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レイピア

 虚空に対しレイピアの突きを繰り出す女剣士。そんな方向に俺はいないのだが、と思っていると、突かれた空間が一点、豆電球をつけたみたいに灯っていることに気がついた。

 彼女はそのまましゃがむと、体感で5秒ほどした時にその光がこちらに飛んできた。嘘だろ、俺の居場所を察知するとでもいうのか。

 咄嗟に壁に隠れると、光は俺の首があったところを通って壁に焼け焦げをつけた。彼女はそれに従ってこちらに歩み寄る。この付近は火が弱いようで、人間にとっては絶好のコンディションだろう。俺は、バレてしまっては仕方がないと影から躍り出ながら液体を打ち出したが、それは彼女の着ている服を濡らすにとどまった。――暑さからか結構薄着になっていたせいもあり、服が張り付いて身体のラインが浮き出ている。どうでもいいが、出るところが出て、締まるところがしまっていて眼福だ。どうでもいいが、歩いているだけで揺れているのがわかる。どうでもいいが。


「――ッ! あんたねぇ!」


 仮面越しにも視線はわかるようだ。憤怒の表情でこちらを睨み付けると、彼女はレイピアを五角形に突いた。

 光の点が5つできると、ちょっとの時間のあとに俺に向かって迫る。近くにあった卓袱台で全部受けると、それに隠れるようにして彼女に急接近していく。

 スパン! 衝撃波の剣で卓袱台が切られたときには俺はもう彼女のすぐ近くまで到達していた。


「【蛍火】!」


 この至近距離でも受け切られてしまうか……。彼女は右手で盾剣を持ちつつ、左手のレイピアで光線を出すことにより俺に魔法を使わせる余裕も与えなかった。

 俺はフィナーレにひときわ大きい【火球】を打ち、それを追うように走った。同時に八角形を描くようにレイピアを突いた女剣士。火球は当然のように受け切られてしまったが、超近距離まで接近した。俺は左手に包丁を持ちつつ、空いている右手は彼女の方に伸ばしていく。


 ――むにっ。


 公然セクハラである。俺はそのやけに大きい胸を揉みながらすれ違っていった。


「なっ!!」


 驚きだろうか? 羞恥だろうか? まさか俺がこんな行為を戦闘中にするとは思わなかっただろう。完全に意表を突いたわけだ。


 そして――3、4……。5。


 光は線となり、俺を襲おうと一直線に――障害物など無視して一直線に向かってくる。


「くぁ……!?」


 自らの放った光線によろめく。俺は光の射線がちょうど女剣士とかぶるように立ち回っていたのだ。わざわざ動揺を誘ったのもそれを悟られないためである。

 さすがの威力に怯んでいるところで、次には女剣士の服が炎上し始めた。

 先ほどかけた液体は水ではなく油だ。周囲が焦げ臭くてわからなかっただろうがな。光が服を焼くと、油の染み付いたそれは一気に燃え上がる。

 隙を逃さずに背後から包丁を突き立てにかかる。防ぐか、と思われたが、レイピアどころか盾剣ですら地面にカラン、と落とす。

 力つきたのか? と思いながらも突き出す。これで、終わりだ。


 しかし、俺が持っていたはずの包丁は、いつの間にか柄だけになっていた。

 なんの感覚もなく、ただ刃だけが切り落とされて(・・・・・・・)いた。

 振り抜かれていたのは、紅く鈍く光る妖刀。

 俺は心の奥底から湧き上がるような恐怖のままに彼女から距離をとっていた。


「アタシは、Aランク冒険者――七剣のカタラ。アンタが殺した、パーティ【呪剣の輪舞】のリーダーさ」


 炎上しているというのに一種の呑気さを感じさせる嗜虐的な笑みでこちらを見やる。


「ちょこまかと卑怯な真似をしてくれたが……。アタシにこの呪剣を抜かせたことだけは誉めてやる」


 彼女はその妖刀――呪剣で一度空を切ると、彼女を纏っていた炎が切れた(・・・)。


「冥土の土産にでもして逝きな!」


 そう言って駆け寄るカタラ。台所で放置してあった鍋でとっさに防御すると、鉄で出来ていたはずのそれは金属リチウムを切っているよりもよく刃を通していた。まずい、と横に力をかけて呪剣を逸らしながら回避する。


「はあっ!」


 驚くべき速度、切れ味。持ち主もそうだが、剣の質が上等すぎる。その軽さは俺の使う銅剣なんか比べ物にならないほどだろう。

 なんとか逃げるが、壁際に追い詰められてしまう。冷や汗が流れ、絶体絶命であった。


「死ね!」

「――【延爪】、【鋼鉄化】!」


 一か八かの賭けだった。俺は咄嗟に右人差し指の爪を延ばすと、延ばした先から鋼鉄としていく。重さによる指の関節にかかる負荷が大きいがそんなことに構わず、左手を添えて衝撃に備える。

 もし、【チート】が呪剣に負けるようであれば潔く斬り殺されるしかなかろう。俺からチートへの信頼……と言おうか。それが俺を乾坤一擲の大博打へと誘った。


 ――くっ、よし。防いだ!


 あからさまに驚きを見せるカタラの呪剣を弾き返しながら、俺は先ほどのお返しのように笑いかけた。

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