ファティマ特訓
◆西暦2000年5月11日(木)◆
朝起きて、洗面をするとみんなで日課の訓練をする。
今日からファティマちゃんを育てる予定だ。
朝食後、2人を学校に送ると、ファティマちゃんはまず勉強。
1年生の教科書を出し、ひらがな、カタカナの書き取り、簡単な計算練習など、フランちゃんとやった事を改めて教えていく。
指を使った計算から、お菓子を並べての2桁の計算まで教えていく。家でも少しは勉強していたのか、計算は問題なく出来た。
2時間ほどみっちり勉強したら、少し休憩を取って異世界へ連れて行く。
今回はギルドへ立ち寄らず、直接狩場に向かう。
* *
「ファティマちゃん、フランちゃんたちもやった訓練を今からします。
この世界には地球にはいない魔物というものがいます。
この魔物は放っておくとどんどん増えてやがて人や村を襲います。
なのでその魔物を倒す為、この世界には私やあずさちゃんのような冒険者という仕事があるのです。
最初は怖いかもしれませんが、必ず守るし、動けないようにしてから倒すので心配はいりません。
ここまで分かった?」
「うん、私にも出来るかなぁ?」
「フランちゃんにも出来たのだから、ファティマちゃんもきっと大丈夫よ」
「わ、分かった。頑張るね」
「おぅ、頑張れー」
アイテムボックスから弓と矢、鞘付きの短剣を取り出して渡す。鞘は腰のベルトに装着。
「それじゃ、今から弱い魔物を探して倒しに行きましょう、”空間探査”!」
一番近くにいる魔物の元へ森の中ファティマちゃんと進んでいく。
”ファティマちゃん、向こうに緑色した魔物が3匹いるでしょ?ゴブリンよ。今からあれを狩るよ。それじゃ弓を射る準備して”
”うん、分かった”
ボソボソと会話をして、ゴブリンに”停止”をかけて動きを止めた。
ちなみにファティマちゃんの洋服には”物理攻撃無効”と”魔法攻撃無効”を付与している。一応無敵状態だ。
『グギャッ?』『『グギッ』』
「よし、動けなくしたから射って」
「うんっ」
バシュッ…
チッ…
「うぉー、惜しい。ちょっとカスッたね。当たるまで繰り返し発射だー」
「おー」
『グギャギャギャ』『『グギギッ』』
バシュッ…バシュッ…バシュッ…
ドスッ…ドスッ…ドスッ…
これまでの朝の訓練が功を奏したのか数回放っただけで当たるようになった。
「あ、お姉ちゃん、弓術が上がったって」
「うん、そう言うのは後から見るからねー。今は気にしないでー」
「はーい」
「それじゃ、弓はその辺に捨てて、今度は短剣で止めを指しに行くから準備して。弓は終わったらまた回収するからね」
「うん、分かった」
そう言うと鞘から短剣を取り出した。
「急所は人間と同じ、首や心臓だからそこを狙って。突撃ー」
「おー。えいっ」
ザシュ…ズブッ…バシッ…
最初はぎこちなかったが、程なくしてゴブリンは動かなくなった。
「やったよ。お姉ちゃん」
「うん、よくやったよ、ファティマちゃん。短剣の扱いがうまくなったね。流石私の妹だ」
「えへへ」
「初めて魔物倒したけど怖くなかった?」
「うん、ちょっと怖かったけど、お姉ちゃんのお手伝いしたいから」
「そっかー。ありがとー。嫌な事させてごめんね。いつ悪い人に目をつけられるか分からないから、みんなには少しでも強くなってもらう必要があるんだよー」
「分かったー」
抱きつこうとして、返り血だらけになっているファティマちゃんの惨状に気づくと、慌てて”清浄”をかけ綺麗にしてから、ギュッと抱きしめてあげた。
それから魔物を見つけては倒し、見つけては倒しを繰り返していく。
途中から”停止”ではなく”遅延”にしたり、時々格闘術もやらせてみたりした。
(何となくこれまでのみんなの成長見てたら、得意分野が見えてくるね。
あずさちゃんは魔法向き、フランちゃんは近接特化、ファティマちゃんは魔法も使える斥候タイプって所かな)
それならばと、ファティマちゃんに魔物の居場所を気配で感じ取る事や出来るだけ音を立てないように近づく事などを意識させてやらせてみた。
お昼近くなったので街を目指しながらファティマちゃんのステータスを見てみる。
名前:春日ファティマ
年齢:8歳
レベル:5
HP:96/96 MP:167/167
STR:21 VIT:30 INT:27 MND:31
AGI:28 DEX:41 LUK:49
能力:料理Lv2 掃除Lv2 洗濯Lv2 弓術Lv2 短剣術Lv2
格闘術Lv1
祝福:ひなたの寵愛
称号:救われし者
(どこかに偏っているわけでもなく、オールラウンダーってところかな。やっぱ隠密系はまだ取れてないか。ま、当たり前だよね)
途中で見つけたワイルドボアを持ってギルドへ向かう。
ファティマちゃんはまだ市民カードも何も持ってないから途中孤児院に置いてきた。
ギルドで挨拶後、討伐部位を精算し、カザドさんにワイルドボアの解体と一部を除いて買取をして貰った。
それから孤児院へ戻る。みんなで昼食を食べる為だ。
* *
「やっほー」
『お姉ちゃん、来たと思ったらファティマちゃん置いていなくなるからびっくりしたよー』
『ファティマちゃん捨てられたのかと思ったー』
「そんなわけないでしょ。ちょっとギルドに行く間見てもらっただけよ。
それよりもお肉持ってきたからお昼ご飯一緒していい?」
『うん、院長先生に言ってくるね』
『わーい、お肉だー』
『今日は何の肉持って来たんだー?』
「ワイルドボアだよー。美味しいよー」
『まじか、やったー』
『ワイルドボア美味しいよねー、うちも好きだよー』
『うんうん』
「あら、ひなたさん、いらっしゃい」
「院長先生、お肉持ってきたのでお昼一緒していいですか?」
「えぇえぇ、構いませんよ。どうぞ上がって頂戴。ファティマちゃんもね」
「うんっ」
それからみんなで仲良くお昼ご飯を食べた。
ファティマちゃんはみんなと混じって食べている。ちょっと寂しい。女の子から人気なのだ。
その代わり私の側には幼女が座っている。この子も私に懐いていて可愛い。お持ち帰りしたろか…。
『姉ちゃん、今日はケーキ無いのか?』
『お姉ちゃんのケーキ美味しいよねー』
とか聞こえてきたが、”今日は狩りに行った帰りなので買ってきていない”と言ったらがっかりされた。ごめんね。
院長先生に注意されて謝ってくれたけどね。
ファティマちゃんがみんなと仲良く遊んでいる為、”ここに夕方まで残るか”と聞いたら、”一緒に行く”と言うのでお暇する事にした。
「院長先生、また来ますね」
「えぇ、いつでもどうぞ」
『『『『『またねー』』』』』
「バイバーイ」
* *
「ファティマちゃん、ちょっと本屋で日本語の勉強出来そうなの買って行こう」
「はーい」
東京の大型書店に行き、(店内の)道に迷いながら、店員に聞きながら、目的地へ辿り着いた。大きすぎるのも問題である。
「流石大型書店、たくさんあるねー」
「凄いねー」
日本語学校の教科書とか問題集を見比べ、初級編1と2、ワークブックを買った。あまり買っても意味ないしね。図解が多くて分かり易いと思ったものにしたよ。
自宅に戻り、手洗いとうがいをすませる。これは道徳の本で学んだ事だ。
それから一緒に教科書を見ながら、自分のノートに書きながら声に出して覚えていく。もちろん指輪やアンクレットは無しである。
付きっきりで教えながら合間を見て、専用サイトをチェックしていく。
(うぅ、不法投棄の報告が大変な事に…
あ、マンハッタンの公園で会ったおばあちゃんからメール来てる。今度の土曜日朝10時にか。オッケー、返事しちゃお。
“疾病相談窓口”も何件か来てるね、これも返事して日程を詰めよう)
ファティマちゃんは結構真面目な正確らしく、コツコツと真剣に勉強している。
学校の時間と同じ45分で一旦休憩とし、オレンジジュースを出してあげた。
「ファティマちゃん、良いペースで進んでるね。あまり焦らなくてもいいからね」
「うん、でも勉強面白いから」
「そっかー。それは素晴らしい」
頭を撫でてあげた。とりあえずフランちゃんと同じレベルまでには上げとかないと。
昨日あんなにアニメに嵌って、日本語も流暢にセリフを喋ってたから、もしやと思ったが、やはり何度も聞いたセリフしか覚えていないそうだ。だよねー。
(あ、アリサちゃんの退院祝いのお誘いも来てるね。オッケーと)
あまり根を詰めても飽きるだろうし、それに今度はフランちゃんが付いてこれなくなると困るので切の良い所で終了とした。
「ファティマちゃん、お疲れ様~」
「うん、お姉ちゃんもありがとー」
「はーい」
それから少し休憩した後、フランちゃんが帰って来るまでの間、一緒に何件か不法投棄の通報場所を廻っていく。
基本的に外に出る方が好きみたいだ。
* *
「「ただいまー」」
「おかえりー」
丁度良い時間に帰宅するとフランちゃんがオレンジジュースを飲みながらテレビを見てた。帰ってきたばかりみたいだ。
「もう帰ってたのね、おかえりー」
「おかえりー」
「うん、ただいまー」
それから学校の事を聞いたりしつつ、宿題をやり始めたので私は久しぶりに庭の掃除をする為外に出た。
「うーん、雑草はあんまり育ってないけど、いっちょやりますか」
前回と同じサーチ&デストロイ、じゃなくて、サーチして一括収納と…はい、終わりー。
それから土を均し、水を撒いて、何か野菜でも植えようかと思案しているとあずさちゃんも帰ってきた。
「お姉ちゃん、ただいまー」
「おかえりー。家に入ったら手洗いとうがいねー」
「はーい」
あずさちゃんが宿題をやり始めた頃、宿題を終えたフランちゃんには先程までファティマちゃんがしていた日本語の勉強をさせる事にした。
ファティマちゃんが教師役で、同じとこまで教えて貰う事でファティマちゃんの理解度も深まるのだ。
私はアポが入っていたのでそちらへ向かった。その後で近くの不法投棄も処理しておく。
更に貧しい家庭の多そうな村を回り村長を捕まえて持病を治してあげ、ロビー活動を行っていく。マンハッタンや、アリサちゃんの時のあのパターンである。
《回復魔法がLv8に上がりました》
(久しぶりに回復魔法が上がったね。ちょっと早い気もするけど神様の加護だもの仕方無いよね)
活動も終わりどうしようかと思案に耽るひなた。
(うーん、夕食まで少し時間あるから、今日はちょっと凝った料理を作ろうかな。と言ってもハンバーグだけどね。てへっ)
(あ、赤ワインも買わないと行けないから大人モードで行こう)
それからスーパーに向かい、牛豚合びき肉と玉ねぎ、赤ワイン、ナツメグや足りない調味料、付け合せ用にベビーリーフやパセリ、人参、じゃがいもなどを購入していった。
(スープはカップスープがあったし…飲み物は…ペットボトルのお茶でいいか)
会計を済ませると急いで自宅に戻る。まだ少し早いと言ってもこれから手作りとなるとちょっと心配であったからだ。
* *
「ただいまー」
「「「おかえりなさーい」」」
手洗い、うがいを済ませるとすぐにキッチンに。先にご飯をセットする。
次に人参とじゃがいもはシャトー切りにし水に浸しておく。付け合せ用の事前準備である。
それからメインのハンバーグ作りだ。
フライパンに有塩バターを溶かし、みじん切りにした玉ねぎを飴色になるまで炒める。そして、粗熱を取る為、パイレッシュに移す。
パン粉に牛乳を少量入れ2分ほど放置。その間にひき肉に塩、胡椒、卵、そして先程の牛乳入りパン粉を投入。更にナツメグをほんの少し加えてよく捏ねる。
最後に炒めた玉ねぎを投入して混ぜ合わせる。真ん中を凹ませた楕円形になるように4人分のハンバーグのネタを作る。
次のデミグラスソースを作る前に先にハンバーグを焼いていく。両面に焼き色が付いたら蓋をし、弱火で3分ほど蒸し焼きにするのがコツだ。中まで火が通ったのを確認したら冷めないうちにアイテムボックスへ放り込む。
ここで焼いたフライパンを洗っちゃ駄目だぞー。デミグラスソース作りに必要だからね。
そのまま続けて、ソース作りだ。
同じフライパンに赤ワイン、ケチャップ、中濃ソース、しょうゆ、砂糖、有塩バター、そしてここでおろしにんにくを少量入れる。これもコツだ。
それらを混ぜて、中火で3分程加熱し、とろみが付いたら、先程のハンバーグのネタを皿に並べ、その上からかけていく。
一旦、ハンバーグの載った皿を収納し、今度は付け合せの準備だ。
事前準備しておいた人参を水切りし、大さじ1の水を加えた皿にラップをしてレンジで2〜3分柔らかくなるまで加熱する。
次にじゃがいもは水を追加せずラップだけをしてレンジで3分程柔らかくなるまで加熱。
フライパンにバターを引き、柔らかくなった人参とじゃがいもをさっと炒めて塩・コショウで出来上がりだ。
先程のハンバーグの皿にそれらを並べて、ベビーリーフも添え、ハンバーグの上にパセリを振って完成。
「美味しそうな匂いがするー」
「美味しそうー」
そんな声が居間から聞こえてくる。うん、丁度良い時間かな。ご飯もオッケーと。
カップスープ用のお湯を沸かしながら、
「テーブルの上片付けてくれるー」
「「「はーい」」」
と声をかけ、カップにスープの元を入れ、お湯が沸くのを待ちながら、
「それじゃ、運ぶの手伝ってー」
「「「はーい」」」
みんなで手分けして料理を運ぶ。ご飯をよそう係、ハンバーグの皿を運ぶ係、沸いたお湯をカップに入れる係、自ら率先してやってくれる。
最後に人数分のコップとペットボトルのお茶を持っていき、みんなのコップに注いだら準備万端だ。
「それじゃ、頂きましょうか」
「「「うん」」」
「いただきます」
「「「いただきまーす」」」
「うわぁー、美味しいー」
「お姉ちゃん、これ最高だよ」
「上のソースも美味しいー」
みんな真剣に食べている。大好評のようで良かった。
食事が終わると、洗い物はあずさちゃんがやってくれると言うのでお任せした。
そして、子供たちには食後の楽しみの時間である。そうプリ○ュアだ。
「「デュアル・オーロラ・ウェーブ!!」」
今日も絶好調のようだ。
私は今日行ったとこを活動報告に上げていった。
「あ、そうだ。ロビー活動最初の依頼が来たよー。今度の土曜日朝10時にニューヨークのマンハッタンだ」
どうだ、と言わんばかりに胸を張って宣言した。そう、無い胸…(うっさいわ)
「「「おぉー」」」
「それからロシアのアリサちゃんから退院祝いするからって日曜日においでってさー」
「「「分かったー」」」
何かアニメ中にあまり話しかけないで欲しい雰囲気してたから、それ以上は言わなかったよ。別に寂しくなんて無いんだからねっ。
それから先程上げた、今日の活動内容の映像を確認していった。
あずさちゃん?もちろん一緒に夢中になって見てるよ。…べ、別に(以下略)
それからきっちり2時間でアニメを切り上げたので頭を撫でてあげて、みんなでお風呂に入った。
指輪を外して、今日覚えた日本語を確認しながら入ってたら、みんなちょっとのぼせてしまった。
(このお風呂4人で限界だなぁ。また新しい子が入ってきたら大きめのにするか考えないとなぁー)
新しい子をお持ち帰りする気まんまんであった。
(これから戦争孤児とか確実に増えるだろうから私設孤児院みたいな拠点がどこかに必要だなぁ。それも1つじゃなくて世界各地に…)
みんなでテレビを見ながらティータイムしながら物思いに耽る。
(そうなると院長先生みたいな人が必要だよね。しかも信頼できる人が…お金はあっても人はいないなぁ…場所も問題だ…はぁー)
隣でファティマちゃんが不安そうに見つめてくる。微笑んで頭を撫でてあげる。
(あんまり難しい顔してちゃ心配させちゃうから、ゆっくり考えて行こう)
問題山積みに頭を抱えそうになるのを何とか我慢する。
「そろそろ寝ようか」
「「「うんっ」」」
そうして夜は更けていった。




