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埋没怨嗟

 【ザ・世界】チートについて、ここにざっくりまとめようと思う。


・時を止める能力(?)

・止まっている間、自分だけが普段どおり時間が動いている

・他人を巻き込むことは不可能

・解除したいと念じることで、解除可能。念じない限りはいつまでも時間は止まっている(全身を【鋼鉄化】して24時間経過しても止まったままだった)

・自分から外に干渉することも、外が自分に干渉することもできない(【絶対落とし穴】に似ている)

・「干渉」のうちできないことが確認できたのは呼吸したり動いたり、魔法を使ったりすること

・ただし魔法は、【チート】の解除と同時に効果が発動する

・熱が逃げないので暑くなる(【燃費下落】チートとの関係については要検証)


 挙げていくと、時間を止めるということのメリットがあまり感じられない。

 【鋼鉄化】との相性はいいようだ。特に、体の一部だけを【鋼鉄化】したあとに、【ザ・世界】で時間を止めてから残った全身も【鋼鉄化】すれば、鋼鉄から復帰したときは五体満足でいられるし、あまり時間も無駄にせずに済む。

 魔法を実質ノータイムで放てるというのも大きい。とはいっても、あの過酷な環境で緻密な魔法を組めるかといわれると何とも言えない。不意打ちとか、そういうことには大いに貢献してくれそうだとは思う。少しずつ使って慣れていくつもりだ。

 ……そんなところだろうか。見落としがなければ、とりあえずあの【チート】でできることは以上になる。


「……見ろ、あれがダイドム川、今回の最難関になる場所だ」

 ダイドム川。『越すに越されぬ』とかつての勇者が形容したという川だ。日が落ちて向こう岸がよく見えない。とにかく、これを越してしまえば、とりあえずしばらくは安心できるだろう。

「先行したやつらからの情報だと、あそこに見える、バイエル橋の向こうに敵が集まっているらしい。それ以外への分散はしてないみたいだ」

 ……確かに、よく目を凝らすと大きな橋が見えて、その対岸には星よりもかすかだが大量に火が灯っているのがわかる。

 あそこで迎撃をする腹積もりだろうか?

「そこで、南にもう一本橋があるから、そこから抜ける。明日、ほかの隊と合流したあとの夜に移動するつもりだ。それまで、休憩していていいぞ」

 忙しそうに立ち去る彼女の背中を見送ってから、割り当てられた場所に腰を下ろしてしばらくじっとしていた。

 万が一を考えて、しっかり休養は取るべきだろう。そう思って目を閉じたのだが、うまく眠ることができなかった。


 ……バイエル橋といえば。

 あの橋はもう一世紀近くも前に建てられたと、どこかの本に書いてあった。それまで、ダイドム川にいくら橋を建てようとしても流されていってしまったそうだ。

 そこで時の王は一大プロジェクトを立ち上げた。出資を惜しまず、定期的な洪水にも負けずに、ついに20年の時をかけて橋が完成した。建設中に逝去した皇太子バイエルの名が与えられたことは、息子思いの父のエピソードとしても有名だ。

 一部の話によると、バイエル橋の建設費は、現存する王宮の建設費の十倍近くあるという。さすがにそれは言いすぎだとしても、こちらから向こうに渡す強固な橋となると決して安い値段ではありえないだろう。特に、ダイドム川の現物を見た今だとそう思わずにいられない。

 ちなみに、これから渡ろうという南方の橋はつい最近(といっても2、30年ほど前だが)に建てられたもので、勇者が伝えたという工法で建てられたために比較的安上がりで済んだという。どんな技術なのかは、俺は建築については詳しくないのでよくわからない。建築土魔法の革命だ、とか言われているそうで、この工法が編み出されたおかげで、ダイドム川にいくつもの橋がかけられている。もしその勇者がいなければバイエル橋を渡って正面から対岸に突っ込んでいくしかなかったのだから、その勇者には頭が上がらない。

 当時からバイエル橋を建てたことには賛否両論あって、現に建て終わった当初は国庫が空っぽになってしまったという。一方で公共事業、それもこんな規模のものだと経済効果も大きく、それを評価する話もあるし、ダイドム川の西側都市と王都との往来が活発になったため建築費以上の税収があげられたともいわれる。そしてひとつ、その中に魔族には関わる話も残っている。

 この世界は科学的な法則と魔法的な法則でほとんど成り立っているのだが、それが学問として成立していなかったころ、この世界にもやはりオカルトみたいなことが流行していて、それは現在でも文化として一部残っている。たとえば、人柱みたいな風習は、三世紀前に禁止する勅令が出される前まではよくなされていたらしい。

 つまりバイエル橋の建築当初には人柱は禁止されていたのだが、そのとき王に「人柱をたてなければ建築は失敗し、橋は流されてしまう」という旨を言ったものがいるらしい。勇者とも重臣とも旅の呪術師とも言われている。王は先祖の出した勅令を取り下げる気はなかったのでその意見を容れるつもりがなかったが、彼はまたこう唆した。「人柱とは『人間』を用いる行為であり、つまり『人間』でなければ問題がない」。

 彼の意図したところは正確には伝わっていないが、もしかしたらそれは豚や藁人形などを人の代わりにするとかそういう意味だったのかもしれない。しかし王はそれを、魔族を人柱にせよという意味だと解釈した。一説には万を超えるという魔族が捕らえられてすべて人柱にされたという。それは魔族と人間の確執をさらに深める結果となり、少なくとも魔族側の文献ではその王をとりわけひどくこき下ろしているものが多い。魔族にとってバイエル橋とは不吉の象徴で避けたかったのかもしれない。人間のほうも、そういう歴史がある場所で迎撃することにきっと何かの意味を見出しているんだろう。

 ちなみにその後魔王が現れたことと、魔王の呪いによりその王は苦しみながら死んだことは人間魔族問わずよく知られている。人間のほうに伝わる話は、いわれのない理由で殺された王の敵を討つために勇者が覚醒する話なのだが。

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