19 ブリスコー砦
避難民達はブリスコー砦へたどり着いた。
急峻な山に3方を囲まれたブリスコー砦は優れた自然の要塞だった。大岩で組まれた分厚い城壁はまさに無骨な前線基地と呼ぶにふさわしかった。櫓も屋根も飾り気のない北方兵士の生き様を体現していた。
城壁は20フィート幅の深い堀に囲まれていた。跳ね上げ門は樫から削がれた一枚の大板で頑丈なだけでなく見た目にも猛々しく美しかった。
すでに連絡が行っているのだろう、櫓の上の兵士が中へ急ぐよう手招きした。アイル達人間はすぐに従ったがエルフたちは門の前で立ち止まった。
そして長齢のエルフが言った。
「兵士様方や、聞いてくだされ 。我々は領民ではないので砦に入れてくれとは言いません。ただ我々が一時にでも住む森を提供してくだされば、後々必ずやお役に立つことでしょう。厚かましいお願いとは存じますがどうぞ叶えてくださいまし」
櫓の兵は後ろを振り向き上役らしき人物と会話した後、言った。
「風貌よからぬ人間以外は入れろと言われている!」
老エルフは言った。「我々は領民ではなき故そこまでしてくださる義理はありませぬ。ただ一時の森を提供してくだされば…」
櫓の中で何か会話があった。そしてモノクルを掛けた役人らしき人物が顔をのぞかせた。彼は兵士にうなずいた。
兵士は大きな手振りをして大声で叫んだ。
「とにかく全員早く中に入れ!」
アイル達は門をくぐった。谷間の山の斜面にたくさんの家が立ち並んでいた。その数は500を軽く超えるほどだった。城門の小ささからは考えられないほどたくさんの人間がここに住んでいた。広場の数人の町人が彼らを観察していた。兵士が道の奥を指差した。
そのとき櫓の兵士が鐘を鳴らした。そして叫んだ。
「敵襲だ!敵襲だ!男は剣を取れ!男は剣をとれ!」
甲高い錫の警鐘が響いた。そして雑踏の地響きが城門を覆った。道の奥から幾十人もの兵士たちが走り出して門へ向かった。そして正規兵ではない、おそらく冒険者であろう派手な風貌をした男女も勇んで武器を掲げ門外へ向かって走り出した。何人もの軽装の町人らしき人々も弓矢を抱えてその流れに参加した。
この剣を持つ人々には勝利の予感と余裕の熱があった。それが人から人に伝染した。多くの人々が熱気をたぎらせ門前へ躍り出た。アイルも剣を引き抜きその刃を確かめた後、門へ向かって走り出した。
門の外では戦闘が始まっていた。
オークと兵士たちが今まさに激突していた。エルフと北部連隊の混合軍の背中が見えた。彼らは砦まであと一歩のところで追い付かれたのだ。
砦の兵達は土手を一気に駆け下り川伝いに道を上った。そして横からオーク達を挟撃した。
いくつもの剣戟が舞った。すぐにオークの前線は崩れだした。アイルはその隙間に突撃した。
前線の中で小柄な兵士たちの集団が激しく戦いオーク達の死体の山を築いていた。彼らはドワーフ達だった。
今若いドワーフがオークの棍棒を横から打ち込まれよろめいた。膝をついた彼に巨大な棍棒が打ち込まれようとしていた。アイルはオークに突進した。そしてその太い左手に剣を突き立てた。
オークは痛みにあえいだ。そして乱暴にアイルを振り払った。アイルは吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
さらにアイルは別のオークに踏みつけにされた。そして鉈が振り上げられ打ち込まれようとしていた。
そこに剣士が割って入った。エルフの細剣がオークの兜の隙間を貫いた。オークは兜から血を流しよろめいた。彼を助けたのは若い少年のエルフだった。
アイルは立ち上がった。彼は自分が戦線の先頭にいることに気づいた。しかし引く気は一切なかった。彼は高揚していた。
いま一人のオークが一歩前に進み出た。彼は鬣を緑に染めた筋肉質な大きいオークだった。彼はアイルの剣を指差した後、空いた手で手招きし挑発した。
アイルの血が沸騰した。彼は地を蹴って突撃した。
オークは身を引きながら片手で剣を振り上げた。アイルの短剣が弾かれ宙を舞った。
次の瞬間オークの太く分厚い剣がアイルの土手っ腹を刺し貫いた。
彼は真っ赤な血を吹いて地面に倒れた。血の海に溺れまったく呼吸ができなくなった。
そしてアイルは意識を失った。




