276話:人質から堪えが始まりそうです(改稿予定有り)
翔矢に向かい放たれた、メタリカ帝国王子の青い炎。
これは異世界への転生者、須藤タケルによって一刀両断される。
「君、大丈夫?」
「おう……ありがとう」
身の安全を確認した翔矢は、ポケットの赤メリへ伸びていた手を引っ込めた。
背後からは、タケルの連れと思われる2人の少女が駆け寄ってくる。
1人は青の長い髪で、一目で魔女と分かる風貌。
もう1人は金髪で長身の、一目で女騎士と分かる風貌だった。
「君ってノーマジカルの人なんでしょ!?
魔法も剣も無いのに、飛び込むのは無謀だよ?」
「レースの言うとおりだ、タケルが来なかったら今頃どうなっていたか。
ワガママどら息子と言ったか? 立ち振る舞いや性格の問題はともかく、中々手練れなようだしな」
「へぇ~脳筋騎士の、バルバラが魔法見て手練れなんて判断できるんだぁ」
「貴様……」
恐らく身内であろうが、女騎士のバルバラは眉間にシワを寄せ剣を構える。
いつもの事なのか、魔法使いのレースは、構わず話を続ける。
「まぁワガママどら息子君が、強いってのは間違いないんだけどね。
この子が魔力がゼロで、ノーマジカルの人間って一目で見破ったみたいだし」
「しかしタケルと同郷の者かぁ、天使様どころか魔法の存在すら知らんだろうに、大天界祭に招待される者がいようとは……」
レースとバルバラにジロジロと見られた翔矢は、照れくさくなり後ずさりをし距離を取る。
当然、背後に気を遣えるはずもなく、誰かにぶつかってしまい「ドスッ」っと相手の倒れた音が聞こえた。
「あっごめんなさい」
慌てて謝罪し振り向くと、ぶつかったのは先ほどの王子こと、ワガママどら息子だった。
「貴様ぁぁぁぁ!! 力もないくせに僕ちんに恥を掻かせおって!!」
ワガママどら息子は、腰から短剣を抜き、翔矢の後ろに回り込みながら、喉に突き当てた。
「王子!! これ以上はなりません!!」
クロムウェル侯爵が、体の痛みを堪えながら静止しようとするが、ワガママどら息子は「黙れ」と言わんばかりに睨みを利かせた。
「仕方がない……」
タケルは手を構え、何らか魔法を発動しようとする。
しかし、その動作を彼は見逃さなかった。
「おっと動くなよ転生者!!
恐らくは常識ハズレの魔法を無詠唱で発動するつもりじゃろ?
だが僕ちんは、その前にこやつの首を掻き切れる!!
というか、この体勢で、僕ちんだけに魔法を当てれるとでも?
ノーマジカルの人間など、少しでもコントロールをミスれば死ぬぞ?」
「タケルがそんなミスする訳ないでしょ?」
「その通りだ、ワガママどら息子とやら、判断を見誤ったな!!」
2人はタケルの力を信じきっているようだ。
しかし当の本人は、少し手が震え、魔法発動に踏み切れない。
こうしている間に翔矢は、ポケットの中の赤メリに手を伸ばすが中々届かない。
「転生者と、人質のノーマジカル人!!
2人そろって土下座するなら、心の広い僕ちんは許してやるじぇ」
「全然広くないじゃないか」
思わず口に出してしまったのはタケル。
打つ手のない状況での軽率な発言に、内心後悔しているが、それに気が付く者はいない。
「謝るのは、お前の方!! 今にタケルがすんごい魔法で、ボンクラどら息子は消し炭!!」
「そうだ!! タケルは心が広いので土下座まではする必要がないぞ!! ボンクラどら息子!!」
お願いだから、2人とも黙ってと思うタケルの思いは、2人には届かない。
「ええい!! 言わせておけば!! ボンクラどら息子じゃなく、ワガママどら息子じゃい!!」
この言葉に、人々は静まり帰った。
ワガママどら息子も「あっ」と何とも言えない表情。
頬を服らませ、顔は真っ赤で笑い声が溢れるのも時間の問題かと思われた。
笑ったところで今更なのだが、何故だか笑ってはいけない空気が漂う。
その空気を壊したのは翔矢だった。
「ぷっぷぷぷぷぷ」
「ええい!! 自分の立場分かっておるのか!?
今すぐにでも、トドメを刺してもいいんだじぇ?」
突きつけられたナイフが、翔矢の喉元に触れる。
少しでも動けば、大事でないまでも、出血は免れないだろう。
さすがの翔矢も、マズいと感じたが、完全にツボに入ってしまっており、我慢しようにもプルプルと震えてしまっている。
「ほらほらタケル、早く助けてあげないと、あの子怖くて震えてるじゃん」
「レース、あれは恐らく、笑いを堪えているだけだ。
タケルが勇敢なのは、とてつもない力故だと思っていたが、ノーマジカル人は皆あぁなのか?」
「そんな事ない……ハズ」
ここでタケルは、ようやく腹をくくったのか、右手に魔力を集中させる。
周りの異世界人は、このようなもめ事に馴れているのか、今まで見向きもしていなかったが、これには緊張感と共に注目が集まる。
「どうにでもなれ!!」
【ファイナル・ジャッチメント……】
タケルが魔法を発動させるよりも早く、王子は危険を察知し、目にも止まらぬ早さで逃げていった。
「覚えてろーーーー!!」
護衛の騎士達も「お待ちください王子」など言いながら、その後を追っていく。
「あっぶねー、でも転生者の魔法、ちょっと見たかったなぁ」
額の冷や汗を腕で拭いつつも余裕を見せている翔矢。
集まっていた異世界人は、店じまいかとばかりに散り散りになっていった。
「ふぅ……魔法使わずに済んで良かったぁ」
タケルもまた冷や汗をかいていたが、安堵の表情を見せている。
「えっと、助けてくれてありがとう。
俺は宮本翔矢、察しの通りノーマジカルもとい地球から来た日本人だ」
「俺は須藤タケル、同じく日本人だけど、色々あって今はヴァルドって世界に転生して冒険者やってる」
タケルが手を伸ばしてきたことで、2人は握手を交わした。
「しかし、生身の日本人と会えるなんて思わなかったよ。
いやぁ……懐かしいなぁ」
「初対面の相手にも、懐かしいって感じるもんなんだな」
「3年くらい会ってないし、シミジミはしちゃうかなぁ」
2人が打ち解け始めた所に、レースとバルバラが寄ってくる。
「なつかしんでいるところ悪いんだけど、君無謀すぎない?
あのワガママどら息子、態度は悪いけど魔法は相当な腕だったよ?」
「全くだ、タケルが居合わせなければ、今頃どうなっていたか」
「あっ、まぁ……」
闘う力があると話すか一瞬迷ったが、なぜだか躊躇し、曖昧な返事になる。
少し会話の内容に困っていると背後から「おーい」と翔矢には耳馴染みのある声が聞こえた。
振り向くと、そこにいたのはハネル大陸の魔王アルネブだった。
「おぉアルネブ!! お前も招待されてたのか?」
「マスタァァァァ寂しいではないか!! 我を置いていくなど!!」
「ゴメン……魔王を天界に連れてくるのはマズいと思って」
「本当は?」
「完全に忘れておりました、誠にゴメンナサイ」
翔矢は素直に頭を下げたが、アルネブは不満そうに頬を膨らませている。
それでも何とか機嫌を直して貰い、話しを聞くと、彼女を招待したのはルーシィだった。
「え? あいつ天界の罪人だよな? 招待状なんて持ってたの?」
「大天界祭というのは大昔から準備を進めているようでしてな、招待状をそのまま持っていたようです」
「俺らの世界でも、でっかい祭りって準備期間が長かったりするけど……ガバ管理すぎるだろ」
「我もそう思いますが、マスターも参加されると聞きましたので」
「んで、ルーシィはこっちに戻って来たのか?」
「……あっ!!」
罪人である彼女を置いてきたと認めたに等しい回答に翔矢は呆れ果て肩を落とす。
アルネブは、焦りから妙な挙動を見せながら話しを進めだす。
「だだだ大丈夫ですよ!! 帰ってしまえば元の時間らしいですので、何もできやしません!!
そそそそそれよりもコチラの方々は、ご友人で!?」
アルネブが視線を送った先では、レースとバルバラがガクガクと震えてタケルの後ろに隠れていた。
「翔矢君……その子……君の知り合いなの?
とんでもない魔力を感じるんだけど……」
「魔法を使わない私でも感じられる魔力、恐らく魔王……」
「日本にいる翔矢に異世界、というか魔王の知り合い?
なんか懐かれてるように見えるけど」
「まあ……色々あってな」
何から話せば良いか分からず、そう言うしかない状態。
それでもアルネブに害がないのは伝わったようで、5人の宿泊施設まで共に行動を共にすることになった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練っているので少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると幸いです。
下の星から評価も、入れてくださるとモチベが最高潮になるとか。




