独歩、独りで眠る夜
「――――で、本当に導きの星を抜けたのか」
パーティ"導きの星"を追放された翌日。
早朝からこの地域の冒険者ギルドのギルドマスター――レオン・ヴァーミリオンに呼びだされていた。
「……はい」
――彼が聞きたいのはこんな確認の言葉ではない。
現に、その瞳が俺を見透かすように……そして真意を測るように問いかけてきている。
「……俺が居たままでは、アマルが不自由になってしまう――そう暗に悟りました」
「彼は崇高な理念を掲げています。……でも最近は俺がそれを邪魔してしまっている」
「――――どこかで踏ん切りをしなければいけない。そう心の隅で思っていました。」
独白――のように感じられる行為で想いが言葉になって表れる。
レオンは何も言わずに独り言を聞き入れ、
――ただ一言「――――――そうか。」
「……お前たちの実力はこちらも重々承知している。"導きの星"にメンバーが一人欠けることも
――――アコール、お前が一人で依頼をこなすことも許可しよう。」
――――赦し。レオンが告げた許可は俺にとってはそう感じざるを得なかった。
レオンは、話が終わっても立ち上がれずにいる俺の肩を力強く叩いて部屋を後にする。
肩に残る熱は父性を感じられるじんわりと心を包む熱
――――その熱は俺の瞳にも伝播していた。
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扉を開くと、喧噪が冒険者ギルド一階の酒場を満たしていた。
何も変わらない。いつもの酒の匂いが鼻先をかすめる。
俺は奮い立たせるように青白くなるまでこぶしを握り締めてようやく歩き出した。
ギルドの受付。朝にしては妙に慌ただしい。
「――――また、何かやらかしたのか?コモラ」
「ふぇ……?あぁ、アコールさん!そんなことないですよ?」
「……ただ、倉庫管理の役を任されたのをすっかり忘れていて……ですね。」
「こうして受付業務をしながら奔走する羽目に……。」
「――ふっ。呆れた。やっぱりやらかしているじゃないか、新人さん?」
「もう!!ペリカさんもアコールさんも私のことそうやっていつまでも揶揄わないでください!!」
頬を膨らませてぷんすかと怒っている彼女だが、どこか小動物的な可愛さが拭いきれない。
昔はこうしてペリカとよく揶揄っていたものだ……。
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ペリカ・ティアーノ。"導きの星"創設時にはいなかったメンバー。
「あたしが居ればどんな魔物でも焼き尽くしてあげるわ!!」
屈託のない笑顔でなかなかに恐ろしいことを言うのが第一印象だった。
「あんたぁ……また誤字してるんじゃないのこの依頼書?しっかりしなさいよ、新人さん」
「すみませんすみません!」
地味なことが嫌で魔法学園を抜け出した――――とは聞いていた
しかし勉学が達者なのはペリカの完璧主義者な側面がそうさせていたのだろう
そのためによくコモラの誤字を始めとしたやらかしを指摘していたものだ
「……ったく。あんたねぇ――――」
そう口では言うわりにはペリカは毎回コモラが文章を修正する姿を見届けていたのを思い出す
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「すまんすまん……。依頼を受けに来たんだ。何か残っているのはあるか?」
少し難しい顔をしながらも依頼書を取り出し始めるコモラ。
恐らくレオンから俺に対する処遇を伝えられてはいるのだろう。
少し迷いながらも三つの依頼書を提示してくる。
「東の森での討伐依頼、北の遺跡での調査隊捜索依頼、西の平原での薬草採取依頼ですかね……。」
東の森、丁度東方面は魔族の領土の近くでその森は境界線近くにあるものだ
恐らく実力を認めてくれていて一人でも大丈夫だろうと提示してくれてはいるものの、
さすがに森の中でいきなり一人で戦闘するのは危険すぎる。
北の遺跡、これは最近見つかって盛んに調査が行われていると噂の遺跡だったような……。
よほど重要任務なのか報酬金は高く設定されている
……が、アマルならそこを見ずに即決で選んでいたことだろう。
「人々を救わずしてガルド・パレンティア家は名乗れない!!」
――――なんて言うのだろうが、罠の感知を一人でやりながら調査員を運び出すのは危険だ。
――――となると
「この西の平原の薬草採取依頼で頼むよ。」
「承りました!!」
コモラの手から受注確認済みの依頼書を受け取り、手続きを済ませてギルドを後にする。
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「あらぁ、アコール君。久しぶりねぇ。」
「ご無沙汰しております。ミールさん」
パーティ結成当初。発足メンバーであるアマルとロウバーと共に毎日のように訪れた記憶がある。
……と言ってもお金がなかった時、
俺とロウバーがみすぼらしく食堂からあふれる美味しそうな匂いを嗅ぎながらパンを食んでいたところ
ミールさんが見兼ねて無償で食べさせてくれたことが最初の出会いだった。
食べ終わった頃にアマルにロウバー共々拳骨を食らわされたが、
その後の冒険者活動で誠意を見せて何とか事なきを得たのを思い出す。
「他の子達はどうしたの?」
「少々事情がありまして……今は一人で活動しているんです」
「…………そうなの」
どうやら事情を察してくれたようだ。やはりミールさんには頭が上がらない。
「…………今日も貰いに来たの?」
「えぇ……いつも申し訳ありません」
「いいのいいの。どうせ捨ててしまうものではあるし何気に助かってるのよ?」
傭兵時代の知識でこういった大衆食堂には
よくすじ肉や野菜の切れ端が余りやすいというの耳にしたことがある
ペリカには「ケチ臭い」なんて言われたが、スラム出身のロウバーや
地方の教会出身であるセヴィアはその"残さず食べる"という精神に共感してくれたものだ
温かな朝御飯。その家庭的な味はどこか母性を感じさせる。
スープを余さず飲み干し、その熱が体の芯を、心を優しく包む。
「――――ごちそうさまでした。…………また来ます」
「………………気を付けるんだよ、アコール君」
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街を出て、西の平原に向かって歩いていく。
西の平原は片道で半日はかかるほどの距離であり、
なおかつそこそこ強力な魔物が現れることで有名だ。
「――――やはりいたか。」
その代表例とされる魔物――――アシッドヴァルチャー。
この平原を縄張りとし、哀れにもこの地域における変わった毒草であるカニバル草を食べて毒にやられた草食動物たちの死骸を食らう腐肉食性の魔物。
高い凶暴性と上空から毒液と強酸性の胃液をばら撒くせいで対処困難な存在となっている。
「クケェェェーーーー!!」
こちらを見るなり奴は鳥にしては強靭な足で低く滑空しながら爪で切り裂かんとする。
「…………チッ」
盾で弾きながらもすれ違うように駆け抜けるがその先は上空、奴の得意なフィールドに持ってかれる
このままでは十八番ともいうべき強酸と毒液の雨が降り注ぐ。
本来なら溜めのある攻撃なため、矢や魔法で牽制するするのがベターだが……
――――今は一人だ。
「…………残さずに食べやがれ、鳥公」
奴が食らっていた動物の背骨や頭蓋骨を掴んでは投げ飛ばす。
多少バランスを崩しそうにはなるものの有効打には至らない。
「クケケ……」嘲笑うように奴が見下したその時
「本命はこっちだよ」
本命の投石縄が奴の脚に絡みつく。投げられた骨に気を取られて気づくのが遅れていたのだ。
「クキャ?」と情けない声を出して勢いよく墜落する。
着地点に向かって俺は駆け抜け、ヴァルチャーの頭部を剣で切り飛ばす。
「…………ふぅ」
あまりに危ない橋だった。これが初見ならば重症は免れなかったことだろう。
以前までならばロウバーが弓で気を逸らせたところを、ペリカが焼き鳥にしていた。
――――これからはこういう戦闘が続くことを覚悟しなくてはいけない。
もう後続のアシッドヴァルチャーはいないらしく、依頼書のスケッチとにらめっこしながら該当の薬草を取り漁る。
…………ふと、これからを心配していくうちにとある発想に行き着く
「…………ポーションを自作出来たらなぁ」
ソロで活動するときの死活問題はやはり資金と回復魔法の類がないことの二点。
ソロ活動者の大半が前衛ないし機動力の高い後衛。魔術師の類でソロ活動する者はほとんどいない
――――となると回復は切っても切り離せない問題となるわけだが
そのためにポーションを買うのは非常に馬鹿らしいくらい割高すぎる。
回復ポーションならともかく、今回のアシッドヴァルチャーのような毒持ちの魔物なら
その毒性に応じた治療ポーションが必要なわけで…………
アシッドヴァルチャーは比較的メジャーな魔物のため専用の治療ポーションは売られているものの、
希少な魔物や強力な魔物だったりする場合、それ用の治療ポーションは売っていない場合が大半だ。
じゃあ以前はどうしていたのか?というと神官や僧侶の回復魔法頼り、というわけで…………
俺が切実に自作ポーションの作成を願うのも無理のない話だった。
大きめの麻袋にありったけのむしった草を入れ、採取依頼対象の薬草は別途腰のポーチにしまい込む。
何事もトライ&エラー。ひとまず薬草の種類を覚えることが第一目標だ。
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日も落ち、野営の準備を済ませた俺はミールさんから譲り受けてもらった野菜の切れ端やすじ肉を煮込みながら今日を振り返る。
ロウバーが居れば、ペリカが居れば、セヴィアが居れば…………アマルが居れば。
寂しさはさすがに振り切れたはずだが一人の夜はこんなにも寒かっただろうか?
今頃君は人助けに奔走しているのだろうか
――――俺もまた冒険者でいる以上、信念は貫かなくてはならない。
たとえ一人だとしても。




