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270話:接客から素が始まりそうです(改稿予定有り)

 白いワンピースを着て、教室へ戻ってきた翔矢、もとい翔子。

 なぜだか厨房に立つ事になったワルパとグラビが心配だったが、教室の前は大行列。

 

 この状況で考えられるケースが2つ、翔子の頭に浮かんだ。

 

 

 「まともに調理出来てないか、普通に美味いかどっちだ?」

 

 

 後者である事を願いたいが、その場合、自分が厨房に立っていた以上の繁盛を意味する。

 それは今まで、数々の人物の舌を唸らせてきた自分の立場が危うくなる気がした。

 

 

 「おぉ翔矢、楽しまれて来たようで何よりでゴザル」


 「可愛くしてもらったねぇ、私も時間あったらイケメンにしてもらえるかなぁ」

 

 

 六香穂高校では、誰でも性別逆転の間が、名物の出し物になっていた。

 それも幸いしてか、迎えてくれた卓夫と悠奈を含め、誰も疑問をもっていない。

 それでも、一瞬で翔子が翔矢だとバレたのはショックだった。 

 

 

 (少なくともヤンキーに絡まれる程度には、可愛いハズなんだけどな)

 

 

 そう心で思いながら、先ほどの出来事を思い出し、少し背筋が凍った。

 

 

 「それより、鉄板屋は?」


 「翔矢君が助っ人で呼んだ、お兄さんがスッゴい頑張ってる!!

 でも、リールちゃんが接客に入ったら、すっごい混んじゃって」


 「あぁ、忘れそうになるけど、あいつ美人なんだった」


 「ノロケでござるか?」


 「うるせぇやい」

 

 

 体の構造まで女になっているが、文化祭という特殊な状況と、見知ったクラスメイトがいると、そんな事も忘れてしまう。

 

 

 「さぁて、くっちゃべってないで、俺も厨房に戻りますかね」


 「翔矢君、せっかく声まで女の子らしくしてるなら、言葉遣いも頑張ってよぉ!!」


 「う~ん、せっかくだしやってみる……みようかしら」

 

 

 そうは言ったものの、急に女性のように喋ろうとしても難しく、口を閉ざしてしまう。

 

 

 「身近な女子の口調を参考にするのはどうでゴザル?」


 「身近な女子……」

 

 

 最初に浮かんだのはペネムエの顔だったが、自分には少し穏やかすぎる気がして候補から消えた。

 次に思い浮かんだのは、剣道部の後輩の瑠々だった。 

 

 

 「我が名優、ワルパにグラビよ!! 手数をかけた!!

 我が来たからには安心してくれ!!」

 

 「翔矢殿……」


 「ノリノリで可愛いね、今日は翔子ちゃんって呼ぼうかなぁ」

 

 

 ウキウキスキップで厨房へ向かう翔子を、2人は保護者のような暖かい視線で見送った。

 

 

 「おぉ翔矢殿、体が変わり不便な思いをしているかと思ったが、満喫しているようで何より」


 「この我が、肉体の変化程度で臆するモノか!!

 あと今は、翔子と呼べい!!」

 

 「翔子殿、何だか板に付いてるでゴザルな」

 

 

 この発言をしたのは、大久保卓夫。

 なぜだか、この場の視線を一身に集めている。

 

 

 「それがし、何かやってしまいましたかな?」


 

 その問いに答えるかのように「そっくりだーーー」という歓声にも近い声。

 卓夫はピンと来ていないようで、首を大きく傾げた。

 

 

 「ふぬ、卓夫とやら、気づいてはおらぬか?

 お主とワルパの話し方がソックなのだ!!」

 

 

 目を見合わせる卓夫とワルパ、数秒の沈黙の後、2人は堅く握手を交わす。

 

 

 「いやはや、このような屈強な者と似てると言われるのは気が引けるでゴザル」


 「何を言う、タダならぬ雰囲気、相当な手練れとお見受けした」

 

 

 2人の中で、熱い何かが芽生えた中でも、客足は止まない。

 

 

 「ワルパ!! これ以上僕だけで料理するのは、荷が重い」


 「おぉグラビ殿、任せきりですまぬ。

 では卓夫殿、コレにて御免でゴワス」

 

 

 ワルパは深々と頭を下げ、グラビの待つ厨房へ向かった。

 

 

 「待て、料理と言えば我の持ち場、これ以上、よそ者に任せる訳にはいかぬ!!」

 

 

 駆け足でワルパの後を追う翔子。

 しかし何もない所で転び、周りの視線を集めてしまう。

 

 

 「おのれ、大魔王軍!!」


 

 膝を付いたまま顔を上げると、自分を立たせようとする、女性の手が伸びていた。

 

 

 「ちょいちょい、慣れない体なんだから無理すんなって」


 「おぉシフィンであったか、心配には及ばぬ」

 

 

 起き上がり、服の汚れを払ったところで「ドドドドド」と何かが接近する音が聞こえた。 一斉に振り向くと、目がキマッてしまっている悠奈が猛スピードで向かってくる。

 

 

 「ちょいちょい!! この可愛い美しいギャルちゃんも、翔子ちゃんの知り合い!?」


 「おっおう、リールの知り合いのシフィンだ」


 「しっしくよろー」

 

 

 悠奈の気迫に圧倒され、素の話し方に戻っている翔子。

 そんな事を気にする様子もなく、彼女は何か悪い事を企んでいる様子。

 

 

 「ヨシッ!! ワルパさん、グラビさん、まだ厨房に立てますか?」


 「うぬ、この武人、姫の為とあらば、いくらでも立てるでゴワス」


 「人様に料理を振る舞うのは荷が重いけど、自分の才能に気がつけて嬉しい」

 

 

 悠奈が何を企んでいるかに気がついた翔子は、すっかり翔矢の表情になっていた。

 

 

 「おい……悠奈まさか」


 「部外者の方の力なら、もう借りちゃってるし、もう1人くらい増えても平気平気!!」

 

 

 満面の笑みを浮かべる悠奈、こうなっては止める術は無いことを、翔子は知っている。

 2人は、あれよあれよという間に、メイド服姿になってしまった。

 

 

 「おのれ悠奈、この辱め、一生忘れんぞ」


 「おぉ、ウチメイド服とか初めて着るけど、中々可愛いじゃん。

 翔子っちも可愛いよぉ?」


 「ふん、当然のことだ!!」

 

 

 服装が変わった事でスイッチが入ったのか、ノリノリの様子の翔子。

 根が明るくギャル気質のシフィンも、メイド服を可愛く着こなしている。

 しかし、この衣装を制作した卓夫だけは、納得行かないと言わんばかりに首を傾げる。

 

 

 「おかしいでゴザルな」


 「どうしたのだ? 卓夫よ」


 「拙者は、衣装を作る際、翔子……当時の翔矢殿のサイズを参考にした。

 そして、それは紛れもなく基準用に制作した物。

 にも関わらず、サイズが少し大きく見えるでゴザル」

 

 

 卓夫の腕が翔子の胸元に伸びる。

 その手を、翔子は反射的に撥ね除けてしまう。

 

 

 「どうしたでゴザル?」


 

 今の姿はともかく、本来の翔子は男。

 この反応に卓夫は疑問を持ったようだ。

 

 

 「とっとにかく客を待たせておる、これくらいダボダボでも問題はない!!

 シフィン、行くぞ!!」


 「はーーーーい」

 

 

 翔矢はイソイソと厨房へ料理を取りに向かい、シフィンはニマニマと笑みを浮かべながら、その後を追う。

 

 

 「翔子っち、接客とか1人で大丈夫? さっきは変なのに絡まれたって聞いたけど」


 「心配には及ばぬ、ココであれば人も多いし、リールもおるしな」

 

 

 翔子は視線を、接客中のリールへ向けた。

 バイトもしているだけあり、手慣れた様子で接客している。

 それを見習い、翔子も客の元へ、料理を運んだ。 

 

 

 「いらっしゃいませ、ご主人さまぁ」

 

 

 恐らく東京の店でも通用するのではないかという完璧なお出迎えを決めた翔子。

 しかし、客の顔が視界に入った途端に、固まり動かなくなってしまった。

 

 

 「翔矢、なにやってんだ? 普通に女子がメイドやってるって聞いて来たのに」


 「翔矢先輩に、そんな趣味があったとは……

 いや似合ってはおるのだが」

 

 

 来店したのは、剣道部の先輩である健吾と、後輩の瑠々。

 健吾はあからさまに落胆し、瑠々は戸惑いの目で翔子を見つめる。

 

 

 「……迷惑なセクハラ客への対策です」


 

 プロ意識のような接客から、急に塩対応へと変わる翔子。

 女姿を見られた恥ずかしさよりも、蓮の時のように、一目で正体がバレた悔しさが勝っていた。

 

 

 「じゃあ、さっさと愛情入れさせて貰いますねぇ~

 おいしくなぁれぇ~おいしくなあれぇ~」


 「うん、まぁええか」


 「我は、せっかくだし可愛く接客して貰いたいがな。

 そもそもセクハラ対策は健吾先輩にだけで十分であろう?」


 

 それもそうだと納得した翔子は、瑠々の目の前の焼きそばに手を構える。

 

 

 「おいしくなぁれぇ!! おいしくなぁれぇ!!」

 

 

 今度は、やる気満々での接客。

 なぜか周りから「うぉぉぉぉぉ」と歓声が上がった。

 その後、何故だか客足が急激に伸びたのは、また別のお話。

 ここまで読んで下さりありがとうございます。


 ストーリは一生懸命練っているので少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると幸いです。


 下の星から評価も、入れてくださるとモチベが最高潮になるとか。

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