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Solomon's gate (試作_3回目失敗)  作者: にしてつ
2章 義勇に起つ
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26 火見式

 9月になった初日、合格者達は兵団事務所に一旦集められた。

「諸君、義勇兵試験合格おめでとう。私は諸君の教練を担当する事になったリンダだ。義勇兵歴13年のまあまあ古株といったところだ。さて早速だが諸君には個別の面談を受けてもらう。ここには見知った顔が何人かいるようだが」リンダはそこに集まった13人の顔ぶれを見た。彼女は金髪の修道女の女を見た。彼女はミランダといい若干5才の頃から聖医術で人々を治療してきたブリスコーでは知られた存在だった。他には部屋の一番うしろの席に陣取り、頭の後ろで手を組んでいるザックという大男は、このブリスコーを拠点に活動する傭兵団「灰色熊」の元団長の息子だった。彼の親父は10年前に死んだ。リンダは冒険者を夢見る彼に剣術の手ほどきをした。だから当然、この部屋ででかい態度を取っていても、彼女にとっては乳臭い悪ガキだった。「・・・中には既に魔法を使えるものもいるようだが、とりあえず順番に面談することにする。名前を呼ばれたものは来い。まずはアイル、貴様だ」

 アイル地下2階の個室に案内された。そして鉄でできた重い扉を開けて部屋に入った。

 そこは殺風景な部屋だった。四方を囲むコンクリートの壁と床の他には小さな机と燭台に立てられた蝋燭、そして向かい合った粗末な椅子が置かれているだけだった。

「座りたまえ」リンダが言った。彼女は厚い唇に真っ赤な口紅をつけていた。

 彼らは蝋燭を挟んで向かい合った。

「義勇兵団に入ったものには団令に従う義務と引き換えに基礎的な魔力と戦闘技能を授けられる。そのことは知っての通りだと思うが」

 アイルは頷いた。

「これからこの部屋で行われることは他言無用だ。この部屋の存在も喋るな。この部屋は分厚い壁に覆われている。この壁の中にはある金属の板が入っていて外部の魔力の流れを反射することができる。つまりここは、君と私だけの隔離された魔力空間ということだ 。実は地下に潜るだけでもある程度魔力の流れを断ち切ることが出来る。だから君が見たような悪魔結社の秘匿儀式も地下で行われるわけだな。この空間で起きる魔力の流れというのは微小なものであっても物質現象に大きな影響を及ぼすことができる。そして我々はそれを容易に観察できる」リンダは一息ついた。

「さて君もご存知の通りどんな物質にも人間にも魔力は備わっている。君も無自覚のうちに魔力を纏い垂れ流している。これから行うことは火見式という。やることは単純だ。」

 リンダは机上の蝋燭を指差した。

「君はこの蝋燭の上に手をかざして魔力を込めるんだ。魔力を込めると言ってもいったい何をするのかわからないだろうが、とりあえず聞け。さっきから言ってるように君は無自覚のうちに魔力を使っている。あまりにも外乱要因が多いから君が気づくことができないだけだ。今から私は自分の魔力を断つ。この部屋にはほとんど君の魔力しか存在しなくなる。その時君ははじめて自分の体を包む薄い膜のようなものを感じるはずだ。その膜でこの蝋燭を覆いたまえ。」リンダは目を合わせて言った。「君は瞬時に理解するだろう。この世界が物質と魔法でできていることを 」

 リンダは目を閉じて脱力した。アイルは椅子から立ち上がった。そして彼女に倣い目を閉じ両手の力を抜き、身体を包むなにかを感じようと務めた。彼は両手の爪の先まで神経を巡らせ、普段森で気配を探るときのように周囲を感じ取ろうと務めるた。アイルは自分が今まで感じたこともない虚無の空間にいるのではないかと思えた。部屋の壁は途方も無い遠くにあるように感じられ、一瞬恐怖を感じた。そしてその空間と自分の肌の間になにか境界線のようなものを感じ取った。

 彼は目を開けて右手を見た。指先の周囲に蜃気楼のゆらぎ、なにかが立ち上る蜃気楼の筋と境界線が見えた。

 アイルは蝋燭に手をかざした。 締め切られたこの地下の空間にも空気の循環はわずかながらにあり、ろうそくの火は微細に揺れ動いていたが、今この揺れは完全に止まった 。

 そしてこの蝋燭の炎の輪郭がはっきりした。

 そして蝋燭が強い輪郭をまとい出した。それはガラス細工のようにはっきりとした「表面」をもち固体そのもののような形になった。

「続けろ」リンダが言った。「一度しか言わないから聞け。今から絶対に何があっても動揺するなよ」

 突然机の真下で皿が割れる大きな音がした。

 この部屋に皿などなかった。おそらく机の下に何かで貼り付けてあったのだろうか。

 しかしアイルはこのことに動じなかった。蝋燭の火は変わらずガラスのようなはっきりした輪郭をしていた。 触れば固い感触があるほどと思えた。

 リンダはアイルを観察した。この人物は、彼女が今まで試験した中で最も鋭い集中力を発揮していた。この蝋燭の異様な様態といいかなり特異な資質を持っているらしい。しかし今は、その事に触れるときではなかった。試験の目的はその先にあった。

 リンダは立ち上がった。そして手に持っていた紙束を丸めた。

 そして何の前触れもなくアイルの横っ面をひっぱたいた。アイルは衝撃でのけぞった。そして胡乱な目で試験管を睨んだ。しかしアイルの手元は動かなかった。それどころか蝋燭は先程よりさらに凍りついたようにそこにあった・・・より密な形、冷たさを感じるほどの異様なぎらめき。

 リンダはニヤリと笑った


 義勇兵志願者は再び2階の広間に集められた。小窓から夏日の残る暑い日差しが照りつけていた。窓枠は陽の光を反射して明るく光っていた。リンダが話し始めた。

「実は、さっきの試験で見たの君たちの魔法ではなく性格適性なんだ。だからすでに魔法を使える人間にも試験を受けてもらった。君たちの体をまとっている魔力、これを一般にエーテルと呼ぶが、君たちが頬を打たれた時、これがどのような変化を起こすかを観察した。例えば異国人が突然鋭い痛みを与えられたは時思わず母国語で痛みを訴えてしまう。そして悪態をつく時にも口から思わず母国語が出てしまうものだ。それは突然のストレスには瞬間的にその人本来の資質が現出するということだ」

 リンダは赤い唇をなめた。そして続けた。「君たちは理不尽に殴られて2つの感情を持った。一つは痛み。そしてもう一つ理不尽さに対する怒りだ 。君達が強いストレスを受けた時にエーテルがどのように変化するのかを見たかった。この反応は1度しか調べることができないから他言無用としたのだ 。今ここに君たちの魔力の変化を図表にしたものを用意した。知り合いがいるなら他人と比べてほしい。そして大体自分自身の性格的傾向として魔力がどのように変化を受けるのか心に留めておけ」

 リンダは壁に図表を張り出して続けた。そこにはそれぞれの新入団員のオーラの動きが線になって記されていた。「この図表の中で一般的に戦闘向きであるとされるのは二つの動きだ。 一つはハリスのエーテルの激しい上がり方だ。特にこの立ち上がりの反応の速さを見てほしい。これは瞬発力があって瞬間的に戦闘に備えることができるということだ。また立場が上の人間に対しても素直に怒りを出すことができる。これは要するに克己心が強いということだ。強大な相手に物怖じしないということだ 。多分お前は現実でも喧嘩上等ですぐ切れやすいタイプじゃないか?」リンダはアゴをしゃくってハリスにいった。「ただこの後半の激しい上下運動は良くない。瞬間的に沸騰してずっと怒ってるタイプが戦闘向きなのだがお前は迷いがある。多分喧嘩した後にすぐ後悔するタイプじゃないかな」

 リンダはアイルの目を見ながら続けた。「もう一人戦闘向きなのはアイルだ。他と比べたら分かると思うがこれはかなり特異なタイプだ。全く動揺がなく一直線のエーテルを示している。これは私が誇張して書いてるのではない、本当にこのままだったんだな。このタイプは常に冷静沈着で周りが見えていてどんな時でも実力通りの力を発揮するタイプだ。もちろん強敵に対しても動じることがない。基本的にアイルとハリスの二人のタイプが同じパーティーにいるとうまく回ることが多い」

 リンダは一息ついて続けた。

「ジョシュアは瞬発力は悪くないが、叩かれてしばらくするとダウナーになっている。これは鬱屈的傾向があるということだ。無論これは性格上の問題として自己認識すれば治ることはできるはずだ。だがお前自身の本質的な傾向としてこういった部分があるということだ」

 リンダは図表をあらためて見た。

「他にはっきりと戦闘向きなのはベンとテオの二人だな。テオは特に魔法使いでここまではっきりと瞬間的に怒れるタイプは珍しいんじゃないか。逆にこの中ではっきりと戦闘向きでないと人間が二人いる。アンナとミランダの二人だ。ミランダは聖職者だから特に言及はしないが、アンナはかなりまずい。そもそも最初に皿を割った時にここまで動揺が激しいとあまり戦闘向きではないんじゃないか。顔ひっぱたいたら半泣きになってたしな。さっきも言ったようにこれは性格上の問題だから自覚を持てば直すことができる。ただ危機に直面して自分の心が概ねどういう風に動くかということは知っておいた方がいい」

 リンダは別の表を張り出した。「先程の試験ではもう一つ調べたことある。これは君たちの蝋燭の炎がどういった形を取るかということを示したもので、大体私が見たものを描いたつもりだが、この炎の様子を是非他人のものと比べてほしい。やはり特筆すべきはアイルだろうな。大きさに全く変化がなくそして輪郭がはっきりとしている。お前ここに来る前何をやってた」

「狩人ですが」

「こういった輪郭が閉じきっている形というのは世界と自分が隔絶した感覚を持っているということだ。 これは心理的にどうこうという話ではなくて神経の形としてこういったことを持っているということだ 。このタイプは隠密行動などに向いている。ただし外部の魔力を取り入れることが難しいので 強力な力を発揮することは難しい。魔法使いには向いていないな。また強い力を出すには自ら自身の魔力を長い時間かけて高める必要がある。一番向いてるのは暗殺者だな。

 アイルと真逆のタイプがエリスだ。炎は際限なく広がり輪郭ははっきりしていない。こいつの炎は両手からはみ出すような感じで大きく広がっていった。これは自分の魔力と自然の魔力の境界線がはっきりしていないからだ。こういうタイプはまたアイルとは別の方向で隠密行動に向いている。というのも外乱要因が多い中では自分の魔力が完治されにくい場合が多いからな。このタイプは狩人が最も向いている。お前仕事何やってたんだ?」

「狩人です」

「こういうタイプの人間はいわゆる超感覚的なものを持っていて、魔法使いになればかなり特殊な魔法を使う場合が多い。物質世界ではこれは第六感と呼ばれている 。第六感というのが魔力感覚のことではなくて未知の物質や物理現象を感じ取れる超感覚のことだ 。とにかくお前の進路は慎重に決める必要がある。まあ今話したことは大まかにどういった傾向があるかという話でしかない。結局お前たちがどういった魔術を習得して結局何をしたいのかということそれが全てだ。基礎訓練が終わった後は各々自分が望んだギルドの門を叩け。結局好きこそものの上手なれなんだ。自分の力を信じて毎日鍛錬して強くなるんだ。じゃあ今日のところはこれで解散だ」


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