緊急クエスト
「……緊急クエスト? 何ですかこれ」
そうして、ゴブリンで生計を立てながら生活をしていたある日、ハリーさんと依頼を受けようとクエストボードを見たところ一面の『緊急クエスト』の文字が目に入ったので尋ねた。
「見てもわかると思うけど、緊急クエストっていうのはすべての冒険者に課せられる一種の強制クエストのことだね。まあ別に、他のクエストが受けられなくなるだけで無理に受ける必要はないんだけど……」
依頼を一枚剥がしながら言う。
「報酬が破格だからね」
金にまみれた笑顔をこちらに向けているのを見て、一種呆れそうになるのを笑顔でごまかしつつ考える。
確かに、無理矢理冒険者を動かしたいなら選択肢を絞り、さらに報酬を上げるのはいい手段だといえよう。
――流石に毎度毎度やっていたらギルドの財政が破綻しかねないが。
「それで内容は…… アンデッドの討伐? 珍しいね。古い墓地でも見つかったのかな?」
ハリーさんはそう言うが、アンデッドか……凄く忌避感を感じる。
いつか戦うことになろうとは思っていたが、唐突すぎるだろ。
この世界でアンデッドというと、undead、つまり死んだにも関わらず魔力で動き続ける魔物を一般的にこう呼んでいる。
そこからさらに損壊率に応じてゾンビやらスケルトンやらと細分化されるわけだ。
もちろんアンデッドと言ってもピンからキリまでいて、ゴブリンやらはたまたハエやゾウリムシに至るまで須らくして動物はアンデッドになりうる。
さらに倒し方だが…… これがまた難儀だ。
まず一つ目、光属性魔法をぶつける。
アンデッドの持つ闇属性の魔力を乱して消し去る方法だ。
これについては以前も言ったが、俺は勇者でないので光属性の適正はない。よってボツ。
よってもう一つの方法を取る必要がある。
魔石を取り出すのだ。動く死体から。
そうすればもう動けない。……が、想像するだけでエグい。
「ちょっと……遠慮しておき――」
「行くわ! 緊急クエストが出るほどの危機だもの!」
「ええっ」
台詞こそ正義のそれだが、その顔には「金!金!!」とわかりやすく書かれている。
――なるほど、ギルドの思惑通りか。
「いや別に嫌って訳ではないんですけど、その、心の準備とか……」
「何言ってるのよ、Fランクで受けられる依頼でこんなに破格なのなんて聞いたことがないわ! これは神様の思召しか何かよ!」
……いや、神様とやらは転移の時に俺と面会してすらくれなかったんだから、思召しもクソもないんだが。
「何よ、私の中の神様が言ってるのよ。これは運命に決まっているわ」
「宗教かなんかですか……。わかりました、行きます行きます」
いつものことだ、放っておく。
「サブロー君、本当にいいのかい?」
「え、ええ。アンだけで行かせるのも忍びないですし」
「そうかい。じゃあ受注するよ」
ペンを走らせるハリーさんの後ろ姿を見ながら、ふうっと息を吐いてみた。
アンデッド、ねぇ。
◆
「ここが、例の墓地かな」
「そうみたいですね……」
「さあ! どっからでもかかって来なさい!」
「早すぎです、ちょっあの、落ち着いてください」
急がなくともアンデッドがいなくなるわけではないのだし。
「……にしても、ここから街までそこそこの距離ありますよね。そんな、緊急クエストを出すまでの必然性ありますか?」
ずっと思っていたことだ。
地図を見てもこの周りに村なんてなかったし、特に早急な対処が必要とも思えない。
かと言ってこんなアクセス微妙すぎるところに副都心を建てる計画があるとも考えられない。いいとこゴルフコースだろう。
「闇属性の魔力が停滞したら、魔王の力のソースになっちゃうからね。ダンジョン化する懸念もあるし、多分そういうのを潰すのに早急性があったんだと思うよ」
「そうなんですか?」
「あくまで僕の推論だけどね」
色々聞きたいことができたが、それはこの後にとっておこう。なぜなら――
「サブロー、出たわよ」
アンデッドが、姿を現した。
「……ちょっと、いきなり人型ですか」
「とは言ってもあまり強くなさそうだね、サブロー君でも十分倒せるはずだよ」
「そうなんですか、じゃあサブロー、倒して来て」
「ええっ」
口ではそう言いながらも、仕方がないなと顎を掻きつつ前に歩を進め、ぎこちなく抜刀する。
意外や意外、呻き声やらなんやらが聞こえるかと言うとそうではなく、それだけでホラー度の二割カットに成功している。
「ッア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ ア゙ア゙!!!」
「二割増しですよコンチクショウ!」
期待を裏切るな! いやある意味期待通りだけども!
しかしその動きが愚鈍であることも想像通りであった。一気に間合いを詰め、腐っているその右腕をあっさりと切り落とすことに成功。
――臭いな。ゴブリンを焼いた時とは別種のそれだ。まあ、当然といえば当然か。腐っているのだから。
切り落とした右腕が動く、なんていう展開もありそうにない。――まあ、魔石で稼働しているならそのコネクトが切れたら動かなくなるのも一種の当然か。強大な魔石ならばその範疇にないだろうが、流石にFランカーも受けられる依頼にそんなものはいない筈である。
そうして、順に足、胴と潰していくと、心にある程度の余裕が生まれて来た。
だから見てしまったのだ。
――顔を。
「冥福を、祈ります」
首を落とし、胸元から魔石をほじり出した。
普通に、ほじり出している。
恐ろしい話だ。
【火球】で燃やす。
――何も感じない。
その『少女』の目は、俺を恨むように。




