271:劇物から復活が始まりそうです
時刻は15時を回り、六香穂高校文化祭も終盤戦。
飲食店である翔子のクラスの客足は、ようやく落ち着きを見せた。
「はぁ……はぁ……疲れた」
「翔子ちゃんお疲れ様、はい栄養ドリンクどうぞ」
「悠奈ありがとー」
翔矢もとい翔子は、慣れない体で接客、そしてワルパやグラビの手際を見かねて、調理も合間でこなしたので、疲労困憊とばかりに顔を伏せていた。
その体勢のまま手を伸ばし、栄養ドリンクを口に運ぶ。
ゴクリと飲んだ瞬間、彼女は異変に気がつき、洗面所へダッシュする。
5分程が経過し、戻って来るなり、悠奈へ詰め寄っていく。
「悠なぁぁぁぁぁ!! お主何を飲ませよったぁ!!」
思い出したかのような、瑠々のマネの厨二病口調だが、その気迫は凄まじかった。
「悠奈ちゃんお手製栄養ドリンクです」
そのワードだけで、何が入っているか、想像する気も失せてしまう。
「そんな劇物、客には振る舞っていないだろうな!?」
その質問に答えたのは、翔子と同じく疲労困憊の様子のリールだった。
「それは……私が全力で阻止したわ……バタリ」
数歩程度の距離を歩いて来たようだが、疲労のせいか力尽きてしまった。
「リール!! ずっとテンヤワンヤと働いておれば無理も無いか!!
しかし天使のお主が、人間の労働でダウンするとは!!」
慌てて駆け寄る翔子に、その様子をニマニマと見つめるクラスメイト達。
「あの子、可愛いけど翔矢だよな?」「何故厨二病?」「後輩の瑠々って子のマネだって悠奈さんが」「しっかしリールさんを天使だとよ」「美人な彼女がいて、羨ましいぜ」
などクラスメイトの反応は様々だが、翔子が口を滑らせた事に気がつく者はいない。
「所でリールちゃん、私の栄養ドリンクが、お客さんの手に渡るのを阻止したとは?」
「悠奈……あんたねぇ!! 『JKお手製元気になるドリンク』って、なんつぅ商品名で出してるのよ?」
「それならば売れると思いまして!!」
「テロよ!! テロ!! 来年から文化祭が無くなる所だっただわさ」
「だわさ? 口調もおかしくなってるし、これでも飲んで落ち着いて」
「ありがと」
手渡されたモノを、疑うこと無く口に含むリール。
その姿に、翔子とクラスメイトが青ざめる。
「おい……リール、それ……」
彼女を気遣う言葉が漏れた時には全てが手遅れ。
それは、リール自身が1番良く分かっていた。
みるみる顔が青ざめていった彼女は、先ほどの翔子と同じように、洗面所へダッシュし、数分後に戻って来た。
「はぁ……はぁ……悠奈!!
あんた私に何の恨みがあるのよぉぉぉぉ!!」
悠奈の胸ぐらを掴み、ブンブンと揺するリール。
しかし、悠奈に悪い事をしたという自覚は無いようだ。
「でもほら!! 翔子ちゃんもリールちゃんも元気になってるじゃん」
「「……そういえば」」
声を揃え、同じ動作で目を見合わせる2人。
言われてみれば、体が軽くなり疲労感は消えていた。
「いや、疲れが一瞬で飛んでるのは、それはそれで怖いんだけど」
「何かあったら、その時はその時、今は考えないようにしましょう」
気を取り直し仕事に戻ろうとする2人。
しかし客席に目を向けると、閑古鳥が鳴いていていた。
いくら食事時を過ぎているといっても、この人の少なさは異常だ。
「どういう事だ? まさか大魔王軍が動いたのか?」
「翔矢、じゃなかた翔子、キャラ安定してないんだから、その話し方やめなさいよ。
悠奈ちゃんの劇物の噂が広まったとかよ、きっと」
「失礼な事を言うなぁ、結構注文入ったけど、何事もなかったよ?」
「何事か、あってたまりますかっての、私が普通の栄養ドリンクとすり替えたのよ。
注文したお客さん、全員対応したから大変だったわ」
「そりゃ災難だったな、我が、もっと早く来ていれば……」
激務を思い出し、回復したハズの疲労が再発し、翔子は後悔で項垂れていた。
「ちょっと!! お客さんは“女子高生お手製栄養ドリンク”って商品名で来てくれたのに、それじゃあ詐欺じゃん!!」
「詐欺が正当化されるケースってあるのだな」
「何事にも例外はあるヤツよ」
よく見ると、裏手には、何処から入手したのか、大量の栄養ドリンクの空き瓶。
それに、悠奈が作ったと思われる栄養ドリンクの入った巨大な鍋が置かれている。
「それでは翔子殿リール殿、落ち着いたようなので、我らはこれで失礼するでゴワス」
「お客さん相手に料理をするのは、荷が重いかと思ったけど、新しい経験で楽しかった」
「あっ2人とも、ありがとうございました」
素に戻り、頭を下げるとワルパとグラビは、笑顔で手を振り去って行った。
「しかし、大魔王軍の仕業でないとすると、何故急に客足が途絶えたのだ?」
教室の扉からヒョコッと顔を出し廊下をのぞいてみると、店どころか廊下からも客足が途絶えていた。
本当に何があったのかと首を傾げると、大久保卓夫の「なぁぁぁにぃぃぃぃやっちまったなぁ!!」という普通は聞かないような叫び声が聞こえた、
「どうしたのだ卓夫!!」
「まさか本当に大魔王軍が!?」
「ててててててて天童ユリア様が、この高校に来てるでゴザル!!」
卓夫が凄まじいテンションからの近距離でスマホの画面を向けて来た。
そこには、天童ユリアのSNSのアカウントで『高校の文化祭に呼ばれました』という投稿とともに自撮りの写真が載せられている。
だが高校名などは載っていないので、これだけでは六香穂高校の文化祭なのかは分からない。
「いや、東京とか余所の文化祭ではないのか?
連絡とかなかったし」
「何処にでも出てくる人だけど、流石にねぇ?」
「連絡? 何処にでも出る?」
卓夫の眉がピクピクと動き、不審な者を見るような目に変わった。
鋭い眼光に2人は思わず冷や汗を流す。
誤魔化す為の言葉を探している間に、悠奈が、その会話に反応してしまう。
「あっ!! 海で一緒になっ……ゴボゴボ」
しかし間一髪の所で、翔子とリールが息のあった動きで、その口を塞いだ。
「あっははー悠奈は、栄養ドリンクの作りすぎで疲れておるのだな」
「そうそう、コレでも飲んで疲れを取った方がいいわ!!」
慣れた手つきで、リールは悠奈の口に大量の栄養ドリンクを流し込んだ。
彼女の顔は見る見る青ざめていき、洗面所まで、猛ダッシュしていった。
これには、翔子も同情の表情を見せる。
「お前……鬼か?」
それより、本当に天童ユリアさんが六香穂高校にいるのか知りたいなぁ。
「間違いござらん、この写真の奥の壁の画鋲の痕、我が校の生徒会室のモノと一致する。」
「卓夫こえぇよ」
「大魔王軍と大差無いわね」
2人の反応など気にする事無く、卓夫は話しを進めた。
「ユリア様は、この地出身で地元愛も公言しているので、いらしても不思議はない。
恐らく生徒会が秘密裏にお呼び立てし、パニックを避けるため一部にしか知られていなかったのであろう、ファンクラブナンバー3くぼりん、一生の不覚でゴザル」
ここまで落ち込んだ卓夫の姿を翔子は見た事が無かった。
「SNSに上がったのは今さっき、ならまだ始まってないのではないか?」
「そんなに好きなのに遅れたら、それこそ一生の深くじゃないの?」
「その通り!! 大切なのは過去ではなく、今どうするか!!
2人には、ファンの真理に気がつかされたでゴザル!!」
「はよ行けや!!」
「これにてゴメーーーーン!!」
大久保卓夫は、その巨体から想像が付かない速度で教室から飛び出し廊下を駆け、その背中を呆然と眺める。
「私たち、どうしましょう?」
「気がつけばクラスのモノも消えておる。
我が校でユリアがイベントすると言えば体育館しか無いであろう。
ここにおっても暇であろうし、共に向かうとしよう」
「了解」
翔矢が翔子になっているからか、学校では付き合っている事になっているからか、2人は自然に手を繋ぎ、ゆっくりと体育館へ向かった。
その背中を深刻な表情で見つめるペネムエの姿に気がつかずに……
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練っているので少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると幸いです。
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