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追放冒険者の限界生活日誌  作者: forefore
フロンティエール、出会いと別れが集う街
4/22

未熟、これからを往く道

「――――まだ口の中がヒリヒリする。」


昨日の試作ポーションは見た目こそさほど変わりないが結果としては似ても似つかなかった。


まず、明らかにアシッドヴァルチャーの強酸を入れすぎている。

そのうえで対強酸ポーションや水で薄める量も少ない

極めつけに――――材料費が高い。


毎度毎度対強酸ポーションで薄めていたら折角の節制が意味がなくなってしまう。


今後アシッドヴァルチャーを狩らないならその限りではないが、

昨日の成果を考えると奴の胃酸には強力な殺菌・溶解作用が見込める


――――つまり定期的に狩ることは間違いないわけで…………。


しかし、いつまでも頭を抱えていては仕方ない。


定期的に水や対強酸ポーションで口をゆすいでは考えに耽る日々を続けることにしよう


_____________________________________


さて、本日の依頼は大量発生したスライムの討伐。


何人かの冒険者と共に百は優に超えるであろうスライム達を一掃するのが目的だ。


――――と言っても()()()()というのは存外侮ることのできない魔物だ


まず、そもそも物理攻撃の類が効きにくい。


俺の場合、長剣がメイン武器となるわけだが、スライムの体内にある核を的確に狙わないと

すぐに体が再生してしまい不毛な戦いを強いられることとなる。


じゃあ、なぜこの依頼を受けているのか、

簡潔言えば俺を含めた戦士たちの役割は魔術師たちの護衛がメインだ。


「ふふん♪……派手にぶっ飛びなさい!!」


聞き覚えのある声が戦場に響く。


と同時に多数のスライムが彼女の得意とする炎と水属性の混合魔法による爆発で宙を舞う


「…………ヴァプール・エクスプロード」


宙に舞ったスライム達が一斉に木端微塵にはじけ飛ぶ。


スライムの体液が辺りに飛び散り、どちらが魔物かわからない惨状が生まれていた。


――――当の本人は頬についた体液を舌で舐めとり、満足そうな笑みを浮かべている


「――――もう少し何とかならないのか、ペリカ」

「あらあんた、この依頼受けてたの?てっきりどっかでくたばってるのかと思ったけど」

「……仮にも一か月ほど前までは仲間だった奴に言う言葉か?」


俺が呆れていると、彼女は目を丸くした後しばらくしてカラッとした笑顔を見せる


「ぷっ……あっはは!……冗談よ♪」

「…………正直ね、あたしも皆も心配はしてたの」


「…………そうなのか?」


正直その反応は意外だった。


特にペリカに関して言えば、アマル以上に俺と気が合わないとそう思っていたからだ。


彼女からの小言は一番多い方だと自覚していたし、何より口論になったことも何度もある


「そうなのか?……ってそっちこそ冗談言うんじゃないわよ、あんた」

「男同士で話がついてるみたいだけど、こっちとしては唐突な出来事なの」

「…………仮にも仲間なのに、蚊帳の外みたいでほんとムカつく」


――――アマルは結局話していないのか……いや()()()()()()()()


変にスムーズに事が進んだと思っていたが、ギルドには話していても仲間にはできなかったらしい


「ったく、あいつも臆病な奴だな……」

「んっ……またそっちで勝手に納得しちゃってさ。あんた、いい加減話してよ」

「…………水浴びしてからでいいか?」

「チッ…………。逃げないでちゃんと話してよね?」


終始、木陰から獣のような彼女の視線に背中を刺されながらどうにか水浴びを負える。



スライム討伐が終わり、各々が帰路につく中、俺とペリカは川沿いで二人並んで座っていた。


「…………どこから話せばいいんだか」

「普通にまずは訳を聞かせてよ。アマルもあんたも何も言わなかったじゃない」


脱退から大分時間が経った影響なのか、はたまた仲間だったペリカに話すからか

それなりにするすると脱退の経緯を話すことができた……。


_____________________________________

アマル・ガルド・パレンティア。


ガルド・パレンティア家現領主の次男坊。


彼が昔から口にしていた理想――――それは"人々をできる限り多く救いたい"。


素朴にも崇高にも思えるその理想を今の今まで貫き通してきた。


俺とロウバーを初期メンバーとし、後にペリカとセヴィアを迎えたパーティ"導きの星"


活動していくうちにある一つの事件が起きた。



「アマル…………君、自分の命を何だと思っているんだ?」

「自分の理想を貫くために捨てる気か?」


冷静にしかしどこか怒気のこもった口調でアマルに問いかける俺


「…………じゃあ何だよ、見捨てろっていうのか?無辜の民たちを」

「僕が無理してでもあのドラゴンの気を逸らさなきゃ……奴は村ごと焼き払おうとしただろっ!!」


「…………独断で動くなって言ってるんだ。俺やロウバーと一緒に牽制する手もあったはずだろ」

「それじゃ間に合わないって言ってるだろっ!!」


アマルの言うことにも一理あった。

あのドラゴンは血気が盛んで、強硬手段を取らなければ彼の言うように村民が危険な目にあっていたのかもしれない


しかし、俺にとってはアマルが土壇場で仲間を信じ切れていないような気がして腹が立ったのだ。

それに自分を薪にくべるような、それで事が収まればいい、そういった考えが気に食わなかった。


あの夜、取っ組み合いの喧嘩にも発展し、ロウバーやセヴィアが何とか俺らを引きはがして喧嘩は収まった。


――――それからというものの、俺はことあるごとに安全策に講じるようになった。


早さよりも身の安全。そのスタンスを続けていくうちにアマルからの態度もどこか遠いようなものになっていって…………。


「…………また、()()()()()()()。それで助けられなかったらどうするんだ?」

「現実的に考えろ、松明用の油も切れてる。ペリカの炎魔法をその用途で使って万が一があったらどうするんだ?」



またある日は


「君、食事はどうした。保存食のパン、食べてないのか?」

「…………食べたよ」

「嘘つくなよアマル。蛮族たちの拠点の調査にまだ数日かかるって言っただろ。」

「また村の民に食事を分け与えたな?」

「…………はぁ」


何処か現実を見れていないアマル。怒号こそ鳴り響くことはなかったが

小さな衝突が起こるたびにどこか暗く淀んだ空気が二人の間を満たしていた。



俺はどこかで間違えたのだろうか?

アマルにやんわりと遠い目をされるたびに自問自答してきた。


次第に俺の心の中で夢を持てているアマルの方が正しいように感じてきた。


魔法も使えない、特段目を見張る剣術もない、やってることと言えば地味なカバーやサポートだけ


俺が弱いからアマルも俺の意見を聞き入れてくれない。


俺が弱いからアマルは一人死地に向かおうとする。


何も持てていない俺がアマルの願いを叶えなくしている


"生き残ること・依頼を遂行すること"それしか考えられていない俺は


――――アマルの隣に立つにはまだ弱すぎる



アマルもアマルで顔から生気が無くなっているようになってきた


――――俺のせいか?


腹を割って話すことになっても結局のところ根本の部分ですれ違う


アマルの考えが間違っているとは言えない…………けど俺の考えが間違っている気にもなれない


――――単に俺の強さが足りないだけだろ


アマルの顔を見るたびに、俺の心を自分自身を僻む呪いが後を絶たなかった


苦しい


つらい


役足り得ないのに隣に立つのが、アマルはそう思っていないはずなのに勝手に僻む心が



アマルから脱退の話を切り出された時、やっとアマルの役に立てる。そう思えた気がした。


_____________________________________


「…………ばっっかじゃないの。」


鋭い切り口に見えてペリカの目は少し潤んでいた。


「あんたたち。とことん馬鹿じゃないの?」

「あんたのどこが弱いのよ、前衛二人、後衛三人の時点で今まで五体満足でいられている時点で変だと思わないの?」

「あったまきた。あんたの盾がどのくらいの窮地を救ったと思ってんのよ」

「後衛としてはね、アマルみたいな堅実な盾もあんたみたいな対応力のある身軽な盾も」

「…………どっちもありがたいのよ」


ペリカの俺の胸倉を掴む腕は力なく垂れる。


行き場を失った拳は弱々しくも俺の胸を叩いた。


川のせせらぎだけが二人の側を流れていく。


「…………悪かったよ」


「魔法が使えないって言ったわね」


「?…………あぁ」


「大体魔法なんてね、そんなに使いたいならそこいらのマナに満ちた草でも食べてればいいのよ」


「って言ってもわからないか、あんた、魔法学園に行ってないもんね」


ペリカは鞄を乱雑に漁り始めると一本の魔力補給ポーションを取り出す


瞬間、彼女は俺の口に容赦なく飲み口を突っ込んでくる。


「あんたが知らないみたいだから教えてあげるけど、魔法が使える魔物とそうでない魔物の違いは()()の違いでしかないの」

「飲めっ!!これ飲んでその馬鹿げた考えをさっさと直せっ!!」

「ごっ…………うぷっ…………げほっげほっ。」


肺が空気を求めて荒々しく息を整える俺


「…………いきなり何すんだ、ペリカ」

「馬鹿を矯正してあげてるの」


ペリカは俺の手を取って話を続ける


「――――分かる?お腹から手のひらに向かって何か流れてるの」

「それがマナ。マナは先天的に量が決まってるけどそれは総量じゃなくてあくまで最初からある量だけ」

「魔法を使えないと思っても単にその人がマナの流れを自覚できてないってケースもあるの」

「だからこうしてポーションでマナを大量に流し込めば、元々の量が少なくても自覚しやすくなるの」


――――パーティにいた頃では考えられない穏やかな語り口調でペリカが教鞭をとる。


確かにぼんやりと()()が手の辺りにあるのを感じる


…………気がする。


「…………確かに何かあるような?」

「何その反応。まぁ無理もないわね、今まで感じたこともないものをいきなり感じろって方が酷だわ」

「いい?マナは放っておけば発散しちゃうからそれを留める感覚を身に着けるのが第一目標ね」

「手の平にか?」

「そうね。武器とか盾とか何かしらを持ってるときについでに意識する感じよ」

「…………これを四六時中ってことになるのか?」

「――――そのうち慣れるわよ。うん」


()()ってことらしい



「……………………そういやペリカ。どうして急に魔法を教えてくれるんだ?てっきり()()()()()って言われるのかと」

「――――ほんとはそうするつもりだった。けど事情を聴く分にはそうも言ってられないような気がするの」

「あんたが言う()()()()はそっくりそのままあたし達にも言えるもの」

「……ペリカは十分強いだろ?」

「あんたねぇ……………。人のこと言える訳?」

「あんたが僻むようにあたしたちも手詰まりなの。――――アマルもね」



「――――アマルが?」

「聞いてないの?あいつ、王国第二騎士団のところに住み込みで修行してること」


――――初耳だ。


「はぁ…………。とにかく!あんた達が抱く悩みはあたし達も同じ」

「今すぐ戻れなんて無粋なことは言わないから…………せめて一人で生き残れる力をつけてよ?」



――――これからも度々ペリカ先生の指導は続くことになりそうだった。

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