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鮟鱇

「なんだこれ……」


 見覚えのある焼き鳥の屋台が焼けていた。賊だろうか。いや、賊ならば魔族に返り討ちにされるのを恐れてこんなところまで来ないはずだ。もっと規模の大きな――例えば、軍隊。そういったレベルの動員数がなければ攻め込もうなんて気も起きないだろう。

 ただでさえ周囲は魔物の跋扈する深い森林。偵察ですら不可能であろうに、どうやってここを特定したのか、なんて様々な憶測が脳内を飛び交う。

 何者かの断末魔が聞こえた。人間かもしれないし魔族かもしれない。いざ人間との戦いになってみると、足が震えて、ふと魔族の背中に剣を刺し、みっともなく人間に許しを乞うてしまいたくなった。エルにあんなことを言ったというのに、である。

 剣戟の音。燃え上がる炎。老若男女の叫び声。――他ならない。俺は怖気付いているのだ。

 メラメラとした暑さに混ざるように揺れる息を吐くと、仮面をつけて、俺は剣を抜いた。中段からゆっくりと切っ先を落とし、俺は一線を越える覚悟を決めるように頭の中を整理した。

 俺には一騎当千の戦闘はできない。その認識を改めてして、心を鎮めると火もまた涼しく感じる。


 ――いざ。


 俺は周囲の音を聞き、どこに人がいるのか、どこで戦闘が起こっているのか把握しようと努める。木の弾ける音に混じってしまってほとんど聞こえない。

 そんな中、俺は幸運にも人間の小隊を見つけた。格好からして冒険者だろう。彼らは稀に、傭兵として雇われることがある。

 暑さが俺の判断を後押ししたのかもしれない。俺はいかにも仲間からはぐれてしまった風を繕うとそこに近いていく。

 俺はしれっとその隊の最後尾につくと、一緒になって歩きながら魔法を練り、俺の一つ前の男を【溺水】で音もなく殺す。四人構成のパーティだったが、同様にしてもう一人の女も殺めた。

 違和感を感じたらしく振り返った三人目の男には出鼻をついて【火球】を食らわせ、最後に残った剣士風の女に躍りかかる。

 ――その剣は、奇怪な形状をした剣のようなものによって防がれる。


「アンタ……。なんのつもりだい」

「……。」


 答えずに鍔迫り合いをしていると、突然ポキンと俺の剣が折れた。

 女の剣が、所謂ソードブレイカーと呼ばれるものだと気付いたのはちょうどその時だった。

 俺は咄嗟に【蛍火】を単発で射出し、怯ませながら距離をとる。


「仲間の仇は取らせてもらうよ!」


 彼女は両腰に提げた7の鞘の一つにソードブレイカーを収めると、別の鞘からまた奇怪な剣を取り出して振るう。

 刀身がワイヤーのようなもので繋がれて伸びる。ガリアンソードだとか呼ばれる鞭状の剣は、そこそこあった間合いすら無視するように俺に襲いかかる。折れた剣の根元を使ってなんとか弾くが、二発、三発と段々と苦しくなってくる。


「チィッ!」


 吐き捨てながら建物の中に入り込んだ。ここならば鞭剣は届かない。そう思い、入り口から影になるところで魔法を準備していると、今度は巨大な斬馬刀が建物の壁をぶった切りながら俺に迫っていた。嘘だろ、土壁だぞ!?

 しゃがんで回避すると、土壁は耐えきれず崩落する。建物も傾いてしまい、俺はやむを得ず別の出口から避難した。

 冗談じゃない。あんな種類の剣を一流レベルの力で使いこなすなんて。Bランク、あるいはAランクの冒険者かもしれない。これがパーティであったら俺なんて容易く返り討ちにされただろう。奇襲作戦はあながち間違いではなかったようである。

 息を殺して、女剣士に対して有利になるように移動する。彼女は先の建物の前から動いていない。建物から建物へ。5軒ほど隣の建物の二階に入り込み、そこから一気に決着をつけようと【蛍火】を練り、発射する。

 斬馬刀を(大きさからは考えられないがどういうわけか)腰の鞘に収めた女剣士は、こちらを一瞥するとまた別の剣を出す。馬鹿め、剣で【蛍火】が防げるものか。

 しかし、彼女はその華麗な剣さばきで小さな火の玉を全て防ぎきっていた。よく見ると今度の剣は刀身が広くなっている。防御にも特化し盾代わりとして使用できるようだが、もはや盾に取っ手がついたかのようだ。

 魔力が切れてしまう前に【蛍火】を止める。すると再び(これまたその太さでは入らないような細い鞘に)収める。……まだあるのか、世界びっくり剣大集合かよ。

 今度抜かれた剣は一見普通の剣であった。外見からはごくありきたりなものに見える。

 彼女はその剣を虚空に向かって振り抜く。まさか。

 俺が伏せると、柱を断ち切る勢いの何かが飛来してくる。カマイタチ――あるいは衝撃波を発する剣か? とにかく、間合いというのは俺にとって絶対的な優位にならないらしい。

 クソ、と歯噛みする俺に容赦なく衝撃波は襲いかかる。俺は慌てて二階から階段を降りて、一階の台所のようなところまで来るとそこから包丁を抜いて、剣の代わりとして握りなおした。

 斬馬刀に警戒していたが、意外にもそれは来ない。暫し物陰から様子を窺っていると、彼女は6種類目の剣、レイピアを抜き放った。

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