チート意義
「待たせたね! 少し手間取った!」
ハリーさんと、続いてゼノが降りてきた。
これで、頭数は一致した、か。
魔力溜まりが、物理のしがらみを作り出している。
早急な指示が必要だ。
「これは、まずいよね?」
「いきなりすみません! とりあえず一対一になるように立ち回ってください。聖女にヘイトが向かないようにするのが最優先、各個撃破の後共闘で落としましょう」
「わかったわ」
「了解!」
「……承知いたしました」
それぞれが自らに最も近い魔力溜まりに向かう。
変化過程の魔力は触らないのがセオリーだ。何が起こるかわかったものでないから。
だから、敵の姿がしっかりと現れた時に――
「【着火】!」
アンの【雷電閃耀】の火属性バージョンだ。
爆炎を、放つッ!
普段使いはむしろライターとしての使用しかしないが、こうして込める魔力を爆発的に高めることで――ッ!?
「効かない……!?」
嘘だ、【燃費下落】チートの力をもってしてもか!?
ありえないことだ、こんなことがあってなるものか――
しかし、その姿を見て気がついた。
ヌメっていた。気色が悪いほどに、ヌメっていた。
――これをなんとかせねば、【燃費下落】チートは、効かない。屈辱だ。
俺のチートは絶対だ。このチートで凌げなかった場面はない。
チートは俺で、俺はチートだ。
巫山戯るな。
チートを虐げられ、黙っているわけにはいかなかった。
「【蛍火】」
当たる。当たる。当たる。
当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる当たる――しかし、燃えない。
燃えない!
燃えない!
ありえない!
チートが、俺のチートが効かない!
俺、俺が、俺の――
「【火球】!【蛍火】!――ざけんな!」
吐き捨てる。
当てる。当てつける。
――効かない効かない効かない!
頭を搔きむしらんとする――。
その時、ヌメりクソ野郎に、ナイフが突き刺さる。
その程度では死なない。
そんなことではない。
こいつの生死なんてものは、どうでもいい。
俺の攻撃は効かないのに、この攻撃は効いている。
いやだ、受け入れたくない。
チートが、チートがッ!
俺の優位性が、俺の存在意義がッ!
飛来した方向を見る。
ハリーさんであった。
ハリーさんは敵の攻撃をいなし、その剣を当て、そして必要に応じてナイフや魔法による援護を行なっているのだ。
心中は、複雑だった。
一つ。認めたくない。
俺のチートが効かないのに、ナイフは効いた。
理不尽であった。
俺のチートの方が優れているのに。
一つ。感心。
俺の視野は、完全に目の前の敵にしかなかった。
ハリーさんの視野とは大違いだ。
これで策の指示? 笑ってしまうね。
しかし、俺が間違っていたなんて、認めたくない。
そしてもう一つ。畏まり。
俺が、ハリーさんの、Cランク冒険者のお手を煩わせてしまっている。
今更になって溢れ出る罪悪感。逆らってしまったことに対する心の痛み。
俺がもっと――。
いや、俺は悪くない。悪いのは、リッチだ。
「……ふぅ」
一つ、吐いてみた。
ガスが抜けるみたいに頭が少しクリアになって、眼球が後ろに引っ込むような錯覚をおぼえる。
臨機応変な対応。
今までできていたそんな単純なことが、なぜできなかったのか。
「【潮波】」
波というにはお粗末な、どちらかというとホースで作ったみたいな勢いの水がかかる。
――いや、水ではない。『潮水』だ。
敵も本能的に俺の狙い――浸透圧について理解したようで、受けに回っていた状態から一転、攻勢にかかる。
――じっくりと濃度を高めてゆく。
穴であることを念頭に入れて、最低限の量で最大限の効果を狙う。
ドタドタと近寄るそれに焦りつつも的確に当てていく。
――間に合わないか。
一応潮水をぶつけながらも、剣の柄を掴み、引き抜いた。
ここで失敗は許されない。もし失敗すれば、至近からの攻撃により無事では済まないだろう。
手に汗が滲んだ。
「【撫斬】」
だから俺は安牌を取り、魔言を紡いだ。
ステータスの賑やかしであったこのスキル。俺の思う一番うまくいった斬撃を登録してある。
剣尖は、水分の抜けたその身体を容易に切り裂いた。
……。
やはり、複雑だ。だがそれをほどいている暇はない。
今現在、戦闘は4ヶ所で行われている。
聖女とリッチ、アンと泥人形の魔物、ハリーさんと狼のような獣、ゼノと巨大なゾンビ。
聖女の状況には特に変化はない。
ハリーさんの方は拮抗しているが、めまぐるしい戦闘にそうやすやすと水をさせない。
アンは劣勢に立たされている。斬撃も魔法も相性が悪い。碌に攻撃ができていないようだった。
ゼノもなかなかに苦戦している様子。得意の召喚で呼んだゴブリンは簡単に振り払われて命を落とす。カマイタチでの援護もあまり効果をなしていないようだ。
救援するならばアンかゼノのどちらかである。
妙に冴えてきた頭で瞬時に判断を下す。
俺の能力は、しかるべき場面でしっかりと活用すべきだ。
標準を合わせる。
「喰らえ、【火球】!」
射出した炎の塊は、ゼノの相対していたゾンビに着弾した。
一気に燃え広がり、火だるまにする。
周囲に煙の匂いが充満した。
一酸化炭素とか、そういうことに今更気が付いたが、それこそどうでもいい。
高揚していた。
――見ろ、ゼノが倒せなかった魔物を、こうもあっさりと撃破してやった! 俺よりも魔法の才があるゼノを凌駕した! 奴隷にはできないことだ! 主として奴隷を守ってやった!
「見たか、これが【燃費下落】チートだ! これが、俺の、力だ!」
表情筋が収縮するのを感じながら、高らかに叫んだ。




