成果、成長と抑えきれぬ愛玩
「――――――――ふーっ…………」
今、俺は座禅を組んでいる。
なぜそうしているのか?
それは考える必要はない。
木々の揺れる音、小鳥のさえずり
僅かに残る体の疲労感も、手づまりな薬草研究やマナ修行への倦怠感も
そういった邪な考えを洗い流すように風が――――
「――――あんた、何してんのよ」
「修行中だ、ペリカ」
「それが?」
「ここのところ四六時中意識を目覚めさせてばかりだったからな」
「…………ふーん。見ないうちにマナの質が上がってるの何かムカつく」
「マナの質?」
「今のあんたには説明してもわからないから言わない!!」
「――――何で逆ギレされるんだ?」
座禅を組み終え、呼吸を整える。
手先、足先、腹の奥、節々に血やマナが巡る感触が巡る。
不貞腐れた態度をするペリカを横目に帰り支度を始める。
「もう、治ったの?」
「治療が済んだのは数日前からだな。ここでできることも少なくなってきたし」
「ところで、強化魔法っていうのはどうやって使うんだ?」
「あぁ…………結局教えれてなかったわね」
ペリカは顎に手を当てながら深く考え込む。以前のマナの保持や感知の訓練とは違い、門外漢のためか教え方を探っているのが伺える。
しばらく悩んだかと思えば観念したかのような表情で口を開き始めた。
「…………強化魔法っていうのは魔法じゃないのよ」
「…………ん?」
「だから、魔法じゃないの。詠唱も術式もこれといってない。それが強化魔法の特徴」
――――どういうことだ?
「じゃあなん――――」
「魔法って名前がついてる理由がわからないって顔してるわね、あんた」
「強化魔法はね…………出自が異端なの。元々は生まれた時にマナを持たないマナ無しが武道を学んでいるうちに身に着けてしまったことが始まりとされているわ」
「ってことは…………まさか」
「そう、あんたの思う通り、ここからはあんたが積極的に身に着けたマナ操作を戦闘に使うだけってことになるの。一応コンバットロジー・ポワって名前がついてるけど、詠唱の必要はないから心の中で唱えて意識の切り替えにでも使いなさい?」
「――――覚えとく」
「んで、実戦で試すしかないのか?俺としてはあまり使える実感がないんだが」
「うーん…………できるかどうかわからないけど、熱かったらごめんね?」
「それはどういう――――」
「――――ヴォン・オグモンティ」
つむじ風のようなものが、療養所の庭の砂埃をペリカの眼前まで持ち上げていく。
そうして持ち上げた砂を炎で加熱、水で冷やし始めると、人の頭くらいの大きさの岩石が出来上がった。
「――――風魔法なんて使えてたか?」
「覚えたのよ、師匠に教わってね。」
「師匠?」
「――――今はそっちよりあんたの強化魔法云々の方が大事。この岩、今からあんたに投げるから盾で砕いてみて?」
「?…………とても簡単に砕けそうにないが?」
「――――いいから」
ペリカは自身の眼前に水魔法の壁を張った後、出来上がった岩石を俺に向かって飛ばす。
中腰になって盾を構えていた俺は、もはや最初の頃から見違えるほど淀みのないマナ操作を行う。
まずは足に集中。突進。次にインパクトの瞬間に盾に意識を集中。そのまま押し出すイメージで…………
――――轟音が鳴り響いて岩が砕け散った。
「…………いつの間にこんな力を?」
「はぁ…………それが強化魔法なの、動きに連動してマナを的確に操作して瞬間的に筋力や質量を上乗せする…………っていうものなの」
「これがなんちゃっての正体というわけか」
「そうね、だから後は完全に慣れよ?強化魔法で大事なのは本当に常にスムーズなマナ操作とマナ総量を増やすしかないもの…………ところで、あの疑似スライムちゃんってどうなったの?」
「なぜ急にそれを?」
「いや…………なんか嫌な予感がして――――うわぁ!」
ペリカが視てしまったのは――――もはや疑似とは言えないスライムだった。
アシッドヴァルチャーの強酸の性質を獲得したのは以前と変わりないが、ポーションの空き瓶の中にギチギチに詰まり、今か今かと外に出たい衝動を示すように蠢いている。
「なんで息吹き返してんのよぉ!?…………まさか、際限なくマナを注いだんじゃないでしょうねぇ?」
「――――見てるうちに可愛くなってきて…………つい…………な?」
「ぐっ…………確かに…………そう見えるけど…………」
「アコールさん?ペリカさん?なーんでスライムを連れてきてるんですかぁ?」
「げっ!!あんた!急いでそいつの可愛さをセヴィアに伝えなさいよ!このままじゃ聖女に何されるかたまったもんじゃないわよ?」
「テイマーでもないのに連れ歩かないでください!!」
――――小一時間は箒を振り回すセヴィアにペリカ共々追いかけられる羽目になった…………




