277話:歩き疲れからジャンプが始まりそうです(改稿予定有り)
見上げると、至る所に見られる座標の書かれた雲。
初めての場所でも迷う心配はないが、広大な敷地の中で長時間歩くと、疲労を感じるのが早くなる。
「くっそ……バスとかないのかよ」
「翔矢、天界にバスはないと思うよ」
「バスって何か知らないけど、馬車くらい欲しいわよね」
「馬車……うっ聞いただけで吐き気が」
「えっ? 大丈夫?」
バルバラが急に口を押えしゃがみだしたので、翔矢は心配になり寄ったが、タケルとレースは平然としていた。
「いつもの事よ、放っておいて平気平気」
「レースは乗り物が苦手なんだよね」
「じゃあバスがあってもムリだったか」
「こっこの誇り高き騎士が、乗り物ごときに弱いはずが……」
フラフラの体を押して何とか立ち上がろうとしたバルバラだったが、その反動で口からキラキラがあふれ出てしまう。
どういう原理なのか、天界の大地となっている雲へ落ちたキラキラは、そのまま何も見えない地へと落ちていく。
「この雲、どうなってるんだろう?」
「さぁ、俺も空の国とかに行ったことないしなぁ。
存在するのかも知らないけど」
翔矢とタケルは恐る恐る、大理石の床の外側にある雲に足を伸ばし、同じ動きで褄先をふれる。
するとクッションのような感触があるばかりで、とても下へ落ちるようには思えなかった。
「さすがにちょっとスリルあるな」
「異世界の文化に馴れた俺でもヒュッてなるし、日本に住んでる翔矢は尚更だよな」
「おう田舎住みだし、スカイタワーでも感激したな。
あの時は対して楽しむ暇なかったけど」
「あぁスカイタワーか、完成したんだね。
俺、その前に死んじゃったからなぁ」
「死んだか、さらっと言うな」
「寝てる間だったし、自覚無いんだよね、苦しい思いとかもしてないし」
「なるほど」
ここで翔矢の表情は邪悪に染まった。
少しの迷いもなくタケルの背中をポンと押し、雲の広がる方へと突き飛ばしたのだ。
「あっ!! ちょ!! なにするんだよ!!」
タケルは雲の上で足をジタバタするが、やはり落下する気配はなく、そのまま大理石の床の方へ戻ってきた。
「やっぱ生き物は落ちないのかな? 何か落としても良いモノあったかな?」
慌てて戻りムッとした表情のタケルを脇目に、翔矢は背負っていたリュックを漁り始めた。
「おい!!」
堪忍袋の尾が切れたとばかりに頭上に鉄拳が振り下ろされ、翔矢は頭を押さえた。
「いってーーーー!! 何するんだよ!!」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ!!
人を実験で突き飛ばすな!!」
「どうせ落ちても空くらい飛べるかと思って」
「飛べるけど……って何で俺の能力知ってるのさ?」
「え? だって転生者ってチート持ちになるんだろ?」
翔矢とタケルはキョトンとし、目を見合わせたまま首を傾げる。
「そっか、翔矢も大天界祭に来たって事は、異世界の事情は知ってるのか」
「おう、ラノベのチート主人公みたいなもんだって、ペネちゃん……俺の所にいる天使が言ってた」
「……ラノベって何?」
「え? ライトノベルの略で深夜アニメの原作とかにもなってる、俺も大して読んだこと無いけど、年齢俺と同じくらいだし普通は知ってるよな?」
翔矢の問いにもタケルは首を傾げ、ピンと来ていない様子だ。
話しを掘り下げようと思ったが、少し離れた所からアルネブが手招きをしている。
いつの間に仲良くなったのか、その横にはバルバラとレースの姿も見える。
「あっ今行くよ!!」
「あの2人、さっきまでアルネブを怖がってたのにな」
「あはは、まぁ俺がいるからね」
「おっすげぇ自身、やっぱチートなんじゃないか」
「翔矢チートって言葉好きだよね、まぁ否定は出来ないけど、アルネブちゃん?
確かに俺が異世界で闘ったどんな相手よりも強いけど勝てるだろうし」
「おいおい……まだ会ったばかりだけど、悪い子じゃんはいんだ、倒さんでやってくれ」
「悪い子じゃないって魔王だよね? しかも日本になんでいるのさ?」
「……話せば長いんだよね、タケルの冒険談は?」
「……話せば長いんだよね」
「この3~4ヶ月で俺の身に起こった事も、負けず劣らずかと」
「なるほど……え? そんな短期間!?」
それ以上、2人の近況報告は掘り下げられる事無く黙々と歩き始める。
翔矢は、もう少し話したいと思ったのだが、何故だかタケルの中に会話に対する苦手さの様なモノを感じ、向こうからの会話以外を振る気分にはなれなかったのだ。
そのまま、どれだけ歩いたかは分からない。
持ってきたスマホの時計も、天界に来た時刻のままだ。
「なぁタケル、瞬間移動とか出来ないのか?」
「行ったことある場所じゃなきゃ無理」
「ゲームみたいな仕様だな、じゃあ超高速で移動は?」
その質問が耳に入った途端、レースとバルバラの顔から血の気が引く。
「翔矢君、やめておいた方が良いわよ!!」
「あぁ、体が焼けるように痛い」
「……あぁ摩擦熱凄いって事? そういやアクセル使ってる時は何ともないな」
ふと口から出たアクセルという言葉にも、3人は気がついていないようだった。
一向に目的地に着く気配が感じられない状況に、アルネブは痺れを切らす。
「マスター!! 大天界祭とやらが、いかに長期のイベントとはいえ、さすがにのんびりしすぎです!! 我も歩き馴れてはいない故、少々辛くなって参りました」
「だなぁ、他の異世界の方々は、文句言わずに歩いてて立派なもんだぜ」
「翔矢のコメントは何目線なのさ」
「日本人目線」
など話している横で、レースとバルバラも平然としている。
2人は大きな杖やら鎧やらで、翔矢よりも明らかに重装備なので不思議に思えた。
「2人とも結構歩いたのに、疲れてないの?」
「まぁ歩きやすい道だったし、これくらいはね」
「聞くところによれば、ノーマジカルの日本という国では、冒険者というか冒険が一般的では無かったはず。
普段からの歩いている歩数が全然違うのかもしれんな」
「なるほど……万歩計とか付けて歩いてみて欲しいかも」
気の抜けた感想を口にしながら、今度はアルネブの方を向くと、彼女は巨大なウサギの姿に変わっていた。
「うぉ……ビックリした!! そういや本当の姿はそっちなんだっけ?」
「はい、小回りが利かず何かと不便ですので戦闘時以外は人間の姿でいる事がほとんどですが」
戦闘という言葉に反応したのか、レースにバルバラさらにタケルまでもが身構える。
「ステイステイ!! ちょい説明に入ってしまっただけで戦闘の意思はないのだ!!」
その巨体故隠れきれるハズは内のだが、アルネブは翔矢の後ろで隠れるように丸まった。
「んじゃあ何で姿を変えたんだよ?」
「マスターも我も長距離を歩くのは不慣れ、しかし目的地は目に見えております」
「プカプカ浮いてる雲に座標書いてるからな、歩けど歩けど近寄ってる気はしないが」
「そう!! 見えているのであれば我は一瞬で解決ができます。
マスターとチートのひと、その他諸々の方々、我に乗っかってください」
「その他……」
「諸々とは……」
不服そうにしているレースとバルバラも含め、4人は言われるがまま、アルネブの背中に乗り込む。
「では、しっかり捕まっておれよ」
その一言は、一行に不安を与えるには十分だった。
全員がアルネブのモフモフとした毛を握りしめた週間、彼女は大きくジャンプした。
これは、ジャンプと言うより飛翔というほうが近い。
翔矢は一際大きな悲鳴をあげる。
「うぉぉぉぉいこらぁぁぁぁ」
どれくらい叫び続けたかは分からない。
だが叫び続けている翔矢の名を呼ぶ声が聞こえた。
「翔矢!! 翔矢!!」
「え? おっ? 何? どうなった?」
「とっくに到着してるんだけど?」
「マスター、申し訳ありません。
まさか高いところが苦手だとは」
4人からの視線に顔を赤く染める翔矢。
「あんなん、誰でも怖いわ!!」
そう声を荒げ、翔矢は自らの宿泊施設に入って行くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練っているので少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると幸いです。
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