#9 疎外感
日曜日、遅い時間に目を覚ました零がリビングに行くと、弦の他に珍しい客がいた。
「こんにちは、零くん。お邪魔しているわね」
ソファに腰掛けていたのは、副会長の如月だった。
柔らかな透け感のあるブラウスに、身体のラインを綺麗に拾うタイトスカート。
見慣れない私服姿に、零は思わず視線の置き場に困る。
「……っす」
ぶっきらぼうに返事をする。
「寝起きの零くん、かわいいわね」
「だらしないの間違いだろ」
弦が冷たく一蹴する。
テーブルには、修学旅行の資料が広げられている。
弦と如月で打ち合わせをしていたらしい。『学生主体』という校風からか、聖音高校の生徒会というのは、なかなか忙しそうだ。
「零くんのお母様、とっても優しそうな方ね。さっき、ご挨拶したのよ」
「っそすか」
如月が穏やかに微笑み、零はぎこちなく返事をした。
「如月。そろそろ終わりにするぞ」
弦が冷淡に言う。
零がリビングに来てから、一度もこちらを見ない。
――なんだよ、感じ悪い。
自分でも理由がわからないけど、妙にイライラした。
それが如月への苛立ちなのか。弦への苛立ちなのかはわからない。
「それじゃ、打ち合わせはここまでね」
如月が立ち上がる。
帰るのか、と零が安堵しかけた瞬間だった。如月は零の目の前で、弦の手にそっと触れた。
「弦の部屋に行きましょう」
わざと見せつけるような仕草。
熱を含んだ女の視線。
「そうだ。零くんも、一緒に来る?」
「……え、いや」
どういう意味だ?
まさか、トランプでもやるわけじゃないだろうに。
「あら、のぞくのが好きなのかなって。違った?」
何の話だろう。
「ほら、3月だっけ……。見てたでしょ?生徒会室で、私と弦が――」
「如月」
「あは、ごめん」
その瞬間、全身の血が一気に熱くなった。
フラッシュバックするのは、生徒会室の光景。
漏れていた吐息の正体は、如月だったのか――。
「それとも、3人でする?」
「なっ……!」
頭が真っ白になる。
からかわれているだけだとわかっているのに、如月の瞳は妙に艶めいていて、冗談に聞こえなかった。
「如月、よせ」
弦が低く制した。
その声音に、零の胸がまたざわつく。
「怒らないでよ、冗談なんだから」
如月は楽しそうに笑い、弦の腕を取った。
零の横を甘い香りとともに去る。
どうしてだろう。
如月に触れられている弦を見ると、こんなにも落ち着かないなんて。
零は手元の冷え切った水を一気に飲み干した。
それでも、胸の内のどろりとした感情は消えず、ただ虚しく身体を冷やしていくだけだった。




