序章8
「さっきは取り乱してすみません。あの、どうしてここに?保護者の方はどちらに?それに、今まで誰にも動かせなかった遺物をどうやって動かしたのですか?」
少年もそう思ったのか、改めて問いかけてくる。
うん、おじさん礼儀正しい子は好きだよ…どうでもいいが言葉通りの意味しかないのに怪しく響くのは何でなんだぜ?
「生憎と私一人です。魔法の事故か何かでここに飛ばされて来たようで、私自身どうしてここに来たのかはわかっていません。そして、何故ここを動かせたか、でしたか。それもわかりません。強いて挙げるならこの飛空船の事はかつて文献で見た事があるから知っていた、というのが関係あるのかも知れませんね」
うむ。これで、凄く遠くに居た事にすればご都合的な記憶喪失という苦しい言い訳を使わなくてよくなるな。嘘は付いていないし。
「ヒクウセン。初めて聞きましたが、この遺物の事ですか?」
んん、さっきの遺物の時にも思ったんだが、飛空船を知らない?
少なくともゲームではそこそこの数が飛んでいた。
それこそ頑張れば個人が入手できるのだから、現代日本におけるヘリコプターと同程度には知名度もあると思われる。
まさかインターネットはないだろうから情報伝達はそこまで早くないにしても、間近で見た事がなくて形を知らなかったにせよ、存在くらいは知っている筈。
それなのに知らないとなると、ここはゲームの世界ではないのかも知れない。
飛空船が遺物と呼ばれる程古くから存在していて誰も用途を知らないとなると、あるいは、時代が違うという可能性もあるか。
そうすると何故、新品同様だったのか、今まで誰にも動かせなかったのか、俺に動かせたのか、という疑問が出てくるが。
「えぇ。文献によると空を行く船だそうです」
「はん、何それ。そんな凄い物がこんな田舎の森の中に放置されてる訳ないじゃない。バカみたい。くだらない」
「文献にあった事を言っているだけなので私に文句を言われても困ります。それに、私に何が出来るかも、聞かねば判断出来ませんよ」
「あんたの助けなんていらない!」
「うん。話が進まないからアイリスはちょっと口を閉じてて」
うーむ、やっぱりお嬢さんは刺々しい。
とは言え、おっさんからしてみれば10かそこらの語彙が豊富でもないお嬢さんに何か言われても、毛を逆立ててフシャってる子猫のようにしか見えんが。
これが現代日本の10代半ばのお嬢さんだったりすると…いや、敢えて記す必要はあるまい。ないったらない。
「あんたがそんなだからあたしがしっかりしなきゃいけないんじゃない…!」
あー、これは、ひょっとして…
「お二人は仲がよろしいのですね」
「幼馴染みですから」
「許嫁よ」
ふむ、好いた男を取られるかも知れないという焦りの類か。
…とすると、先程の沈黙も、要するに見惚れていただけか。
まぁ丹精込めてメイキングしたからな。現実だと有り得ないレベルの美少女であろう。
小柄だから歳もそう離れてないように見えるか。
なら、そろそろお年頃を迎えるお嬢さんが反発するのも宜なるかな。
俺好みの年齢からは外れる若さだが…やはりこの言い方は誤解を招きそうだが…未来の護り愛でる対象である事に変わりはない。
…そうだな、デレる前のツンだと思っておくか。それなら生暖かく見守ってあげられそうだ。
「私は男女の契りに興味はありませんから、目の敵にするだけ無駄ですよ…それより、先程の質問にお答えいただきたいのですが」
「えっと、何でしたっけ?」
「あなた達を追っていた兵士が重装であったか軽装であったかを知りたいですね」
「その区別がよくわかりません」
「どのような格好でした?鎧を着用していたか、だとしたら革だったか、金属だったかなど、わかる範囲で構いません」
「村に来たのは金属混じりの鎧、僕らを追って来てたのは鎧は着てませんでした」
「人数は?」
「一人です」
「なるほど…」
それはおかしくないだろうか。
10歳前後の男女が5歳前後の男女を連れて逃げて大の大人…軽装の兵士という事は斥候兵の可能性もある…から、そう簡単に逃げ切れるか?
泳がされている可能性は?
…やはり急いでハッチを閉めるか、ここから逃げるかした方が良さそうだ。
この船は、原理はわからんが、経年劣化もしておらず傷一つ見当たらない、新品同様の状態だった。何らかの魔法的な保護が施されている可能性は高いと見た。
とは言え物資が中にあるかどうかもわからなければ、援軍も期待できない。
籠城はちょっとばかりギャンブルが過ぎるな。
と今後の方針を考えていると…




