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希望

「ここがオレの家だ」


 そう言って彼女が指したのは、石でできた巨大なピラミッドであった。あえて元の世界のもので表現するなら、エジプトというよりはマヤ文明のそれに近い。


「これが、ですか?」

「まあ色々兼ねてるからな、このくらいの大きさにもなる」


 まあ確かに、この世界に来た当日に見た王城も馬鹿みたいに大きかったし……。王の一族が住むだけなら館(やかた)程度の大きさで十分だろうが、謁見の間だとか色々な施設を含んでいればそのくらいの大きさにもなるのだろう。

 階段(これもまた長い)を登り、軽く息を切らしながらその門を推してもらう。

 石造りの内装は歴史を感じられる。窓もないのに明るいのは、魔法によって生み出された灯りによるものだろう。


「――ツヴァイには、食客として右の廊下を突き当たった所の客間に宿泊してもらおうと思う」

「それは……身に余る厚遇をありがとうございます」

「そんなによそよそしくしなくていい、とって食おうってわけじゃねーんだから」

「ぜ……、善処します」


 親しげに笑いかけられてバツが悪くなり、俺は心にもないことを言って再び顔を逸らす。

 こうしてついてきたにも関わらず心から気を許せていない自分に、いわば辟易しているのだ。覚悟を決めたのではなかったのか。


「基本的には一階ならどこに入ってもいいけど……。あそこ。あの正面突き当たりのあそこだけは入室禁止だからな」

「……はぁ」


 大方理由の予想はついている。例の魔力の放出は、あの扉の奥から。おそらくあの奥に、魔族と人間との形勢を逆転させる何かがあるに違いない。


「それとも、見るか?」

「い、いいんですか?」

「一回だけなら、いいぞ」


 そう言った彼女。俺は、入るなと言われているのだから入ってはならないような気がするが、言った張本人がそういうのだから言葉に甘える。

 厳重に守っている警備を顔パスで通り、先ほど通ったと同じか、もっと頑丈にできている扉を開けてもらう。

 身の毛がよだつ、魔力の奔流。俺はしばらく立ち尽くしていた。


「さあこれが! 魔族の粋を集めた自律魔力収集増幅装置、その名もエルピス君4号だ!」


 13本の内側に反った柱が、円を描くように並べられている。その先端にはいままで見たことがないようなサイズの魔石が取り付けられており、相互干渉することによって――俺にはさっぱりわからないが、なんらかの効果を生み出しているのだろう。そして、それを制御しているのがその内部に鎮座された、立方体の大石なのだろうか。今も内部で緻密な魔法的演算が行われているらしく、膨大な魔力はそれに従い、計算され尽くされた動きで俺のまわりを動いている。


「これは……」

「どうだ。この装置は人間の英雄譚に出てくる『すうぱあこんぴゅーた』を模して作られたものだ。以前からこの施設で研究していたんだが、ちょうど父の代に完成し、こうして稼働させている。およそ30年ほどで集まったのが、この量だ。あと4ヶ月もすれば、魔王を復活させるのに十分な魔力が集まる。その時が、その時こそが、オレ達が人間に反旗をひるがえす、運命の日だ」


 俺は圧倒されていた。これだけの魔力を持つ魔物がいて、俺は――いや、人間は勝てるのだろうか、と。以前どこかで、魔王の一薙ぎは山を崩し、海をも割るという話を聞いたが、なるほどこれは頷ける。人間なんて赤子の手をひねるかのように容易く滅ぼしてしまうのだろう。

 ……しかし、それはこの魔力のすべてが魔王の実力になったらの話だ。その力を支える体を構築するだけでも膨大な魔力が必要だろう。そもそも、単純な水や土ならまだしも複雑な生物の体なんて構築できるのだろうか。それをクリアしても、いったいどれだけの魔力がその魔王の力として残るのだろうか。聞きたかった。でも、エルが楽しそうにしているし、それを聞くのもはばかられた。


「この部屋では魔法の使用は禁止だ。制御が乱れるからな。だから、万が一のためにもお前も立ち入り禁止なんだ」

「なるほど……」

「4ヶ月後を、楽しみに待っていろよ」


 どこか虚勢を張っているように、ニカッと笑うエル。俺はそれを聞くことは叶わなかった。彼女の決めたことに、部外者の俺が口を出してはいけない。俺はそれに対して、同じようにどこか作ったような笑いで返すしかなかったのだ。

 エルピス――希望なんて名前のつけられたその装置には、もう一つだけ気になっていた部分があった。ちょうど直方体型演算装置の真上。

 ――そこに垂らされていたのは、どう見ても絞首のための麻紐であった。

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