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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第一章 魔王の死編

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第11話 戦乙女とユニコーン

※暴力描写と、流血シーンがあります

 年頃の乙女──勇者の露出した心臓が、鼓動を刻むのが見えた。


 だが、骨と肉がその上に作られてゆき、白い肌がそれらを覆い隠す。

 傷など最初からなかったように、全てが元通りになった。


「あー! あー! よし! ちゃんと声が出せるのは、気持ちがいいです!」


 そう言って不死身の勇者が、悠々(ゆうゆう)と吹き飛ばした魔王城の東門を通り抜ける。


枡形(ますがた)()(ぐち)ですか!」


 東門を抜けた先の場所を見て、勇者がそう言った。


 穴の開いた肺が治ったので、元通り無駄に大きい声に戻っている。

 その眼前には四方を壁に囲まれた、30メートル四方の正方形の空間が広がっていた。東門から入って右の壁に二の門があり、魔王城本丸はそちらのようだ。


 ()(ぐち)

 城に攻め込んできた敵を、四方から攻撃するための火制区域だ。

 その中でも正方形か、それに近い形の虎口を舛形(ますがた)と呼ぶ。


「しかし、()ってどんな生物なんでしょうか!? ()の口って言うのだから、おそらく生き物なんですよね! だって口があるんですから!」


「勇者殿、きっとあなたのように、強い生き物だと思うのであります」


 勇者の背後から、そんな声が響いた。

 東門の城壁から飛び降りたユニコーン族の少尉候補生ロロが、朝日を背にしている。そしてボリボリと、赤い宝石のようなものを食べ始めた。


「カーバンクルの結晶ですか! 魔力補充とは感心です! 腹が減っては(いくさ)は出来ませんから! ですが、それ以上食べると、魔力過剰で死にますよ!」


 つーっと一筋の鼻血を流すロロを見て、勇者が言った。


「ええ、自分だけ安楽な任務を引き受け、同期のみんなに申し訳ないです」


「長き過酷な生よりも、一時(いっとき)修羅(しゅら)を道を安楽とは……良き(かな)です! 我らは牙なき人のために、散るべき徒花(あだばな)! 生の長きを知らず、明日という(はる)けき未来は見えず、眼前の敵打ち砕きしために刹那(せつな)の生を燃やす者よ! いざ尋常に勝負!」


 虎口という、一刻も早く抜けねばならぬキルゾーンだったが、ロロの命がけの覚悟を見て勇者が(こた)える。ゆらりと、剣を構えた。


「この死に化粧の首、見事獲って死に花を咲かせてみろであります!」

「よくぞ()えました! 委細承知です、少尉候補生!」


 ロロの言葉に、勇者が剣を(かつ)ぐ。


「その首、頂戴(ちょうだい)いたします!」


 相手が子供だから、命がけだからと言って手心を加えるつもりは一切ない、本気の殺気だった。むしろロロの覚悟に、全力で応えるつもりである。


 殺気にたじろぐことなく、ロロが一歩前に踏み出す。

 武器も持たず、素手のまま勇者に向かっていった。


蛮勇(ばんゆう)ですか! ロロ少尉候補生!」


 こちらを勇者と知った上で、これほど無防備かつ無造作に接近する敵は初めてである。あの勇者に、わずかな困惑の色が浮かんだ。


「勝利の女神は九分九(くぶく)(りん)、前方の敵を切り抜けた先にいるものであります」

「それは死神かも知れませんよ!」

「ならば、死神を組み伏せるまでであります!」

「その意気や良しです!」


 地面を思いっきり蹴って、ロロが勇者へ踏み込む。

 ロロの首が剣の間合いに入った瞬間。勇者は、一切の迷いも容赦もなく横一文字に()(はら)った。まさに、命を刈り取る死神の鎌のごとき一撃である。


 ここであります。


 ロロが思った。

 一瞬、走馬灯が流れかけたが、戦いの邪魔なので強制停止させる。


 この一瞬に、全てを賭ける!

 必死の一撃を避け、勝利の女神を掴むであります!


「……ッ!」


 勇者の剣が(から)()る。


 ロロが体勢をさらに低くし、剣を(くぐ)り抜けていた。


 少年が勇者の本気の一撃を避けられたのは、太陽を背にした逆光の位置を取ったことと、首を切り落とすよう攻撃位置の誘導に成功したからであろう。

 そしてなによりも、強運によるものが大きかった。


 そのままロロは、死神の先にいた勝利の女神に抱きつく。


「むむ!」


 勇者が、腰に抱きつかれて思わず声を出した。

 ロロの、ユニコーンの角が勇者のへそのすぐ横をへこましている。


「我が渾身の一撃をかわすとは、見事です! ですが、その小さき角では命に届くどころか、私の肉すら()()けられません!」


 バリスタが勇者を貫けたのは、単純に威力が凄まじかったからだ。小さな少年が体重を乗せて突っ込んできた程度では、尖ったユニコーンの角であっても勇者の皮すら傷つけられなかった。


「…………」


 普通の女性と変わらぬ柔らかさであるのに、角が通らぬ奇妙な感覚。

 勇者から良い匂いがし、ロロの()(こう)をくすぐったが、少年の脳にはそれを認識する余裕などない。


 魔力を……

 ありったけの魔力を、角に……ッ!


「むむむ!?」


 剣を逆手に持ち替えて、ロロの背中を突き刺そうとした勇者の網膜(もうまく)に、(まばゆ)い光が飛び込んでくる。

 ロロの角が激しく発光していた。

 そして……


「がはっ…………ッッッッ!」


 ロロの角が高速回転し、さらには巨大化し、ドリルのようになって勇者の腹を貫いていた。その腹の肉の三分の二をえぐり取って、吹き飛ばす。


 先ほどのバリスタより、傷が大きい。


 そう勇者が思った。


 脊椎(せきつい)の第二腰髄(ようずい)も吹き飛ばされました!

 そこが壊れると歩行困難、というか不可能です!

 そして何よりも……先ほどのバリスタの矢より遥かに……


「重い……?」


 ぐらり、と勇者の身体が巨大化した角の重さに倒れかける。

 下半身の機能がほぼ停止した状態では、怪力と言えど体勢を維持出来なかった。


「駄目であります!」


 だが、ロロがその腰をさらに強く抱きしめ、倒れないよう支えた。

 優しさではない。勇者に倒れられると、狙いにくくなるからだ。


「今だッ! 僕ごと撃てッッッッ!」


 ロロが叫ぶ。

 その言葉に四方の壁の裏に待機していた魔族の少年兵たちが、一瞬戸惑う。


「迷うなッッ! みんな撃てぇええええええええええッッ!」


 そう言って口火を切ったのは、同期で親友のスライム少尉候補生だった。

 槍を勇者とロロに向かって、投げ放つ。液体状の身体であったが、その(ほほ)が身体を構築しているものとは、別の液体で濡れていた。


 すぐさま、四方から矢と投げ槍、さらには魔法弾が放たれる。

 飛び道具を持たぬものは、煉瓦やその尖った破片を握りしめていた。


 無数の死が、全方位から勇者に向かってくる。

 だが、勇者は微笑み、ロロの頭を優しく撫でた。


 見事です、ロロ少尉候補生。

 このまま貴官の覚悟と捨て身に、殺されても良いのですが……

 マリーナ姫様の名代(みょうだい)として立つ以上、そういうわけにはいきません。


「…………ッ」


 矢が届くまで、1秒もなかったが、そんな声を確かにロロは聞いた。


 ────────光。


 その場にいた全員が、まず感じたのは光だった。

 続いて衝撃。


「な……え……ああ?」


 スライムの少年が、意味をなさない言葉を漏らす。

 周囲の仲間は、全員倒れている。息はあるようだが、意識を残しているものはいなかった。

 ()(まく)は元から存在しないが、音を感じとれるスライムだけが理解していた。


 勇者が何をしたのかを。


「今回は、()()()()()()()()()()()()良かったです!」


 そんな勇者の呟きというには大きな声を、スライムだけが拾っていた。


 声だ。


 勇者は矢や槍が届く前に、ただ()()()()()()()()だけだ。


「わ」か「あ」かわかないが、とにかく大きな音だった。

 その爆発にも似た轟音で、周囲の仲間たちの意識は全員飛ばされた。

 天地開闢(かいびゃく)(うな)りのごとき巨大な音だったので、音ではなく光としか認識出来なかったのだ。


 いかなる不可思議な現象が働いたのであろうか。


 音波で物は大きく動かせないはずなのに、矢や槍も弾き飛ばされていた。

 衝撃波に似た何かが発生したようだ。

 魔法弾もかき消されている。


 その衝撃波は、スライムの液状の身体も大きく揺さぶっていた。

 意識の保持が困難になったスライムの少年が、ふらりと倒れる。意識が闇に落ちる前に、目の前で起きた出来事に思考を巡らせた。


 あまりに理不尽。

 あまりに強すぎる。

 こちらの想いも、命がけの覚悟も、武器も、策も、多勢も、運も、


 全てを叩き潰す圧倒的な力。


 まるで前に読んだイシュメイル戦記に出てきた、500年前の初代リード王のような『スキル』だ。あの歴史書の名を(かた)ったおとぎ話が、現実に起こるなんて悪夢以外なにものでもない。


 そして、離れた場所にいた自分らでも、鼓膜が破け、衝撃に意識が弾き飛ばされたのだ。

 この破滅の『音』を、至近距離で浴びせられた()()()は……


「ロロ……」


 勇者の前で倒れている友人の名を呼び、スライムの意識も闇へ落ちた。


        〇


「良い一撃でした! 此度(こたび)(いくさ)で、膝に土をつけたのは初めてです!」


 そう言葉通り右膝を地面につきながら、勇者が言った。


 腹にはもう角は刺さっておらず、再生を()(がい)するものはない。

 腹の風穴を半分に分けるように、脊椎が再生する。歩行機能が回復した勇者が、何事もなかったように立ち上がった。

 吹き飛ばされた子宮や腎臓、腸を復元しながら勇者が視線を落とす。


 そこには、左腕が吹き飛んだロロ少尉候補生の身体があった。


 角は元のサイズに戻っている。

 爆弾の衝撃波を至近距離で食らったかのごとく身体がひしゃげ、全身の穴という穴から血が溢れ、両の眼球は破裂し中の水晶体が漏れ出していた。


 だが生きていた。


 身体を(かす)かに、痙攣(けいれん)させている。

 運良く……いや、運悪く生き残ってしまったが、間もなく死ぬだろう。

 他の者たちは距離もあり、両の鼓膜を破壊され、意識が飛ぶ程度で済んだが、ロロだけは至近距離で勇者の声を浴びてしまった。


 人より強靭(きょうじん)な魔族の肉体を、ただ『声』だけでここまで破壊しつくす。

 勇者たる者の恐ろしさを、如実(にょじつ)に物語っていた。


「これぞ戦い抜いた兵士の姿! 軍神かくあるべし! 美事(みごと)です!」


 勇者が5m先に落ちていたロロの左手を拾い上げ、戻ってくる。そして、その左腕をロロの傷口に合わせてから、自らの右手をロロの身体に添えた。


「誇り高き名誉の戦死を、(けが)無作法(ぶさほう)(ゆる)しあれ!」


 その言葉と同時に、勇者の右手が光る。

 同時に、ロロの身体がまるで勇者の身体のように、再生していった。


「ふぅ……」


 ロロの身体が再生し、鼓動と呼吸(ちから)(づよ)きこと確認してから、勇者がふらりと体勢を崩す。疲労だけでなく、痛みやダメージも感じているようだった。


「同じ相手に……二度も膝をつかされたのも初めてです……」


 両膝をついて、正座のような形になりながら勇者が呟く。

 自らの肉体であれば苦も無く再生出来るのだが、他者に自分のスキルを一時的に共有させるのは、かなり大変なことらしい。


「これは……勇敢なる少年へのご褒美です……」


 そう言って、勇者がロロに(ひざ)(まくら)をする。

 瀕死(ひんし)痙攣(けいれん)から一転、すやすやと安らかな寝息をたてるロロを見て、勇者が疲労にふらめきながらも、優しく微笑んだ。

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