カザン
◆西暦2000年5月4日(木)◆
今日も午前中は予定がぎっしりだ。
でも約束の時間までにはまだ時間があったので、フランちゃんと1年生の勉強をする事にする。
教育委員会に行った時に1年生の時間割も教えてもらったのでその内容で進めていく。
「うーん、国語・算数・生活・音楽・図画工作・体育・道徳・特別活動か。結構多いね。
時間割見てると、国語と算数が多いみたいね。
生活と特別活動って何?」
「えっとねー、生活は老人会の人たちとお話したり、自然を観察しに行ったり、特活は学級活動とかするみたい。私は病院から出られなかったから行った事ないけど」
分かったような、よく分からないような、けど一生懸命説明してくれたので頭を撫でてあげた。
それからネットに生活と特別活動、ついでに道徳について調べた結果、これは学校でやるものだから事前に勉強しなくていいね、と判断しスルーした。音楽・図画工作・体育もひなたに教えられるはずもなく以下同文。
「えっ、結局、国語と算数だけでいいの?」
「1年生はそれだけだよー」
「おぅ、そうなのかー」
「よし、勉強しますよー」
「「はーい」」
あずさちゃんも自分の教科書を開いて国語の勉強を始めた。
まずは勉強なので、指輪を外して、ひらがなから教えていく。拙い発生練習の声があまりにも可愛くて悶え苦しんだ。ある意味地獄だった。
ひらがながすらすら言えるようになったら、今度は国語の教科書を開いて読ませてみる。撃沈された。私が。
それから算数。数字の数え方は異世界も同じ10進法だったが、案の定読み方が違う為、結構苦戦した。
それでも、元々賢いのかスルスルと吸収していく様を見て、喜び勇んで思わず抱きついてしまった。
「うん、今日はここまでにしよう。また明日の朝勉強しようね」
「「はーい」」
それから昨日と同様、2件のアポ先を尋ねた。
10時のアポは男の子の家。再会を喜びつつ、自宅に招かれ和やかなままお暇となった。こちらでもスマホの電話番号やメールアドレスを交換していた。
「おっ、何か操作してると思ったらもう終わったのか?これも魔法なのか?そうなのか?」
《マスター、無線通信と言う技術です》
「ですよねー」
お昼のアポは、近くのレストランを予約しているとかで、訪問先の自宅からぞろぞろと移動した。
高級ステーキハウスらしく、出て来たステーキが分厚かった。
もちろん、3人とも食べきれるはずがなく、お持ち帰りしたかったけど、無念だが諦めざるを得なかった。うん、また来よう。
そこでも食事をしながら楽しく団欒の時間を過ごし自宅へと帰還した。
今回も両家に名刺を渡して周知をお願いした。
* *
「「「ただいまー」」」
「ステーキ美味しかったねー」
「「美味しかったー」」
「また3人で行こうね」
「「うんっ」」
それから戴いたお礼の品を開くと、1件目は諭吉さんが500枚。2件目は何と1,000枚いらっしゃった。ホクホクである。
隣を見るとあずさちゃんもニコニコしてた。フランちゃんは珍しそうに1枚を手に取って透かしてみたりして遊んでいる。
「どうやらマスコミが嗅ぎつけたみたいね」
「うん、そだねー」
「あずさちゃん、北海道出身だっけ?」
「違うよー」
「ふぅん…で、だ。どうやら4件とも取材陣が来てたとか」
「言ってたね。もしかして、みっちゃんたちテレビとかに出るのかな?」
「もしかするかもね。でもそうなったらこっちにも好都合だ。きっと問い合わせが殺到するに違いない」
「忙しくなるねー」
「そだねー。
…おほんっ、今回の作戦は大成功と言える。諸君、今後も似たような案件があれば優先的に熟して行こうと思うが異議はないかね?」
「異議無しっ」
「みんなどうしたの?」
「ぐふっ、フランちゃんにはまだ早かったか…」
余計な事をしたのだから自業自得である。
「それじゃ、サイトのチェックをしよう」
「「おー」」
まずは活動報告の感想コーナー。
“ゴミ掃除までしてるのかー。お疲れ様―”
“変な書き込みが無くなってるぞ?天罰に恐れをなしたなっ!”
“おっ、この小児病棟のやつ、昨日テレビのニュースでやってたやつじゃないか?奇跡とか何とか”
“一つの部屋だけじゃなく、やるなら全部やれよ!”
“思ったより活動報告少ないな。あんまり熱心じゃないのか?”
“この目が治った子、可愛い。妹にしたい”
“いやいや、最初の男の子も照れてるとこ可愛かったぞ。でも何の病気だったんだろう?”
「おっ、テレビでやってたのか。気づかなかったー」
「現地のテレビかもね」
「そっかー。海超えてまでは来てくれなかったかー。
というか、あずさちゃんはもう私の妹だからあげないぞっ!」
あずさちゃんをぎゅっと抱き締める。
「もうー、恥ずかしいよ」
(ふふふ、誰にも渡さん)
「それから直くんの映像は確かに見ただけじゃ、何の病気か分からないよね。
よし、活動報告に説明書きを入れておこうか。
あ、あずさちゃんのは、病気の事知られたくなかったら書かないでおこうか?」
「ううん、書いてもいいよ。もう治ったから大丈夫」
「分かった。ありがとね」
「うん」
それから“活動報告”のページを若干修正し病名と治癒した件を記載しておく。もちろん、名前は伏せて。
(でも音声で名前読んじゃってるから、あまり意味ないけどねー)
”不法投棄連絡所“のページは最も書き込みが多く、現地の画像が無いのもちらほら見かけた。
(基本通報者は無料って謳ってるからね。そりゃ集まるわ)
“環境問題相談窓口“は1件も無かった。うん、分かってた。
そして敢えて後回しにした、“疾病相談窓口”のボタンをクリック。
「ここは何件か入ってるね。おっ、外国も入ってるじゃない」
【初めまして、娘の治療について色々探していたところ、こちらを見つけました。
私の娘は登山家で年中山に出かけています。
ところが先日の登山で事故に遭い、帰宅してくれたのはいいものの、両手足、顔に酷い凍傷を負ってしまい、見るも絶えない状態となってしまいました。
無理なお願いかとは思いますが、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか。娘を助けてやって下さい。
お礼は出来る限りの事はさせて戴きます(ミハイル・ヤーコヴレヴナ・チェーホフ)】
「うん、この外国…ロシアか…からの依頼を受けよう。早速メール送るね」
依頼受諾と落ち合う日時。詳細な症状などを確認し、生活の裕福度にもよるが費用が発生する事を添えて送信する。
返事を待っている間も他の依頼を吟味し、まともな依頼なのかどうか(今更悪戯な書き込みは無いとは思うけど)、緊迫度などを考慮しそれぞれ同じように返事のメールを送っておく。
「最初の頃は世界各地で神出鬼没に出向いて、路上テロ的な治療活動しようかと思ったけど、思ったより反応良いからしなくてもいいかな?」
「うーん、この依頼だと1人か多くても数人しか対応しないんでしょ?
でもどこかでまとめて治療すればたくさんの人が救われるのよね?
それなら時間を見つけてでもやった方がいいんじゃない?
あ、それだとお姉ちゃんが大変かー」
「確かにそうだよね。私は大丈夫。無理しない程度で頑張るから。
それなら半々ぐらいでいいかな。基本依頼は1日1件、多くても2件までにして、後は路上テロにしよう」
若干危ないセリフが入っているが、あくまでも良い意味でのテロなのでご心配無く。
「路上じゃ捕まるかもしれないからどこか施設を借りられないかな?」
「おぅ、ナイスアイディア。それいただき」
「えへへー」
「ちなみにその活動する時って2人共その間どうする?」
「お姉ちゃんと一緒に行くー」
「フランちゃん、ありがとー。えっと、あずさちゃんは?」
「私も学校じゃなければ一緒に行きたいです」
「分かった。フランちゃんも学校の日は学校に行こうね」
「うん、分かった」
「そうと決まったらまずは世界各地の自治会?町内会?みたいな所にメールを送ろう?
あれ?他の国にも自治会ってあるのかな?」
「「分からない」」
「だよねー」
それからネットで世界の自治会について調べるが、どうやらそういうものは無いらしい。
「うーん、自助グループとかアパートメント内でのコミュニティとかはありそうだけど、連絡先が分からないや。
とりあえず少なくとも日本にはあるよね。メールだけ先に作っちゃおう」
「「うん」」
メールの内容はこうだ。
【初めまして、私はソルと申します。神様の代理人として任命されました者です。
現在病に苦しんでいる方の救済を行っております。後述する活動報告のページを見て貰えれば、信じていただけるものと思っておりますが、現時点では、信じて貰えないのも無理は無いかとも思っております。
そこで広く私の存在を周知させる事を目的に、全世界の貧困家庭を対象に僅かな対価は頂きますが、直接私が赴き、病でお困りの方にこの力を開放する場を提供して戴ければと存じます。
対象者は一般家庭も受け付けますが、貧困家庭を優先とし、費用は基本的に一人当たり米通貨で10ドル。日本円で約1,000円。開催時間は基本2時間とします。
但し、それでも支払いが困難な貧困家庭に於いては金品でなく気持ちの籠った品でも可とします。
時間や数に限りがある事から医療機関で比較的すぐに回復が見られるような症状はお断りする場合があります。
犯罪者は論外とし、見つけ次第退出、或は罪状によっては捕縛します。私には全てを見通せるとだけ申し伝えておきます。
裕福な家庭も受け付けません。別途専用サイトの個別相談窓口からお願いします。
そして頂いた費用の半分は寄付として寄贈します。
あと、これは医療行為では無く、あくまでも神から頂いた力であり、信じる信じないはお任せします。
ご希望の場合は希望開催日の日時を3候補と、日時確定後は信者様への周知をお願いします。
専用サイトのアドレスと、私の活動内容の報告ページへのリンクアドレスも記載しておきます。
-神様の代理人 ソル-】
「こんな感じでどうかな?」
「うん、いいと思う。
でも寄付除いて1人500円でいいの?安すぎない?」
「いいのいいの。たぶんこういうとこは貧しい人しか来ないと思うし、一番の目的は私の存在を周知させる事だからね」
「そっかー」
「・・・」
いつの間にかフランちゃんは私に凭れ掛かって寝てしまった。
それから全国のサイトを元に自治会宛てメールを送ろうとしたのだが、これにも躓いてしまった。
「うぅ、自治会の情報が市町村単位しかないのと、あっても住所と電話番号だけとか…メールアドレスすら無いとはお手上げだね」
「どうするの?お姉ちゃん」
「どうしよ。ここまで閉鎖的とは…自治会ってやっぱり超ローカルな世界なんだなぁ…」
「とりあえずこの件は保留しよう。ついでに出張開催用の活動ページも追加しておこうか」
そう言うと早速メインページに“期間限定疾病相談出張申込受付”ボタンを作成。
「ちょっと長いけど仕方ないよね。後は“貧困家庭優先で一般家庭も可”と、ページを開いたら、先程のメールの文言を若干サイト用に訂正して載せて、申込画面にして、と。
ふぅ、こんな感じでいいよね?」
「大丈夫だよ。お姉ちゃん、お疲れ様~」
あずさちゃんが私の後ろに回って肩を揉んでくれた。
「あー、天国じゃー」
* *
「よし、フランちゃんには悪いけど起きてもらって、私とお揃いの変身衣装を2人分買いに行こう」
「変身衣装?」
「顔とかが全世界に広まっちゃうと、普段の生活が大変なことになりそうだからね。基本的には謎の人物で通そうと思うの」
「なるほどー」
「フランちゃん、起きて~。お洋服買いに行くよ」
「うーん、すぅ…」
「起きろー」
「むにゅ…おはよう~」
「もうお昼過ぎてるぞー。フランちゃん、お買い物行くよ」
「…うん、分かった」
まだまだフラフラするフランちゃんを抱っこして、先日変身衣装を購入した先を順に回る。
前回と同様、子供用ドレスとドレスシューズ、ベレー帽は薄めのブルー。あとは白で統一した。
フランちゃんに会うドレスが無かったので、とりあえず少し大きめのものを、将来戻せるように考慮し調整して貰った。
それからフランちゃんの髪は目立つと思ったので黒髪のウィッグも購入した。
* *
買い物を済ませ、自宅に戻り、メールをチェックすると、先程のロシアからの依頼他、数件の返事が来ていた。
ロシアは出来れば早めに来て欲しいらしく、すぐにでも構わないとの事。
「何だか焦ってる感じだね。危ないのかな?」
「う、うん。早めに行ってあげたほうがいいかも」
「だよね。よし、それじゃ待ち合わせ場所確認したら、すぐに行こうか」
「「うんっ」」
ロシアからの依頼にこちらもすぐにでも可能、待ち合わせ場所と時間を30分後ぐらいでどうかと返信すると、それ程待たずに返事が返って来た。
待ち合わせ場所はカザン駅前。
「カザンってどこ?火山?」
《マスター、カザンはロシア西部、タタールスタン共和国の首都です》
「ネットで見た限りではとても綺麗な所みたいね。よし、それじゃ、みんな着替えよう」
「「はーい」」
「ロシア楽しみー」
「何か世界遺産もあるみたいだから終わったら見に行こうか」
「やったー」
「やったー」
フランちゃんも喜んでいるようで良かった。分かっているのかは別として。
【時差情報:-6時間】日本:15時 カザン:9時
「やってきました。ロシア。色々大きいです。壮大さを感じます。
って、そんな事言ってる場合じゃないね。駅前駅前っと。
太陽の位置がおかしいと思ったらここはまだ朝か」
調べたらカザンは日本と時差6時間と判明。向こうはお昼すぎだったのに、ここはまだ朝だった。
「「うわぁー」」
3人で仲良く目的地に向かう。薄い水色のドレスを来た3人組と知らせてあるので見つけてくれるはずだ。
暫く駅に向かって歩いていると向こうから手を振ってこちらを見ている男性を発見した。
「こんにちわ。ミハイル・ヤーコヴレヴナさんで宜しかったでしょうか?」
「はい、ミハイルとお呼び下さい。そちらはソルさんですよね?」
「えぇ、ご依頼確かに承りました。
あ、こちらは私の妹たちです。一緒でも宜しいですか?」
「えぇ、構いませんよ」
「では早速ですが娘さんの所まで案内して頂けますか?」
「はい、車を用意してますので、どうぞこちらへ」
駐車場に向かうミハイルさんと並んで車に向かう。後ろの2人は首が寝違えるんじゃないかと言わんばかりにあちこち見回している。
それから車で移動する事、約40分。私たちは大きな病院の前に立っている。
「では病室にご案内します」
「はい」
(うわぁ、当たり前だけどロシア人がいっぱいだー。みんなでかいわー)
それからすぐに目的地の病室に辿り着いた。
「カーチャ、お客さん連れてきたよ」
「お父さん、ありがとう」
「ソルさん、これが私の娘のエカテリーナです」
「え、さっきカーチャって…」
「あぁ、ロシアでは愛称で呼ぶのが一般的なんですよ」
「そうなんですね。それじゃカーチャさんでいいのかしら?」
「えぇ、構いません。そう呼んで下さい」
「私もいいわよ」
それから事故の事など状況を聞いて、現状も把握する。
傷口が痛むのか時折顔を顰めている。
(綺麗な顔なのに辛いだろうね)
「あの、これ少ないですが、私に出来る精一杯の気持ちです」
「はい、ありがとうございます。でもそれは治療が終わってからにしましょう」
「分かりました」
それからカーチャさんの手を取って魔力を少しづつ流していく。
「あ、何だか暖かい…」
(手足の方は指先が壊死しかけているわね。間に合うかなぁ)
でも今出来る事を全力でやろう、と決心し、目を閉じて壊れた細胞を修復するイメージを込めて唱えた。
(”超回復”!)
カーチャさんの身体が光り、傷口が少しづつ回復していく。しかし、全てとは行かなかった。
「やはり、もう無理なのか…」
ミハイルさんが諦めの言葉を呟いた。
(いや、まだだ。もう一回”超回復”!)
少しづつ良くはなっている。
(”超回復”!)
それから数回魔法をかけたところでそれは起こった。
《回復魔法がLv7に上がりました》
(やった。これで勝つる!!)
「”絶対回復”!」
(あ、思わず声に出ちゃった)
しかしその効果は絶大で、病室を光で包んだかと思うと、巻き戻し再生したのかと思うほどのスピードでその傷が全て消えて無くなった。
「あ、あ、あぁぁあああああ」
「うぉおおおおおおお」
突然叫び出し、親子2人で抱き合って泣きだしてしまった。
「ち、ちょ…」
後ろではその奇跡と2人の叫びで驚いているあずさちゃんとフランちゃん。
そして周りからも、
『何だ?』
『今光ったよな。何が起こったんだ?』
『お、おい、カーチャを見ろ!手が、顔が…』
『もしかしてさっきのは魔法か何かか?』
私はあずさちゃんとフランちゃんを連れてさりげなく隅の方へ移動し見知らぬ顔をしておく。
カーチャさんは落ち着くと今度はひなたに抱き着いてきた。
「ありがとう。ありがとう。もう駄目だと…うわぁああ」
(ぐふっ、お、重い。デカい身体で体当たりしないで…)
ミハイルさんもその後ろから優し気な目で見つめながら、
「ソルさん、ありがとうございました。何てお礼を言ったらいいのか。この御恩は忘れません」
そう言いながら、お礼の品をあずさちゃんに手渡した。
「いえ、それよりもカーチャさん。身体はもう大丈夫ですか?
ここまで走ってきたから大丈夫ですね」
「は、はい。お陰様で」
「もうあまり無理はしないようにね。せっかくの綺麗な顔を傷だらけにしたら勿体無いですよ」
「うん、ありがとう」
照れたように下を向くカーチャさん。
でもそれでは終わらなかった。周りからも期待の眼差しで見つめられ、各々お礼になるものを持って近づいてきた。
(しゃーないかー)
どうせ日本じゃないからね。と安易な気持ちで引き受けたとたん、一斉に集まり出して院内はパニックの様相を呈した。
病院スタッフも集まって鎮静化に奔走してくれたようだが、私に近づく事もできず、結局収まるまで2時間ほどを要した。
外では何だかパトカーらしきものも現れ始めたので、
「ミハイルさん、すみません。大事になってしまって。何だか外も騒がしくなってきたのでこれで引き揚げますね」
「あ、はい。こちらこそ、お引止めしてしまいすみません。
何かあれば頼って下さい。私この町の市長をしてますので出来る限りお力になる事を誓います。
それからお礼の中身は米国のドルに換算してありますので。その方が宜しいかと思い…」
「えぇ、助かります。それでは」
「ソルちゃん、ほんとにありがとうね。また会えたら嬉しいわ」
「はい、では」
そう言うとうちの子2人を連れて自宅に一旦退避した。
* *
その頃病室では…
『なっ』
『き、消えた…』
『神のお使い様だったのか?』
『お父さん、私、ソルちゃんって言っちゃった』
『あはは、まさか本物とは。
…本当に、本当にありがとうございます』
ちゃぶ台をひっくり返すほどの騒ぎになっていた。
* *
「ふぅー、いやー、参ったねー」
「お姉ちゃん、揉みくちゃでした」
「怖かったー」
あずさちゃんからお礼の品を受け取ると、アイテムボックスに収納する。
「一旦戻って来ちゃったけど、すぐ戻るよ。まずは今着ている服を着替えようね」
「「うんっ」」
それから普段着に着替えると、来ていた服は洗濯機に入れて、再度カザン駅前に転移した。
「よし、これからは改めて市内の探険に乗り出すぞぉ」
「「おー」」
「あ、ロシアのお金持ってないや。
ミハイルさんから貰ったお金って全部ドルなのかな?ちょっと確認してみよう」
人気の無いとこで2人には壁になってもらって、中身を確認する。
「おっ、ベンジャミン・フランクリン(100$)さんがたくさん入っているけど、ルーブルはないねー。どうしようー」
ちょっと悩んでたらすぐに思い出した。
「あ、神様から貰ったクリアファイルに確かあったはず」
アイテムボックスを取り出し、中身を確認すると5000ルーブルが8枚、1000ルーブルが5枚入っている。
「あ、何だかいっぱい入ってるよ。これなら大丈夫かな」
ほっと安堵の吐息を吐いて、改めて観光に出発するのだった。
* *
「うわぁー、大きいー、綺麗ー」
「きれー」
あずさちゃんとフランちゃんが建物を見上げて感動している。
私たちは今、カザンの世界遺産”カザンクレムリン”に来ている。とても綺麗な建物だ。
「あれ?お姉ちゃん、あの塔何か斜めになってない?」
「あ、ほんとだ。ちょっと傾いてるね。大丈夫なのかな?倒れないかハラハラするね」
ちょっとググってみたところ、あれは、カザン・ハン最後の王妃が身を投げたとの伝説がある、スュユンビケ塔らしい。
高さ58mのレンガ造り6層の斜塔で、今も傾き続けているとか。何か怖い。
そしてこのクレムリンは何と、聖堂とモスクが並び立ち、ロシア正教とイスラム教が共存しているという事が分かった。
「違う宗教がこの中に並んでいるんだってー。面白いねー」
「そうなの?変なの」
「しーっ、周りに聞こえたらまずいでしょ」
「あ、ごめんなさい」
中も色々と見て回って楽しんだ。
その後もロシア風の古い町並みが残る世界遺産スヴィヤズスク島やモニュメントのような木のオブジェが立つagricultural palace、それから見た目カラフルでおもちゃのような寺院、temple of all religionsなどを日本時間の夕方近くまで見て巡った。
最後に市内に戻り、こちらで夕食(現地ではお昼)を取ってから帰る事に決め、レストランに入った。せっかくなので本場タタール料理を食べるつもりだ。
「いらっしゃーい」
中に入ると席に案内してくれる。本場タタール料理でおすすめのものを適当にとお願いすると、やがて料理が運ばれてきた。
「うわぁ、美味しそう~」
「「じゅるり」」
出て来たのは、オレシュというジャガイモとチキンの入ったパイみたいなのが人数分、それから馬肉サラダ、ラム肉の炭火焼。
そしてデカいパンの中を刳り貫いて、中にボルシチが入った料理が圧巻だった。見た目は紫で若干引いたが。
豚肉は無いかと聞いたところイスラム系寄りのレストランらしく扱っていないとの事だった。
「「「いただきまーす」」」
大変美味しく頂いた。ボルシチも以外と優しい味わいで、もちろん、全ては食べきれなかった。残りはホテルで食べるからと包んでもらった。
観光に、料理にと楽しんだ後、自宅へと帰還した。
ミハイルさんから貰った包みを出して、再度ベンジャミン・フランクリン(100$)さんを確認したら5000枚入ってた。
「お、おぅ…ロシアの市長さんって儲かるのかな?」
「うわぁ、凄いねー」
「?」
「みんなもう疲れたでしょ。お風呂入って今日は早めに寝ようか」
「「うん、疲れたー」」
宗教関係先への一斉メールは止めました。書いた後ずっと後味の悪さを感じていたからです。
何故なら神様から宗教には関わるなと言われたのに、自分から飛び込んで行くとか、明らかにおかしいですよね。当初はそれでも存在を周知する為には仕方ないかなと楽な選択をしたようです。
でも改めて何度も読む度に違和感バリバリで、結局宗教ではなく自治会宛てと変更しました。もちろん失敗する事は分かっていたのですが。ひなたも試行錯誤しているのだからそういう流れでと。




