呪い
「ん……こ、ここは?」
「め、目が覚めましたか?」
よかった、息を吹き返したようである。
「怪我は……? 呪いも……」
「あ、それでしたらポーションを――呪い?」
何それ聞いてない。
アンにステータスを見せて貰えば、なるほど確かに【呪い】と表記されているわけだ。――なんの呪いかはさっぱりだが。
「リッチがかけたって言ってて……。よくわかんなかったんだけど、こいつ、直接脳内に! って感じだった」
「そ、そうですか」
反応に困りつつも適当に会釈を返せば、 アンはジト目をこちらに向けた。俺は視線を床に遊ばせる。
「まあいいわ、とにかくここは……? すごくデジャビュを感じるんだけど」
「そうですね、落とし穴の中です。――にしても、呪いですか」
「なんか、アンデッドがどうとか言ってたけど……。どう? 私の体。どこか変だったりしない?」
「ど、どうでしょう。僕にはなんとも……」
アンは「……やっぱりサブローは。」とひとりごちると、急に立ち上がり
「あっ、っつー」
「な、何やってるんですか、仮にも病みあがりなんですから気をつけてください」
立ちくらみに苛まれるアンを窘めて座ってもらう。
「……ごめん。それで? 落ちてから何時間経った?」
「そろそろ4分の3ぐらい経ちそうですが……すいません、まだ出られそうにないです」
呪いがどうとか、聞いてしまった以上至急の対処をしたいところだが何せ出られない。
――この場合その性質に助けられたわけだが、やはり24時間を棒にふるのは辛い。
「いいわよ、どうせそうするしかなかったんでしょ?」
それはわからないが、あの状況ではこの中に避難するしかなかった、というのは肯定だ。もっとも、それ以前の選択には色々と言わなければならないこともあるが、こうなってしまった以上仕方がない。
「……ところで、そろそろ辛くなってきたのではないですか? 流石にこれ以上は体に響くと思いますが……」
「そう、ね。そうするわ」
そういうと枕代わりにと畳んでおいた外套に再び転がり、しばらくすると静やかな寝息を立てはじめた。
――どうやら俺の緊張の糸も切れたようだ。俺の瞼も重くなりはじめた。
どうせあと6時間暇なのだ、このまま身を任せてしまおう。
そのまま、まどろみの世界へ――
◆
結論から言うと、脳を働かせ過ぎたようだ。気づいていなかったが、相当疲れが溜まっていたようである。
アンやハリーさんに起こされた時点では、もうチートの効力は切れていたようである。
「早くしないとアンに致死性の呪いがじわじわと侵食し、苦しみ悶えながらそのまま!ああなんてことだ!急ぎましょう! 早く! 早く!!」
「何を言っているのよ。寝坊したサブローが言う台詞じゃないわね」
「あ、すいません」
ね、寝坊じゃねぇし。って言うか6時間ちょうどなんて計れねぇから。
「あ、ほら。そろそろ見えてきたよ」
「やっとですか! 早く教会へ!」
心なしか声を弾ませつつ、急ぎ足で町の門を潜り、教会へ一直線で向かって行く。
そしてその扉をバンッと開けながら
「すいません! 呪いの治療をお願いできますか!」
幸い教会ではミサをやっていたと言うこともなく、裏からでてきた影に注目を向ける――
「おや、迷える仔羊達よ――って、げ!?」
「あの、呪いの治療をお願いしたく――って、げ!?」
俺も相手もぎょっとして、互いの顔を指差した。
いや、正確には互いの、ではない。だって相手は三人いるわけで――
「聖女、様……」
「なぁんだ。あんたら、まだ冒険者なんてやってたんだ」
鼻で笑うようにこちらを見る聖女共を睨みかけたが、残念俺は今請願する立場。
「解呪をお願いしたいんです。いくら、納めればいいですか」
「うーん……。ま、だいたい、銀貨20枚ぐらいかなー?」
「そーだぁ。うちらがジキジキに呪いを解くんだからぁ、そのくらいキョヨーハンイよねぇ?」
許せるはずがあるまい。こう言う治療の相場は銀貨1枚程度だと言うことは以前に聞いた。要するにふっかけられている。
「……わかりました」
だが、俺は支払うことを決意した。
「なぁーんだ、つまんなぁーい」
「まーいいや、どーせ今すぐに用意できないんだから、あしたにでも払いにくればぁ?」
「まぁ?あんたらに払えるノーリョクがあれば、だけどねー」
銀貨20枚ぐらい、俺の貯蓄でなんとか――いや、足りないか。ハリーさんには借りたくないが、伝手がそのぐらいしか無いし仕方がない。
それでも、至急アンを治したいのである。
「【ディスカース】。んじゃ、ちゃっかり代金チョーダイいたしますー、なんちて」
――本当に治ったのか?
アンにステータスを見せて貰えば、確かに表記が消えている。
「もういい?うちらもヒマじゃないんですけどぉ」
「あ、はい。ありがとうございました」
苦肉の策だったが、仕方がない。
しっしっ、という動きで見送られながら逃げるように教会の扉を開け、そっと閉めた。
トリオの目がなくなったところで、はあ、と息を吐いた。――が、そんな暇もないようである。
「バッカじゃないの!?」
「サブロー君、流石にあそこは値切る場面だったよ……」
「知りません!」
やっぱり俺は選択肢を間違う傾向にあるようである。




