召喚
ゼノを具して宿に戻り、一泊する。
――作戦は、ある。
あとは、うまく立ち回ればいいのみだ。
角で寝かせておいたゼノを起こし、アンとともに昨日に聖女と落ち合うと決めていた場所に行く。ハリーさんは、既に来ていたようだ。
暫時、待つ。
「あっ、来てたんだー。遅れてごめんねぇ?」
「……おはようございます」
――時間は、早めに来たせいもあったが、体感で4、50分待たされた気がする。まあ、ハナから時間通りに来てくれるとは思っていなかったが。
俺の会釈などにべにもかけず、聖女は以前に俺たちにやったみたいに、ゼノの身なりを舐めるように観察する。
「そこのやつってさー、あんたの奴隷?」
「……そう、です」
「うわー、マジ? いるんだよねー、奴隷の力があるからってミノタケに合わない依頼受けちゃうバカ」
「まー、弱くはないみたいだけどぉ、せーぜーうちらのマリョクリョーの億千万分の1くらいの魔力しかないみたいだしぃ? しょーじき、足手まといっていうかー」
「エンキョリショクのオトリなんて聞いたことないよ」
「「「ねー!」」」
――我慢しろ、相手はクライアント様だ。ビタ一文の粗悪依頼だろうが失敗できない。
……プライドにかけて。
「まーいーか。行くぞオトリ、案内しろ」
――たとえこんな、その気になれば罠を仕掛け放題の放任主義であろうが、俺は依頼を達成するつもりだ。
徒歩にて、目的地へ向かう。
「――遠い! アシ痛い!」
ごねる聖女だが、俺は無視した。ハリーさんの助言故だ。
まあ確かに、それなりに遠い。それは認めるが、あんな化け物を街の近くで喚べたはずがない。
ゼノに聞けば、喚ぶ対象の属性に近い魔力が充満していた方が正確に召喚がしやすいらしい。ならば、と俺たちは例の、緊急クエストがあった墓地に向かっている。
「アンは、大丈夫ですか?」
「ん、何が?」
「いえ、トラウマとか呼び起こしてしまうような場所に……」
「あー、それは大丈夫よ。サブローのためだしね」
「そんな、あ、ありがとうございます」
遠慮する心でいっぱいになる。
口ではかくこそ言ってはいるが、怖いのだろう。足が少しぎこちない。
謝罪をもう一度、心の中でした。
姦しい聖女と、どこか不安要素のあるゼノ。
背中は任せられない面子だが、何度も言うが有能なのは確かなのだ。
草原を渡る。
時折ゴブリンに遭遇するのは俺とアン、それとハリーさんで撃退する。
そうしていると、例の墓地が近づいてきた。
ふう、と吐いた。
ゼノに召喚しやすい場所を探させる。こういうのは本人にさせるのが最もであろう。
「では、ゼノ。召喚してください」
「……【サモン】」
莫大な魔力が、男の手から地面に流れて行く。それは淡く光りながら綿密に同心円や記号を記しながら段々と範囲を増し、数十の分秒の後にはおよそサッカーコートを内包できそうなほどまで拡大していた。
「流石だ」
「……」
ゼノは俺の謝辞など聞こえないかのように、次のステップへ移った。
しばらく廻っていた魔法陣が、一気にしてゼノの手元に収束した。
淡い光は自己の色を見失い、赤、青、黄、白ーー
そして、黒く光り、そこで安定した。
「……」
ゼノは、魔力の接続をそのままに、その光から離れるように歩く。とりあえず、俺も続いて離れて行くことにした。
凄い、この距離でも魔法が安定している。
……。
そして、魔法陣は闇をさらに深めた。
深淵の色の光は、圧縮されて捏ねられていく。
そしてひときわ収縮し、そのあふれんばかりの魔力は、いつか見たその姿をここへ呼び出した。
「へぇ、なかなかやるぅ」
悔しいが、いまは聖女と同感だ。
現れたリッチは困惑を眼窩に写したが、目の前にいるのが人間であると気づいたのか、闘争本能を露わにした。
ふよふよと浮き上がり行くリッチ。上空からの魔法攻撃を選んだのか。
――想定の範囲内だ。
「アン! 任せました!」
「了解! 【アースクニード】!」
魔言とともに周囲の墓石に繋げられる魔力リンク。それらは伸び上がり紡がれ、一つの高く伸びる螺旋階段を形成した。
それを登りゆく紫電――
鞘を投げ捨てると、その刀身もがさらに帯電する。
段を駆け上がり、最後の段を蹴飛ばして身を宙に踊らせる。
「喰らえええええええええ!!!」
喊声とともに突き刺さる鋭利。
まさか刺さると思っていなかったのか、リッチは大いに取り乱しながらアンとともに自由落下する。
――剣に魔力を纏っていることに気がつくのが、少しばかり遅かったらしい。
そのまま地面に達し、地面に縫い付けられる。
アンは、地面を魔法で柔らかくしてクッションにしたようだ。
そしてうまく着地を決めた彼女に、俺は近づき――
「【絶対落とし穴】ぁぁぁぁぁ!!!!!!」
その肢体に触れながら、魔言を発した!




