序章6
その建造物はゲームの中で見覚えがあった。
ファンタジーでたまに見かける、水上を往かずに空を往く船、飛空船だ。
ゲームにおいては仲間でこの船のオーナーであるNPCがよく『高いローン組んだ甲斐があった』と言っていたが、この世界にオーナーは実在するのだろうか?
疑問形なのは見たところ随分長い間使われていないようで蔦植物がかなり絡み付き、埃や土が随分積もっているからだ。
守銭奴だったオーナーがこの飛空船を放置して居なくなるとはとても思えない。
つまり、ゲームのNPC…少なくともオーナーは存在していない可能性がある。
しかしゲームの物は存在するのに人は存在しない?ならば俺は何故ここに居る?
…駄目だ。今考えても材料が足りなさすぎて仮説すら立たん。もっと情報が集まるまで棚上げだな。
ただ、飛空船は長い時間放置されていたように見える割には痛んだ様子がない…というか新品同様で、どこかちぐはぐな印象を受ける。
本体の大きさは首都圏の一般的な一軒家を3軒ほど並べた位。
全体的に金属製で流線型が多用されている。
ゲームの画面では気にならなかったが、改めてリアルで見るとファンタジーというよりはいっそ未来的だ。
底は平ら。四方に楕円形の浮きがあってそれに乗っかる形で、地面との間に屈まなくても潜れるくらいの隙間がある。
浮きが半分近くまで地面に埋もれているから、本来はもっと高いのだろう。
翼と、巨大なプロペラが左右1機ずつ付いている。
甲板から中に入るドアが見えるが、甲板は3階ほどの高さにあり、地面から甲板まで登り降りする為の梯子などはない。
あそこを利用しての出入りは少しばかり面倒そうだ。
何としてもこれに入りたい。
何故か?ゲームでは、不時着したこの飛空船を本拠地として活動するからだ。
つまりこの船には生活する上で必要な設備が整っている、のと、今の俺の一番の悩みがここで解決出来る可能性が高い。
ゲームでは、キャラクター回りの設定はこの船の中の自室で行う。
ステータスの確認や装備品の脱着。当然、アバター装備の設定も。
そう、ここでならこの呪われたアバター装備が脱げる筈なのだ。
だから俺はこの船に何としても入らなければならない。
船内への出入りが甲板のドアのみという事はないだろう。他に家具などを搬入出来る広い出入口がある筈。
そう思って本体下部を見上げると、後部に切れ込みがあるのを発見した。
恐らくあそこが開いて搬入口になるのだろうと当たりを付けるが、動かす方法がわからない。
搬入口ならスイッチが近くにある筈とあちこち見て回るが見つからない。
恨みがましく切れ込みの辺りを睨みながら開けと思った瞬間、突如眼の奥が熱くなるような感覚に襲われ、続いて眼を通して体から何かが流れていく初めての感覚。
そしてゴゥンゴゥンゴゥン…という音と共に切れ込みの部分が開き、スロープ状のタラップになった。
どうやら飛空船の後部ハッチを動かす事に成功したらしい。
動揺を押し殺して考える。
動力はMPなのか。
つまりさっきの感覚が、MPを使った状態なのだろうか。
であるならば魔法発動方法の取っ掛かりではあろう。
さっき勝手に吸い出されたのを、自力で再現してみる。
何かが体の中を巡る。向きが決まっているようでそれに逆らう動きは出来ないが加減速は出来た。
ふむ、強いてイメージをあてはめるなら、血液の流れが近いか。
しかし先程のように外に出すのが上手くいかない。まだ発動には足りないようだ。
タラップを上がって行くと見えるのは上にスライドするシャッター。
大きくて重く転がる荷物でも積んでいたら、ハッチを開けた瞬間にタラップを転がり出たりして危険だろうから、妥当な装備ではあるのだろう。
そのシャッターも、内心で開け胡麻!と思いながら見つめると、再び推定MPが抜ける感覚と共にガラガラと音を立てて開く。
軽く中を覗いて見る。
幸いと言えるかどうかはわからんが、他の者は居なさそうだ。生活感といったものがない。
入った瞬間は暗かったが天井全体が電灯よりも柔らかく光りだし中を照らす。
おぉうSF、いやファンタジーか。
シャッターの中は倉庫、あるいは格納庫か。
壁による仕切りもなく広々としていて、隅の方に荷物が寄せられている。
奥には登り階段が見える。
埃などが溜まっている様子が全く見られないのが少し不気味だ。
ゲームではボタン一つで自室の中まで行くので、飛空船内部の間取りなんて知る由もなかったが、こんな風になってたのかー…
と思いながら倉庫を横断し、階段を登ろうと足をかけたところで…




