表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第一章 魔王の死編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

第9話 勇者

今回も4話分更新します。

この4話の間はプルムは暗躍中。

「おはようございまあああああああああすッッッ!!」


 夜明けと同時であった。

 魔王城に、号砲のごとき大音声(だいおんじょう)が響き渡る。


 この世界では高価な、一枚ガラスで出来た窓にヒビが入り、城全体が震度2の地震かのように揺れた。

 夜警(やけい)明けの若い兵士たちを眠りの世界に誘っていた睡魔たちは、一匹残らず駆逐され、寝ていた兵たちも全員飛び起きる。


「朝から失礼します! 勇者です! 魔王城の皆さん、おはようございます!」


 東門を前にし、朝日と森を背負った少女が、三千世界の(からす)を音で殺さんばかりの声をあげる。事実、何羽かの夜明け(からす)が彼女の大声で気絶し、木の枝からボロボロと落ちていた。


 勇者と名乗った声の主は、16か17ほどの純朴そうな若い娘だ。


 黄金(こがね)色に輝く、くせっ毛のショートカットに、黒いベレー帽をかぶっている。

 防具はかなりの軽装であった。鎧は白銀(しろがね)の薄い胸甲(きょうこう)のみで、その上に深紅のミドルコートを着ている。アンダーもブーツも、黒で統一されていた。


 コートの右胸には、リード王国王家の紋章が金駒(きんこま)刺繍(ししゅう)で入れられていた。

 黄金の剣とピッケルが交差している()(しょう)で、本来であれば王家の者しか身に着けることを許されない。


「リード王国第三王女マリーナ・リードの名代(みょうだい)として、いと高きところにおわしまする魔王陛下と、古式に(のっと)った正々堂々の一騎打ちをしに参上(つかまつ)りました! 不躾(ぶしつけ)ではありますが、城門を開けていただきたく存じます!」


 大音声が、凝灰岩(ぎょうかいがん)で出来た城壁を震わせる。古代ローマのセルウィウス城壁と同じ素材だが、築城から500年も経って老朽化しているため、勇者の声だけで崩れそうであった。経済が貧弱な魔王国では、改修も追いついていない。


        〇


「ええっとこれでもない、このページでもない……」


 城壁の上にいた白い髪の少年が、本をめくりながら何かを必死で探していた。まだ10歳を少し超えた程度の、あどけない顔をしている美少年だ。ほぼ人間と変わらぬ姿だが、その額からは8センチほどの角が一本伸びていた。


 角が生えた少年が、何度も勇者の姿を見ては、本のページをめくっている。


「ありました大尉(たいい)殿! このページです。間違いなく勇者です!」


 ユニコーンの角を持つ少尉(しょうい)候補生の少年が、興奮気味に叫んだ。その興奮が初めての実戦の恐怖に由来するのか、期待に由来するのか、本人にもわからない。


「うわ……マジじゃないっすか……」


 大尉と呼ばれた青髪の少女が、ユニコーン族の少尉候補生に見せられたページに視線を落とす。少女からは、ユニコーンとは違う種類の馬の耳が生えていた。


 『イシュメイル兵事図譜(ずふ)大全~498年版~』──帝国図書審議会刊行。


 この世界ほぼ全ての軍服、軍艦、軍獣鎧、軍属腕章が掲載(けいさい)されている本だ。


 勇者も正規のリード王国軍人である以上、その姿は軍服として載っている。ちなみに勇者の現階級は、特務軽歩兵少佐である。軍職俸給(ほうきゅう)規定に則った給料が、陸軍省が主要株主のリード軍用銀行の口座に、毎月振り込まれていた。


「あれ? でも勇者って、4人パーティーじゃなかったっけ?」

 単身、魔王城に来た勇者を見て、同い年くらいの青髪の大尉が首を傾げた。


如何(いかが)しますか、大尉殿!」

「え、ええっと……」


 勇者ほど大きな声ではないが、それでもしっかり体重乗った声で少尉候補生に尋ねられ、上官である大尉の少女がたじろぐ。女の子みたいな透き通る白い肌と顔してるけど、ちゃんと男の子なんだなぁ、と少し呑気なことを考えてしまった。


 え……私の命令で、この子たちの命運決まるの……?

 ま、マジで無理だし、責任取れないんですけど……


 外見年齢は女子中学生ほどの青髪の大尉が、目の前のユニコーンの少尉候補生だけでなく、他の兵士や将校を見回す。


 誰も彼も自分と同じか、それよりも若い少年少女ばかりだった。敗戦間近で大人の兵がほぼ残っておらず、学徒動員された貴族の子女ばかりである。

 みな(こん)色の士官候補生の制服を着ていた。玉砕した第一(きょう)(どう)近衛(このえ)師団(しだん)、唯一の生き残りである大尉の少女だけ、(あん)(こう)色の制服なので、どうしても目立つ。


「わ、わわわ、私は魔王様に勇者襲来を報告にいくから……あ、あとは少尉候補生くん、君に全部任せたからね。危なそうなら降伏してもいいから、命大事に」


 そう言って、この場の最上位者である大尉は、そそくさとその場を離れた。


「…………」


 ユニコーンの少年が、10秒ほど沈黙する。

 そして、次の瞬間自分の右手で思いっきり自分の右(ほほ)を殴った。


「うわぁ、なにしてんのロロ!?」


 すぐそばにいた同じ少尉候補生のスライム少年の同期が、慌てて駆け寄る。


「僕は自分が恥ずかしいよ。だから自分を殴ったんだ……」


 ロロと呼ばれたユニコーンの少年が、口から血を流しつつ呟いた。


「一瞬、大尉殿が逃げたのかと疑ってしまった。誇り高き魔王軍の近衛(このえ)将校が、そんなことするはずないのに……」

「…………」


 いや、絶対逃げただろ、アレ。


 上官を()()扱いしながら、スライム少年がそう思う。

 しかし、それを言ったら殴られそうなので、心に思うだけにしておいた。


 というか、あの年で(きょう)(どう)近衛(このえ)大尉なんて超エリートのはずなんだけど、あんまりそうは見えないんだよなぁ、アレ。色々と胡散臭い女だと思う。


        〇


「むむむっ? 何やら城壁の上が騒がしいですね?」


 一番、騒々しかった勇者が魔王城の城壁の上がドタバタしているのを見て、首を(かし)げる。


 すると、東門の上に一人の少年が姿を現した。その白い髪の生え際から伸びているユニコーンの角が朝日を反射し、輝いている。


「小官は魔王城護衛大隊所属、ロロ・ユニコーン少尉候補生であります。(じょ)(しゃく)も済ませておらぬ若輩者ではありますが、先ほど大隊長殿より、指揮権を委譲されました。少佐殿の単身で参られた勇気、まこと勇者と呼ぶに相応しきものであり、弓矢の家に生まれし男子(おのこ)として感服の極みであります。ですが、魔王陛下に仕える者として、藩塀(はんぺい)とならずして貴官を易々(やすやす)拝謁(はいえつ)の栄に(よく)することは(あた)わず。これも戦場の(なら)い。多勢にてお相手する無作法(ぶさほう)をお(ゆる)しあれ」


 幼い子供ながら、貴族しか将校になれない旧体制の国の少尉候補生らしく、また理性と武勇を重んじる魔族らしい言葉を、勇者に向かって投げかけた。


「返答感謝します、ロロ・ユニコーン少尉候補生殿」


 勇者がそのアメジストの瞳を、まっすぐロロに向ける。

 そして敬礼をした。


「貴官らの義と忠こそ、この城門城壁より強固に(そびえ)え立つ鋼鐵(くろがね)の城です! いかなる武器も! 魔術も! 万の軍も! 貴官らの守るこの城は攻め落とすことは叶わぬでしょう! ですが、この勇者! いかなるものも攻略出来ぬ、この不落の城を落とし、魔王陛下の御前へまかり通らせていただきます!」


 そう言って勇者が剣を抜き、(さや)を投げ捨てた。


(さや)を捨てるは、不退転(ふたいてん)の覚悟と心得たであります」


 相手に掴まれぬよう、(さや)を捨てるのは戦場の定石(じょうせき)ではあるが、今回の勇者の行為は、ロロたちを生き返れぬ強者と評する敬意の現れだった。

 幼き頃から貴族として、武人の教育を受けてきたロロもそれを理解する。


「負けることは許されぬ身なれど、返礼いたします」


 ロロが前歯で、自分の右手の指を嚙んだ。

 そして、にじみ出た血を自らの唇に塗る。


「見事な死に化粧! 古式に則った返礼、痛み入ります!」

 ロロの行為を、勇者が称賛した。


 相手に首を獲られた時、その顔色が見苦しくならぬようあらかじめ死に化粧を施しておくのは、武門の(たしな)みである。自らの首を敵将に(きょう)される覚悟と風体(ふうてい)執行(しゅぎょう)なくしては、子供といえど貴族将校の資格はない。そう教育されてきた。


 誇りと覚悟と武力こそが、魔族において貴族を貴族たらしめる根拠である。


「それでは勇者と呼ばれる者の戦い、目に焼き付けさせてもらうであります」

「それは違います、ロロ少尉候補生!!」

「?」

「貴官らもです! この場にいる者、戦う者! 全員が勇者です!」


 その勇者の言葉に、ロロ以下防衛隊の少尉候補生たちがざわつく。


「勇者……」

「私たちも勇者」

「やるぞ、やるぞ、やるぞ、僕だって勇者だ」

「死ぬのなんて怖くない!」

「お家のため、父母のためにも立派に散ってみせる!」


 城壁の上や、城門内の中庭からそんな声が響いた。

 魔王軍の少年兵たちの目が輝き、明らかに戦意が上がっている。

 その様子を好ましいものとして受け取り、ロロが勇者に言った。


「世に聞こえし本家よりのありがたき言葉、恐悦至極であります。なれば我らも、勇者の名に恥じぬ(いくさ)(ばたら)きをしなくては」

「では、参ります! 存分に、戦いましょう!」


 魔王軍の勇者、少尉候補生ロロが待ち構える城門に、リード王国の勇者がずんと足を前に踏み出す。

 それと同時に、魔王城から少年少女たちの(とき)の声があがった。


        〇


「盛り上がってるなぁ……」


 魔王城の暗い廊下を進みながら、青髪の大尉がそう呟いた。

 ロロの声は聞こえないが、勇者の大声や友軍の歓声のような(とき)の声はここにも十分響いており、どんなやり取りが行われているか想像出来た。


「勇者だのなんだの言われても、死んだら結局おしまいなのにね。私には理解出来ないノリっすわ」


 呆れ9割の中に、かすかな羨望(せんぼう)と疎外感が混じった声。ああいう武人のノリに多少の憧れがないわけではないが、それよりも生きることが大切だった。


 しかし、人生経験浅い子供ってのは純真だが────怖い。


 そして哀れだ。

 特に貴族の子女……みんなあんな感じで、簡単に命を投げ捨てちゃうのかな?

 親から教えられてきた、くだらない武人としての生き方以外を知らないのかな?


 その誇り高く死ねと教えてきた大人たちの多くは、とっくに降伏したり逃げちゃってるのに。未来のある子供の方が、死に向かっていくのは酷い話だと思う。


 生きてさえいれば、もっと色々楽しいことあるのにね。


 逃げたい時には逃げればいいし、死にたくないならそれこそ子供らしく泣きわめけばいいと思う。家とか親の教えとかほっといて、自由に生きればいいのに。


 第三身分(へいみん)の私には、よくわかんない感覚だし、わかりたくもない。


 貴族、王族ってのもラクそうに見えて色々大変だなぁ……


「まっ、私は勇者になんてなれないし、ならなくていいや」


 城を枕に討ち死になんて、絶対に嫌! それ以外でも死ぬのがそもそも嫌!


 そんなことより、数日前に魔王が玉座の下の隠し階段から出てくるのを見た。

 もしかしたら、あそこに脱出口や隠し財産があるのかも……


 偽物の怪盗イシュカに落書きされたあと、その場所へ魔王の奴が確認に行ったってことは宝物庫の可能性高いな。


 勇者が来たドタバタに乗じて、金目のものパクれたらいいんだけど。

 ()()()はご飯にも困りそうだし。


 そんなことを大尉の少女が考え、玉座の間に向かう。


「あれ……?」


 そこで、信じられぬものを見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ