暗室
[ 大村 三郎 Lv.26
筋:42
魔:36
抗:32
技:39
スキル:(省略)
魔術適正:火、水
リンク:アン(配偶者)
チート:延爪、燃費下落、御見合い、絶対落とし穴、鋼鉄化、ザ・世界
ギフト:チート取得]
……ザ・世界! 意味が分からない。いや、意味が分からなかったのは今までも同じだが、それに輪をかけて意味がわからない。
意味が分からないものは、検証が必要である。
……。
「あの」
「なんだ、珍しいな」
確かに、俺のほうからエルに話題を振るのは、とても珍しいことだと感じた。しかし、それをするだけの理由がある。
「以前に、僕の持ってる【チート】の話はしたと思うんですが」
「ああ、覚えてるぞ。それで?」
「えっと、それで【チート】がまた増えたので、その、ええと」
「……。」
「すみません、ええと、増えたのでその実験をと思いまして、万が一に備えて、エルに見ていてもらいたいなと」
「ああ、いいぞ。……言ってくれりゃあ、なんでも協力するからよ」
おそらく、俺が安堵の息を吐いたことはエルの目がとらえたことだろう。まさか、エルに断られるなんてことがあるはずはないし、それはわかっていたことなのだが、それとは別の、もっと深い部分で俺はなにかを危惧していたようだ。
ちょうど日も暮れそうになって、野営のために移動を止めていたから、俺とエルは安全のためにすこし集団から外れたところまで移動した。
「……彼、アスクさんもついてくるんですね」
「まあ、護衛くらいは必要だろうからな」
彼は沈黙を守って一切を語ろうとしないから、俺にはその内心を推し量ることができない。せいぜい、彼は魔族派閥では珍しくエル個人に忠誠を誓っているらしいことを垣間見る程度だ。マミーがもとだから、そこに声帯が使えない理由があったりするのだろうか? それとも単に、彼が闇魔法を使うステレオタイプな、陰気な魔術師なだけなのか。
そんな邪推をさておいて、俺はエルに少し離れた場所で待機してもらった。【絶対落とし穴】みたいに、周りの人を巻き込むかもしれないからだ。……もし【絶対落とし穴】みたいに、俺の動きが拘束されるような【チート】であったなら俺が進行を止めてしまう羽目になるな、と思い、そうなったときは後から追うという旨を伝えておいた。
深呼吸して、エルの目がこちらを見ているのに気づいた。恥ずかしさが弾けてそっぽを向いてしまった。なにも、恥じらう所以などないのだが。
「……いきますね」
それから心拍をいくつか数えて、唱えた!
「【ザ・世界】!」
瞬間、視界が暗転した。一切の音が消えて神経の信号が出す電気的な音だけが耳から脳に駆け回っていく。
息苦しさ、口を何者かによって押さえつけられているような息苦しさ……、それだけでない、全身が、見えざる手によって拘束されているように、動かない。暑い! 息ができない、苦しい!
待ってくれ、待ってくれ! これがこの【チート】なのか!?
生命を脅かされる感覚は今までのどの【チート】よりも強い。俺は理性と感情両方で悟った、このままでは息絶えて死ぬ、その前にどうにかしないといけない、と。
とにかく解除、解除だ! 【チート】解除!
「――!?」
……帰ってきた。俺は息を荒げて、額に浮き出た大量の汗を拭きながら、『もとの場所に帰ってきた』ことを、まさしく全身で感じていた。
「ツヴァイ、大丈夫か! どうした、突然!」
「ええと、大丈夫……です」
返答になっていないような答えを返す。まさか口が裂けても「死ぬところだった」とは言えない。たまたま解除のトリガーを見つけられたからよかったが、本当に死ぬところだったのだから冗談にしてもアクが強すぎるだろう。
息を吸って吐くと、ようやく頭がクリアになっていく。刻みつけられた恐怖感に改めて慄然とし、すべての奇跡に感謝する心地さえした。
「……外からは、どう見えましたか?」
押さえつけていたものが何者だったのか。俺にはそれは全くの深淵にしか見えなかったから、外からの、つまりエルからの視点に頼ろうと、そう口に出した。しかし返ってくるのは想定外の答え。
「どうって、ツヴァイが魔言を唱えた瞬間に、突然、てめー自身が苦しみだしたんだろ。……その【チート】は、自分を一瞬で苦しめるためのものなのか?」
「突然? いえ僕は……」
俺は確かに、あの暗室に動けぬままでいた。暗室で動けぬまま、|しばらくの間拘束されて《・・・・・・・・・・・》いた。だのに、それが一瞬だというのか。
まるで時の流れが歪んだかのような。いや、それとも、それはまったく比喩ではないのかもしれない。
「すみません、もう一度やります。【ザ・世界】!」
大きく息を吸い込んだ後にそう唱える。エルの顔がブラウン管の電気を抜いたみたいに掻き消えて、暗幕が四方に張られた。




