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誘拐未遂

◆西暦2000年5月12日(金)◆


「おはようー」

「「「おはようー」」」

 いつもの事だが、朝起きてすぐ側に天使たちがいる毎日。

(断言しよう。お姉ちゃんは世界一幸せじゃ~)

 一番近くで寝ているフランのボサボサ髪の毛を優しく()いてあげた。


(あれだけ行き当たりばったりにならずに計画的にって言ってたのにこれだよー。私ってばもっとしっかりしないと…)

 最近の行動を思い出して、相変わらず無計画だなぁ、と溜息をついた。

 

 それからゆっくりとベッドから抜け出し、洗面をすると朝食の準備に取り掛かった。

 ま、いつものお手軽ベーコンエッグなのだが、手作りする事が大事なのだ。たぶん。

 みんながフラフラと階段を降りてきて洗面を終えると、いつもの日課の訓練を行う。もうみんなも慣れてきたようだ。

(考えてみると、あずさちゃんとの養子縁組からまだ10日しか経ってないのね。あっと言う間だったけど、結構濃い毎日だったなー)

 そんな事を考えながら、訓練を終えて家に入るあずさちゃんの頭を思わず撫でてしまう。習慣とは恐ろしいものだ。無意識だった。

「お姉ちゃん?」

「ううん、みんな私と一緒にいてくれてありがとうね」

「「「うんっ」」」


 それから朝食を食べ、軽くシャワーを浴びる。これから学校があるからね。汗臭い女の子は嫌われちゃうんだぞー。あ、みんなの汗は臭くないよ。ほんとだよ?一応念の為にね。

 2人を学校に送りながら、

「明日は休みだよね?ロビー活動一緒に行けそう?」

「「うん、大丈夫だよ」」

「来週月曜日からはファティマちゃんも学校だから宜しくね。特にフランちゃん、お姉さんなんだからファティマちゃんを守るのよ?」

「分かってるよー。任せといてー」

 どんっと胸を叩くフランちゃん。可愛いけど痛そうな事しないでー。

 ファティマちゃんは嬉しそうにフランちゃんに抱きついている。わ、私も…。


     *     *


「それと、明日からロビー活動するにあたって、活動中のみんなの呼び名を変えようと思います。

 顔隠しても本名で呼びあったら意味無いでしょ?」

「あー、そうだね」

「「うん」」

「そこで考えたのがこれです」

 名前を書いた紙を渡す。それぞれの名前はこうだ。ちなみにひなたの名前の語源も記載してある。

 

 ひなた → ソル:北欧神話に登場する太陽の女神”ソール”から。

 あずさ → わか:日本神話に登場する女神”稚日女尊(わかひるめのみこと)”から。

 フラン → テト:エジプト神話に登場する女神”バステト”から。

 ファティマ → サラ:ヒンドゥー教神話の女神”サラニュ”から。


「”わか”って男の子みたいじゃない?」

「うーん、私もちょっと思ったけど、あるアニメのアイドルユニットのボーカルの女の子が確かそれだから大丈夫だと思うよ」

「どこからそんな情報仕入れてくるのよっ」

「”テト”は?」

「それはねー、ボーカルエマドロイドとかバーチャルアイドルにそんなのがあったはず…確か…」

「ネットにも引っかからないけどそれって今の時代なの?異世界?さっきのアイドルもそうなの?」

 鋭いツッコミのあずさちゃん。そう言われればどこからの知識なんだろう?知識さんの新たなる一面か!?

「サラニュさまかー。嬉しいー」

「まぁ、由来はポイッしちゃおうね。それじゃ、そう言う事で」

「「・・・」」「はーい」

 有無を言わさず学校に送って行った。


(今週はファティマちゃんがずっと家にいるし、勉強もあるから仕方無いけど、来週からは計画的にいくぞー。おぉー)

「あ、ファティマちゃん、今日ってお父さんの遺骨を拾う日だよね?確か行かなくていいって言ってたけど、大丈夫?」

 自宅に戻ると念の為聞いておいた。聞き辛いのでみんなを送ってからがいいと判断したからだ。

「うん、私、斎場には入れないから。行っても村で一人で家にいるぐらいしかできないから」

「あー、そう言えばそう言ってたね。女の人は斎場に入れないとか…」

「うん」

「ごめんね、悲しい事思い出させちゃって」

「ううん、今日の事は分かってたし、どうしようもないから大丈夫だよ」

「そっかー。ファティマちゃんって強い子だね」

 ギュッと抱きしめてあげた

「お父さんみたいには無理かもしれないけど、これからは私がお父さんの代わりにファティマちゃんを大事にするからね。安心してね」

「うんっ」


     *     *


 少し休憩したら、いつものお勉強タイムである。1年生の教科書の続きからやっていく。

 ファティマちゃんは本当に勉強が好きなのか、嬉々として(こな)していく。

(うぅ、ファティマちゃんが眩しくて見れない…もしかしてインドの人ってみんな勤勉家なの?この子だけ?)

 こちらがたじろぐ程、勉強に対する姿勢も吸収力も凄いものがあった。

 

 それから約2時間ほど勉強した後、いつもの狩場へ向かった。

(この子には狩りなんてさせない方がいいのかな…学者さんとか目指させたほうが良かったかな…)

 今更ながらそう思ったが、外に出ると、勉強とは別の一面を発揮した。


(もしかして文武両道とはこの子の事を言うんじゃないだろうか?)

 身体を動かすのも好きみたいで、昨日以上に精力的に動き回っていた。

「ファティマちゃんって疲れた事ないんじゃない?」

「うーん、分かんない」

「そっかー。あはは」


 途中レベルが上がったようなので、ステータスを見てみた。

 名前:春日ファティマ

 年齢:8歳

 レベル:6

 HP:106/106 MP:184/184

 STR:24 VIT:33 INT:30 MND:35

 AGI:31 DEX:46 LUK:54

 能力:料理Lv2 掃除Lv2 洗濯Lv2 弓術Lv2 短剣術Lv2

    格闘術Lv2 気配察知Lv1 気配遮断Lv1 警戒Lv1

    消音行動Lv1

 祝福ギフト:ひなたの寵愛

 称号:救われし者

 

(な!?えっ?…ファティマちゃん、まじかー。あんた何者なの?すげーな。

 隠密系のオンパレードだ。ふぅー、びっくりだよー。これはあずさちゃんたちにもやらせてみよう)


     *     *


 お昼はいつもの孤児院。今日は狩りの前にお昼お邪魔する事をお願い&肉の提供をしてあったので余裕である。

「やっほー、きたよー」

『あ、姉ちゃんだ』

『お姉ちゃん、いらっしゃーい』

『昨日来たばかりなのに珍しいのな』

『ミシェルくん、そんな事言っちゃ駄目だよー』

『わ、分かった』

「大丈夫よ。みんなの顔が見たかったからねー。今日もお昼一緒していいかな?」

『おぅ』

『もちろんだよ』

『嬉しい~』

『今日は私がお姉ちゃんと食べるー』

「うふふ。いいわよ。それじゃ院長先生の所に行きましょうね」

『うんっ』

 右手にはこの子、左手にはファティマちゃんを連れて中に入る。

(うー、幸せ~。モテる女は辛いのぉ~)

 

「院長先生、今日もお邪魔します」

「いえ、いつもお土産ありがとうございます。ささ、どうぞこちらへ」

「「はい」」

 今日はケーキ持参である。ここに来る直前に買ってきてある。まだ出さないけどね。


『『『『『いただきまーす』』』』』

 みんなでお昼を頂く。今日はお肉たっぷりの回鍋肉(ホイコーロー)だ。

 キャベツやピーマンなど必要な物を持ってたのでこれにした。違うのは肉の量が若干多すぎるところだ。

 日本で購入した甜麺醤(テンメンジャン)豆板醤(トウバンジャン)を使った本格的なものを目指した。

 今回も大盛況でみんな一心不乱に食べている。

 

 お隣の幼女が一生懸命口元を汚しながら食べるのを愛でながら世話を焼いていたら、いつもは静かに食べるのに、気づけばファティマちゃんも口元を汚してじっとこっちを見ていた。

(ぐふっ、この攻撃は想定外だよー。やるなー、ファティマちゃん。ってか幼女に対抗意識燃やしてどうするよ。嬉しいからいいけどさ。

 って、そう言えば、ファティマちゃんも幼女だった。あまりにもお姉さんしてたからつい忘れてたよ)

 ファティマちゃんの口も拭いてあげて、さり気なく抱きしめてあげた。あまり派手に抱きしめると周りの子が群がって来るのだ。

 

 そして気づくと、たくさん作ったのに全て平らげていた。すげーなお前ら。


 そしてみんなお待ちかねのスイーツタイム。ご飯が終わって寛いだり、遊び始めるみんなを見てアイテムボックスから(おもむ)ろにスイーツを出した。

『なっ、それってもしかして』

『えっ、今日も狩りに行ってたって、さっき』

『さては、騙したなっ』

「わははー、してやったりじゃー。今日も無いと思ったか?どうなのだ?」

『ぐぬぬ』

『お姉ちゃんが意地悪な顔してるー』

「ぐふっ、ご、ごめんね。冗談はこれぐらいでみんなで食べようね」

 幼女の攻撃は半端無い。精神が持っていかれるよ。


 お昼が終わり、お(いとま)する事となった。

「それじゃ、院長先生ごちそうさまでした。また来ますね」

「今日はみんなの反応が楽しかったわ。またいらして頂戴」

「「はーい」」


     *     *


 孤児院を後にして物陰に移動しながら話しかける。

「それじゃ午後はロビー活動の普及をメインにやっていこうか。ついでにお掃除もね。アポも1件入ってるし、時間が自由なアポも回るよ」

 平日はファティマちゃんの事や学校があるのでアポはあまり入れないようにしている。

「りょうかいー」

 時間自由な依頼元にこれから向かうメールを送る。

「それじゃ先に1件、自由なやつから寄って行こう」


【時差情報:-6時間】日本:14時 ヴァン:8時


 今日やってきたのは、トルコ東部、アルメニア・イラン・イラク・シリアの国境に近い街ヴァンに住む富豪。街のすぐ側には街の名前を冠するかなり大きい湖がある。

(うわー、3方面を紛争の多い国に囲まれてるじゃないの。これ攻め込まれたら逃げる隙ないんじゃないの?)

 そんなどうでもいい事を思いながら自宅前で待っていた初老の男性に声を掛ける。

「こんにちわ。ソルです。朝早くにすみません。」

「やぁ、そうこそいらっしゃいました。構いませんよ。私はここの主でメフメトと言います。

 ささ、このような所では何ですから、どうぞお上がり下さい」

「はい、失礼します」

「失礼します」


 居間に通され、お茶が出される。そこには上下2段になっているやかんのようなものでお茶を注いでいた。

 私がその様子を凝視していると、メフメトさんは少し楽しそうに教えてくれた。

「これはチャイダンルックと言いましてな。チャイを作る道具なのですよ。

 まず下の段に水、上の段に茶葉を入れ火にかけ、蒸気で茶葉を蒸し煮した後、沸騰したら、そのお湯を上の段に注ぐのです。

 茶葉が開けば上の段の濃いチャイを下の段のお湯で薄めて、お好みでお砂糖を入れて飲むのですよ」

 めちゃくちゃ丁寧に教えてくれた。

「な、なるほどー」

(えっちゃん、チャイって何?)

《YESマスター。こちらでは紅茶の事を指しますが、インドでは色々なスパイスを配合しており名前は同じですが中身は異なります》

(へぇー。チャイと聞いてファティマちゃんの目がキラキラしてるけど大丈夫かな?少し違うらしいぞー)


 メフメトさんの隣には移動式ベッドに寝かされている3~4歳ぐらいの女の子がいる。先程から人形を取ろうとしてるようだが、握力が弱いのかうまく掴めないようだ。

 出されたチャイを飲むと甘くて美味しかった。ちょっと濃い目だったけどね。

 隣のファティマちゃんは微妙な顔をしている。きっと思ったのと違ったんだろう。だから違うって言ったのにー、心の中で。

 

「ソルさん。本日はわざわざお越し頂きありがとうございます。

 今日見てもらいたいのはこの子なんです」

 そう言って隣の娘の髪を優しく撫でるメフメトさん。女の子はそこで初めてビクッと反応した。

(えっ、もしかして視力や聴覚にも問題があるの?)


 私の疑問が通じたのか説明してくれる。

「お気づきかと思いますが、この子には聞こえていません。具体的に説明しましょう。

 この子の病名はニーマン・ピック病のC型に分類されている病気です。

 大変珍しい病気らしく、今5歳ですが、恐らく7歳までは持たないというのが医者の見解です」

(5歳!?発達障害もあるのか…)

「ニーマン・ピック病とは、ライソゾーム病の一種で、細胞内の不要な糖質や脂質、タンパク質などを分解する機能がうまく働かない為に起こる病気です。

 これにより、コレステロールや糖脂質を体が十分に分解できずに、脳や肝臓、脾臓、骨髄などの神経細胞に溜まってしまうのです。

 この子のC型は主にタンパク質の異常が原因とされています。子供のアルツハイマー病みたいなもので、細胞内にコレステロールが溜まって、脳が適切に機能しなくなるのです」

(この歳でアルツハイマー病って…)

「色々調べた結果、シクロデキストリンという物質が進行防止や症状改善の可能性を示す研究報告を見つけたので、この子にも飲ませてみたのですが効果はありませんでした」

「シクロデキストリン?それは飲ませても大丈夫なの?」

「はい、シクロデキストリンというのは無脂肪のバターや歯磨き粉などあらゆる食品分野などで利用されているので安全性には問題ありません。

 ちなみに耳が聞こえないのはよく分からないそうです。恐らく聴覚の神経細胞に影響しているのではとの事でした」

 

(要は身体の中の不要なコレステロールを取り除いて、障害を起こしている神経細胞を修復すればいいのよね。

 でも、発達障害とか、知能の遅れとか、回復魔法でどうにかなるものなの?)

《マスター、知能の遅れはこれから挽回すればいいのです。発達障害については私に考えがあります。まずは根本たる病気の治療を進めましょう。

 幸い、マスターは先日Lv8の”完全治癒(オールヒール)”を習得されました。

 この魔法はこれまでの魔法とは一線を画する程のもので、これまでのように”空間探査(サーチ)”で病気の元を探したり、収納で除去したりなどの煩わしさから開放されます。念ずるだけでそれらも含めて全て正常な状態にしてくれるのです》

(な、な、なんじゃとー…っ!?…お、思わず声に出すとこだった。

 しかし、それは嬉しい誤算だ。そこまでスーパーチートだったとは…。

 いかん、ここは目を閉じて考えてるフリをしよう)

 

 目を閉じて、ふむ、と思案顔で俯く。ファティマちゃんが腕を強く掴んでくる。心配しているようだ。

 片目を開けてファティマちゃんの頭を撫でてから、目を開いた。

「分かりました。全力を尽くしますが、これまで回って来たケースとはかなり異なるようです。完全には期待しないで下さい」

「え、えぇ、少しでも良くなってくれれば…いや、生き延びてさえくれれば結構です」

「分かりました。お嬢さんの名前は何て言うのです?」

「スナと申します」

「そう。スナちゃん、良い名前ねー。これから身体の中から悪い病気を追い出しちゃうからねー。ちょっとお手々握るねー。痛くしないから心配しないでー」

 手を掴むと顔をこちらに向けてニッコリ微笑んだ…気がした。いや、きっとした。少し嬉しそうに見えたもの。

「ふふっ」

 頭を優しく撫でてあげる。そして…

(これは絶対失敗できない案件だ。集中しろー、私ー…すぅはぁ、すぅはぁ…よし、”完全治癒(オールヒール)”!)

 これまでとは光の量とか明るさが桁違いだった。眩しくて目を(つぶ)る程に強烈であった。

 光が収まると、

 

「わーん、お目々がまぶしいのー…お耳がー、お父さん、お耳がうるさいのー」

 急に家の外の喧騒が飛び込んで来て驚いたようだ。

(眩しいのはごめんなさいだよー)

「えっ、スナ、聞こえるのか?お父さんの声、聞こえてるか?」

「うん、うん、急に音が聞こえたのー。怖いよー」

「そ、そうか…そうか。誰か、妻を呼んで来てくれっ」

 外に向かって声を掛けると外にいたメイド風の女性が慌てて駆け出して行った。

 メフメトさんはスナちゃんを抱きすくめた。


「あ、あなたっ、スナに何かあったの?」

 しばらくすると母親が駆け寄ってきた。

「お母さーん、お耳がうるさいのー」

「え、スナ。言葉が…耳も聞こえるの?」

「お外静かにしてー、うわーん」

「スナっ」

 母親も一緒にスナちゃんを抱きしめる。

「ほっ」

 思わず安堵の息を吐いた。知らずにファティマちゃんの手を強く握っていたらしい。ちょっと涙目だった。ごめんね。

「家族団欒の所ごめんなさい。一応最終確認させてね」

「は、はい。おい、お前場所をお譲りしろっ」

「え、えぇ。分かったわ」

 

 スナちゃんに近寄ると、近くの椅子に座り、手を取ってじっと見つめる。

「スナちゃん、急にお外のうるさい音が聞こえてびっくりしたよねー。後で私がコラーって怒ってあげるよ」

「ほんと?すこし静かにしてって言ってね」

「うん、それでどうかな?お耳は大丈夫そうね。お目々もどう?」

「目は前から大丈夫だよー」

「そうなんだ。それじゃちょっと調べるね、(鑑定!)」

「うんっ」

(うん、病名は消えてるね。ちょっと衰弱してるけど許容範囲かな)

《マスター、先程の発達障害の件ですが、今の正常な状態で”時間操作(タイムコントロール)”を使って1~2年ほど発達させる方法もありますが、いかが致しますか?》

(うーん…最初はそう思ったんだけどね。でも考えたらそこまでしなくてもいいかなって。スナちゃんにはこれからいっぱい美味しい物を食べて大きくなればいいんじゃない?まだ5歳なんだしね)

《YESマスター。仰せのままに》


「うん、完全に治ってるね。メフメトさんと奥さん、もう安心していいですよ。

 一応心配でしょうから、念の為検査する事をオススメしますわ」

「そ、そうですか。いえ、ここまで変化があったのですから信用致します。ありがとうございます」

「ありがとうございました。本当にありがとう…うぅ」

 奥さんが泣き出してしまった。メフメトさんも奥さんを抱き寄せ涙目だ。

「ただ、まだ身体の方は衰弱してるのと、ずっとベッド生活でしたので無理に動かさないようにして下さいね。少しづつ歩く練習などしたらいいでしょう」

「はい、承知しました」

「はい、はいっ」

 ファティマちゃんも泣きそうになってるので抱きしめてあげた。

「スナちゃん、この子は私の妹でファティマって言うのよ。他にもあと2人いるけどね。良かったら仲良くしてあげてね」

「うん、お姉ちゃん。お友達になってくれる?」

「いいよ。これからお友達ねっ」

「うんっ」

 手を取り合ってはしゃぐ2人。可愛い。私も混ぜて~。


「それじゃ、仲良し記念に美味しいケーキを出しちゃおうかな」

 それからみんなに例のホノルルのスイーツを出してあげた。

 スナちゃんはお口の周りを汚しながら一生懸命食べてくれた。フォークを持つ手もしっかりしている。

「美味しい~」

「ねー」


「ソル様本当にありがとうございます。スナのこんなにはしゃぐ姿を見られる日が来るなんて…思いもしなくて…うぅ、すみません。つい」

「ほんとね。あなた。ソル様を連れてきてくれてありがとう。ソル様もこの御恩は決して忘れません」

「これ少ないですが」

 そう言ってアタッシュケースを差し出すメフメトさん。アタッシュケースって定番なの?

「有り難く頂戴します。それでこれも何かの縁ですから、少しご協力頂きたいのですが…」

 それから私の活動内容や、現在ロビー活動に力を入れて私の存在を周知させるべく、世界各地を回っている事などを説明した。いつものあれである。

 帰り間際、3方を紛争国に囲まれている事を思い出して、念の為スナちゃんにもビーコンを付けておいた。

(もし侵攻されたらこの子だけでもお持ち帰りしよう、うん)

 隣ではファティマちゃんがじーっと私の事を胡散臭そうに見ている。君もエスパーなのかっ。

 

「それじゃこれで帰りますね。またご家族や親類に何かありましたら連絡下さい。今ならまだ比較的対応可能です。

 オファーが次第に増えていますから、もう暫くすると対応が遅れる可能性がありますが、スナちゃんに会えるなら時間を作りましょう」

 ファティマちゃんがじーっと見ていたが、敢えて見えないフリをした。

「分かりました。その際には宜しくお願いします」

「はい、では失礼します」

 そう言ってファティマちゃんの手を取って次の目的地へ転移した。

 

「お姉ちゃん、あずさお姉ちゃんがこの前言ってた事忘れたの?少しは落ち着こうね」

「うん、ごめんなさい」

 場所が変わったとたん叱られた。

(あぅー…この性格だけはどうしようも無いのだよ、明智くん)


     *     *


【時差情報:-13時間】日本:9時14分 デトロイト:前日の20時14分


 さて、ここがどこかと言うと、アメリカ合衆国ミシガン州デトロイトなのだ。どうしてここなのかは聞かないで。昨夜自宅の世界地図にダーツを投げたらここだったから、とは言えない。

「お姉ちゃん、こっちお空、真っ暗だね」

「そうだねー、これは時差って言って日本とは13時間違うんだよー。しかもこっちは昨日なんだよー」

「昨日?え?よく分かんない」

「後で説明してあげるね。それじゃ活動開始ー」

「おー」

 そう今度はロビー活動である。病気で悩んでいそうな人を探して通りを歩く。

「ファティマちゃん、今度は車椅子の人とか歩くのが大変そうな人とか探してくれる?その人治して病気で苦しんでいる人を集めてもらうからね。ベンチとかに座ってるお年寄りでもいいよー」

「うん、分かった。見つけたよ。お姉ちゃん」

「はやっ!?えっ?言ってる側から?心の準備と言うのがあってだね…」

「それより、こっちだよ」

「う、うん、分かったよ。焦らないでゆっくりでいいよー」

 ファティマちゃんに手を握られるとドキッとしちゃうのはしようが無いよね。

 

 辿り着いた先はベンチに腰掛けるイケメンな老人だった。そう、例えるならケンタくん人形を店の前に置いてあるあの店の人形のように立派な白いひげをたくわえた男性だった。スーツも白とはやるな、お主。

「おじいちゃん、お隣座って良い?」

(おぉ、ファティマから声掛けるなんて…お姉さんもびっくりだよー)

「ふぉふぉふぉ、こんな可愛い嬢ちゃんに声を掛けて貰えるなんてもういつ死んでもいいのぉ」

「死んじゃ駄目!」

 いきなり怒鳴るファティマちゃん。

(えっ、ちょっと落ち着けファティマちゃん)

「あちゃー、怒らせてもうたか。すまんのぅ、そう言う意味じゃないのだよ。わしはまだまだ若いもんには負けんわい」

「本当?」

 寂しそうに涙ぐむファティマちゃん。

「こりゃ、一本取られたわい。安心せい、まだもう少しは頑張れるぞ」

(ありゃ、さっきより自信なさげじゃね?)

「分かった。お隣座って良い?」

「おぅ、構わんぞ」

「妹がすみません。(うるさ)かったでしょう?」

「いやいや、ほんに優しい子じゃな。久しぶりに温かい気持ちにさせて貰ったわい」

「そうですか。それなら良かったです。

 私たち観光で来たのですが、何だかみなさん、元気が無いように見えますね」

「そうじゃなぁ、やはりそう見えるか。わしが若い頃はもっとにぎやかで、街のいたるところで喧嘩騒ぎをしていたんじゃがな。今はもう見ての通りじゃ」

 おじいさんを見ると手が震えている。怒りとかそういうのではなく無意識で抑えられない、そう言う感じだ。

「おじいさん、実は私、神様のお使いなのですよ。この子はその妹」

「ふぉふぉふぉ、愉快な事を言うのぉ。してそのお使い様がこの爺に何ようじゃて?」

「おじいさん、肝臓が良くないみたいですね。足腰も辛そうです」

「なんとっ、何でそんな事が分かるのじゃ?」

「言ったでしょう?私は御使いですよ」

 そう言って背中に氷の羽と光を出現し、すぐに消した。

「今は大げさにしたくないので背中の羽は隠しますがそういう事ですよ」

「そうなんじゃな。ありがたやー」

「それじゃ早速、治して差し上げましょう」

「何っ?」


(うーん、この爺さんも糖尿病と高血圧、神経痛に悩んでるみたいね、”絶対回復(エクストラヒール)”!)

 ”完全治癒(オールヒール)”をかける程じゃないと判断したが、鑑定の結果間違いないようだった。

「おぉ、身体が軽くなりましたわい。ほんに、ありがとうございます」

 喜んだファティマちゃんが抱きついておじいさんが驚いたが、すぐに頭を撫でてお礼を言った。


     *     *


 そこへ突然、キィーっと背後で音が鳴って車のドアが開く音が聞こえる。

 あまり深刻に思わなかったのがいけなかった。気づくとすぐ側のファティマが見知らぬ男に連れ去られる所だった。

「なっ!?」

 慌てて取り押さえようとしたとたん、それは起こった。

 

 ファティマちゃんが男の腕に噛み付く。

『ぎゃっ』

 男が悲鳴を上げて腕の締め付けが緩んだ好きに、ファティマちゃんはその男の腕を捕まえると、鉄棒の逆上がりをするように蹴り上げ、そのままムーンソルトキックを男のてっぺんに叩きつけた。

『ぐふっ』

 倒れた男に周りの男たちもそれに気づいて慌ててファティマちゃんの確保に動き出す。

 しかし、そうは問屋が卸さない。”縮地(クイックステップ)”で近づいたひなたは男たちを吹き飛ばしていく。

『『『『ぐはっ』』』』

 ひなたは怒り心頭である。倒れた男たちを足蹴にして容赦なく痛めつけていった。

「私の天使ちゃんを(さら)おうだなんて、死にたいみたいね」

『ひぃっ』

「どういう事なのか説明して貰いましょうか」


 その時高速で飛来してくるものを認識したひなたは土壁を作ってそれを阻止した。

 そしてそれを認識したと同時に氷のつぶてをその狙撃手に向けて放つ。

 

『ぐっ』

 ズドンッ…

 何かが落ちた音が聞こえたがスルーである。

 

「何だか、あなた狙われたみたいよ?」

「な、何っ。くそっ、所詮用済みかっ」

「誰に雇われたのかしら?目的は何?」


 それから拷問の末、目的の首謀者の名前と居場所を突き止める。

 どうやら、私たちの活動はアメリカでもかなり有名らしく、何故か私の妹たちが高く売れると思ったやつが、偶然私たちを見つけて親玉と連絡し拉致しようとしたらしい。私は強いと判断したのかターゲットでは無かった。

(というかさぁ、私が強いって知ってて、しかも私がいる側で拉致するか普通。バカじゃないの?…あ、バカなんだよね。納得)

 それからそいつを動けなくしてから他の仲間を集めて同じように拷問したが同じ内容だった。ちなみに狙撃手は死んでた。私の攻撃か、転落死かは知らないけどね。

 

(あ、わざわざ拷問しなくても、”催眠誘導(ヒプノシス)”で聞き出せば良かったんじゃね?)

 今更ながら気づくひなた。

 そこからは簡単だった。仲間たちに案内してもらってアジトに連れてきてもらった。ついでに携帯で仲間全員に連絡をしてもらって、そのアジトに集まって貰う。


     *     *


『何だ?急に呼び出して』

『何かあったのか?』

 アジトに入るとそう訪ねてきたがその都度拘束していく。


「やっほー、おまたせー」

 アジトの一番奥の部屋に入るなりそう声をかけた。

「だ、誰だっ、お前は」

「私たちを狙っておいて、どの口が言うのかなぁー」

 ”縮地(クイックステップ)”で近づき、その口を(つね)あげる。

「いたたたっ、話せっ。このクソガキがっ」

「私ならまだしも、私の天使ちゃんに手を掛けたって事は覚悟は出来てるんでしょうねー?」

「な、何を言っている。おい、こいつらを捕まえろっ」

「サラ、暴れてもいいわよ」

「やったー」

 そこからは独壇場だった。特にサラ、もといファティマちゃんが。

 途中拳銃を出そうとしたやつがいたがアイテムボックスに回収してやった。

 混乱しているやつらを2人で徹底的にぶちのめしてやる。

 最後、泣きを入れてきたので、これまでに巻き上げた金を頂戴して、”催眠誘導(ヒプノシス)”を掛けた後、警察署へ連れて行った。

 警察もあまり信用できないので念の為そいつらまとめてビーコンをつけてやった。追跡用にね。ビーコンはグループ単位でも可能なのだ。

 

「はろー、お邪魔するよー」

「何だ!?」

 ぞろぞろ男たちを引き連れた私たちに驚愕する署の人たち。

「私の妹を誘拐しそうだったので、その首謀者も一緒に連れてきたわ。逮捕してくれる?」

「何を言ってるんだ?」

「聞こえなかったの?誘拐犯一味よ。連行しなさい」

 それからパネルを開いて騒動の一部始終を見せて説明した。

「おまえら、こんな小さい子を…」

 後は警察官にお任せである。

「私は神様の代理人ソルよ。良い?きちんと処罰して頂戴。適当に解放とかするんじゃないわよ?もしそんな事したら天罰を下すからね。冗談じゃないから。本気よ?覚えておいて」

 フロアにいる全員に聞こえるように忠告して署を出た。

(出る間際、”あのソルさんか?”とか聞こえてきたから、ま、大丈夫だよね?)

 そう楽観視して次の場所へ向かうのだった。それが尾を引くとは思わずに。


「あ、おじいさん、放ったらかしだった」

「あぁ、私が謝っておいたから大丈夫だよ」

「えっ、いつの間に!?」

「えへへー」


 それから不法投棄を(かた)したり、ロビー活動、時間自由なアポ先を周り帰宅した。


     *     *


「「ただいまー」」

「「おかえりー」」

「おっ、もう2人共帰ってるみたいね」

「うんっ」


 今日は疲れていたので出前を取った。何とうな重である。

 学校での出来事を聞いたり、私たちの事を話したりして食事は和やかに進んだ。

 デトロイトの件はとても心配してくれて、2人共ファティマちゃんを優しく抱きしめてたよ。私は?私には無いの?グスン。


 ただその後、うな重はみんなには大好評だったが、少し足りないようだったのでフライドポテトや冷凍肉まんなどをレンジでチンして出してあげた。


「美味しかったね。うな重」

「うん、また食べたいね」

「今度は多めにしてもらおう。特上とかならいっぱい入ってるかな?」

「そう聞いてみれば?そう言うのは相談に乗ってくれると思うよ」

「そうね。そうしようか」


 ちびっ子2人はいつもの食後のあれである。そう白黒のやつだ。プリティーキュアだ。

 私はスナちゃんのナイスショットを印刷中だ。居間がどんどん美少女度を増していく。みんなの視線が痛いが気にしない。

 もちろん、今日の出来事も活動報告に載せておいた。

(あいつらはどうしているかなー…お、うんうん、ちゃんと牢屋に入ってるね。よしよし)

 ビーコンを取り付けたやつらの様子を見ると、勝手に解放とかされてないようでひと安心のひなた。


 それから暫くして、お風呂に入ってから、歯磨き、寝間着に着替えて就寝したよ。

(はぁー、やっぱ自宅が一番だね。みんなと一緒にいる時間が一番ほっとするよー)

「おやすみー」

「「「おやすみー」」」

これまでの世界各地の時差を元に話しの流れ的に矛盾がある箇所などを訂正しました。

例)マンハッタンセントラルパーク(時間系列では向こうは夜なのに気づき) ☓おはようございます → ○こんばんわ に訂正。


すみません、次話は1日遅れます。半分は出来てるのですが、その後どうしようかと。明日には上げられるよう努力します。

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