272話:ライブから招待が始まりそうです
翔子とリールが体育館に着くと、案の上の人だかり。
生徒も一般客も入り交じりごった替えしていた。
「とてつもない人なのだ」
「卓夫君の話しでは、パニックを避ける為にサプライズだろうって話しだったけど」
「恐らくは田舎者の習性『人がいっぱいいると楽しそうで行きたくなる』が発動したのだ。 全員が、これから何が始まるか把握はしておらぬだろう」
「翔子……私そんな話し方の人と行動を共にするの恥ずかしい」
「そう寂しい事を言うでない、文化祭は特別な行事。
それに我の後輩には、平常時でも、この話し方の者がおるのだ」
「そう言われると、人格否定しちゃったみたいで罪悪感なんだけども……」
納得行かない様子のリールと共に、キョロキョロと席を探すが、とてもでないが座れそうにはない。
ズイズイ進んでいる内に最前列までたどり着いていた。
ここまで来てしまっては、探すまでも無く開いている席などないだろう。
仕方なく、そのまま外周を進み後ろの席を探そうとした所で、見覚えのあるシルエットが最前列で座っていた。
「卓夫ではないか!!」
「私たちと、ほとんど一緒に出たのに、よく前の方に座れたわね?」
「おぉ翔子殿にリール殿、ここはファンクラブ用の席でゴザル」
「ファンクラブ……?」
「文化祭な上にサプライズ出演なのに、何故そんな席が?」
考えても答えは出ないであろう疑問が2人の頭に浮かぶ。
「同伴も可であったが、1人だけで申し分けないでゴザル。
っと、そうでなくとも既に使って居るのでゴザルが」
2人とも気がついてはいたが、卓夫の横には大男のワルパが目を輝かせ座っていた。
今か今かと待ちわびているのが、何も言わずとも伝わってくる。
だが、それ以上に存在感を放つのは、更に前の席に陣取っているこの男。
「ヘイヘイヘイ!! ド田舎の文化祭なんて暇つぶしにもならないと思っていたけど、まさか、こんな大イベントが用意されていたとはねぇ」
「ドクターのおっさん……そういえばユリアさんのファンって言っておったな」
「その姿でおっさん呼びなのは少し悲しいが、その質問の答えはイエスだ。
何を隠そう、ファンクラブナンバー2だからねぇ」
その言葉に、少し離れた席の卓夫の耳がピクピクと動いた。
「ファッファンクラブナンバー2と言いますと、伝説のドクッチさんでゴザルか!?」
「いかにも、そういう君は?」
「ファンクラブナンバー3、くぼりんでゴザル」
「おぉ!! 君のSNSはチェックさせて貰っているよ。
アクスタやグッツの投稿は、拘りを感じて羨ましい限りだ。
私は展示するという事においてはセンスが無くてねぇ、せっかくのグッツも乱雑だ」
「勿体なきお言葉!!」
そのまま、2人の熱い談笑が始まり、翔子とリールは置いてけぼりとなった。
「リール、我らは席を探すとするか」
「そうね、ドクターの同伴券は使ってないみたいだけど、どうせ1人分だし」
恐らくユリアのステージが始まるまで熱く語っているであろう2人は放っておき、席を探しに戻る。
開演を告げるブザーが鳴り、明かりも消え、少し焦ったが、丁度目の前の立ち見席に入る事が出来た。
「滑り込みセーフ!!」
「駆け込みの割にはステージは良く見えそうね」
先ほどまで騒がしかった観客も、今か今かと主役の登場を待ちわび、ステージに注目する。 間もなくして、カーテンから、ユリアのモノと思われるシルエットがお目見えした。
「六香穂高校のみんなーーー!!」
この一言で、会場は大盛り上がり。
既に号泣している生徒までいた。
「おぉ……」
「翔子、他の皆と比べるとテンションが低めね」
「友達認定されてるのでな、何だか不思議な気持ちが勝ってしまう」
「それは、私も同じだけどね、天使と人間のハーフなのよね。
ずっとこの世界で暮らすって苦労も多かったろうに、立派ねぇ」
「それは誰目線なのだ?」
「いやぁ、何となく」
「お2人とも、せっかくなのでユリア様の歌を楽しみましょうよ」
「それもそうだ」
「ん?」
2人で話していた所に入ってくる聞き覚えのある声。
それに加え特徴的な銀髪は、間違いなくペネムエだ。
「おぉペネムエか」
「今まで何処にいたのよ?」
「まぁ……ブラブラと」
明らかに不機嫌そうなトーン。
だが2人は、ユリアの歌に集中したいだけだろうと、大して気にしなかった。
その後、ユリアのパフォーマンスは大盛り上がり、その不機嫌なトーンのことなど忘れ去られる。
***
ユリアのステージで盛り上がっている頃、蓮と鈴は学校をグルグルと見て回っていた。
「どういう事だ? 学校に誰もいないぞ!? もしやまた事件が?」
「ドクターが言ってたでしょう? 天童ユリアさんのステージがあるって」
「あの娘か、そんな人気だったのか?」
「私も良くは知らないけど、これだけ人がいないんだからそうでしょう」
「何処の出し物も休みになるとは想定外だ」
「こんな事ならドクターと一緒に行けば良かったね」
そんな事を話しながら諦めずに開いている店を探していると、後ろから足音が聞こえてきた。
全員が全員、ユリアのステージを見に行く訳はないので不思議はないのだが、2人は何かを感じ取ったかのように振り向いた。
「ふむふむ渡辺蓮氏に雑賀鈴氏とお見受けするでボーン」
目の前には鎧で武装しフルーレを握ったヨーロッパの兵士のような男。
2人は男の雰囲気から、文化祭の仮装ではないと察した。
「俺達の事を知っているようだな、その構えを見れば、何をしに来たかは分かるが一応要件を聞こうか?」
「我が名はピエルン、天界の十二神官が1人」
「十二神官?」
「確かペネムエたち天使の女神の次に偉い人のことよ」
話しを進めながら、蓮と鈴はそれぞれの武器を構える。
「うむ、あの人形を引き合いに出されるのは心外だが、まぁ正しい認識と言っておくでボーン、私の目的は……あなた方を計る事でボーン!!」
ピエルンは一瞬の内に視界から消え、蓮の喉元を鋭い突きが迫る。
だがソルを鞘から抜かないまま、自らの喉の前に一文字に構え、コレを防いだ。
「うーむ、人間の視力で捉えられる速度では無いはずだが……
魔法が使えぬノーマジカルのせいか、前線に出る機会が減り腕が鈍ったか」
レイピアを下ろし顎に手を当て考え事を始め、戦いの相手であるはずの蓮から目を反らしている。
明らかに自分を舐めている挑発行為、様子見のつもりだった蓮だが、頭に血が上りソルを鞘から素早く抜刀した。
「今後の戦いに備える為、ドクターが調整した最高火力だ。
ぶっつけ本番、命を落としても恨むなよ?」
【レベル7:魔ノ断絶】
青白い炎の斬撃がピエルンを襲う。
「おいおい……これは……」
ピエルンが炎に包まれ、視界が塞がれる。
「やったか!?」
「蓮、それ言いたくなるって事は、やってないわ。
あと誰がいるか分からないんだから、学校でそんな大技出さないで」
「ドクターの話では、魔力を焼く斬撃らしい。
よくは分からんが、建物や普通の人間に危害は無いだろう、たぶん」
「危害は無くても、見た目が非日常すぎるんじゃない?」
鈴は、普通に生きていればお目にかかれない様な青い炎を指さす。
「まっまぁ誰にも見られてないようだし」
「……いつか、やらかしそうで怖いから本当に気をつけてね」
「そこのレディの言うとおりでボーン。
ノーマジカルの人間に他の世界の存在が知られるのは避けたいのでボーン」
青い炎は、いつの間にか収まっており、ピエルンは鎧の汚れを手で落とす余裕を見せていた。
「なにっ?」
「だから“やったか?”なんて言うからよ」
「どう見ても魔法の攻撃でボーン。
これがノーマジカルの技術で作られているとは摩訶不思議。
続いては、そちらのお嬢さんの力を、お見せ頂きたいでボーン」
ピエルンは、ご指名とばかりに指の代わりにレイピアで鈴を指す。
「蓮の斬撃を見切った相手に通用するとは思えないけど……」
鈴は助走を付け大きく飛び、クラッシュダマーのハンマーを振り下ろす。
これをピエルンはレイピアの先端で軽々と止めた。
「防がれるとは思ったけど、そう軽々とはショックね……」
「レディの重さは、紳士として軽く扱うモノでボーン」
「体重の話ししてる地点で紳士ではないわ」
「手厳しいでボーン」
レイピアをグッと引く動きに恐怖を覚えたときには手遅れだった。
超高速の突きが、蓮と鈴を襲いかかる。
2人は反応すら出来ずにその場に倒れ混んだ。
「おやおや呆気ない、この世界で開発された魔法。
それに、大魔王マモンの遺産にも興味はあったのだが。
まぁアイリーンちゃんの頼みなので仕方ないでボーン」
ピエルンが紙のような物を投げると、中に吸い込まれ、2人の姿は消えてしまった。
***
その頃、阿部瑠々は導かれるように何も展示されていない教室に入っていった。
彼女を待っていたとばかりに、ボロボロのローブから長く綺麗な銀髪がはみ出た少女が椅子に座っている。
「お主……ペネムエ? ではないな」
「わたくしは天使のアリス、勇者アーベル様をお迎えに上がりました」
アリスと名乗った少女は、紙を手裏剣のように投げつける。
瑠々は人差し指と中指に挟め受け止めたが、そのまま中へと吸い込まれて行くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練っているので少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると幸いです。
下の星から評価も、入れてくださるとモチベが最高潮になるとか。




