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灰色の空  作者: 灰色の猫
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カズの想い


 「ソラ、今日ちょっといいか」

 今日は先生方の都合で午前授業だ。部活も休みで俺はカズから誘いを受けた訳だが、珍しいな。カズから誘われるのは。

 とりあえず用もないので学校終わりにカズの家に行く事になった。

 最近はカズとミナが仲良くふざけあっていてももやもやする事もなく、とりあえず二人の攻撃を回避する事に専念している。よく先生からも、「そこの四人うるさい」と注意を受けるがユリカがとばっちりを受けていて、またそれが笑いの種になっていた。ごめん、ユリカ。


 学校を中心にしたらカズの家は俺の家とは正反対にある。仲が良いといってもカズは野球で忙しく時間が合わないのもあり、あんまり家に来たことはない。お互いに、必要以上に群れるのを嫌うのも影響しているかもしれない。


 学校を出て十分くらい歩いたらカズの家に着いた。どこにでもある二階建ての一軒家だが、玄関に置いてある木製バットがカズの家の目印になっている。バットの握る部分は前に来た時よりも血が滲んでいる気がした。

 一階にいたカズの母親に挨拶をして二階への階段を登っていく。相変わらず優しそうな母親だ。挨拶の時も、俺より頭を低くして穏やかな口調で俺を迎えてくれた。


 カズの部屋に入るとグローブの革の匂いに懐かしさを感じた。漫画もゲームもほとんど野球関連。俺が言えた事ではないけど色気のない部屋だ。


 二人分のオレンジジュースを持ってきたカズは絨毯の上に座っている俺の隣の小さなテーブルに一つ置き、もう一つを自分が座る机の上に置いた。


 二人共、飲み物を一口ずつ飲んで一呼吸置く。キンキンに冷えたジュースが喉を脅かしながら通り過ぎた。

 カズにしては空気が重い。帰りの道中も口数が少なかったし。


「今日は……どうした」  たまらず俺から質問してしまった。



「ソラは……ミナちゃんのどこが好きなんだ」

「ぶっっ」

 あぶない、危うくジュースを吹き出す所だった。


「どした、急にっ」

 カズらしくない質問に俺は動揺してしまう。ミナの好きなとこ……急に聞かれたら迷うな……顔、違う違う。性格……いやいや、それだけじゃない。


「いやな、昨日も隣のクラスの女の子から告白されたんだけど……」

 俺の答を待たずにカズが何やら自慢話をしてくる。昨日も……ってどんだけだよ。


「俺も女子に興味はあるよ」

「付き合うっていう事にも興味はある」

「あの子可愛いなっていうのもよくある」

 なんか勝手にカズが悩みを吐き出してくる。こんなになるまで悩んでたのか。真面目なカズらしいな。黙って聞いてよ。


「でもな、今は野球やってる時が一番楽しいんだ」

「俺なりに好きってどういう事なのか考えたんだけど、俺が野球に対しての想いと同じなんじゃないかって」

「そう考えたら、よく知りもしない女子から告白されて付き合う事への興味だけでオーケーするのも申し訳ないなって思って」

「なあ、どう思う」

 カズのいきなりの質問でとっさに答が出ない俺。そんな風に悩んだ事がない俺。凄いな、カズは……


「うーん、そんな風に悩んだ事ないからカズが求める答は言えないけど」  今度は俺のターンだ。

「俺の話をするから参考にはならないと思うけど……」

「俺がミナに告白したのは後悔したくなかったから」

「ずっと幼馴染みで仲は良かった」

「でも、いつからかミナに対して何とも言えない感情が湧いてきて、姉に相談してその感情が恋、つまりは好きだって初めて気がついたんだ」

「幼馴染みとして仲が良かった分、告白して今までの関係が崩れるのが怖かったよ、もちろん」


 俺は考えがまとまらないうちに口が勝手に動いている事に気がついて、慌ててカズに目を向ける。……良かった、俺の目を見てちゃんと聞いてくれてる。俺は続けた。



「それでも、告白したのはやっぱり後悔したくなかったから」

「距離が離れる事以上に今よりももっとミナを知りたかった」

「だから俺の好きっていうのは、相手を、ミナを知りたいっていう事だと思う」


 なんとなくまとめた俺は残っていたジュースを一気に飲み干した。だいぶ温くなったな。



「そうか、わかった」

 カズもそう呟くと残っていたジュースを飲み干した。

 分かってくれたのかな、参考になれば良いけど。


「ありがとう、やっぱりソラは凄いな」

 カズの意外な一言に戸惑ってしまった。俺がカズから凄いと思われる要素なんて何一つ無いのに。


「そして、ごめんっ」

 いきなり謝るカズ。今日のカズは変化が激しいな。

「すっきりしたら走りたくなってきた」

 申し訳なさそうに頭を下げるカズ。悩みが解消されたなら俺が恥ずかしい事を言った甲斐もあるよ……


「わかった、カズの自主練にはさすがについていけないから今日は帰るよ」

 俺は笑いながら帰宅の意思を告げた。嬉しかった。凄いと思っていた奴から感謝されて。


「ありがとうっ、ソラ」



 練習着に着替えたカズと玄関の前で別れた。さっきさよならを言ったばかりなのにもうあんなとこまで行ってる。


 凄い凄いと思っていた、ずっと遠くにいたと思っていた友達が意外に感じてなぜだか嬉しかった。なんの取り柄もない俺だけど、ミナ、カズの隣を歩いて良いんだと思えて心がくすぐられた気がした。





 今日はいつもより倍の距離の帰り道だけど、不思議と感じなかったな……


……なんでだろ。

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