パリとマンハッタン
「ラクワちゃん、ようこそ、私たちのおうちへ」
「うわぁー」
自宅へ戻り、ラクワちゃんを居間のソファに案内する。テレビを付けながら、
「ちょっと活動報告上げるからラクワちゃんと遊んでてくれる?」
「「「はーい」」」
冷蔵庫からオレンジジュースを出してみんなに出してあげる。棚からお菓子も出す。
さっそくブリケットの作り方のマニュアルを作る。それを活動報告にお役立ちコーナーとして新しいページを作り、そこに上げながら、ふと思いついて先程の説明を映像マニュアルとして一緒に上げた。もちろん各SNSにもリンクを載せてツイートした。
紙を印刷すると、ウガンダの村に戻り、村長にマニュアルを手渡しすぐに戻る。
「終わったよー。それじゃラクワちゃん連れてどこか行こうかー」
「「「はーい」」」
「わーい」
ラクワちゃんにも”言語把握”の指輪を渡してある。もちろんプレゼントだ。
「今日は2件ほどアポ入ってるから途中でそこ寄るからねー」
「「「はーい」」」
「?」
「先に午後ならいつでも良いって言ってた依頼元に行こうか。観光はその後でね」
「「「「うん」」」」
これは今朝方突然入ってきた緊急依頼だ。依頼元はフランス、パリ。昨夜帰宅途中、多重事故に巻き込まれ、これから手術に入るので、手術室から出てくる予定の早朝5時以降に来てほしいとの事。もちろんOKした。
念の為確認のメールしたら出てきたばかりで集中治療室に入ったところとの事。今夜が山場との事で文面からも焦っている様子が手に取るように分かった。
すぐにこれから向かう旨をメールして外出の準備をする。
* *
【時差情報:-8時間】日本:13時50分 パリ:5時50分
やってきましたフランスは華の都パリ。
(って呑気な事言ってる場合じゃないや)
「みんな、たぶん集中治療室には入れないと思うから廊下で待っててね」
「「「「うん」」」」
病院の前に着くと、辺りをウロウロして落ち着かない女性が待っていた。慌ててそちらへ向かう。
「ソル様ですか!?こんなに朝早くから来て頂いてすみません。私フランソワーズと言います」
(うわぁ、超焦りまくってるよ。先に見つけて先に名乗られるなんて…)
「ソルです。どうか落ち着いて下さい。全力を尽くす事をお約束しますから」
「そ、そうですね。すみません。昨夜から頭が混乱してまして…」
「取り敢えず向かいながらお話をお聞かせ下さい」
詳細はこうだ。
フランソワーズさんのご主人と一人息子が客先からの帰りが遅くなり市内に入った時にそれは起こったという。
恐らく居眠りだと思うが、大型トレーラーが信号待ちしていたフランソワーズさんのご主人の運転する車に速度を落とす事無く突っ込んできたらしい。
一番の被害者はご主人でバックミラーでトレーラーを発見したのか、駆けつけた時は息子に覆いかぶさっていたらしい。
それからすぐにこの病院に運ばれ緊急手術を終え、先程集中治療室に運ばれたとの事。何とか一命は取り留めたが、包帯だらけの姿を見て半狂乱になってしまったと少し恥ずかしそうに説明してくれた。
息子さんも複雑骨折と多臓器損傷で危ない状態だが、ご主人の方は脳挫傷もあり今夜が山だろうと医者に言われたそうだ。
気づくとフランソワーズさんはボロボロと涙を流していた。
「ど、どうか、主人と息子をお救い下さい。お願いします」
「はい、全力を尽くすと約束します」
「「「「お姉ちゃん」」」」
妹たちも心配しているようだ。歩きながらみんなの頭を撫でてあげる。
「あ、この子たちは私の妹です。廊下で待たせ、お邪魔になるような事はさせませんので、すみませんが途中まではご一緒させて下さい」
「えぇ、えぇ、分かりました…
それで、ソル様。申し訳ありません。急な事で、しかも夜中だった事もあり、銀行も閉じているので、お礼の準備が今すぐというわけにはまいりませんが宜しいでしょうか?」
「あ、そうですよね。えぇ、構いませんよ。治療後改めてお伺いすると言う事でいいですか?」
「はい、そうして貰えると助かります。本当にすみません」
「どうかお気遣いなく」
やがて集中治療室に到着する。あずさちゃんたちは近くの待合椅子で仲良く座って待っていて貰っている。
「看護婦さん、こちらソル様と言います。すみませんが、主人たちに直接会わせて頂けないでしょうか?」
「フランソワーズさん、何を言っているのですか?今は一番危険な状態なのですよ。面会謝絶に決まっているではないですか」
「そこを何とか。この方はこれまでにも何度も不治の病を治してきた方なのです。看護師さん、“神様の代理人・御用聞き開設所“ってサイトをご存知ないですか?」
「神様の代理人?フランソワーズさん落ち着いて下さい。神に縋る気持ちは分かりますが、少し冷静になって下さい。
あなたも人の弱みにつけ込んでこういう事して恥ずかしくないのですか!?」
(あー、やっぱそう来るよねー。私ってば詐欺師扱いですか。凹むなー)
「看護師さん、決してそんな事はありません。それに御使い様にお言葉が過ぎると思います!」
(あ、フランソワーズさん、ちょっと怒ってるっぽい。ありがとね)
「おい、何を騒いでる。ここは集中治療室だぞ。静かにしなさい」
「あ、主任すみません。実はフランソワーズさんがこの子を中に入れたいと言いまして…
確か…ソル様とか…神様の代理人とか言って聞かないのです。主任も説得して下さい。宗教とか病院に持ち込まれても困ります」
「何っ、ソル様?神様の代理人?それは本当なのか?」
「えっ、主任何を言ってるので?まさかあなたもですか?」
「君こそ何を言っているんだ。今世界中で不治の病を治して貰った人とか続出してる張本人だぞ?」
そう言って院内にあるパソコンでサイトの活動報告の映像を看護師に見せてくれる主任さん。
「な…えっ…これ本物?主任、これを信じてるんですか?」
「当たり前だ。これを奇跡と言わず何を奇跡とするんだ?
あちらに座っている子たちを見てみろ。今見た子たちだぞ。それでも疑うのか?」
「えっ…」
看護師さんは主任さんに言われたままうちの子を見て固まる。
(うんうん、固まるの分かるよ。うちの子たちってどこに出しても恥ずかしくないほどの美少女揃いでしょ?わははー)
ひなたの天然がひさびさの暴発である。
「そんな…これって本当に?」
「あぁ。だから問題無い」
それから私に改めて向き直り、
「失礼しました。ソル様。私この病院の集中治療室の主任を任されております、カミーユと言います。お会い出来て光栄です」
「いえ、ここまで私の事が周知され嬉しく存じます。では中に入っても宜しくて?」
「えぇ、もし時間が許すなら隣にいる方も診ていただければ嬉しいです。こちらも今夜まで持つかどうか…」
「分かりました。あなたの誠実さに願いを聞き届けましょう」
それから中に入っていく。色んな装置や呼吸器、コード類が繋がれ見てるだけでも痛々しい。
「それではご主人からやらせて頂きます」
そう言うとフランソワーズさんのご主人の手を取って魔力を流し損傷箇所を精査する。Lv8の”完全治癒”を習得した今、特にする必要は無いのだが癖でついしてしまうのだ。
「これは酷いですね…でも大丈夫です。ご安心下さい。それでは治療しますね、(”完全治癒”!)」
ご主人の身体を眩しい光が覆っていく。そして光が収まると…
「う、うぅ、こ、ここはどこ何だ?何が起こってる?」
「あ、あなたぁー!?」
ガバっとご主人に抱きつき涙するフランソワーズさん。
「えっ、嘘っ。何で起き上がれるの?」
看護師さんはまだ自体を飲み込めていないようだ。
「フランソワーズ、一体どうしたんだ?…
…はっ!?マルク!!マルクは無事かっ!!!」
「ご主人、落ち着いて下さい。説明は全てが終わってから行いますので」
「君は?」
「それも後です。今は時間がありません」
今度は一人息子のマルクさんの元へ向かい同じように回復魔法を行使する。
「んん…あれ?ここはどこだ?」
「マルク!?身体は何とも無いのか?」
「あぁぁあぁああああああ」
フランソワーズさんはマルクさんに抱きつき泣き出してしまった。
「母さん?何があったの?」
その間にカミーユさんの願いを叶えるべく、同室の男性も治癒した。
こちらの男性はマルクさんたちと違い長らく床に伏せっていたらしく、顔色は良くなったが起きる事は無かった。
「ソル様、こちらの方は大丈夫なのでしょうか?」
「えぇ、病気は治ったわ。ただ床に伏せっていた帰還が長かった為体力が消耗しているだけです。直に目を覚ましますわ」
「そうですか。それを聞いて安心しました。ありがとうございました」
(身内でも無いのにお礼を言うなんてほんと素敵な人ね)
「どうやらあなたは素晴らしい心をお持ちのようですね。これは私の名刺です。何かあればこのサイトに連絡して頂戴。お力になってあげますわ」
「勿体無いお言葉ありがとうございます」
「わ、私も…」
「あなたは様子見ね。今は駄目よ」
「そんなー」
それからフランソワーズさんと一緒に事の顛末を2人に説明した。ちなみにご主人はアルノーさんと言うらしい。
(勝手に包帯外しているが、いいのかなぁ?)
「もう大丈夫ですが、一応念の為再検査はしておいて下さいね」
「はい、分かりました」
「では、うちの子を待たせてますのでこれで失礼するわね」
「はい、本当にありがとうございました」
「改めてお礼をさせて頂きます。その節は是非お越し下さい」
「えぇ、分かりましたわ。それじゃまた」
「「「ありがとうございました」」」
* *
集中治療室から出てmy天使たちの元へ向かう。
「ただいまー」
「「「「おかえりー。どうだった?」」」」
「うん、大丈夫よ。改めてお誘いするから来てねって」
「「「「ほっ、良かったー」」」」
(ラクワちゃんまで息のあったコンビネーション。やるなお主ら。待ってる間に何があった!)
それからせっかくパリに来たのだからと、こちらの観光をする事になった。まずは凱旋門だ。これは外せないよね。
「うわぁ、おっきー」
「車もいっぱいだねー」
「「凄ーい」」
「この門はローマ時代に将軍や国家元首の戦場での勝利を祝うパレードの為に作られた物を倣ってこの国が建てたのよ…たぶん」
来る前に一生懸命勉強した薀蓄を垂れるひなた。お姉さんらしいところを見せるのも大変なのである。最後は尻下がりだったが。
そして、エッフェル塔、ルーヴル美術館、ノートルダム大聖堂、ヴェルサイユ宮殿など有名どころを観光していく。ラクワちゃんはずっとお目々ピカピカ状態だ。可愛すぎる。
その後もモン・サン・ミッシェルに移動し、通りのお店を見ながらのんびり観光を楽しんだ。
「ごめんね、そろそろ次のアポの時間だ」
「「「うん、分かったー」」」
これまで同様、アポを消化しつつ、ロビー活動も行っていく。ラクワちゃんにとっては、それでも色々な所を回れて楽しんでいるようだった。
「ふぅー、みんな疲れてない。何だか今日は色々あって大変だったね」
「うん、お姉ちゃんこそ大丈夫なの?心配だよー」
「「「大丈夫ー?」」」
「ちょっと疲れたから夕食食べたら少し休もうかな」
「「「「うんっ」」」」
「でもみんな無理してついて来なくてもいいからね。おうちで待っててもいいのよ?」
「「「無問題」」」
「お姉ちゃんと一緒にいるのー」
「ありがとー。みんな大好きよー」
ぎゅーっと抱きしめて上げる。至福の時間じゃー。
* *
「それじゃ、今日はラクワちゃんもいる事だし、夕食は日本の伝統料理、お寿司に行こうー」
「やったー」
「「「?」」」
今日は奮発して回らないお寿司にしようと思ったのに、少女4人だと言ったら追い出された。何故に!?
仕方が無いので近くの回るお寿司の有名チェーン店へ。くそー。
席に案内され座ると、
「さぁ、さっきのお店は後で天罰「駄目だよっ」…ゲフンゲフン、今日は好きな物何でも食べていいからねー」
「「「「やったー」」」」
あずさちゃんに駄目出しされたけどしようがない今回は許してやるか。
フラン、ファティマ、ラクワ…果たして、お寿司初めての子たちに受け入れて貰えるのだろうか。そう思ったひなただったが杞憂に終わった。遠慮が無かったのである。
最初こそ卵焼きが載ったお寿司を食べていたが、それからまぐろやかじきなどを食べてからのスピードが凄まじかった。私以上に注文の機械を使い熟ていたよ。しかし、お姉ちゃんの存在って…。
あずさちゃんも呆気に取られていたが、さりげなくイクラやウニを頼んでいたのは見逃さないよ。
食った、食った、食いまくりました。占めて1万8千円、也。お前らの胃袋どうなってるの!?
って言うか。回転寿司って何でこんなに高いの?ぼったくりなの?割合的にはほとんどご飯だよ?どうなの?
…ま、それなりに食ったから口には出さないけどね。しかし、解せぬ…ぐぬぬ…。
今度からお寿司は自宅でやる事に決めたひなた。どう考えてもその方が安く済むからだ。
* *
それから自宅に戻り、少し休憩した後、みんなで風呂に入ると、私とラクワちゃんは仮眠をする事になった。
みんなはもちろん、例のアニメ鑑賞会である。白と黒の。
スマホのアラームをセットしてラクワちゃんを胸に抱いて天国へ登っていった。いや、ただの気持ちだから。実際に登るわけないっしょ?それだけ幸せな眠りについたって事よ?分かれよ。
アラームが鳴る頃、みんなが寝室に入ってきた。どうやら入れ替わりのようだ。
「お姉ちゃん、ごめんね。先に眠るね」
「「お姉ちゃん、おやすみなさーい」」
「うん、おやすみー」
どうしてラクワちゃんだけ仮眠させたのかと言うと時差のせいである。あの憎き時差だ。
お昼すぎに迎えに行っても向こうは早朝。こんな時間に寝れるはずが無いのである。
(だって、まだウガンダは昼の3時だよ?寝なさいって言っても寝れるわけないでしょ?)
誰に言ってるのだろうか、この子は。
そう、少しづつ慣らす為の仮眠なのである。
その後、ラクワちゃんとキャッキャウフフしながら時間までアニメを見て過ごした。どうやらラクワちゃんも嵌ってしまったようだ。何故に!?
「ラクワちゃん、私お仕事あるからちょっと出かけるけど、ラクワちゃんはどうする?アニメ見てる?」
「一緒に行きたいけど、もうお外は夜だからおうちで留守番してるー。怖いの」
「オッケー。もし眠たくなったら上に行って先に寝ててもいいからね。冷蔵庫に飲み物もあるけどあまり飲みすぎないでね。それじゃ行ってくるね」
「うん、いってらっしゃーい」
ラクワちゃんをぎゅっと抱きしめて自宅を後にした。本当は”向こうは朝なんだよ?”って言おうかと思ったが楽しそうに見てるので止めておいた。
* *
【時差情報:-13時間】日本:22時45分 マンハッタン:9時45分
今回来たのはおばあさんが押さえてくれた、アパートメント内でのコミュニティに使うらしい部屋だった。他の部屋と大きさは一緒だけど、間取りがトイレとバスぐらいしかないので結構広く見える。
「おばあさん、お招きありがとうございます」
中に入り、おばあさんに挨拶する。
「あらあら、いらっしゃい。来てくれて嬉しいわ」
『マリアさん、こちらがそうなの?』
「えぇ、そうですよ。もう少しお待ち下さいね」
『えぇ、分かりましたわ。』
マリアさんと言うらしい。隣のおばあさんと話しをしている。目で挨拶されたので返しておく。
「結構広くて良い場所ですね」
「今日はね、たぶんかなり来ると思って、大きめの部屋にしたの。と言ってもここぐらいしか無いけどね。うふふ」
「そうだったんですね。もう来てる方もいるようで安心しました」
数分で人が集まりだして部屋が人でいっぱいになってきた。
「マリアさん、人が多くなってきたので、少し早いですが始めましょうか」
「えぇ、そうねぇ。このままだと溢れてしまいそうね」
「そうですね」
マリアさんは立ち上がり全員に向かって話しかけた。
「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。こちらが先日私の病気を治してくれたソルさんです。
少し早いですが、だいぶ集まってくれたようなので、これから出張治療を開催しようと思います」
パチパチパチパチ
「ご紹介頂きましたソルです。これから治療を開始します。
マリアさんからお聞きと思いますが、すみません、1人10ドル、又はそれと同等の価値ある品の寄付をお願いします。
それと宜しければ帰りに入口にあるチラシをお持ち帰り頂き、遠方の親類などに私の存在を周知していただけると助かります。
あと直接マリアさんには言ってませんでしたが、お渡ししたチラシに書いてあるように、もし罪の重い犯罪を犯している方は治療致しませんので、もし該当の方がいらしたら速やかにご退出下さい。では始めます」
入口に椅子を置き、チラシを置く。それから席に戻り側にリュックを取り出し、口を開けておく。寄付入れだ。
少し待って誰も退出しないのを確認して治療を始めた。
「まずはじめにリウマチや足腰の炎症による痛みなど比較的軽い症状の方を一括で治療します。それにより完治した方は私がお呼びしますのでご寄付の後、ご退出下さい。
では治療します、”○▼★※…”!(”範囲超回復”!)」
いかにも呪文らしく、異世界の言語で魔法名を呟くと、私を中心に光の奔流がさざなみのように辺りに広がっていく。
『『『『おぉー』』』』
『こ、これは…あんなに痛かった膝が全く痛みを感じぬ』
『私も動かすのがあれほど辛かった肩が…』
『目の視界がすっきりしたわ』
「はい、それでは完治した方の名前を呼びますね。Aさん、Bさん…」
名前を呼ばれたお年寄りは私に礼を言ってリュックに10ドル紙幣を入れていく。中にはお手製らしきマフラーやエプロンなどもあったが対価をして有り難く頂いた。
これにより半数以上の人がいなくなった。
「これからは個別に対応致します。ではどうぞこちらに…」
ひなたの前に初老の男性が座る。
「では見ますね…肺がんですか。呼吸器系も少し弱くなっているようですね」
「見て分かるのですか!?これは驚きました。えぇ、その通りです」
「ではまだたくさんの方がお待ちですので、さっそく治療致しますね、”●☆※△*…”!(”完全治癒”!)」
男性の身体が眩い程に輝いた。
『『『『うおっ』』』』
『『『『きゃっ』』』』
「あ、すみません。効果の高い呪文なので眩しいと思います。次回からは”目を閉じて”と言いますね」
『『『『はい、お願いします』』』』
それから順番に治療して行った。途中銀で作った手作りのアクセサリーとかもあって予想以上の収入となった。
そして、ほぼ終わりかけた時…。
* *
『ここはお前たちのような者が来るところじゃない、うせろっ』
コミュニティの空いた入口から少し離れた場所に、このアパートメント自体への門があるのだが、そこで男性が浮浪児と見られる女の子を怒鳴りつけているのが見えた。
「すみません、少々お待ち下さい」
そう言ってその男性の元に向かう。
「どうされました?」
「あ、ソル様。すみません、浮浪児たちが今回の治療を聞きつけたみたいで集まってきたみたいなんです。すぐ追い返しますので」
「いえ、それには及びません。私は貧困家庭を優先にと言ってあったはずです。
浮浪児も例外ではありません。いや、私の本来の役目は不幸な子供たちを救う事にあるのですよ。
もし、コミュニティの中に入れたくないのであれば後で診ますので追い返さないで貰えますか?」
「え、えぇ、それでいいのでしたら。分かりました」
コクリと頷いて子どもたちの元へ行く。
「みんなどうしたの?誰か病気の子がいるの?」
「う、うん、ずっと咳してて苦しそうな子とか、足が不自由な子とかいて…ごめんなさい」
「ううん、別に謝らなくてもいいのよ。そうね、纏めて診るので後でみんなのいるとこに連れて行ってくれる?」
「いいの?」
「もちろんよ。もう少し治療があるからちょっとまっててね」
「うんっ」
それからコミュニティに戻って治療を再開する。
「ソルさん、あの方には私からも言っておきます。不愉快な思いをさせてしまいすみませんね」
「いえ、例え浮浪児でも子供は世界の宝ですから見捨てるなど致しません」
「えぇ、ありがとうございます」
マリアさんは子供たちの為に頭を下げてくれた。うんうん、嬉しいね。
それほど時間もかからずに全ての人の治療が終わる。
「では、マリアさん、今回はありがとうございました。これからもご家族や親戚方に何かあれば連絡下さいね」
「えぇ、それは助かります。この度はご足労頂き、ありがとうございました」
『『『『『ありがとうございました』』』』』
終わって残っていた人たちからもお礼を言われる。
「それでは失礼します」
そう言って出口へ向かう。浮浪児たちのいるところだ。
* *
「お待たせ。それじゃ案内してくれる?」
「うんっ」
私はその女の子の手を取って歩き出すと、女の子はびっくりしてこちらを振り向いた。
「お姉ちゃん、私汚いよ。お手々汚れちゃうよ」
「うふふ、あなたたちは汚くなんてないわよ。ちょっとお風呂に入って無かっただけでしょ?
気になるなら綺麗にしちゃうわね、”清浄”!」
一緒についてきた残り2人の浮浪児も一緒に綺麗にしてあげる。
「うわぁー、お洋服が綺麗になったー。凄ーい」
(うおっ、汚れてて気づかなかったけど、この子も美人ちゃんじゃない)
「あなたお名前は?」
「わ、私、ミラ」
「ミラちゃんかー。それじゃ案内して」
「うんっ」
それから、それ程時間もかからずにボロボロの廃屋に辿り着いた。窓も割れ、壁にも穴の空いた今にも崩れそうな家だ。
中に入ると10人程の子供たちが待っていた。
「ちょっとこれは酷いわね。先にこの家を直しちゃいましょう。
ちなみにこの家は借りてるの?」
「ううん、前の居場所追い出されたから、この家見つけて引っ越してきたんだよ」
「そう。子供たちはこれで全部?まだ他にもいるなら連れてきてくれる?」
「うん、分かった。みんなあの子たちも連れてきて」
『『『『『分かった』』』』』
「あ、ご飯も上げるからって言っといて。そしたら絶対来るでしょ?ふふふ」
『『『『『うん』』』』』
「さて、修繕作業と行きますか」
まず初めに部屋全体に”清浄”をかけ、割れた窓ガラスは破片を集めて錬金術で元の状態に戻し、木枠も曲がっていたものや壊れた箇所を修復していく。
もちろん、子供たちも綺麗にしたよ。
それから穴の空いた壁なども直していく。それを全ての部屋を回って行う。子どもたちも楽しそうに着いてくる。
全ての部屋が終わると今度は外だ。外壁を直し、天井も”空歩”で駆け上がり修復する。
『『『『『スゲー』』』』』
『姉ちゃん、パンツ見えてるぞ』
「これパンツじゃないから。スパッツって言うんだぞ」
『ふぅーん、パンツ白いのな』
「だから、パンツじゃないってば」
『『『きゃははは』』』
(いかん、なめられてる)
地面に降り立つと今度は周りの雑草も一掃した。
『『『『『スゲー』』』』』
「えっへん」
そうこうするうちに子供たちが戻ってきた。総勢約30名。
「こんなにいたのね。みんなはどこに住んでるの?」
『俺たちは家じゃなくてトンネルの下とかで寝てる』
『私たちは瓦にダンボールで家を作って住んでるよ?』
「そっかー」
何も言えなかった。面倒見てあげたいのは山々だけど、こんなにたくさんは無理だ。
(食べさせてあげる事はできても、住む場所が無いとねぇ。やっぱ拠点欲しいなぁ)
「それじゃ、ご飯食べながら身体の悪いとこ治していこうね」
『『『『『うんっ』』』』』
* *
【時差情報:-17時間】日本:1時 ヘンダーソン島:前日の8時
『『『『『うわっ』』』』』
『姉ちゃん、ここどこだ?』
『海だー』
『わーい』
「ここは誰もいないからゆっくり食べられるよ」
アイテムボックスからバーベキューセットとテーブル、食材、飲み物、皿などを取り出し、みんなに手伝って貰って、食材を切って串に刺していく。
みんなには海で手洗いさせた後、更に”清浄”で綺麗にしたから完璧だ。
「それじゃ、食べていいよー。召し上がれー」
『『『『『いただきまーす』』』』』
ある程度まとめて焼き上げた後、全員に配り、飲み物もコップに入れて食べさせた。
「治療始めるからおかわりは自分で焼いてね」
『『『『『うんっ』』』』』
「それじゃ最初はまとめてかけますか、”範囲超回復”!」
いつものように光の奔流がさざなみのように広がっていく。
『『『『『うわぁー』』』』』
「うん、これでほとんどの子は大丈夫ね。それじゃまだの子は一人ひとり治していくよー」
「お姉ちゃん、この子…」
ミラちゃんが一人の子を連れてきた。そこにはゴホゴホと咳をする女の子。あれで治らないとはかなり重症のようだ。
「お名前は?」
「え…ゴホッ…エマ」
「そう、可愛い名前ね。それじゃすぐに病気は退治しちゃおうね。みんな眩しくなるからちょっとだけ目を閉じてー」
「うん…」
『『『『『うんっ』』』』』
(こんなに小さいのに危ない状態だったんだね。市は何をやってるのよ。放置なの?ムカつくわー。
っていけないいけない。今は治療だ。”完全治癒”!)
「はい、もう良いわよー」
「うわぁ、お姉ちゃん、胸が苦しくないよ。治ったの?」
「そうよー。もう大丈夫だからねー」
「わーい。ありがとー」
エマちゃんが胸に飛び込んできた。ぐふっ、不意打ち禁止…。
エマちゃんが離れてくれないので膝の上に抱きかかえながら治療を続ける。
「お姉ちゃん、次この子…」
「おっけー」
連れられて来た子は足を引き摺っていた。鑑定では冬の間に凍傷になって壊死しつつあった。
「これは酷いわね。辛かったでしょう?もう大丈夫だからね、治してあげるね」
「本当?」
「えぇ、もう安心していいわよ。お名前はなんて言うの?」
「マイケル。みんなマイクって呼ぶよ」
「そう。それじゃマイク君。お目々つぶっててね。みんなもね」
「うん…」
手を取って魔法を唱える。(”完全治癒”!)
「あ、あ、足が…足が動く…うわーん」
マイク君も抱きついてきたのでエマちゃんを抱えてない方の手で抱きしめてあげた。
周りのみんなを見ると驚いて食べるのを忘れているようだった。
「次ミラちゃんの番ね」
「わ、私?私は大丈夫よ?」
「嘘おっしゃい。あなたも放っておいたら死ぬわよ」
「え、嘘。私病気なの?」
「最近疲れやすいとか身体が重くて動けないとかない?」
「え…うん、ある」
(本人は気づいてないのかー。肝臓がんが末期なんだけどなー。気づいて良かったよ、”完全治癒”!)
『『『『『眩しいーっ』』』』』
「あ、ごめ、言うの忘れてた。てへっ」
「お姉ちゃん、身体が凄く軽いよ。さっきまでと全然…違うよ…うぅ、これでもう死なないよね?」
「うん、もう大丈夫よ。安心して」
そう言ってミラちゃんの頭を撫でて上げた。本当は抱きしめたかったけど定員オーバーだ。残念。
それからみんなでお腹いっぱいご飯を食べたあと元いた場所に帰還した。
* *
【時差情報:-13時間】日本:1時50分 マンハッタン:12時50分
『あ、戻ってきた』
『凄ーい』
「それじゃちょっとだけ市長のところ行ってくるから、ちょっとエマちゃん借りるわね」
『エマも連れていくのか?』
『ちゃんと返してね?』
「”こんなに小さい子が病気だったんだよー”、って怒ってくるよ」
「お姉ちゃん、そんな事して大丈夫なの?私たち、ここを追い出されない?」
「ミラちゃん、ここの場所は言わないよ。もし追い出されたら何とかするから心配しないで」
「うん、分かった」
それからエマちゃんを抱いたまま市長室にお邪魔した。
「ハロー」
「なっ、誰だ。いつの間に入った」
「市長さん、私はソル。神様の代理人よ。ご存知かしら?」
「ソル、さん?あの?」
「あら、こちらでも有名なのね。たぶんそのソルさんよ。
ちょっといいかしら。私かなり怒ってるんですけど」
「初めましてですな。私はこのニューヨーク市の市長をしてますドルフ・ジュリアと言います。さて、何を、怒ってらっしゃるので?」
「この子先程見つけた浮浪児なんだけど、かなり重症の肺炎だったの。
他にも末期の肝臓がんを患った子や、凍傷になって足が壊死しかけてたりとか酷い有様だったのよ?どういう事かしら?
この市はこんな小さい子も見捨てるの?この子なんてもう何日も持たなかったわよ?」
「すまん。浮浪者までは面倒見きれないのだ」
「えぇ、浮浪者はいいわ、別に。働かない大人はそいつが悪い。面倒を見る必要もない。
でもね、親がいない子は別よ。この子たちは働きたくても働けないじゃない。子供には罪がないのよ。周りの大人が支えてあげなくて誰がやるって言うの?」
「まさしく、おっしゃる通りで…」
「そちらで面倒見きれないなら私が面倒見るから、どこか大きめの建物譲ってくれないかしら。今は30人だけどこれからも増えると思うからそれなりの大きさが欲しいんだけど、もちろんタダとは言わないわ。お金は払うから私名義で土地と建物を見繕ってくれない?但し、そちらも負い目を感じるなら金額は勉強して頂戴」
「わ、分かりました。連絡はどのようにすれば」
「あら?私の事知ってるんじゃないの?私のサイトまだ見てないの?」
「す、すみません。名前は部下などから聞いて知っているのですが、そこまでは」
「それなら名刺とチラシも置いて行くわね。私の活動方針とか書いてあるから目を通して貰えると嬉しいわ」
「了解です。しかし、ソルさん、気をつけたほうがいいですよ」
「何を?」
「政府がCIAやFBIを使ってあなたの事を調べているようです」
「別に構わないわ。もし捕まえようと思っても不可能だからね」
「不可能とは?」
「私がここに来た時の事忘れたの?どうやって来たと思ってるの?」
「あ、そういえばそうですな。気づいたら突然そこにいたので」
「それじゃ証明してあげるわ」
「えっ?」
そう言うと市長を連れて日本に転移する。
「こ、ここはどこなんです?」
「ここは日本の東京。まだここは真夜中なのよ。ほらあちらに有名な浅草の雷門があるでしょ?知ってる?」
「えぇ、以前にも来た事ありますので。はい、確かに確認しました。これなら捕まえるのは不可能でしょうなぁ」
「その通りよ」
再度元の市長室に戻ってきた。
「あ、そうそう。そのチラシにも書いてあるけど、不法投棄とか大規模なゴミ捨て場とかの処理も有償ですがサイトにて受付ております。アドレスもそちらに。
それから人間のクズ共の掃除も引き受けてます。昨夜のデトロイトのようにね。あれ?昨夜だっけ?ま、いいわ。
但し、天罰の対象となるほどの極悪人たちはその場で永久に退場頂きます。それ以外は警察まで連行して差し上げましょう。要らないならその場でもう二度と悪いことしたくないと思わせるほどの説教をして解放しますけど」
「おぉ、そんな事まで。それは素晴らしい。検討の価値がございますな。了解しました」
「それじゃ土地と建物の件、お願いね。これで失礼するわ」
「えぇ、わざわざお越し頂きありがとうございました」
コクリと頷いて天使の羽を広げ光を撒き散らせながら中空で転移した。
* *
「ただいまー」
廃屋の中に戻ってきた。
「市長が考えてくれるって言うからそれまで今のまま辛抱しててね」
『姉ちゃん、それってどういう事だ?』
『もう追い出されないの?』
「まだ何も決まってないから、決まったら教えるよ。食べ物と飲み物も置いていくから。あ、お金も少し置いていくよ。無駄遣いしないでよ?」
近くにあった壊れたテーブルを修繕し、その上にクロスを被せ、弁当や果物などの食べ物、そして飲み物などを置いていった。
最後に一番しっかりしていそうなミラちゃんに10ドル紙幣を10枚ほど渡しておく。
「このお金はミラちゃんがちゃんと管理するのよ。無駄遣いはしないでね。もし誰かに取られても無理して取り返そうとしちゃ駄目よ。その時は私が取り返して上げるからね」
「うん、分かった」
「あ、そうそう。この家狭いけど、暫くはみんなここで暮らしなさい。仲良くするのよ?」
『『『『『うん、分かったー』』』』』
廃屋の中の壊れたベッドや家具などを使って大きめの簡素なベッドを作っていく。その上にダンボールを何層か重ねて固定し、その上にシーツを縫い合わせ、枯れ草などを入れた簡易敷布団を置いておく。それを各部屋回って同じ処理をしていく。
(新しい建物に移ったらちゃんとしたベッドを買ってあげよう)
『『『『『スゲー』』』』』
(あんたたちそれしか言えないのか?)
「それじゃまた来るけどもう帰るわね」
『『『『『もう帰っちゃうの(か)?』』』』』
「うん、私のいたとこは真夜中で本当は寝てる時間なのよ。もう眠くて。ごめんね」
『そうなのか。姉ちゃんも大変だな』
『来てくれてありがとー』
『また来てねー』
「うん、それじゃ…ってエマちゃん?」
エマちゃんが私の服を掴んで離してくれない。
「行かないで…うぅ」
(やばい、幼女の泣き顔には精神が持っていかれる。泣かないで…というかどうしよう。お持ち帰りしたらあずさちゃんに怒られるよねー。うーん…仕方無いか)
「分かった。エマちゃんだけ連れて行くね。次来る時は一緒に連れてくるからね。ごめんねみんな」
『エマは泣き虫だなー』
『仕方無いかー』
『うん、分かったよ』
それから自宅に戻るとソファでラクワちゃんが寝ていた。
廃屋の掃除したからこのままでは眠れないので、夜中だけどエマちゃんとお風呂に入り、私のTシャツを寝間着代わりに着せてあげる。
眠れるようにエマちゃんに温かいミルクを飲ませてあげる。おねしょしないようにおトイレも行ってもらった。
それから歯を磨いてテレビや電気を消して戸締まりをすると、ラクワちゃんを抱え、エマちゃんの手を引いて2階に上がる。みんなを起こすわけにもいかないので、フランちゃんたちの部屋へ行き、ベッドを並べてラクワちゃんを寝かせ、エマちゃんと一緒にベッドに潜り込んだ。
ふかふかのベッドにエマちゃんがはしゃぎそうになったが、何とか静かにしてもらい、抱きしめてあやしていると、まもなくエマちゃんも寝始めたので、私も電気を消して寝たよ。めちゃ疲れた1日でした。お疲れ様ー、私ー。




