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Solomon's gate (試作_3回目失敗)  作者: にしてつ
1章 死体の標
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16 死んだ館

昼過ぎに彼らは領主の館にたどり着いた。


館の前はがらんどうとしていた。衛兵さえも立っていなかった。風に木々がたなびく音がはっきり聞こえた。アイルは動物達がまた森から消えていることに気づいた。


アイル達は館の扉を開けた。重い観音扉の軋む音が響いた。館の中は物音ひとつせずしんと静まり返っていた。日の光が館の奥の高い壁面を照らしていた。奥には大きな肖像画が掲げられていた。肖像画の顔面は額縁ごと撃ち抜かれ穴から壁面が見えていた。脇には両手に分かれる階段があった。


アイルたちは階段を登った。


2階の廊下は血糊で一面に汚れていた。アイルが音もなく忍んで先行した。二人はそれに続いた。


最初のドアを開けた。


中は強盗に遇ったかのように荒らされていた。中央のテーブルがひっくり返り倒れた椅子の背もたれは血飛沫で真っ赤に染まっていた。しかし死体はどこかへ消えていた。


次の部屋も同様だった。争った形跡はあったが死体はなかった。


アイル達は地下へ降りた。


地下への階段は暗黒に染まっていた。手すりは血で黒くこびりついていた。


3人は慎重に階段を降りた。


暗闇の底に明かりが見えた。階段の終わりは部屋に直接続いているようだった。


3人は中を覗き見た。


地下室には100を超える生首が並べられていた。


地下の底は礼拝堂のようだった。信者が座るものであろう背もたれのない椅子に生首が整然と並べられていた。奥には蝋燭に照らされて黄金色に輝く大きな像があった。


それは悪魔の像だった。


それは天使の羽根が生えていた。そして裸体で龍のような爬虫類にまたがっていた。そして右手に蛇を握っていた。


像の前では祈祷師が何かをつぶやいていた。右手にタクトのような小杖を振っていた。彼は灰色のローブを着ていた。


村長は脂汗を流しながら食い入るように睨みつけた。


ルイは生首の一つが知人のものであることに気づいた。それは昨日館へと向かったルーのものだった。


ルイははっと息を呑んだ。


小杖を振る祈祷師の動きがとまった。彼は背中を向けたまま微動だにしなかった。


やがて生首達が、己を動かす器官などない生首達が、ずりずりと回転しながらこちらを向いた。


アイルたちは動けなかった。


100の生首達がこちらを睨みつけた。


そして祈祷師がゆっくりとこちらを振り返った。


アイルたちは弾けるように逃げ出した。


村長が口の中で呪文を唱えた。光の玉が杖の先に灯ち階段を照らした。彼らは全速力で駆け上がった。しかし下から迫る"何か”が追いつき直ぐ側まで迫ったきた。


そして殿のルイの足首を掴んだ。


その手はぞっとするほど冷たかった。恐怖におののきルイは倒れ込んだ。


村長は振り返り魔法を唱えた。かざした両手から水が勢いよく噴き出した。 そしてその”何か”を押し流した。アイル達は再び地上へ走り出した。地下室の入り口まで戻ってくると、村長は再び水魔法を唱え、階段に全力で水を流し込んだ。下の化け物どもを溺れさせるつもりだろう。村長は歯を食いしばり、全力で水を流し続けた。やがて地下がすべて水で浸されると、村長は肩で息をして倒れ込んだ。 しばらく3人は休んだ。 村長は言った。


「あの像はアスタロトだ。魔法使いは村を襲った奴とは別人だ。 だが格好は同じのように見えた。何か悪魔崇拝者のようなものがこの事件に絡んでいるのかもしれない 」


3人は立ち上がった。その時階段の底から何かが上がってきた。それは水面を突き破った。黒光りした金属光沢が煌めいた。


それは首のない戦士だった。北部連盟の甲冑をかぶった首のない死体の戦士だった。


それは鞘から剣を引き抜くと座り込んだ村長に襲いかかった。アイルは素早く村長との間に割って入ると短剣で 剣戟を受け流そうとした。しかし戦士の剣はあまりにも重かった。 鍔が絡み合い押し込まれた。


アイルは膝を折りへたり込んだ。


そのまま戦士はアイルの首を断ち切ろうとした。 剣が震えガチガチと音を鳴らした。 ルイは床を蹴って飛び出し戦士のえぐれた首の肉に逆手で剣を突っ込んだ。しかし戦士は全く動じなかった。アイルの首筋に刃が食い込み一筋の血が流れた。アイルは頸動脈を断ち切られる寸前だった。


そこに村長が杖に勢いをつけて戦士の腕に叩き込んだ 。戦士は剣を取り落とした。


村長は戦士を抱え込み、口元で何かを呪文を唱えた。瞬間鮮烈な音をたてて戦士は水面ごと凍りついた。


村長はその場に倒れ込んだ。口で荒い息をつき起き上がることができなかった。


その時甲冑の足音が広間から近づいてきた。首なしの戦士が細剣を片手に近づいてきた。


「弱点は普通の甲冑と同じだ!お前たちなら倒せる!」村長が叫んだ。


アイル達は飛び出した。そして甲冑の後ろに回り込んだ。


甲冑は振り向きざまに細剣を払った。ルイは深く握った短剣で剣を受けた。


アイルが後ろに回り込み膝の裏を短剣で刺した。


甲冑は身をこわばらせて硬直した。アイルはそのまま片足を抱え込み甲冑を横倒しにした。


ルイは細見を握る右手を踏みつけた。アイルが残る左足の腱を断ち切った。


ルイは細剣を蹴り飛ばした。甲冑は倒れ伏し立ち上がることができなくなった。


村長は杖で体を支え立ち上がった。腰を折り肩から息をしていた。だがなんとか歩けるようだった。


3人は屋敷から脱出した。




屋敷の中庭は静寂が支配していた。噴水の水の流れだけが目につく動くものだった。


アイル達は中庭を横切った。その時馬の蹄の音がした。


その馬には甲冑が乗っていた。しかし今までの首なしの兵士とは様子が違っていた。それは目に見えない強い妖気をまとっているようだった。そして甲冑の首元には肉がなかった。膝裏にも。


「あれはデュラハンだ。さっきの首無し兵士とは全く違う。やつに肉体はない。やつを殺すことは聖者にしかできない」村長は言った。「わしはここで命を使う。お前たちは何としても生き延びろ。地下にあったのはアスタロトの像だ。必ずアスタロトと伝えろ。あそこにいたのは村に来た炎の魔法使いではない、別人だ。だが格好は同じだった。何か悪魔結社のようなものが裏にいるのかもしれない。必ずこのことをブリスコーの領主に伝えろ」


騎馬兵が迫ってきた。「いけ!」村長は叫んだ。そして杖を捨て膝立ちになり両の掌を合わせ何かを唱えはじめた 。


アイル達は全速力で走った。馬の蹄が響いた。異国の呪文をを唱える村長のん声が聞こえた。いま剣が虚空を裂く鋭い音が聞こえた。しかしその後は、何も怒らなかった。


アイル達は冷気を感じた。二人は振り返った。


彼らの後ろには凍てつく世界が広がっていた。屋敷、デュラハン、そして村長が蒼碧の氷に閉ざされていた。噴水も凍りついた。屋敷に動くものは何一つなかった。


アイル達は先を急いだ。

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