月下、霧中の舞踏会
「…………クッ」
「ほらほら、ワイルドウルフ一匹程度に苦戦してたらいつまでも魔法なんて使えないわよ?」
狼の飛びつきを盾で受け止め、剣によるカウンターで切りつける。
――――マナの意識を途絶えることなく。
奴は動きが速い。だから単なる回避ならその隙を狩られる。
来る。ギリギリまで引き付けて躱すと同時に首筋を切る。
「ガルルルルルッ…………ガウッ!!」
右足側に重心を寄せると狼はそれを見て回避先を潰そうとしてくる…………が
空いた左脇腹を容赦なく蹴り飛ばす。
しかしひるむことなく向かってくる狼の鼻先を今度は盾で迎え入れた。
鼻先が折れたワイルドウルフは「キャイーンッ…………」と情けない声を上げて悶え苦しむが、
その喉元に容赦なく長剣の刃を押し込む。
「…………はぁ、やはりこういった低身長の魔物は苦手だ。」
「カウンターの瞬間、蹴りのタイミング。二回も途切れたわね?」
「――――あ」
「あ、じゃないわよ。そんなんで戦闘中に魔法なんて使えるわけないでしょ?」
「そうは言うがな…………魔法剣士はいつもこんなことやってるのか?」
「あぁ…………あれは付与魔術がメインだからそこまで気を配ってないわよ?」
「そもそもあれは単なる物理攻撃に魔法による属性攻撃を上乗せするっていうのが目的で…………」
「…………おい、じゃあこれにはどんな意味が?」
「――――集中力の訓練?」
「手探りなのかよ。…………まぁいい、次のワイルドウルフを出してくれ。」
「はーい♪第五ラウンド行ってみよ~♪」
ペリカの横には炎魔法による檻の中で落ち着かなさそうに歩いているワイルドウルフが数匹いた。
彼女の掛け声とともに檻から次のワイルドウルフが解き放たれる。
スライムを倒してから、昼ご飯を挟んだ後はずっとこの実践訓練に取り組んでいた。
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「はぁ…………はぁ……………………ゴキュッ、ゴキュッ」
「お疲れ様」
結局、日が傾くまで訓練は続き、どうにかマナへの意識を途切れさせずに倒せるようにはなってきた。
「第一目標は…………一旦クリアね。後は寝て起きた時にも途切れてなかったら本格的に合格かしらね?」
「ふぅ…………あとどれくらいやらなきゃいけないんだ?」
「うーん…………後は自力でマナが補給できるように自分の体外のマナを感知できるようになればいいって感じよ。そこまでいったら後はひたすらマナを出入りさせる数を増やすのが一番の近道かな」
「魔法を使うってことか?俺は一つも知らないぞ?」
「それに関しては問題ないわよ?あんた、見たところ身体操作に合わせて無意識にマナが動いてるから強化魔法からならすぐに覚えられそうだし…………。」
「強化魔法?支援魔法と何か違うのか?」
「支援魔法は他人にかけるものだけど強化魔法は術者本人にかけるものなのよ。だから必要な技術はより繊細なマナ操作とマナ総量を増すこと。」
「そこまでできればなんちゃって強化魔法くらいならすぐに使えるわ」
「…………なるほど。体外のマナの感知の方はどう練習すればいいんだ?」
「まぁ、明日詳しく説明するけど、あたしが水魔法で水泡を出してそれがどこにあるのかを感じ取れればいいって感じかしらね。最初は手の平に載せて…………あんたならさすがに余裕でしょ?」
「んまぁ触れた感覚もあるからな。」
「まっそうよね。あんだけスパルタでやってればそのくらいは簡単よね」
「……………………もう次の訓練は始まってるのか?」
「どういうこと?」
「――――森の奥から何か来てないか?」
「……………………へっ?」
木々が揺れ、鳥が飛び立ち、ペリカと俺の横を鹿やら兎やらが血相を変えて駆け抜けていく。
やがて何本かの樹がへし折れながらその主は姿を現した。
それは琥珀色の双眸でこちらを吟味するように捕捉している。
シャラシャラ…………と鈴の音にも似た鳴き声を発しながら体を左右に振り、にじり寄ってくる。
「――――その場から離れろっ!!」
瞬間。その音の主――――ムーン・サーペントの噛みつきが俺の頬をかすめる。
睨むようにその瞳がこちらを見やったかと思えば、即座にその蛇はペリカに狙いを定める。
「……………チッ」
この蛇はどうやらマナが豊富な奴を好むらしい
「――――蒸気だっ!!ペリカっ!!」
「……………………ヴァプール・ブルヤール!!」
高温の蒸気が、蛇を中心として周囲に立ち込める。
「なんで月蛇がここにいるのよ!!生息域から随分遠いじゃない!!」
霧の向こうからペリカの嘆きが聞こえる…………が襲われてしまったからには仕方ない。
「しょうがないだろ?――――俺一人じゃどうしようもない。水魔法で援護してくれ」
「霧の向こうから?正気?あんたのマナの総量が少なすぎてあんたを避けて撃つなんて芸当できないわよ?」
「――――信じろ…………今はそれしかない」
「……………………あぁもう!!手加減する余裕なんてないんだから!!」
蛇は豊富な栄養を蓄えた餌を探していたが、マナと高温に包まれれば持ち前の感知能力も使えないようだった。
――――標的は目の前のみすぼらしい栄養の男に切り替わる。
再び足首をめがけて蛇が嚙みついてくる…………紙一重で跳躍して躱す。
――――しかし、蛇の瞳は俺を捉え続けていた
その隙を見逃さずに丸太ほどの太さの尻尾を俺の腹に叩きつける
「うっ…………。」
ペリカによる水の槍が蛇の頬をかすめる。霧越しの射撃では狙いが定まらないらしい。
――――このままではジリ貧だ。
なぜこいつの出現を直前で感じ取れた?
目の前の蛇から、気配とも似た別の何かを感じ取ったはずだ。
何度も手の先で足先で腹の中心で感じ取ったマナを蛇の内から探る。
――――今この場でそれをやり遂げる。
よろめきながらも立ち上がり、唇の血を拭い、身体を叩いて自分を震え立たせる。
考えろ、感じろ、身体を動かし続けろ
一つの動作に惑わされるな、常に相手の動きを感じ続けろ
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日は沈み、月明かりが煌々と辺りを照らす。
しかし、夜の平原には霧の中で男と蛇の舞踏会が繰り広げられていた。
(噛みつき、タックル、尻尾の叩きつけ、毒液の射出、尻尾の薙ぎ払い…………)
身体がマナを捉えて無意識に近く動き出す。
すでに盾は毒で軽く溶け落ち、脚の筋肉は悲鳴を上げている。
左腕は痺れ、息も上がっている。
(左後ろから水の槍、タックル、右前方で爆発)
しきりに放たれるペリカの援護の方向も見え始めていた。
――――視界はぼやけ、変な汗は出始めているがここで倒れるわけにはいかない。
「一転攻勢だ…………蛇公」
毒液の射出を転がりながら躱し、思い切り右回りに駆け抜ける
嚙みつき――――そのタイミングで霧の外からのペリカの爆撃がしっかりと命中する
その隙を見逃さず、俺は蛇の喉元を切り裂き、即座に離脱する。
左後ろから水の槍が、目の前の蛇は尻尾で薙ぎ払う構えを取る
跳躍――――薙ぎ払いを躱しては蛇の背に馬乗りになり、後頭部に長剣を突きさす
「シャーーーーッ!!」暴れる蛇の頭部を無理やり曲げ、その位置に水の槍が着弾する。
たまらず蛇は大きくのけぞった。
俺は剣を抜いて飛び降り、喉元に切りかかる。
三度目の斬撃、蛇の憎悪に満ちた瞳が俺を睨んでいた
――――絶対に喰らってやる
……そう言わんばかりに
「…………こっちから願い下げだ」
投げた盾が旋回しながら蛇の顎に命中し、のけぞった頭部めがけて
「…………ヴァプール・エクスプロード」
ペリカの爆撃が蛇の頭部を爆ぜ散らせていた。
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「終わった…………のか?」
膝が崩れ落ちる。立てない。
「…………馬鹿。無茶しないでって今朝方言ったばかりでしょ?」
ペリカは力強く俺に近寄って抱きついてくる
「――――痛いよ…………ペリカ。腕…………折れてるかもしれないのに」
「んっ!…………ごめん」
簡単な処置は施し、俺はペリカの肩を借りつつ先にテントで休まされた。
大方、剥ぎ取りが終わったのかペリカがテントの中に入ってくる。
「…………ねぇ、大丈夫?」
「何とかな…………。少なくとも帰って回復魔法をかけてもらって安静にしてれば早目には治りそうだ」
「そう…………なら良かった」
「――――ねぇ、最後の方、もしかしてマナを感知できるようになってたの?」
「…………時間はかかったけどな」
「道理でね。あたしは闇雲に魔法で援護するしかなかったけど、あんたが誘導して当ててくれたんだ」
「――――――――合格」




