスウィルが次に魔王へ視線を向けて、すぐそばまで近づいた。


「ほら、魔王様も謝りましょうよ。誠心誠意、謝罪すれば真心は相手に通じますって。私も一緒に謝りますから。すみませぇん、サーセンっした!」


「ちょ、た、大尉? 頭を押すな、押すな! 王冠落ちちゃうから!」


 ぐいぐいと強引に頭を下げさせようとする大尉に、魔王が困惑する。


「いいから謝って、犬おじ」

「い、犬おじぃ?」

「やばっ、頭の中で思ってた呼び方出ちゃった」

「マリーナ姫から言われるならまだしも、お前から言われると本気でムカつくな」


「面白い子ですね」


 プルムがクスクスと笑う。嫌味ではなく、本当に面白がっていた。


 ふう、とため息をついて、ラピスウィルが魔王の王冠を指で小突く。


「とにかく、無理に魔王なんか続けて死ぬことないですって」

「お前なぁ……ってか、大尉? 儂が負ける前提で話してないか?」

「えっ、だって無理でしょ?」


 ラピスウィル大尉が、問われたこと自体に不思議そうな顔をする。


「あの女、ヤベー奴っすよ。目ぇ見ればわかりますって。それに対して、魔王様は優しいけどヘタレ臭する目してるでしょ? もう、おじいちゃんだし。やる前からあのドブみてぇな腐った目してる女に、眼光で負けてるんですって」


「…………」

「…………」


 二国の王族にナチュラル失礼なこと言いまくるラピスウィルに、魔王もマリーナ姫ことプルムも、なんとも言えない顔をしてしまった。


「あの……ラピスウィル大尉でしたっけ? 少しよろしいでしょうか?」


 プルムが何かに気付いて、尋ねた。


「もしかして、今回の戦争の原因や、政治情勢をわかってらっしゃらない?」

「えっ?」


 プルムの質問に、ラピスウィルが首を傾げる。


「500年前に負けたリベンジマッチじゃないんですか? イシュメイル戦記の時の雪辱晴らすぜー的な、侵略戦争だと思ってたんすけど……」


「いや、全然違いますけど……貴官はお若いですが近衛(このえ)の大尉ですよね?」

「すまん、マリーナ姫。うちの教育不足だ……」


 ラピスウィルは間抜け面をし、プルムは困惑し、魔王は赤面していた。

 先ほどまでの高貴だが緊迫感のあるやり取りからガラリと変わり、微妙で気まずい空気が場を満たす。


 ふぅ、とプルムが溜息をついて、仕方ないなぁといった顔をする。少し母性寄りになっているのは、ラピスウィルの幼稚さゆえか。


「立会人が何も知らないのであれば、問題ですね。少し授業をしますか」

「え……歴史と社会の授業嫌いなんですけど、工業系だから」

「いや、そこは素直に聞きなさいよ!」

「それに、外で政治の話ってあんまりしない方がいいですよ」

「ここがもう、その政治の場なのよ!」


 思わずプルムが素を出してツッコむ。


「うう……」と魔王が嗚咽(おえつ)を漏らす。部下のあまりのアレっぷり、羞恥で真っ赤になった顔を両手で覆った。ちょっと涙まで出てきている。


「おじ様……心中お察しします」


 プルムが心からの同情を、泣いた魔王にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ