観察者ユリカ
「ソラ君、今日ちょっといいかな」
今日はユリカからお誘いが来た。なんか最近こういうの多い気が……
多分、カズについての相談だろう。とりあえず断る理由もないので放課後教室に残っていた。
グラウンドからは野球部の威勢の良いかけ声が聴こえてくる。その中にカズの声もあるはずなのに色んな声が混ざって声の個性を消している。しばらく耳をすまして探してはみるが……
「おまたせ」
急に現れたユリカの声に思わず椅子の音を鳴らして反応してしまう。
「ど、どうしたの今日は」
「またプリントかな」
驚いたのを悟られない様に必要以上に丁寧に話す俺。ばれてるだろうけど。
「今日はね、ミナちゃんの事で」
そう言いながら自分の席に座るユリカ。
予想外の発言に今度は声で反応してしまう。
「ミナの事でって、どういう意味」
自分でも思っていた以上の声にユリカもちょっと驚いている。
「前にも言ったけど、ミナちゃんやっぱり無理してる気がする」
「最近、よくカズ君に絡んでいくけど、元々男子に絡んでいくような性格じゃないし」
「多分……」
「わたしがカズ君に好意を持っているのも知っているし、ソラ君の友達だから」
「私達に気を使ってるのかな、と思って」
「ソラ君、何か聞いてないかなっ」
ユリカは息継ぎ無しで溜まっていたものを吐き出した。その瞳は真っ直ぐ過ぎて直視できなかった。
なるほど……ユリカはそう見てたのか。なんか妬いてた俺が情けないな。
「何も聞いてないな」
「というか、ミナは自分の事より人の事で心配する性格だろ」
俺が今まで付き合ってきて分かっている情報を伝える。ユリカも、確かにと呟きながら頷いている。
「だから俺はあいつがしたいようにさせてる」
「多分、俺が何を言ってもあいつはやれる事やらないと気が済まないよ」
俺は分かっている情報を付け足した。そしてもう一つ自分の意見も付け足した。
「ミナに気を使わせたくないなら、ユリカがカズとくっつくしかないな」
なかば投げやりな解決策を俺は提案した。タイミングよくバットの金属音が鳴り響いてきた。
「えっっ」
「え〜〜、いやいやいや」
俺の提案なのかバットの金属音に驚いたのか分からないが、ユリカはひどく慌てている。小さい手で必死に顔を扇いで髪を揺らしている。
「それは、まだ無理だなぁ」
誰に言ったでもないユリカの心の呟きが漏れてきた。色白の顔がほんのり赤く見える。
俺はしばらく野球部のかけ声を聴きながらユリカの様子を観ていた。
観ていたが、俺もミナの最近の様子をおさらいしていた。気にしても仕方ない。言いたくなったらあいつから言ってくる。それとも俺から聞いた方が良いのかな、と俺とユリカがそれぞれ考え始めて黙ってしまった。その間、何回かバットの音が響いてきてた……
「ま、考えたって仕方ないよ」
「ユリカはユリカのペースで行かないと」
「焦るもんでもないし」
俺は答にならない結論を出して椅子から立ち上がった。
「そうだよね」
ユリカも自分に言い聞かせるように鞄を手に取る。
「あんまり酷かったら俺から聞いてみるから」
「ユリカはゆっくりカズをゲットしてやって」
俺がからかい気味に言うと、またしてもユリカは手で顔を扇いだ。
その後俺達は校門で別れ、いつもよりちょっと遅い時間に帰路についた……
ミナの悩みに俺はちゃんと応えられるだろうか。
ちょっと足取りが重い……気がした。




