ゴースト
やはり俺にはアンデッドという存在は荷が重い。
中心部より圧倒的に敵が弱い、墓地の外辺に近いあたりで狩を続けているがどうも精神的に、くる。
どうも、人――人だったものを切るというのは生粋のアーバンピープルこと俺には辛いものがある。これはホラー耐性が云々とかFPSゲームがどうのこうのとかではないもっと本質的な忌避感のように感じる。
それでも俺は戦うことをやめようとは思わないが。
――そもそも、緊急クエストが出るような一大事だ、止まっていても仕方ない、というところがある。
「というか、なんで僕ばっかりが倒しているんですか」
「レベル上がるのが遅いからよ。こんなに短いスパンで戦闘できることなんてそうそうない訳だし、今のうちにレベルを上げておくといいわ」
「……一つも上がってないんですが」
「知らないわよ」
そう言い顔を背けたアンだが、その顔には「アンデッドと戦いたくない」とはっきりと書かれているのでつまり、体のいいでっち上げた理由であることは自明ではあるが黙っておく。
「――で、今度はゴーストですか」
次から次へと湧いて出てくるアンデッドに辟易しつつ、魔法の発動準備をし、打ち込む。
ゴーストには実体が無い。魔石を取り出せば消えるということはゾンビやスケルトンとあまり変わりは無いが、重力というしがらみを抜けたその体から魔石を取り出すのは非常に難しい。その上、部位破損もできないので剣士にとってはなかなかの強敵である。
その代わりその身は魔力でできているので、光属性のみならず魔法を当てれば撹拌させ容易に消し去ることができる。
――まあ、その魔力があまりに強大ならその範疇にないが、せいぜいこの辺に出るものでそんなレベルのものはいない。
悶え苦しむ面持ちで霧散していくゴーストを見送っていく。
ことり、と魔石が残る。
俺は腰を屈めて、拾った。
――冷たい。
「そろそろ、少し内側に入ってみる?」
「……別に、いいですが」
別にいいが、アンも戦えよ。
少し内側に入り込み、敵もそこそこの強さを誇るようにはなった。いや別に、戦えないかというとそうでもないが。
――そして、周囲の冒険者の面子も変わった。あまり顔は覚えていないが、たまにゴブリン討伐でみるような顔触れはほとんど消え、たまにこいつらギルドでみるなーという程度に。
きっとFランクの中でも実力のある集団なんだろう。ちょくちょくEランクの人も見える。
……感慨を覚えるなぁ。
流石に敵もさる者、徒手拳法だけで戦っては勝てぬと悟ったのか尖った石や 奪ったのであろう武器を得物に攻撃を仕掛けて来たり、集団でパーティのようなものを組んでやって来たりするのであるが、その愚鈍な動きに変わりはほとんどないので、アンや、時にハリーさんの手助けで難なく倒せている。
――大方、適正レベルってところだろう。
「というか、ハリーさんは僕たちとずっといるわけですが、いいんですか?クエストの傾向の上でも、もっと内側に入るべきなのでは……」
「……ああ、それなら気にしなくて良いよ。僕にはそういうのよりは、君たちを育てた方が有益な気がしてならないんだ」
「いえそんな、自分なんて……」
俺なんて、全くもって大したことなどない。
……事実、俺と同じ力を持った、俺と同じ地球出身の人間がいたとしたら? それはきっと、俺より頭がいいかもしれない。体力があるかもしれない。甘いマスクを持っているかも、卓越したカリスマを持っているかもしれない。
――が、確かに言えることは、どれをとっても俺と比べて上位互換である、ということだ。
たまたま、俺なんかがここに立っているだけ。それだけだ。
――俺のチートは、魔法は、俺のものなのか? 俺なんかが持つべきじゃなかったんじゃないか?
俺を育てて有益なんじゃない、俺のチートを育てて有益なのではないか?
そんな気がしてならない。
「……ロー、サブロー?」
「あっはい、なんでしょう」
「またなんか考えてたの?」
「いえ、特には」
「……そ。まあいいわ、次に向かいましょ」
そう言われ俺も一歩踏み出す。
――ん?
唐突に、空気が、変わった?
「……サブロー君、気がついたかい?」
「――はい」
「私もです。なんだろう、強大な魔力が近づいて来ている……?」
辺りでもこの違和感に気がついたのか、首を傾げてこの魔力の出どころを探っている。
「――これは、いや、まさか……!?」
「おい、分かったのかジョニー!」
ジョニーと呼ばれた男が、その額に脂汗を浮かべながら、口を紡いだ。
「――リッチ、だ」
……は?




