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序章7

「あ、あの…助けて、助けて下さい!」


 子供特有の高い声が俺の背中に掛けられた。


 振り返ると、10歳かそこらに見える少女とそれより僅かに小さい少年、その二人が手を引いている更に小さい幼児の男女二人の計4人が、ちょうどタラップに足を掛けている所だった。

 声を掛けてきたのは上から二番目の少年らしい。他の子達を庇うように一歩前に立っている。


 いかにもファンタジーな村の子供という格好ではあるのだが、薄汚れていると言う段階を軽く突破する勢いでボロボロだ。

 森の中を駆け抜けて、時には転んだりもしたのだろう。無数の小さな擦り傷切り傷に、煤や泥とおぼしき黒ずみ…だけじゃないな。大きい子供の腕や腹には赤黒い何かがべったりと付着している。


 …正直、厄介事の予感しかしないんだが、ここから無視するのもそれはそれで難しい。

 主に俺の良心の呵責的に。


 とは言えまだ自分に余裕がない現時点において、面倒事はなるたけ避けたいと思うのもまた事実。何故俺はハッチやシャッターを閉めておかなかったのかと薄情な考えも浮かぶ。

 あと、どうやら言葉は通じるようだなと思いながら取り敢えず問う。


「どういう助けを必要としているのですか」


 口調は決めておいた通りに。

 そして良心に従うにしても自分の許容量を越える助力までは出来ない。なので相手が何を望むのかしっかりと聞いておかないと。 


 しかし子供達は何故か口と目を大きく開いて硬直していて、答える様子がない。


「…助けが欲しかったのではないのですか?説明していただかないとわからないのですが」


 俺の言葉にはっとしたように先程の少年が口を開く。


「と、父さんと、母さんが、逃げろって、い、家が、燃え…あ、ちが、じゃなくて。む、ら…そう、村が、襲われ、燃やされ、あ、兵隊、に、追われて…昔から、ある、この、い、遺物の近くに、隠れ家が、あったんだ、けど、壊されてて…」


 本来の俺なら怖がらせない為に愛想笑いの一つでも浮かべているところだが、どうもこの顔の表情筋は仕事をしていないようだ。

 ついでに言うなら声もいまいち抑揚が利いていない。


 そのせいで怖がらせているのでは、とは思うのだが如何せんどうにもならん。


「…すみませんが、それではわかりません。急かしはしませんから深呼吸して落ち着いたら、時系列順に話して下さい」

「は、はい…」


 とは言え何となくはわかった。

 兵隊が攻めてきて村が焼かれ、住民が襲われ、命からがら逃げ出した、といったところか。

 それにしても、遺物?

 この飛空船の事なのだろうが、随分おかしな言い方ではないだろうか。

 まるで昔からここにあったかのような…いや、それともあったのか、実際ここに。


 まぁ落ち着くまで時間も掛かりそうだし、兵隊が村を焼いたと言うのが真実なら、逃げたこの子達を追ってくる可能性もある。

 安全の為にシャッターとハッチは閉めておくべきかと考えるが、そもそも閉め方がわからん。

 予想は付いているのだが。近付いて閉まれと念じながら見つめれば動くだろう、多分。


 そう思ってシャッターの方、つまり子供達に歩く。


 すると進んだ分、子供達はズザザザッと音を立てて後ずさる。

 いや、そこから後退されると閉め出してしまうんだが…

 それでいいなら話は楽なんだがな、はぁ。


「扉を閉めるから中に入って下さい」

「私達を閉じ込める気!?」


 一番大きな少女が突然、他の三人を庇うように両手を広げながら一歩前に出て声を張り上げる。

 え、突然どうした?俺が不審に見えるのはまぁ仕方ないとしても、こんな風に敵意剥き出しで睨まれる事はしてないと思うんだがなぁ。

 

「…ここまで逃げてきたのですよね。追われなかったのですか?」

「確かに最初の内は何人も追いかけて来ていたわ。けど途中で撒いて来たわよ。それが何?」

「兵士だったのですよね。重装備でしたか?」

「何でそんな事答えなきゃいけないのよ!」

「助けを求めたのはあなた達ですよね。助けられるかどうか判断する為の質問に答えたくないと言うなら、残念ながらお力にはなれません。どうぞお引き取りを」


 俺の台詞にぐっと言葉を詰まらせる少女。その肩にそっと手を乗せながら少年が問う。大分落ち着いたようだ。


「アイリス、どうしちゃったの?何だか、らしくないよ」

「だって、こんな、あたしよりちょっと年上なだけの、ピラピラした服の、働いた事なんてない風情の、お人形みたいなお嬢様っぽい女に助けを求めたって、何が出来るっていうのよ!?」


 その手を振り払いながら少女が叫ぶ。

 あぁ、うん、確かに頼りなく見えるだろうな。

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