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デジャヴ

 ――そういえば。


 ゴタゴタですっかり頭から抜け落ちていたが、この間のリッチ戦においていくつかレベルが上がっていた。



[ 大村 三郎 Lv.23

 筋:38

 魔:32

 抗:28

 技:35

 スキル:(省略)

 魔術適正:火、水

 リンク:アン(配偶者)

 チート:延爪、燃費下落、御見合い、絶対落とし穴、鋼鉄化

 ギフト:チート取得]



 【鋼鉄化】チートというものが追加されている。相変わらず、名前から大まかにはどんなものかわかるものの、詳しいところはさっぱりだ。せめて、対象だとか効果とか継続時間だとか、そういったものが分かれば良いのだあが、そうは問屋が卸さないらしい。

 幸い、今日は週に一度と定めた俺とアンの安息日である。アンの方はすでにどこぞに出かけてしまっているので――まあ、ついていくか聞かれたときに拒否したのは俺なんだが、そのおかげで時間ならばたっぷりある。

 早速、屋外に出ることにした。


 まず、検証するにあたって重要なのは対象が何なのかである。この前の【絶対(アブソリュート)落とし穴】の失敗を踏まえて、ここばかりは真っ先に検証すべきだ。俺というのは、成長する男なのである。

 まずは、その辺で拾った石を置いて、触れずにやってみよう。


「【鋼鉄化】!」


 ――しかし、何も起こらない。


 どうやら離れた状態ではだめらしい。続いて手に持ってもやってみたのだが、これも結果は変わらなかった。

 ――対象は物体ではないということだろうか。となるとやはり……自分自身?


 仕方ない、やってみるか。


「【鋼鉄化】!――うわぁ!」


 瞬間、俺の右腕を魔力が蹂躙したかと思うとバランスが崩れ、肩にズドンと重い刺激がかかる。

 思わず瞑った目を開くと俺の腕――いや、俺の腕の形をした鋼鉄の塊が。

 なるほど、防御なんかに有用そうなチートである。欠点は些か重いことだが、まあ緊急回避程度には十分だろう。

 さて、解除。……ん? これも変化してそのままのタイプなのか。

 まあ、【延爪】や【御見合い】、それにそれこそ【絶対(アブソリュート)落とし穴】においてもそうだったのだ。特段驚くことではない。

 いつ戻るかわからないが、それまでこの重いものを持ち歩かねばならないらしい。肩が壊れそうだな。


 ――なんて、呑気に考えている場合ではなかった。


 はじめは少し違和感を感じたのみだった。しかし、だんだんと苦しさが増してきて……。

 見ると、ちょうど鋼鉄と生身の間のあたりで、俺の腕が鬱血していた。


 上を下へ、まさに俺は動転していた。――あとで考えたことなんだが、そりゃあ血液は循環しているのだからそれが鋼鉄になって流れなくなったら鬱血ぐらいするだろう。


「あう……! そ、そうだ、【鋼鉄化】!」


 ええい、どうとでもなれ! 慌てふためく俺がとった手段は、特に何も考えていない出鱈目だった。

 冷凍保存ならぬ、鋼鉄化保存。要するに、俺は未来に問題を丸投げしたのである。


 全身を、脳の隅々まで鋼鉄と化した俺の意識はその瞬間、一気にシャットダウンした。



  ◆



「――ロー、サブロー!」


 なんだろう、このデジャヴは。


 俺の右腕を泣きながら揺するアンが見えた。しかしこちらに気がつくと、俺の胸に抱きついてくる。


「だ、大丈夫ですか……?」

「こっちのセリフよ、このバカ!」


 涙ながらにすがるアンに、俺は何も言わない。言えないのだ。何せ、不注意だったのは他ならぬ俺なのだから。

 聞くに、あの広場でオブジェと化していた俺をこの部屋に運び、ずっと診ていたらしい。確かに……、言われてみるとここは俺の部屋である。


「全く、重たかったんだから」

「……申し訳、ないです」


 俺より近接向きとはいえ、腕のぶんだけでもバランスを崩すような重さのものをここに持ってきたのだ。その苦労に、俺は忍びなくなる。


「死ぬかと思ったんだから……っ」


 右腕を抱えていたのは、他の部分に比べて早く人肌に戻ったかららしい。一定時間が経ったために、他より先に鋼鉄化させた部分が、そのぶん早く戻ったのだろう。

 ただ、神経の中枢とも血液のポンプとも繋がっていない俺の腕は、チアノーゼを起こして真っ青だったらしい。血の気の引いていく様を見て、『死ぬかと思った』のだそうだ。


 人知れず、九死に一生を得ていたようである。動転していた中で一応最善を取れたとはいえ、次がどうなるかはわからない。このチートについても、またまた使いどころが難しそうだ。


「マトモなチートはないのか……?」

「ちょっと、どういう意味よ!」


 思いっきり、頰を殴られた。

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