ジャンク
暗い。太陽があることがいかに恵まれていることかわかる。
さて、この『夜狩り』だが、実際には推奨されているわけではない。
だが、特に規約で禁止されているわけでもないので、ギルドも街も黙認している感じである。
まあもちろん死なれるリスクも増えるだろうが、それよりもメリットが優っているのだろう。――いまいち、よくわからないが。
俺が政を行なっているわけでもなければ、内政について詳しいわけでもない。どう考えても社会経験のない弊害であるが、今はまあ俺の都合の良いようになっているので今はまだいい。特に、興味があるわけでもないし。
『依頼』でないからパーティを組む必要もない。別に、規約もそこまで厳しくはないのだ。
「――っと、ゴブリンか」
俺が火魔法で明かりをとっているので容易にこちらを認識できたのだろう。
特に動揺することもなく、火魔法で撃破。周囲が一気に明るくなった。
――あっ、やべっ。
大方の予想に反することなく、周囲からわらわらと敵影が集まってきた。
そりゃあ、さっきまでの爪の先程度の明かりでも気づかれるのだ。こんなに明るくなってしまえばバレないはずがない。
効率は上がるだろうが。
反省を生かし火魔法でなく水魔法【溺水】で処理をしていく。
明かりがあるので意外にも的確に顔に当てられた。明かり様様である。
――そういえば以前に魔法屋へ行った時に【暗視】のアビリティオーブというものがあったが、まあ、バカにならない値段はした。銀貨数十枚は容易に飛んでいくだろう。
俺はアビリティというものを手にしたことはないので良くわからないが、以前にアンに聞いたところ、補助用のロボット(地球にいた頃に、何かのイベントでつけたことがある)の感覚に似ているということだ。
俺の経験をもとに喩えを出してくれるので非常にわかりやすかったのであるが、要するに『なくても困ることはないがあった方が圧倒的に楽』ということらしい。
現にこの世界において、魔術師で食っていこうとする人はそういった魔術系のアビリティをほとんどが持っているようだ。
いつか魔術系のアビリティも得てみたいものだ。
――さて、話が逸れた。
魔石を取り出し、その亡骸に火を放つ。
思いの外この方法も、楽なものだ。ゴブリンを呼び寄せ、屠る。
間髪入れずに連戦、連戦。
倒せるだけ近距離で倒し魔力を温存していく。
『薪』は増える。あとは適宜燃やし、おびき寄せるだけだ。
ゴブリンのコロニーから出てきているのか、それは絶えることなく、それも強くなりつつある。
未だ【延爪】は使わない。あれはリスクが高すぎる。あくまで使用するのは、魔法と剣技のみだ。
段々と魔石を取り出す時間的余裕もなくなる。
「【火球】、【溺水】!」
終わりが見えない。
いかにパーティを組むことが良いことかを認識しながら、少しずつ削っていく。
――いや、削られているのは俺も同じか。
そんなことを考えながら撃ち込んでいると、不意に回避された。
集中力が切れたのだろうか。もう一度打ち込むも、ひらり、と回避。
――できる。
「【蛍火】」
まあ、避けられるのであれば避けようもないように弾幕を張ればいいだけであり、なんとかなったが、まずいな。
なにがまずいって、俺の魔法の速度を容易に見切るゴブリンが現れ始めたということだ。噂に聞く、ゴブリンの上位種だろう。
ゴブリンの上位種は、そこまでの数はコロニー内にいないと聞いた。なので、良くいえば終わりが見え始めており、悪くいえば敵が相当強くなるということだ。
「【蛍火】!」
奥の方で不穏な動きをするゴブリンを焼き殺してから、目の前で剣を持つゴブリンに肉薄し心の臓に一突き。蹴飛ばし剣を抜けば、死角から攻める二本のナイフを持ったゴブリンの攻撃を防ぎ、そのまま手首を返して身軽な装甲の関節に剣を滑らせた。
――ああ、楽しい。
そんな気分を持ち始めている俺自身に心底嫌気がさす。
そして、あと二体。
「【火球】!」
より強そうな――具体的にいえば、その身が通常の1.5倍くらいある筋骨隆々のほうに、距離のアドバンテージがある今のうちに倒してしまおうと魔法を差し向けた。
「グギャアアアアアア!!!」
――絶命。だが、それは目的の個体ではない。
強そうな方のゴブリンを突き飛ばした小さい方のゴブリンは、そのまま焼けただれ灰になっていく。
……敵ながら、見事だ。
だがこの行動の裏を返せば、あの個体がコロニー内のリーダーということとなる。
キッと睨む一対に、俺はそのまま目で応える。
「【蛍火】!」
弾幕を張った。しかしその巨体に見合わぬ的確な回避技術、当たってもものともしない態度。――なるほど、これは無意味か。
弾幕を消すと、ゴブリンのリーダーは俺にすぐさま肉薄していた。
得物である剣での攻撃は、俺も剣で応戦する。
――やはりリーダーと言うべきか、強い。
俺の左胸を的確に突き貫かんとするその剣をさらに左へいなせば、間髪入れずゴブリンの蹴りで下腹部に衝撃が走る。その衝撃のまま少し距離を取り、さらに追撃の一撃をと駆けてくるゴブリンに対し構えを直すと、その剣が脳天に向かってくるのを防ぎ、意表を突くように剣を離す。そして、その右手の指先は、ゴブリンの眼をしっかりと指しながら――
「【延爪】」
意表を突いた『第二の剣』により、呆気なく、勝敗はついた。
――実に呆気ない。
一抹の物足りなさを感じたが、俺はそれよりも、と次のコロニーを探しに夜闇に潜り込んで行く。
何に起因する物足りなさかは、俺にはよくわからなかった。




