小児病棟
◆西暦2000年5月1日(月)◆
「おはよう~」
《マスター、おはようございます》
「昨夜は泣いちゃった。ごめんね」
《もう大丈夫なのでしょうか?》
「うん、まだ引き摺ってるけど、大丈夫だよ」
《良かったです》
起床後のいつものルーチンを熟すひなた。
今日は日課の鍛錬も上の空だった。
朝食を終えると、サイトを開く。
「うん、昨日の変な書き込みとか全部消えてるね。流石天罰。効果覿面だね。
でも逆に依頼が入ってないや。臆したかな?やりすぎちゃった?大丈夫なのに。
ま、今日はあまりやる気が出ないので助かったけど」
「それでどうしようかな、これから。
とりあえず環境問題は小規模のやつだけちょこちょこやっていこう。
新規孤児院訪問は暫く停止…フランちゃんに会いたいなぁ。
フランちゃん下さいって言ったらくれるかな?一緒に世界回ってくれたら精神面でも大分楽になるんだけど」
「とりあえず気分転換にギルドに顔出してみよう。ちょっと冒険者のお仕事サボりすぎた。
レベルも上げなきゃだよね。やる事多くて追い付かないよ。
それからお昼にはフランちゃんに会いに行って、一緒にお昼を食べよう」
そうと決まれば即行動。異世界へと転移した。
* *
「ちわーっす」
『『『『『お、おぅ』』』』』
「カレンさん、おはようございます」
「ひなたちゃん、お久しぶりね。どこか行ってたの?」
「えぇ、まぁ、ちょっと。あはは」
誤魔化しながら依頼ボードを見に行く。
「うーん、どれもあまり変わらないね。今日は遠出したくないからこれでいいや」
そう言うと1枚の依頼票を剥がしてカレンさんのところに持っていく。
「オーガ討伐ね。これ、最近近くの森での目撃が多くてちょうど困ってたのよ。
前にも倒してたみたいだから大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
「はい、それじゃ行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
『『『『『てらー』』』』』
「お、おぅ」
(まさか一斉に見送りの言葉を貰うとは思わなかった)
足早に門を抜け、目撃地点まで急いで移動する。
途中で会う魔物を遠くから弓で射たり、初手を魔法、それから剣で切り伏せたり、格闘術だけで倒してみたりしながら進む。
それから時魔法の”迅速”で動作を早くしたり、”遅延”で魔物の動きを遅くしたり、”停止”で動けなくした後、タコ殴りしたりで、色々な魔法を試しつつ練習する。
Lv8の”致死宣言”を試してみたら魔物がどんどん老いていき、最後はミイラになって死亡した。これは人には使わないでおこうと固く誓うひなただった。
(時魔法にも即死攻撃みたいなのがあって驚いたー。
こりゃ後で試せなかった魔法を確認する必要があるね)
それから空を飛ぶ魔物には”空歩”で追いかけっこをして楽しんだ。
《弓術がLv4に上がりました》《格闘術がLv6に上がりました》…
「えっちゃん、そういえば大分魔法覚えてきてるけど、まだ取ってない他の種類の魔法ってあるの?」
《はい、闇魔法がまだ習得できておりません。習得しますか?》
「闇魔法って何だか危ない響きだね。取っても大丈夫なやつなの?」
《はい、Lv1の”影縫い”はマスターの影を敵が踏んだ際に発動すると、動けなくなり、まさに影に足が縫い付けられるような状態になります。取っておいても損はないかと思います》
「ほほぅ、それは良さげだね。どうやればいいの?」
《まずはここで練習しましょう。まずは自分の影の中に魔力を敷き詰めるイメージでやってみて下さい》
「うん、こうかな?」
ぐぬぬ、と魔力を放出し影の中に広げていく。
《そうです。次に魔力を使って影を動かしてみて下さい》
「分かった。影~、動け~」
額に汗を浮かべながら、一心不乱に魔力を操作すると、
《闇魔法Lv1を習得しました》
「よっしゃあ、グッジョブ、私。よくやった。
で、闇魔法って”影縫い”以外にどんなのが出来るの?」
教えて貰った魔法はこうだった。
【闇魔法:Lv1 影縫い Lv2 闇矢, 闇弾 Lv3 闇壁, 闇槍 Lv4 闇陣, 催眠誘導 Lv5 闇檻, 隠密偽装 Lv6 闇矢雨 Lv7 影潜伏 Lv8 夢渡り(ジョインドリーム) LV9 精神操作 Lv10 常闇孔】
「おぉー、珍しい魔法がちらほらあるねー。というか最後の”常闇孔”唱えたらこの星も飲み込まれちゃうんじゃないの?大丈夫なの?」
《YESマスター。あくまでも魔法なので使用した相手が闇に飲み込まれるだけですから安心して下さい》
「そ、そっか。良かった。あんまり見たくないけど被害が少なそうで良かったよ」
「それじゃ、闇魔法の練習をしながら目的地に向かうよー」
《YESマスター》
それからも”闇矢”や”闇弾”などを乱れ打ちしながら歩くが、目的地についてもオーガの姿は発見できない。
(うん、同じとこにいるとは限らないよね。よし、どんどん進むよー)
《YESマスター》
「うーん、やっぱいないなぁ。しゃーない、サーチしますか。
オーガどこだー、“空間探査“」
「あ、発見。よし、続けて“遠見”。
うわ、目の前にいるみたいに見えるわ。便利ね、これ」
現地へ向かう事、数十分。対象を発見する。
戦闘の前に自分に“迅速”をかけておく。
(3匹か。まずはあいつらめちゃ硬くて時間かかりそうだからスロウかけとくか、“遅延”!)
念話でも可能なのだ。
(ふふふ、驚いてる。それじゃ初手は魔法攻撃から行くよー)
「“闇槍”!“雷槍”!“氷槍”!三重奏だ!」
魔法発動と同時に駆け出す。
一応刺さってはいるが、深手ではないようで、こちらに気づくと襲いかかってきた。
「やっぱ、硬いなぁ、あんたたちぃ」
身体強化と“迅速”で高速化されたひなたに右往左往するオーガたち。
その間もひなたは剣で切りつけたり、殴ったりするがあまり効いていない。血だらけになりながらも必死の形相で応戦してくる。
「そろそろいいかな、面倒になっちゃった。“空間破壊”!」
オーガたちの間を横断する空間に亀裂を入れて、空間ごとオーガたちの身体を横に真っ二つにした。即死である。まさにチート。
途中レベルアップのアナウンスが何度か流れるが今はスルー。
オーガたちをアイテムボックスに収納し、再度“空間探査“で近くの魔物を探す。
(あ、もう少し奥まったとこに何匹かいるね。これもオーガかな?)
行ってみると、ワイバーンが木の上で休んでいた。
(おぅ、ワイバーンでっか!5匹もいるんですけど、まじかー。
でもこれってオーガよりやばいよね。スルーして帰ったら怒られるかな?
するつもりはないけどね)
ワイバーンに“遅延”をかけた後、魔法を乱れ打ちしながら突入する。
何匹か当たるが、即座に気づいて躱した1体がひなたに向かって突入してくる。
(うわっ、あの足爪に捕まったら逃げられなくなりそう…)
そう言いながらも横に回避し、同時に首に斬りつける。レベルアップで先程のオーガ戦より切れ味が増しているようだ。これならいける。
その間にも他のワイバーンが襲い掛かって来た。
「“土壁”!」
凄い音を立てて壁に激突する。
フラフラとしているとこに、すかさず飛び込み、その羽を切りつけ飛べないようにする。
そしてその首にも“氷刃”をお見舞い、でもまだ息の根はあるようだ。
すると残り3匹も何とか体制を立て直し、一斉に襲ってきた。
「“火矢雨”!」
3匹に矢の雨を降らせると、耐えきれず地面に落下する。
地面に落ちたところへ“土爆弾”で追加ダメージを与える。
すぐさま“縮地”で距離を詰め、3匹それぞれに対して剣を振るう。
流石に高威力の魔法連発と剣による首への執拗な攻撃に動かなくなった。
すると今度は後ろから最初のワイバーンが襲いかかってくるが、
「“氷柱”!」
先を尖らせた氷の柱を下から突き上げる。
今度はかなり深く刺さったみたいでこちらも動かなくなった。
「おっ、さすがLv5の魔法だね。威力が全然違うや。
さっきのLv6の“火矢雨”といい、レベルの高い魔法は効果も高いね」
最後の1体を見ると逃げ出そうとしてたので、それならと、
「“催眠誘導”!」
闇魔法Lv4の“催眠誘導”で眠りに落とす。
動かなくなったので、ゆっくりと近づいてその首を落とした。
「よし、完了。帰りますか」
ワイバーンをアイテムボックスに収納した後、身体に“清浄”をかけて帰宅の途につく。
「今度はちょっと回り道をしてから帰ろうかな?」
と言いながら空を見ると、太陽がかなりてっぺんに近づいているのが分かった。
「あ、やばい。このままのペースじゃお昼に間に合わないや。
仕方ない途中まで狩って、切りの良い所で転移で戻ろっか」
《YESマスター》
それから1時間ほど夢中になって魔物を探し回り、狩っては収納を繰り返し、頃合いを見計らって、孤児院の近くに転移した。
「ギルドへの報告は帰り道でいいよね…」
* *
そして孤児院に入っていくひなた。
「また来たよー」
『あ、お姉ちゃんだ』
『ひなた姉ちゃん、寂しかったのか?』
「いらっしゃい、ひなたさん」
院長先生も迎えてくれる。
『わーい、今日は何しに来たのー』
『一緒に遊ぶー』
「お姉ちゃん、来てくれたんだ。嬉しい~」
フランちゃんも抱き着いてくる。
「院長先生、子供たちのお昼、もう作りました?」
「今料理を始めたとこですよ」
「それならオーガの肉持ってきたのでお昼一緒していいですか?」
「えぇ、構いませんよ。そんな高級なお肉いいんですか?」
「うん、いいのいいの。みんなで食べたいからね」
「分かりました。ではどうぞ、お上がり下さい」
院長先生の後を追ってキッチンへ向かうひなたと子供たち。
「あなたたちは出来たら呼ぶのでそれまで遊んでいなさい」
『『『『『はーい』』』』』
院長先生に咎められても元気に返事をする子供たち。
「オーガはステーキにしましょう」
ひなたはそう言うと、オーガを子供たちにも食べられる大きさに切り分け、肉の表面をフォークで差して、塩コショウをした後、しばらく放置。フォークで刺す事でうまい具合にスジが切れて柔らかくなるのだ。
院長先生の手伝いをして、粗方出来上がった頃を見計らいステーキを焼いていく事に。
分厚く切ったわけでは無いので人数が多少多くてもそれほど時間はかからない。
しばらく放置したのは、何となくだ。世間では熟成肉が人気と聞いたので、時間的には全然足りないかもしれないが、少しでも美味しくなればと思ってやってみた。
他の料理とほぼ同じタイミングでステーキも焼き上がり、子供たちを呼んだ後、テーブルへと配っていく。
全員の元へ行き届いたのを確認して食事が始まる。
今日もひなたはフランちゃんの隣である。ひなたがわざわざその場所を選んだのではなく、毎回フランちゃんに捕まって隣に座らされるのだ。
「うんしょ、うんしょ」
隣ではオーガ肉を一生懸命ナイフで切り分けようとするフランちゃんがいる。
あまりの可愛さにずっと見ていたいが、食事が遅くなってしまうので、手伝ってあげた。
そしたら周りの子も強請ってきたので少し大変だった。
『う、うんめぇー』
『お、美味しい!』
『こんなに美味しいお肉初めてだよー』
そんな感じで和気藹々(わきあいあい)と食事の時間は過ぎていくのだった。
(やっぱりステーキはご飯がいいな。パンだと物足りない)
しばらくフランちゃんを目で堪能しながら、食事をしていたら思わず叫んでしまった。
(院長先生、フランちゃんを私に下さい!)
もちろん、心の中で、である。喉元まで出かかったが、今回は止めておいた。いつか必ずやと思いながら。
楽しい時間もあっと言う間に過ぎて孤児院を後にした。
(あ、門通らずに直接こっちに来ちゃった。てへぺろっ)
外から入り直す為、帰り道途中まで狩った場所まで転移で戻り、そこから再度狩りながら帰ってきた。
* *
門を通り、その足でギルドに入っていく。
「たらいもー」
『『『『『・・・・・』』』』』
もう慣れたらしい。
「カレンさん、戻りました」
「ひなたちゃん、おかえりー」
こっちも慣れたらしい。
「オーガはいたの?」
「はい、いましたよ。3匹でしたが。
それよりも、そこから更に奥に行ったとこにワイバーンがいました。5匹」
「ワイバーン!?」
『『『『『なっ』』』』』
「それでひなたちゃん、無事だったの?ここにいるから無事なのは分かるけど、怪我とかしてない?」
軽くパニック状態のカレンさん。
「ちょっと大変でしたけど、何とか」
「ちょっとって、あんた…」
『『『『『な、な…』』』』』
後ろの連中はもう声も出ないようである。
「それじゃ裏手に持っていきますね」
「私も行くわ。カザドさんから検品数は報告あるけど、一応確認しなくちゃね」
『い、行くぞっ』
『『『『『おぅ』』』』』
「あんたたち、来なくていいから」
「こんにちわー」
「おぅ、譲ちゃん、久しぶりだな」
「また解体お願いします」
「そんじゃ、ここに出すか?それとも奥行くか?」
「ワイバーンとかあるので奥でお願いします」
そう言うとぞろぞろ小鴨たちを引き連れて奥に行くひなた。
「ここで頼む」
「はーい」
で、一気に出した。後ろから『ちょ、おまっ』とか言ってたが、気にせず出した。
「以上です」
「ワイバーンが5匹だと?こんなにどこにいやがった。
あまり街の近くだと討伐隊組まなきゃならねぇ。他にもいるかもしれないからな」
「うーん、北の森を1刻ほど行ったところなんで、これって近いのでしょうか?」
「それだけ奥だと微妙だな。一応、若いやつらには注意しといたほうがいいな。
お前ら、聞いたな。北の森に行く時は注意しろよ!」
『『『『『おぅ』』』』』
「それじゃ、ちょっと多いが、明日の夕方頃また来てくれや。今回も何か持ってくか?」
「ワイバーンって美味しいの?」
「ちょっと固めだがうまいぞ。酒に合うな。ガハハ」
「なら、それとオーガを前回と同じくらい頂戴」
「おうよ。それじゃまたな」
「うん、またねー」
小鴨たちを引き連れて受付に戻ってくると、
「カレンさん、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとね」
オーガの報酬を受け取って、人目のつかない路地裏に入り、自宅へと帰還しようといたところ、たむろってる男たちに見つかった。
「おぅ、お姉ちゃん、暇なのか?俺たちと遊ぼうぜ」
一人の男がにへら笑いを浮かべながらやって来て、ひなたの腕を捕まえる。
「あー、えっと、さよなら~」
そう言うと静電気魔法をありったけぶちまけて帰路についた。
* *
「ただいまー。もう何か掴まれた腕が気持ち悪いー、“清浄”!“清浄”!“清浄”!」
(駄目だ、まだ感触が…まだ昼間だけど風呂入ろう!)
風呂から上がると、サイトをチェックする。
「お、“疾病相談所”に新しい依頼が入ってる…何々~」
【一人息子が不治の病で余命数ヶ月と診断されました。母子家庭で差し上げるほどのものもほとんどありませんが診て貰えないでしょうか(武藤景子)】
「孤児院は今は遠慮したかったけど、これならいいかな。よしメールで落ち合う時間を確認しよう」
メールには、報酬は金銭でなくてもいい事、息子さんの気持ちの籠った物でもかまわないとメールしておいた」
今回は目立つと院内パニックになりそうなので羽は消し、ベールも取ってマスクのみの姿で向かう事にしよう。
暫くすると夕方5時から面会時間になるらしく、その時間に病院前で落ち合う事となった。
(となると、ちょっと時間に余裕あるね。それまで不法投棄いくつか処理してきますかね)
日本全国の不法投棄場所へ赴き、その場で活動報告にアップし、また次の場所へ。
そんな感じで依頼を熟していき、ある程度目途を付けると自宅へ戻った。
(ゴミ掃除してきたんだからもっかい風呂入ろうっと)
* *
それから風呂に入り直し、約束の時間10分前に病院前に到着した。
そこには目印に指定された、チェック柄のオレンジのストールを羽織った女性が待っていた。かなり若い。
「初めまして、武藤さんですね?」
「はい、ソルさまでしょうか?わざわざお越し頂きありがとうございます」
「失礼ですが、あのサイトを見ても中々信用してもらえないのですが、どうして依頼しようと思ったのでしょうか?」
「はい、普通であれば信用しないでしょうね。正直に言うと私もまだ半信半疑です。
でもあの盲目の子が視力を回復した映像とか、左足を引き摺っていた子の映像を見まして、藁をも掴む思いで依頼させて頂きました」
「なるほど、よく分かりました。では、参りましょう。
それから、これから私の行う行為は、院内では、医療行為と見做される可能性があります。
武藤さんは私がやる事を知らなかった事にしたほうがいいでしょう。
私の方も医療行為ではなく、気功を使って体内の細胞を活性化させただけと言い訳しますので合わせて下さいね。
ま、何れ全世界規模で活動しますので、今日の事も公になると思いますけどね」
「は、はい、分かりました」
武藤さんに連れられて行った先は小児病棟。
中を入ると6人部屋らしく、武藤さんは入ってすぐ右のベッドに向かう。
「透、今日はお客さんを連れてきたのよ」
「お母さん、待ちくたびれたよー。って、その人誰?」
「あなたの為にわざわざ来てくれたのよ」
「そうなの?」
『おばちゃん、こんにちわー。透ちゃん、毎日お母さん来てくれていいなぁー。お父さん、早く来ないかなぁ』
後ろから声がして振り向くと、向かいの女の子がゆっくりとやってくる。
腰まで届くロングストレートの黒髪で瞳は恐らく黒。見た目10歳ぐらい。
恐らくと言ったのは、瞳が白く濁っていて判別できないからで、視力も乏しいようだ。歩く姿が危なっかしい。
女の子はその視力のせいか、私にかなり接近して顔を見上げて、
「あ、お姉ちゃん、初めましてだね。透ちゃんのお姉さん?」
と笑顔で聴いてきた。
「違うよー。透ちゃんのお母さんの知り合いなの」
「そうなんだー。今日はいっぱいきてくれて良かったね、透ちゃん」
「うんっ」
どうやら仲良しみたいだね。2人とも楽しそうに笑ってる。
でも武藤さんの顔はあまり優れないようだ。
私が首を傾げてると、耳元で2人に聞こえないように教えてくれた。
「あずさちゃんのお父さん、最近ずっとお見舞いに来られていないようで。理由はわかりませんが、何だか可哀想で」
「なるほど…」
(子供の見舞いが出来ない程忙しいのだろうか?それとも別の理由が?
ま、気分的にはあまり良くないね)
「それじゃ、2人ともベッドに並んで座ってくれる?」
「えっ、私も?」
「うん、一緒にお姉さんがおまじないをしてあげる」
「やった♪」
ベッドの側に椅子を置き腰を下ろすと、順に手を取って診ていく。
「白血病ですか…かなり進行してますね」
「わ、分かるんですか?」
「使徒ですから。期待には添えるよう努力しますのでご安心下さい」
(うーん、これは全身に広がっててちょっと大変そうだね)
《マスター、やり方は一緒です。範囲が広くても対象となる遺物を除去するイメージをすればいいのです》
(うん、了解。やってみるよ)
何か始まると思ったのか、同じ部屋の子供たちが集まってくる。
(それじゃ、“空間探査“で対象の病原体を補足して、除去すればいいのね。よし、まずは”状態異常回復”!、そして壊れた細胞を“治癒”!)
男の子の身体が淡く光ると、見る見るうちに顔色が良くなっていく。
『あ、透ちゃんの身体が光ったよ』
『きれい』
後ろからそんな声が聞こえてくる。
「あ、何だか。身体がとても軽くなったよ」
再度、“空間探査“してみても、もうどこにも病原体は見当たらない。
(うん、成功だね。よし、次はあずさちゃん)
「終わったよー。もう大丈夫だからねー」
「治ったんですか?本当ですか?」
「うん、安心して。念の為、検査して貰うといいよ。もう大丈夫だけどね。」
「はい、はい、ありがとうございます。こ、この御恩は必ず返します。うぅ…」
武藤さんは透くんに抱き着くと泣き出してしまった。
「それじゃあずさちゃんの番ね、いいかな?」
「う、うん」
ちょっと緊張しているみたいだ。
「それじゃ、ちょっとの間だけ目を閉じててくれる?」
「分かった」
(眼腫瘍だから、基本徹くんと同じ、キュアとヒールでいいね)
あずさちゃんの手を取ると、同じく魔力を循環し視神経のあたりを調べる。
腫瘍らしきものを確認すると、今度はそれが身体のどこかに転移してないか確認する。
鼻や喉にわずかだが痕跡を発見する事が出来たのでまとめて治癒する。
(”状態異常回復”!、それから“治癒”!)
同じくあずさちゃんの身体が淡く光る。
『今度はあずさちゃんが光った。どうなってるの?』
『あずさちゃんもきれい』
「もういいよー。あずさちゃん、目を開けてくれる?」
「う、うん。ちょっと怖い」
「大丈夫だから、ね」
それからあずさちゃんは意を決したように目を少しづつ開いていった。
暫く目を開いたり、閉じたりしたかと思うと、今度は自分の手のひらをみたり、病室を見回したり、他の子の顔を見たりした後、ボロボロと涙を流した。
「う、うぇっ、め、目が見える。目が見えるよー、うわーん」
(あ、やば。声でかい)
私は思わず抱き着いて来たあずさちゃんをぎゅっと抱き締めて、あまり声が大きくならないように、頭を撫でながら必死にあやした。
途中、看護師さんが「どうかしましたか?」と聞いてきたが、
「帰ろうとしたら懐かれちゃったらしく、泣き出してしまって」
と嘘をついて、何とか難を逃れる事が出来た。
「ソルさん、これ少ないですが。それとこれはこの子が得意にしてた絵で、いつも大事にしてましたが、ソルさんにあげたいとの事なので宜しければ」
お金が3万円と、家族で山に登った時の楽しそうな絵を貰った。
(うわっ、何、この子、めっちゃ絵が上手。よほど絵を描くのが好きなんだなぁ。
これはいい物貰ったけど、本当にいいのかな?思い出の品みたいだけど)
「えっと、この絵、本当に貰っていいの?」
透ちゃんに聞いてみたところ、
「うん、僕も凄く気分が良くなったし、あずさちゃんも治してくれたんだよね?
だからお姉ちゃんにあげるよ」
満面の笑みで言われたら仕方ない。ありがたく頂戴する事にした。
「ありがとう。大切にするね」
そう言いながら透ちゃんの頭を撫でてあげた。
「てへへ」
(うん、男の子も捨てたものじゃないね。めちゃ可愛い)
「武藤さん、報酬は一つで十分です。こちらはお返しします。というかこれだけで十分ですよ」
そう言って金銭は返却した。
「そうですか。ありがとうございます」
(えっちゃん、あずさちゃんの家庭事情が気になるんだけど、今後何かあった時に対応する事ってできる何かないかな?)
《YESマスター。それなら空間魔法の“追跡“が最適かと。対象者にビーコンを設置する事によって、今後随時、“追跡“を唱える事で対象者近辺の映像を確認する事ができます。》
(おぉー、さすが空間魔法。それじゃ、早速あずさちゃんにビーコン設置するね。設置したいとイメージすればいいの?)
《その通りです。外す時も念じてもらえれば》
(了解~)
あずさちゃんにビーコンを設置し、同じ部屋の子たちもついでに治癒した後、両親に渡すように名刺を置いて外に出た。
「それじゃ、武藤さん、これで帰りますね」
「はい、この度は本当にありがとうございました」
「透ちゃんの笑顔と素敵な絵が貰えたのでこちらもラッキーだよ。
できれば他にも困った人がいたら紹介して下さい。但し、裕福な家庭からはそれなりの報酬は頂きますけどね。
あ、その場合は武藤さんにも紹介料を支払いますよ。紹介先に名刺を渡す際には、裏の紹介者欄に記名しておいて下さいね」
そう言ってウインクしながら名刺を数枚渡して帰宅した。
* *
それから暫くしてあずさちゃんの様子を見ていたら、
『何っ、あずさの目が回復した?治らないって言ってただろ。どういう事だ?』
思わず、ビーコンをその声の元へ移動する。
(うわー、案の定だよ)
『くそっ、ももうあいつとは結婚もして、ガキも連れて来てるってのに。帰る場所なんてねぇぞ。何て言えば良いんだ?』
(小声でしゃべってるみたいだけど、この魔法まる聞こえなんだよね。
しっかし、うわぁー、まじかー)
『明日には退院?もうちょっと待ってくれ。すぐには無理だ!』
(道理で来ないわけだ。静電気、いや雷魔法ぶちかましていいかな?こいつ)
「えっと、どうしたらいいと思う?えっちゃん。やばいよ。まずいよ。どうしよう」
《マスター、落ち着いて下さい》
映像を見てると父親はあずさに会わずに帰っていった。
「うぇっ?え?まじ?普通そこで帰るか?
あずさちゃんに会っていかないの?
や、やばい、本気で魔法ぶちかましたい」
《マスター、ですからどうか落ち着いて下さい》
「ぜぇー、ぜぇー。うん、すまんかった。まじ取り乱した。もう大丈夫」
《良かったです》
「でもどうしよう?あずさちゃんが…」
《マスターは神から権限を与えられたのですから、神に背く行為でなければ、意のままにすれば宜しいかと》
「うん、そ、そうだよね。分かってはいるんだけどね。でも…」
《あずさちゃんの事を第一にお考え下さい》
その後も暫く葛藤し悶え苦しむひなた。
あずさちゃんは父親に会いたがっていた。でも父親はあずさちゃんの事を厄介払いしたい。
正規の手順を踏んでいたらあずさちゃんは、その過程でのお披露目となり、実の父親含めて家族から蔑ろにされる可能性が極めて高い。
今日あったばかりの少女に私が手を差し伸べていいのだろうか。
これで私が引き取ろうものなら、私が犯罪者になってしまわないだろうか?
あずさちゃんも父親から離され私の事を嫌ったりしないだろうか?
もう色んな事が頭の中を駆け巡り混乱は増す一方だった。
あずさちゃんに本当の事を話す?いやいやいや…。
それから1時間ほど葛藤して、遂にひなたは決断した。
(私は子供たちを救うって誓ったはずでしょ?こんなとこで悩んでたら先に進めなくなっちゃうよ。
…よし、決めた。あずさちゃんを引き取ろう)
引き取るのは構わない。あずさちゃんの気持ちを思うと踏ん切りがつかないだけだ。
父親から離して嫌われたりしないかが気がかりなだけであった。
* *
それからえっちゃんと相談して、養子縁組同意書を2通用意。
その日の夜、父親の元を訪れた。
「須賀さん、こんばんは」
「ん?誰だね、君は?」
「あずさちゃんの件で相談に来ました」
訪れたのは父親の書斎。他の家族に気づかれないように。でもドアからキチンと入っていった。あたかも家族から通された振りをして。
「あずさの?どういう事だ?」
「私はソルと言います。こういう者です」
そう言って名刺を差し出す。
胡散臭そうに名刺を見つめた後、
「神の使徒?ふざけてるのか?警察呼ぶぞ?」
そこで私は“縮地”で父親の後ろに立つと、氷魔法で作った羽を生やす。もちろん、聖魔法で身体を覆う事は忘れない。
「なっ」
「これでお分かりいただけたでしょうか?」
「あ、あり得ない。何のトリックだ?」
(あー、またかー、面倒臭いなー)
いつものごとく、父親を連れてホノルルへ転移する。
【時差情報:-19時間】日本:16時 ホノルル:前日の21時
「うおっ、どこだ、ここは?」
「ここはハワイ州ホノルルの夜の街です。これでお分かりになりました?」
急に空が暗くなり、周りを見回すと、外人ばかりだと判断し観念したようだ。
「う、うむ」
まだ腑に落ちぬようだが、日本に帰る事にする。
* *
「で、要件ですが、どうやらあなたはあずさちゃんの事が家族に知られるのを避けたいご様子。間違いありませんね?」
「そ、そうだ。だからどうした?」
「どうやらお困りのようでしたので、私が責任を持ってあずさちゃんを引き取ろうと思って参りました。
そこでここに“養子縁組同意書”を用意しましたのでサインいただけますか?」
「本当に連れて行ってくれるのか?法的には大丈夫なのか?」
「その為の同意書です。あずさちゃんは、こちらで幸せになるよう育てますので心配ご無用です。
明日、あなたの手からあずさちゃんを私に手渡して頂きますが宜しいですか?」
「あ、あぁ、分かった。宜しく頼む」
(何を偉そうに“宜しく頼む”だ。めちゃむかつくわー)
「それでは明日の朝9時に病院前でお願いします。
あ、退院の費用に関してはこちらで受け持ちます。養子縁組のお礼だと思って下さい」
「おぉ、それはありがたい」
(ぐぐぐ、まじでむかつく)
それから敢えて父親の目の前で転移し自宅へ戻った。
「ただいまー。前半は良かったのに、最後はグダグダに終わったよー。何だかなー」
(でも、あずさちゃんの事はしっかり守って行こう。
こうなったらあずさちゃんのお友達候補にフランちゃんもゲットしちゃおうかな…)
* *
それから幸お姉ちゃんのとこに行って、“ゴーヤーチャンプルー”なるものを注文した。
これが苦くて無理だ、と思ったが、食べていくうちに慣れてきて、最後の方は美味しくいただいた。もちろん、残りはお持ち帰りしたけどね。
自宅に帰ってきて、
「そういえばワイバーン倒したんだった」
と気づいて、ステータスをチェックした。
名前:春日ひなた
年齢:14歳
レベル:20
HP:7,704/7,704 MP:14,011/14,011
STR:1,654 VIT:2,288 INT:2,458
MND:2,789 AGI:1,897 DEX:2,458
LUK:4,179
能力:言語把握 叡智 鑑定 能力創造 錬金術LvMax 物理攻撃無効
魔法攻撃無効 状態異常無効 身体強化Lv8 集中Lv3 棒術Lv1
短剣術Lv3 剣術Lv8 弓術Lv4 格闘術Lv6 槍術Lv3
盾術Lv3 生活魔法LvMax 空間魔法LvMax
時魔法LvMax 火魔法Lv8 水魔法Lv7 氷魔法Lv8
聖魔法Lv5 土魔法Lv6 風魔法Lv6 回復魔法Lv6
雷魔法Lv4 闇魔法Lv5 料理Lv4 掃除Lv7 洗濯Lv4
祝福:創造主の加護
称号:未来人 不老不死 叡智管理者
疲れた頭には最初の数字を見た時点で眩暈がしたので、そっと閉じました。
それから、お風呂に入って、暖かいホットココアを飲みながら、暫くテレビの漫才を見た後、歯磨きして眠った。泥のように眠ったよ。疲れてたんだね、きっと。
遅くなってすみません。何とか日を空けずに投稿する事ができました。
誤字脱字のチェックは、明日もう一度行います。もう眠い…。
子供を引き取るって難しいです。これからも戦争孤児や犯罪被害者の孤児を引き取る事になるかと思いますが、法律上の問題や引き取られる子供たちの心情を鑑みるとどうするべきか悩みます。現状より良くなるのなら強制的にでも連れていくべきなのかどうか。難しいです。




