知らぬ顔
ええええええ?
俺は自分の腕を凝視した。
聖女達もこちらを見て、少し眉を潜めたものの、なりふり構っていられない状況にあるのか、カツ、カツとこちらに、少しの愉悦の音を響かせて近寄って来た。
――ま、待って?
「ああ、あんたかぁ。まあちょうどいいっしょ。せーぜーいい囮期待してるから」
「まあ? Fランクごときにはホシンすらままならないかもってカンジだけどね」
「言えてるぅ」
うん、俺もそう思う。全く、一体全体誰がこんな不相応な依頼に手を挙げたのか。
――いやまあ、俺自身なのだが。
「……い、依頼の出発はいつでございましょうか。ま、また、場所なども……」
「日付?ああ、そんなこともわかんないカンジっすか? 明日っすよ明日」
「うちらが1日も待ってやってるんだしぃ? ちゃんとシュートーに準備しろよ?」
――ムリです。ほんの1日で対策なんてできっこありません。
「それにさぁ、場所だっけ? はは、うちらが知ってるわけないじゃーん」
「うちらに仕えるんだからそのぐらいジブンで調べとけば?」
むしろよく、そんな条件を提示して立候補者がいると思ったものだ。そのような条件、受ける奴はよっぽどの愚か者だろう。
――いやまあ、ここにその愚か者がいるわけだが。
「……善処します」
「――は?ふざけてんの?」
「やれ。うちらに対する失敗は許さない。」
ギラ、という眼光に思わず固唾を呑む。
「ま、リッチぐらい。うちらの魔法にかかればすぐにでも倒せるからいーんだけどね」
「せいぜい頑張れ、トリモチ役期待してるぞ? なーんてね、ぷくく」
「あー! いまのマジウケる!」
さよならも言わず、嵐のように去っていった。
「――ほんっとにすいません!」
それが聞こえなくなって俺が行ったのは、まずは謝罪。
「どうしちゃったのよ、サブロー!」
「それは……すいません、よくわかんないです」
実際、この場で最も驚いていたのは他でもない俺自身である。
聖女の目が、まるで舐めるように我々の面子を確認し始めた時、ふと、よぎったのである。
――俺がここで手を挙げれば、ギルドに不和が生じることはない、と。
別に、ギルドに対してそこまで特大の恩義があるとかそういった大層なものではない。ただ、俺が手を上げなければ適当な者が見繕われてしまう、と考えた時にはもはや、俺の腕は行動を起こしていた。
「全く、中途半端な善意っていうのはこのことね。私達のことも考えて知らぬ顔の半兵衛でも決め込んでおけばよかったのに」
全くその通りだ。俺にはアンもいるわけだし、その事を――いや、それだけでない。全てを考慮に入れていなかった。浅慮もいいところだ。流石は自称現代の山本勘助である。
「まあまあ、過ぎた事だししょうがないんじゃないかな。それよりも、僕たちもついて行くっていう事でいいよね?」
「――! いえ、僕の失態です。僕自身がけりをつけないと……」
「それでリッチを倒せなければどうするの? リッチへの対抗手段はそれこそ聖女くらいしかないと思うわ。――それはサブローもわかっている事でしょ? 私も、雪辱を果たしたいし。付き合うわよ」
「で、ですが、ですが――」
「責任? そうね、じゃあ罰として――。殴るわ。」
……殴る?
「ええ、殴る。ただ、それは依頼が終わったあとね」
「で、ですが、依頼は危ないんですよ? それこそアンが一番わかってると思うのですが」
「だから、よ。殴るには私もサブローも生きてないといけない。全く、皆まで言わせないでよね」
「す、すいません」
――アンの婉曲表現に気づける日はくるのか。
とにかく、生きて帰ると約束してしまったからには、万策をつくさなければなるまい。
「今日は一度帰ります。薬草採集はまた次にしてもらっても、よろしいでしょうか」
「いいよ」
「ありがとうございます」
感謝を述べて、急ぎ足で宿まで戻る。へそくりの回収、必要な作戦の立案――やることは山積みだ。
どう考えても赤字だがそんなことはどうでもいい。――いや、よくなどはないが、それよりも重要なことはたくさんあるだろう。
走りながら考える。
今回の俺の責務はまず、リッチを探し当てることに始まる。そして、物理的な干渉がほとんど利かない身体を拘束し、聖女の魔法を当てさせねばならない。
ギルドのニュースで居場所を特定するのは――無理だ。情報の混濁もそうだし、どうやら奴は転移する模様。情報を手に入れてから向かっても全くの徒労になりかねないだろう。
しかし例えば行者に聞くよりもギルドニュースの方が正確でしかも早い。そんなギルドニュースですらまだ遅いのだから、場所を特定してから向かおうにもそうはいかないのだ。
ではヤマを張って――というのも以ってして非合理的だ。闇属性の魔力が停滞している土地なんてこの大陸中でどれだけあるか。一方用いられる労力には限りがあるし、こと聖女にあたっては3人しかいない。
つまり、どのみち俺がリッチを迎えに行こうとすると期日に間に合わない。
――どうすべきか。
「迎えにいけないなら、来て貰えばいいんじゃないの」
アンが言う。そんな簡単に呼ぶことができたら問題ではない。
そう思い、アンに返事をする。
「そんな、子供じゃないんだから呼んでも来ない――いや、待てよ。ヨべば来るんじゃないか?」
「――何か思いついたの?」
「ええ、ヨべば……。いえ、喚べば、あるいはいけます。アンの貯金を貸してください。それだけあれば――」
それだけあれば、1日借りる程度、十分こと足りるだろう。
俺は一度宿で整理をすると、再び街中へ繰り出した。
※2/1 【延爪】チートの仕様変更。詳細は活動報告まで。




