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4話 父という壁

「ん?その構えでいいのか?森の中でも見通しのいい広場と同じ動きをするつもりか?」



 いやらしい。

 ネチネチとプレッシャーをかけてくる父親に対し僕は余計な思考を振り払い、刀を持って踏み込んだ。


「それを今から確かめるんだよ!!」


「ハッ!そうだな、確かめてみろ!」


 鋭く踏み込み袈裟斬りに振り下ろした僕の刀を、父さんは最小限の動きで直剣の腹で受け止め不敵に笑って眉を上げた。


「あ、セレナが」


 ピクッ、と僕の意識が一瞬だけ逸れる。


 絶対釣りだやられた!

  分かっているのに身体が反応してしまった。その刹那の隙を見逃してもらえるはずもない。


「甘いよ。集中できてない。熱中できてない。夢中になれてない」


 淡々とした声とともに容赦のない直剣の猛打が襲いかかる。

 

 横薙ぎ、振り上げ、強烈な前蹴り、そして脳天を叩き割るような振り下ろし。木々の隙間を縫うように放たれる無駄のない連撃に僕は防戦一方になる。


 うちの父親実戦だとこんなに嫌らしくて泥臭い戦い方をするのかよ勘弁してくれ……!


「ぉぉおおお!!」


 地面が陥没するほど強く踏み込み、直剣を紙一重でかわす。すれ違いざま、渾身の力で刀を大きく薙ぎ払い強制的に父さんを下がらせた。


 これで仕切り直しだ。


「お前は相変わらずバカ力だね。並大抵の魔法使いなら相手にならないほどその身体は恵まれているよ。母さんと神様に感謝しなさい」


 神、ね。どういう存在なのかは知らないけれどこの世界にもその概念はあるらしい。まあ、どんな世界に行っても人間が目に見えない偶像に縋りたくなるのは同じなのかもしれない。


「体が温まってきた。ここからは本気を出すよ、父さん」


「順応が早いのもお前の取り柄だ。来い」


 ふっ、と深く一息吐き、その場で僕は刀を一閃した。 2本の立派な木が凄まじい音を立てて父さん目掛けて倒れ込む。


ドォオオン!!!


 爆音とともに大量の砂煙が舞い上がる。けれど、これだけで倒せるなんて微塵も思っていない。


 父さんの剣は極めて守備的だ。あの鉄壁の防御を崩さなければ先行したフォードを追うことすら叶わない。


 僕は納刀し即座に走り出す。視界を遮る砂煙を利用し、どこから奇襲を仕掛けるか悟られないよう高速で周囲を駆け回った。

 タイミングを見計らい、死角から踏み込もうとした瞬間


ブワッ!!


 そんな小細工は関係ないと言わんばかりに父さんは砂煙を強引に切り裂き、ピンポイントで僕目掛けて突貫してきた。


「受け切れるか、シオン!」



 ーー母さんの炎弾が上がってから狩りに行った大人がここに到着するまでのスピードは異常だった。

 誰かの魔法で高速移動したとしても、この広大な森で僕たちを正確に探しながらでは絶対に不可能な早さだ。

  ということは、僕たちの正確な位置情報を共有する魔法があるはず。位置が完全に割れているなら隠れる意味も目隠しの意味も最初からない!だから!


「そう来ると思ってたよ……!」


 だからこそ、僕は賭けた。

 砂煙が晴れぬうちに父さんが何かしらの方法で僕の位置を掴んで最短距離で仕留めに来る、その瞬間に!


「ふっっっっ!!!!」


 完璧なタイミング。至近距離かつ寸分のミスもない絶対に避けられない必死の居合。


 出せよ……! 物理法則を超える何かを!魔法を!



カァアアアン!!!


 鋭く高い、硬質な金属音がこだまする。 父さんのこめかみを正確に捉え頭部を上下に切り裂くはずだった僕の刀は

 ――父さんの顔面の数センチ手前、突如空間に現れた薄く半透明な壁によって静止していた。


 生半可な居合ではなかった。大木や岩程度なら一刀両断できる自負があった。魔法で避けられたり、浅い傷を負わせるに留まる可能性は考えていたがまさか触れることすらできずに完璧に防がれるなんて。


 唖然とした僕の腹部に容赦のない前蹴りが突き刺さる。身体が強烈に吹き飛ばされた。


「息子が親父を超えるのってこんなに早いものかね。まったく」


 地面を何度も転がり、なんとか刀を地面に突き立てて膝をつく。

 父さんは追撃をせず砂埃が落ち着くのを待って悠々と歩み寄ってきた。


「俺の魔法は魔力を重さのない防具に変換する」


 父さんが空中に浮かぶ半透明の壁に手を触れると、それは直径50センチほどの円形の盾の形を取った。そして次の瞬間盾は霧のように消え去り、今度は半透明の鎧となって父さんの全身を隙間なく覆い尽くす。


「世界一軽い鉄壁の全身鎧だ。さて、崩せるかな?」

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