金欠冒険者
「お金が……ない」
「サブロー君がそう望んだんだから、それならちゃんと返してね」
あれから数日、薬草採集を終えギルドに向かっている際にふと財布を見ながら絶望の面持ちで呟いた。
この、家計が火の車もいいところの状況だが、解呪料を支払うためにハリーさんからお金を借りる、と決めたので仕方がない。いつまでもその好意に甘えるわけにはいかないのだ、しっかりと返済をしないことには。
――そのせいでほぼ全財産が逝去したわけだが、ここは俗にいう漢のプライド、仕方があるまい。
「じきに返しますので」
「絶対に無理をしないでね」
これは睡眠時間を削るしかないかと思っていたが、どうやら先回りして釘を刺されたようである。別に一ヶ月ぐらいなら、俺自身はセンター前にやった経験があるので余裕ではあるのだが、一方でアンはどうなんだ、と言われてしまうと首を傾げざるを得ない。
「……では、どうしましょう。緊急クエストも取り下げられてしまいましたし」
「そうね、まあ二度とアンデッドには会いたくないけど」
そう、例の緊急クエストは取り下げられてしまったのだ。そりゃあ、あのジョニーさんらの活躍があったにせよ死人も相当出てしまったので当然といえば当然なのだが、それでもリッチを除けば相当美味しいクエストだったので、無念が全くないかと言われると嘘になる。
――リッチといえば、あの墓地以外でも大陸各地、国に関わらず色々なところからそれによるものと思しき被害が出ているようである。
どういう原理でそんな短時間に情報が伝わっているのかはさておき、問題はどのようにしてリッチがそんなにグローバルな活動をしているのか、である。どこぞのアイドルグループみたいにリッチもたくさんいるのか、あるいは瞬間移動でもしていたのか。
その発生には規則性――もっと具体的にいうと、墓地とか古戦場とか、そんないかにもな場所に出ているようであるが、わからないことも多い。
そんなことを考えてしまうが、それでも所詮俺は未だFランクの低級冒険者。首を突っ込まない方が良いだろうし、そもそもそれ以前に突っ込む余地もないだろう。
色々と思うこともあるが、こうしてアンも無事なのだ。もうあの出来事については忘れてしまおう。
――そんなことを考えながら歩いていた折、ふと視界の端にある冒険者のパーティが映った。
別なことを考えるのに手っ取り早い方法は、何か知覚の網に引っかかったもの――なんでもいいが、とにかく何かに注意を移すことである。
見るに、そのパーティは何処と無く違和感を、具体的にはその一つのパーティの中に、隔絶した何かを感じる。
「あの、あれなんですが、なんか違和感があるのですが……」
「ああ、あれかい?うーんまあ、確かに珍しいかもね。あれはね、奴隷を使ってパーティを組んでいるんだよ」
「ど、奴隷、ですか……」
こうして見るのは初めてのような気がする。
「奴隷を借りるのは、相当に裕福な家じゃないとやすやすとは無理だからね。外聞とかの問題もあるし、人がいない時間帯に受注と報告をするんだろう。だから、見ないのも無理はないかもね」
「な、なるほど……」
まあ要は、普通の冒険者なら奴隷なんてそうそう触れる機会はなさそうだ、ということだ。現に、俺のような金欠低級冒険者なら言わずもがな、高ランクにもなってくると奴隷を借りるよりもいつものメンバーでパーティを組むほうが理にかなってくるだろうしな。
――さて、薬草を卸し、簡単に夜食を済ませたところで部屋で勉強を始めた。
果たして、リッチにもし出会ったとして、俺に二度も逃げられるかはわからない。まさか、そんな機会はないとは思うが最低限のリスクヘッジはしておきたいところである。
――なんてことを、まともに考えてなど、いない。
「アンは、寝たか」
おもむろに立ち上がる。
ハリーさんに釘を刺されていたが、――バレなければ犯罪ではないのだ。なんら、問題は無い。
夜の街へ繰り出す。暗い。小指の先に小さな火種をつけた。
全然違う街みたいだ。
ネオンみたいな魔道具が光るバーもあれば、カップルが出入りする妙な店も見当たる。
酔っ払いや誘う女をかいくぐり、一直線に門から出て行く。
門番が見回っていたが、冒険者である証明をしたら意外にもすんなりと出られた。都合のいいことだ。
「兄ちゃん、『夜狩り』もいいが、見た感じ初めてだろう? 逆に狩られないように注意してくれよ、俺の仕事が増える」
「は、はいぃ。了解しました」
目的地など決めていなかった。ゴブリンのいる森は、この暗がりの中視界がさらに悪くなり危険だろうが、俺にはそれ以上の狩場はわからない。
「あー、それと初心者なら薬草の生えている平原に行ったほうがいい。夜はあそこにもゴブリンが出るからな、森よりはマシだろ。ま、せいぜい頑張んな」
「あ、ありがとうございます!」
門番に礼を言って去って行く。
――幸い、あそこは俺のホームグラウンドだ。ここは素直に、その情報をくれた門番の兵士さんに感謝だろう。
「さて。第二ラウンド、開始だ」
ふうっと息を吐いて頭を冴えさせて、夜闇をかき分けていった。




